この記事は、自社サイトの責任者や、新規事業・Web運営の担当者に向けたチェックリストです。「AIエージェントに、自社サイトを使ってもらえる状態」とは何か。それを30項目に分けて確認します。読み終えたとき、自社の現状を点検し、最初にやる5つを決められるようになります。
前提として、ブラウザ上のAIエージェント向けの仕組み「WebMCP」は、まだ草案の段階です。W3Cのコミュニティグループの仕様草案(2026年10月16日付)は、W3C標準ではありません。内容は変わり続けています。そこで、このリストは特定の書き方に寄りすぎないよう、「サイトの側で決めておくこと」を中心にまとめました。仕様の詳しい説明は、起点となる解説記事にあります。
このチェックリストの使い方
項目は6つの観点に分かれています。各項目には「理由」を一言添えました。すべてに「はい」と答える必要はありません。「いいえ」や「分からない」が見つかること自体が、このリストの成果です。
| 観点 | 問い | 詳しい記事 |
|---|---|---|
| 1 何を開くか決める | AIに任せる操作は、どれか | この記事 |
| 2 情報を機械が読める形にする | 事実は、テキストで取れるか | この記事 |
| 3 ツール設計 | 名前・説明・入力は、誤解されないか | ツール設計の記事 |
| 4 安全・権限 | 見せる範囲と、できる範囲は適切か | 権限の記事 |
| 5 人の確認と責任 | 重要な操作で、人が止められるか | 人の確認の記事 |
| 6 計測と運用 | 状況を見て、直し続けられるか | 対応状況と今後の記事 |
観点1:何を開くか決める
最初に決めるのは、技術ではなく範囲です。何でも開くと、守るべきものが増えます。
- AIに任せたい操作を、10個程度(目安)で書き出したか 理由:全部を対象にすると、検討が終わらないため。
- 操作ごとに「読むだけ」か「変更する」かを分けたか 理由:変更を伴う操作は、守り方が変わるため。
- 取り消せない操作(決済、送信、削除)に印を付けたか 理由:後戻りできない操作は、扱いを別にする必要があるため。
- 最初に試す操作を、1つに絞ったか 理由:1つで学べば、他の操作に応用できるため。
- 開かない操作と、その理由を決めたか 理由:「やらない」と決めておくと、後の議論が速いため。
観点2:情報を機械が読める形にする
ツールを用意する前に、情報そのものが読めるかを確かめます。ここは、WebMCPを使わない場合でも役に立つ土台です。
- 価格・営業時間・申し込み条件が、画像やPDFだけになっていないか 理由:画像の中の文字は、AIが正しく読めないことがあるため。
- 商品やサービスの名前と説明が、ページごとに統一されているか 理由:表記ゆれは、AIの取り違えを招くため。
- 在庫や空き状況は、最新の値を取り出せるか 理由:古い値で案内すると、利用者に迷惑がかかるため。
- よくある質問が、見出しと文章で整理されているか 理由:AIが答えの根拠を探しやすくなるため。
観点3:ツール設計
ツールとは、サイトが公開する「名前・説明・入力項目・処理」のまとまりです。1つの操作に1つが基本です。細かい書き方はツール設計の記事で扱います。ここでは、点検の問いだけを挙げます。
- 名前を「動詞+対象」にしたか 理由:名前が曖昧だと、AIが選び間違えるため。
- 説明に「何をするか」と「何をしないか」を書いたか 理由:範囲が分かれば、誤った呼び出しが減るため。
- 入力項目に、形式・範囲・必須かどうかを定義したか 理由:AIが作り話の値を入れにくくなるため。
- 処理の側でも、入力を検証しているか 理由:AIが渡す値は、想定外になることがあるため。
- 失敗したとき、次の手が分かるエラーを返すか 理由:AIが自分でやり直せるようにするため。
- ツールの数を絞り、必要なときに登録する設計か 理由:数が多いと、AIの扱える情報量を圧迫するため。
観点4:安全・権限
ツールの説明や、返す内容に紛れた悪意ある指示で、AIが動かされる危険が草案に書かれています。ここは、実装前に決めておく観点です。詳細は権限と認可の記事を参照してください。
- ツールを見せる相手を、自分のサイトの中に限っているか 理由:草案では、既定は同じオリジン内。外へ出すには明示が必要です。
- 外部のiframeやドメインに公開するなら、その理由を説明できるか 理由:意図せず外へ出していないか確認するため。
- ツールが返す内容に、外部から入った文章を含めていないか 理由:悪意ある指示が紛れる経路になりうるため。
- 宣言と実際の動作が、ずれていないか 理由:名前は「確認」なのに実際は購入、という事故を防ぐため。
- 必要以上の情報を、入力や出力に含めていないか 理由:過剰な項目は、プライバシーの問題につながると草案が指摘しているため。
観点5:人の確認と責任
仕様は、人が関わる使い方を主に想定しています。草案の本文は、実行前の利用者確認を必須とは定めていません。つまり、確認の設計はサイト側の責任になりやすい、ということです。詳しくは人の確認の記事で扱います。
- 購入・送金・個人情報の変更などで、人の確認を挟むか 理由:取り消せない操作を、AI任せにしないため。
