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D2C事業の立ち上げ:メーカーが直販を始めるときの論点と準備

メーカーのD2C立ち上げは、直販の目的と既存流通との共存の決め方が出発点です。販売チャネルとECの作り方、物流と顧客対応の体制、顧客データの活用、立ち上げの手順をチェックリストとよくある失敗とともに解説します。

メーカーがD2C(消費者への直販)を始めるときに最初に決めるべきは、ECサイトの作り方ではなく、「直販で何を得たいのか」と「既存の流通とどう共存するのか」です。直販は、売上の上乗せだけを目的にすると、既存の卸先や小売店との関係を損ない、物流や顧客対応の負担に見合わない結果になりがちです。一方、顧客の声を直接聞いて商品開発に活かす、自社の世界観を正しく伝える、顧客データをもとに継続的な関係をつくる、といった目的が明確であれば、規模が小さくても直販には十分な意味があります。

D2C立ち上げの論点は、大きく「目的と位置づけ」「既存流通との関係」「販売チャネルとECの作り方」「物流と顧客対応の体制」「顧客データの活用」の5つです。この記事では、これらを順に整理し、立ち上げの手順、架空の例、よくある失敗とチェックリストをまとめます。

対象は、これまで卸や小売を通じて商品を販売してきた食品、日用品、化粧品、アパレル、雑貨などのメーカーで、直販の立ち上げを任された事業責任者や新規事業担当者、EC担当者です。

D2C立ち上げで最初に決めること:目的と位置づけ

D2Cは「Direct to Consumer」の略で、メーカーが卸や小売を介さず、消費者に直接商品を販売する形態を指します。ECサイトでの販売が中心ですが、直営の店舗、ポップアップ、SNSを通じた販売なども含まれます。

直販の目的は、会社によって異なります。目的によって、売上の目標、投資の規模、既存流通との関係の取り方が変わるため、最初に優先順位を決めます。

目的直販で得たいもの重視する指標既存流通との関係
顧客理解・商品開発顧客の声、購入や利用のデータ顧客との接点の数、声の質、試作品への反応補完的。売上の規模は小さくてもよい
ブランドの発信世界観や開発の背景を正しく伝える場指名での検索や来訪、ファンの増加補完的。既存流通での指名買いにつながる
収益性の改善中間の費用を省いた利益粗利、獲得の費用、継続購入競合しうる。価格と品揃えの調整が必要
新しい商品の販路既存流通に乗らない商品の販売新商品の売上、継続購入補完的。既存流通にない商品なら摩擦が少ない
継続的な関係定期購入や会員による継続的な売上継続率、顧客あたりの累計購入補完的〜競合。設計次第

注意したいのは、「収益性の改善」だけを目的にすることです。卸や小売を通さない分、一つの商品あたりの利益は大きく見えますが、実際には、集客の費用、ECサイトの運営、物流、顧客対応、返品の処理など、これまで流通が担っていた機能を自社で持つことになります。これらの費用を積み上げると、直販の方が必ずしも利益が出るとは限りません。

既存流通との関係をどう整理するか

メーカーの直販で最も慎重に扱うべきなのが、既存の卸先や小売店との関係です。取引先から見れば、直販は自分たちの顧客を奪う行為に映ることがあります。

摩擦が起きやすいポイント

  • 価格:直販の価格が小売店の店頭価格より安いと、小売店の売上を奪い、関係が悪化します。
  • 品揃え:直販でしか買えない商品を用意すると、小売店が扱えない不満につながる場合があります。逆に、すべて同じでは直販の存在理由が薄れます。
  • 販促:直販だけでキャンペーンを行うと、小売店の販促と競合します。
  • 顧客の誘導:小売店で買った顧客を、パッケージや同梱物で直販に誘導することへの反発。

共存のための考え方

  1. 直販の目的と規模を取引先に説明する:直販を始める理由(顧客の声を聞くため、限定品の販売のためなど)と、想定している規模を、主要な取引先に事前に説明します。黙って始めて後で知られるより、関係を損ないにくくなります。
  2. 価格は既存の店頭価格を基準にする:直販だけが安い状態は避け、価格以外の価値(限定品、詳しい情報、まとめ買いの利便性、定期購入など)で直販の存在理由をつくります。
  3. 直販ならではの品揃えを慎重に設計する:直販限定品、試作品の先行販売、大容量や詰め替え用など、小売店の売上と重なりにくい商品を中心にします。
  4. 直販で得た情報を取引先にも還元する:顧客の声や新商品の反応を取引先と共有することで、直販が取引先にとっても価値のある取り組みになります。
  5. 取引先の契約内容を確認する:既存の取引契約に、販売地域や販路に関する取り決めがないかを確認します。不明な点は法務担当者や専門家に相談してください。

販売チャネルとECサイトの作り方

直販の販売チャネルには、自社のECサイト、大手のECモール、SNSの販売機能、直営店やポップアップなどがあります。最初から全部に出る必要はなく、目的に合わせて選びます。

チャネル向いている目的利点注意点
自社ECサイト顧客理解、ブランドの発信、継続的な関係顧客データを直接得られる。表現の自由度が高い集客を自社で行う必要がある
ECモールへの出店新しい販路、売上の確保モールの集客力を使える顧客データの活用に制約がある。価格競争になりやすい
SNSの販売機能ブランドの発信、若い層への接点発信と購入がつながる運用の手間がかかる。仕様の変更に左右される
直営店・ポップアップブランドの体験、顧客の声顧客と直接話せる場所と人の費用がかかる

自社ECサイトの作り方の選択肢

自社ECサイトは、ECの構築サービスを使う方法、パッケージを使う方法、独自に開発する方法などがあります。立ち上げの段階では、構築サービスを使って早く始め、販売の実績と運用の課題が見えてから、必要な部分を作り込むのが一般的です。構築方法ごとの比較はECサイトの構築方法で詳しく扱っています。

ECサイトの作り方を選ぶ際に、メーカーが特に確認しておきたいのは次の点です。

  • 既存の在庫管理や基幹システムと、在庫数や受注の情報をどう連携させるか
  • 定期購入、会員の特典、まとめ買いなど、直販の目的に必要な販売の形に対応できるか
  • 顧客データを自社で取り出し、分析や施策に使えるか
  • 将来、法人向けの販売や卸先向けの受発注と統合する可能性があるか

物流と顧客対応の体制

メーカーの多くは、卸先にまとまった量を出荷する物流には慣れていますが、消費者一人ひとりに少量ずつ届ける物流の経験はありません。直販では、この物流と顧客対応の体制づくりが、ECサイトの構築以上に負担になることがあります。

物流の選択肢

  • 自社で出荷する:工場や倉庫の一角で、梱包と発送を行います。立ち上げ期の少量の出荷には向いていますが、出荷が増えると本業の業務を圧迫します。
  • 物流代行に委託する:消費者向けの出荷に対応した物流代行に、在庫の保管と出荷を委託します。出荷の量が増えても対応しやすい一方、委託先との在庫や受注の連携が必要です。
  • 組み合わせる:通常の商品は物流代行から、受注生産や特殊な商品は自社から出荷する、といった組み合わせです。

顧客対応で準備すること

直販では、消費者からの問い合わせに自社で対応する必要があります。これまで小売店が受けていた問い合わせが、直接届くようになります。

  • 注文の変更・キャンセル、配送状況、返品・交換の問い合わせへの対応手順
  • 商品の使い方、成分や素材、保管方法など、商品に関する問い合わせへの回答の準備
  • 問い合わせを受ける手段(メール、フォーム、チャット、電話)と、対応の時間帯
  • 商品の不具合やクレームを、品質管理や開発の部門に伝える流れ
  • 返品・交換の条件と、ECサイト上での表示

受注から在庫の更新、出荷の指示、顧客への連絡までの流れをどう設計するかは、EC運営の受注・在庫・出荷を連携させるバックオフィスの設計で詳しく解説しています。最初は手作業で回し、出荷の量や問い合わせの傾向が見えてから自動化や連携を進めるのが現実的です。

なお、消費者への通信販売では、事業者の情報や返品の条件などの表示に関するルールがあります。ECサイトの公開前に、最新の法令やガイドラインを公的機関の情報や専門家に確認してください。

顧客データの活用

直販の大きな価値の一つは、誰が、いつ、何を、どれだけ買ったかというデータを、自社で直接得られることです。卸や小売を通した販売では、このデータは手に入りにくいものでした。

何のデータを集めるか

  • 購入のデータ:購入日、商品、数量、金額、購入の経路
  • 顧客の属性:住所の地域、年代などの、顧客が登録した情報(必要な範囲に限る)
  • 行動のデータ:ECサイトの閲覧、メールの開封、キャンペーンへの反応
  • 顧客の声:レビュー、問い合わせの内容、アンケートの回答