- 実行した操作が、画面上で見えるようになっているか 理由:利用者が何が起きたか分かる状態にするため。
- 取り消せない操作に、注釈(consequentialHint)で印を付けたか 理由:クライアント側が確認を出す手がかりになるため。
- AIが止まったとき、人が引き継げる画面が残っているか 理由:AI向けの入口は、画面の代わりではないため。
- 問題が起きたときの、社内の責任者と連絡先を決めたか 理由:誰が判断するかが曖昧だと、対応が遅れるため。
観点6:計測と運用
公開して終わりではありません。対応状況も草案も動くので、見直す仕組みが要ります。
- ツールが呼ばれた回数と、成功・失敗を記録するか 理由:直す場所は、数字からしか分からないため。
- 人の確認が必要になった回数を見られるか 理由:確認の多い操作は、設計を見直す合図になるため。
- 登録を変える手順(解除して再登録)を把握しているか 理由:草案には、内容の自動更新の仕組みがまだないため。
- 仕様と対応状況を、定期的に確認する担当を置いたか 理由:変更される可能性があると、Chromeの資料も述べているため。
- 止めるときの判断基準を、先に決めたか 理由:続けるか止めるかを、感覚で決めないため。
仕様や対応ブラウザの見通しは、WebMCPの現状と今後の記事にまとめています。Edgeなど他のブラウザの対応時期は、現時点で公式な確認が取れていません。
最初にやる5つ
30項目を一度に進める必要はありません。次の5つから始めるのが、現実的です。
| 順 | やること | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | AIに任せたい操作を書き出し、1つに絞る | 範囲が決まらないと、他が進まないため |
| 2 | その操作に関わる情報を、テキストで整える | ツールの有無にかかわらず効くため |
| 3 | 取り消せない操作を、洗い出す | 守り方の中心になるため |
| 4 | 人が確認する場面と、責任者を決める | 事故の影響を小さくするため |
| 5 | 測る数字を決める | 続けるか止めるかを判断するため |
ここまでは、ツールのコードを1行も書かずに進められます。実装は、その後の話です。他の方式との使い分けは、API・RPA・スクレイピングとの違いの記事が参考になります。
チェックを使った進め方:棚卸し会議の例
リストは、会議で使うと効果が出ます。次は、60分ほどの会議の進行例です。時間は目安で、規模に応じて変えてください。
以下は、架空の例です。ある会社の予約サイトで、担当者4人が集まったとします(営業、運営、エンジニア、法務)。
- 最初の10分:目的をそろえる。「AIに使ってもらう」とは何を指すのか、言葉を合わせます。仕様が変動中であることも共有します。
- 次の15分:観点1を全員で埋める。操作の候補を書き出し、読むだけか変更するかに分けます。
- 次の20分:観点2〜5を、担当別に確認する。運営は観点2、エンジニアは観点3と4、法務と営業は観点5を見ます。「分からない」は、そのまま記録します。
- 最後の15分:最初の5つを決める。担当者と期限を置き、次の見直し日を決めます。
この例では、会議の成果は「結論」ではなく「分からないことの一覧」です。分からない点を放置せず、誰が調べるかまで決めておきます。
注意点:このリストの限界
- 仕様が変わります。窓口の名前が変わるなど、短期間で変更が出ています。実装の直前に、最新の仕様を確認してください。
- 標準になるかは、まだ分かりません。ここに挙げた項目の多くは、どの方式に進んでも役立つ整理ですが、特定の方式の普及を保証するものではありません。
- リストは完成品ではありません。業種や規模で、必要な項目は変わります。自社に合わせて足し引きしてください。
- 法務・個人情報・セキュリティは、専門家に確認してください。このリストは、判断の代わりにはなりません。
- AIの出力は、人が確認してください。AIにリストの下書きを作らせる場合も、同じです。
Otsumuに相談できること
操作が1つに絞れていて、社内にエンジニアがいるなら、この記事の項目で自己点検し、検証環境で試すことは十分できます。まずは観点1と2だけでも、社内で進める価値があります。
一方で、複数のサービスをまたぐ設計、権限やログの基準づくり、人の確認の流れの設計は、判断が重くなります。どの操作をAIに開くかで社内の意見が割れているときも、外部の視点が役立ちます。
Otsumuは、AIファーストで事業を組み直す(事業の再構築)立場から、操作の棚卸しと設計・開発を支援しています。詳しくはAIエージェント開発をご覧ください。ご相談はお問い合わせからお寄せください。
この記事について
Otsumu株式会社が執筆しました。確認日は2026年10月20日で、WebMCPの仕様は変動中のため、内容は今後変わる可能性があります。参照元は、W3C Web Machine Learning Community Groupの仕様草案、WebMCPの提案リポジトリ、Chromeの公式資料です。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.20