データを集める際は、何の目的で使うのかを決め、必要な範囲に限ることが大切です。個人情報の取り扱いについては、プライバシーポリシーの整備を含め、最新の法令や専門家の助言に沿って進めてください。

データをどう使うか

使い方見るデータ得られること
商品開発への反映レビュー、問い合わせ、購入の組み合わせ改善点、新商品の候補、組み合わせの需要
継続購入の促進購入の間隔、商品の消費の周期買い替えの時期に合わせた案内
顧客の分類購入の頻度、金額、最終購入日優良顧客、離れかけている顧客の把握
既存流通への還元地域別の購入、商品別の反応取引先への提案材料

顧客を購入の頻度や金額で分類する方法には、RFM分析などの手法があります。ECの売上を客数、購入率、客単価に分解して改善する考え方はECサイトのKPI設計で詳しく扱っています。

データを見る場をつくる

データの活用が進まない原因の多くは、データがないことではなく、見る場と使う人が決まっていないことです。月に一度、直販の担当者、商品開発、営業の担当者が集まり、売れ筋、レビューや問い合わせの傾向、継続購入の状況を確認する場を設けると、データが判断につながりやすくなります。最初は表計算ソフトで集計した簡単な一覧でも十分です。見るべき数字が固まってきたら、ダッシュボードの整備や、ECと基幹システムのデータの統合を検討します。

D2C立ち上げの手順と具体例

立ち上げの手順

  1. 目的と優先順位を決める:直販で何を得たいのかを決め、経営層と合意します。
  2. 既存流通への影響を確認する:主要な取引先との契約を確認し、価格と品揃えの方針を決め、必要に応じて事前に説明します。
  3. 最初に売る商品を絞る:全商品を並べるのではなく、直販の目的に合った商品から始めます。
  4. 販売チャネルを選ぶ:自社ECサイトを中心にするか、モールやSNSを組み合わせるかを決めます。
  5. 物流と顧客対応の体制を決める:最初の出荷の量を見込み、自社出荷か委託かを決め、問い合わせの対応手順を用意します。
  6. 計測の仕組みを用意する:売上だけでなく、集客の経路、購入率、継続購入、顧客の声を記録できるようにします。
  7. 小さく公開する:既存の顧客や、SNSで関心を持ってくれている人に限定して公開し、運用の課題を洗い出します。
  8. 振り返って広げる:目的に照らして成果を振り返り、商品、チャネル、体制を見直してから、本格的な集客に投資します。

具体的な場面の例:老舗の調理器具メーカーの場合

架空の例として、長年、問屋と専門店を通じて調理器具を販売してきたメーカーが、直販を始めるケースを考えます。

このメーカーは、専門店の数が減少し、若い世代の顧客との接点が少なくなっていることに危機感を持っていました。直販の目的として、経営層と担当者は「若い世代の顧客の声を直接聞き、商品開発に活かすこと」を第一に、「売上の上乗せ」は二番目に置くことを確認しました。

既存の流通との関係では、主要な問屋と専門店に直販を始める理由を説明し、直販の価格は店頭の標準的な価格に合わせることを伝えました。直販で扱う商品は、専門店でも扱う定番品に加えて、専門店には並ばない交換用の部品と、新しく開発中の小型の調理器具の試作版に絞りました。交換用の部品は、これまで専門店経由で取り寄せるしかなく、顧客にとっても専門店にとっても手間がかかっていたため、取引先からも歓迎されました。

物流は、最初は工場の一角で担当者が梱包と発送を行い、問い合わせはメールのみで受け付けました。ECサイトは構築サービスを使って短期間で公開し、試作版を購入した顧客には使用後のアンケートをお願いしました。

数か月の運営で、交換用の部品の購入者の多くが、長年同じ製品を使い続けている顧客であることが分かりました。また、試作版のアンケートからは、若い世代が収納のしやすさを重視していることが見えてきました。担当者はこれらの情報を開発部門と専門店に共有し、専門店からは「交換用の部品を求める顧客に、直販のサイトを案内したい」という声も上がっています。出荷の量が増えてきたため、次の段階として物流代行への委託と、在庫管理システムとの連携を検討しています。

よくある失敗と避け方、立ち上げ前のチェックリスト

よくある失敗

  • 目的が売上だけになる:集客や物流の費用を積み上げると利益が出ず、短期間で撤退することになります。直販で得たいものを売上以外にも置きます。
  • 既存流通への説明をしない:取引先が直販を知って不信感を持ち、取引に影響が出ることがあります。事前の説明と、価格と品揃えの配慮を行います。
  • 全商品を最初から並べる:在庫と出荷の管理が複雑になり、どの商品が直販に合うかも分かりにくくなります。目的に合った商品から始めます。
  • 物流と顧客対応を軽く見る:ECサイトの構築に力を注ぎ、出荷や問い合わせの体制が整わないまま公開すると、遅配や対応の遅れで評判を損ないます。
  • データを集めるだけで使わない:購入データやレビューが蓄積されても、商品開発や施策に使われなければ直販の価値が生まれません。データを見る場と、使う部門を決めておきます。

立ち上げ前のチェックリスト

  • 直販の目的と優先順位を経営層と合意した
  • 主要な取引先との契約内容を確認した
  • 直販の価格と品揃えの方針を決め、必要な取引先に説明した
  • 最初に売る商品を絞った
  • 販売チャネルとECサイトの作り方を決めた
  • 既存の在庫管理や基幹システムとの連携の方針を決めた
  • 物流の方法と、出荷の量が増えたときの切り替えの目安を決めた
  • 問い合わせ、返品・交換の対応手順を用意した
  • 通信販売の表示や個人情報の取り扱いについて確認した
  • 顧客データを見る場と、活用する部門を決めた

よくある質問

Q. D2Cは小さな会社でも始められますか?

始められます。ECの構築サービスを使えば、大きな初期投資なしにECサイトを公開でき、出荷も最初は自社で行えます。小さな会社ほど、顧客の声を直接聞けることの価値が大きく、商品の改善に早く活かせるという利点もあります。ただし、出荷と顧客対応の手間は本業の業務と競合するため、担当者の時間をどう確保するかを先に決めておきます。

Q. 集客はどのように行えばよいですか?

既存の顧客との接点(製品の同梱物、取扱説明書、既存のSNSアカウント、展示会など)から始めるのが現実的です。広告による集客は費用がかかるため、購入率や継続購入の状況を確認してから投資します。既存流通で購入した顧客を直販に誘導する場合は、取引先との関係に配慮します。

Q. ECモールと自社ECサイトのどちらから始めるべきですか?

目的によります。顧客の声やデータを得ることが目的なら、自社ECサイトを中心にした方が顧客との直接の関係をつくりやすくなります。新しい販路での売上が目的なら、集客力のあるモールへの出店が早道です。両方を並行する場合は、在庫と受注の管理が分散しないように仕組みを整えます。

Q. 既存の基幹システムとECサイトの連携は最初から必要ですか?

出荷の量が少ないうちは、受注データを手作業で基幹システムに入力する運用でも回ります。手作業の負担が大きくなった、在庫のずれによる欠品や二重販売が起き始めた、という段階で連携を検討するのが現実的です。連携の方法は、使っているシステムによって異なるため、要件を整理したうえで検討します。

Otsumuに相談できること

D2Cの立ち上げは、直販の目的が明確で、ECの構築サービスを使い、最初は自社で出荷と問い合わせに対応できる体制があれば、外部に頼らずに始めることができます。この記事のチェックリストを使って、目的、既存流通との関係、物流と顧客対応の準備を確認し、小さく公開してみるのがよいでしょう。

一方で、直販の目的や既存流通との線引きについて社内の合意がつくれない、公開後に集まった顧客データや声をどう商品開発や施策に活かせばよいか分からない、出荷が増えて受注・在庫・出荷の連携や基幹システムとのつなぎこみが必要になった、という段階では、事業の設計とシステムの両方を見られる外部の支援が役に立ちます。

Otsumuは新規事業開発コンサルティングで、直販の目的の整理、既存流通との関係の設計、立ち上げの計画と振り返りを伴走します。EC運営の仕組みが必要になった段階では、ECサイト開発や在庫管理システム開発で、受注・在庫・出荷の連携を含めた開発に対応します。直販の構想を短期間で点検したい場合は、新規事業レビュー Sprint(48万円・税別、1〜2週間)から始めることもできます。

直販を検討し始めた段階でも、立ち上げた後の見直しでも構いません。30分の無料相談で、商品と流通の状況をお聞かせください。

この記事について

Otsumu株式会社が執筆しました。統計値や他社の事例には依拠せず、進め方と判断の枠組みを中心にまとめています。法務・税務・会計などの制度は、専門家や公的窓口で最新の情報をご確認ください。

執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.01

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