自社サービスの運用コストを下げるには、まずコストを「サポート」「運用作業」「インフラ」「外部サービスの利用料」「保守開発」の五つに分解し、それぞれが何に比例して増えているのかを把握することが出発点です。売上やユーザー数に比例して増えるコストは、そのままでは事業が伸びるほど利益を圧迫します。見直しの目的は単に金額を削ることではなく、ユーザーが増えてもコストが同じ速さで増えない構造に変えることにあります。
具体的な手段は大きく三つです。問い合わせや手続きをユーザー自身で完結できるようにする「セルフサービス化」、社内の繰り返し作業をなくす「自動化」、使っていない資源や過剰な構成を見直す「インフラの最適化」です。どれも一度に全部やる必要はなく、金額が大きく、かつ効果を測りやすいところから順に手を付けるのが基本です。
この記事は、SaaSや会員制サービス、ECなどを自社で運営していて、売上の伸びに対して運用の負担や費用が重くなってきたと感じている事業責任者・運用責任者の方に向けています。コストの分解の仕方、削減の優先順位の付け方、領域ごとの具体的な見直し方、削りすぎて品質を落とさないための注意点を順に解説します。
サービスの運用コストを五つに分解する
運用コストは、何となく「人件費とサーバー代」で捉えられがちですが、見直しには、もう少し細かい分解が必要です。
| 区分 | 主な中身 | 何に比例して増えるか | 主な見直し手段 |
|---|---|---|---|
| サポート | 問い合わせ対応、電話・メール・チャット、返金や手続きの対応 | ユーザー数、問い合わせ件数 | FAQ整備、セルフサービス化、問い合わせの原因の解消 |
| 運用作業 | アカウント発行、データの手動修正、請求処理、レポート作成 | 契約数、取引件数 | 自動化、管理画面の改善、手順の標準化 |
| インフラ | サーバー、データベース、ストレージ、通信 | アクセス量、データ量 | 構成の見直し、不要資源の削除、契約形態の見直し |
| 外部サービス | SaaSの利用料、APIの従量課金、決済手数料 | 利用者数、アカウント数、呼び出し回数 | 重複の整理、プランの見直し、呼び出しの削減 |
| 保守開発 | 障害対応、不具合修正、ライブラリ更新、小さな改修 | 機能の数、技術的な負債 | 不要機能の削除、監視の整備、品質の改善 |
分解したら、それぞれの月額と、直近の半年から一年の推移を並べます。そのうえで「ユーザー数や売上の伸びより速く増えているもの」に印を付けます。ここが最優先の見直し対象です。
コストを「単位あたり」で見る
総額だけを見ると、事業が伸びているのか、効率が悪化しているのかが区別できません。そこで、ユーザー一人あたり、契約一件あたり、取引一件あたりのコストに直して見ます。たとえば、問い合わせ件数をアクティブユーザー数で割った「問い合わせ率」や、インフラ費用を月間の取引件数で割った値です。
単位あたりのコストが横ばいか下がっているなら、規模の拡大に構造が追いついています。上がっているなら、どこかに規模に比例しない非効率が隠れています。この見方をすると、削減の効果を測るときも、事業の伸びの影響を除いて評価できます。
削減の優先順位を決める手順
対象が多いと、手を付けやすいところから始めて、効果の小さい改善に時間を使ってしまいがちです。次の手順で優先順位を決めます。
- 五つの区分ごとに月額と推移を出し、単位あたりのコストを計算する。
- 区分の中を、さらに具体的な項目(問い合わせの種類、作業の種類、サーバーの用途など)に分ける。
- 各項目について「削減できそうな金額や時間」「実施にかかる手間と費用」「品質やユーザー体験への影響」を大まかに見積もる。
- 削減の大きさが手間に見合い、品質への影響が小さいものから順に並べる。
- 上位の三つ程度に絞って着手し、効果を測ってから次に進む。
手順3の見積もりは精密である必要はありません。大・中・小の三段階でも十分に順位は付きます。大切なのは、品質への影響を必ず評価に含めることです。コストは下がったが解約が増えた、という結果では意味がありません。
サポートコストを下げる:問い合わせを減らし、自分で解決できるようにする
サポートのコストは、問い合わせ一件あたりの対応時間と件数の掛け算で決まります。対応を早くする工夫より、件数そのものを減らす工夫の方が効果が大きいことが多くあります。
問い合わせの原因を分類する
最初にやるべきは、問い合わせを内容で分類し、件数の多い順に並べることです。直近の一〜三か月の問い合わせを「使い方が分からない」「不具合」「契約・請求」「要望」「その他」などに分け、さらに具体的な質問の単位まで分けます。上位のいくつかの質問が全体の大きな割合を占めていることが少なくありません。
上位の質問ごとに、なぜその問い合わせが発生するのかを考えます。画面の説明が分かりにくい、通知が届いていない、手続きの手段が問い合わせしかない、といった原因が見つかれば、問い合わせに答えるのではなく、原因そのものを直すことで件数を減らせます。
セルフサービスの仕組みを整える
ユーザー自身で解決できる仕組みは、セルフサービス型サポートと呼ばれます。代表的なのは、検索しやすいヘルプページやFAQ、プラン変更や解約、請求書のダウンロードを管理画面で完結できる機能、操作の途中で表示される説明などです。
特に効果が大きいのは「問い合わせしか手段がない手続き」をなくすことです。領収書の再発行、支払い方法の変更、ユーザーの追加といった手続きが問い合わせ経由になっていると、件数が多いうえに一件ごとに運用作業も発生します。管理画面で完結できるようにすれば、サポートと運用作業の両方のコストが下がります。
一次対応の自動化
それでも残る問い合わせは、分類と回答の下書きを自動化することで対応時間を短くできます。問い合わせの自動分類、担当の自動割り当て、生成AIによる回答案の作成などです。詳しい設計はカスタマーサポート対応の自動化:チケット分類と回答下書きのAI活用で解説しています。ただし、回答の最終確認は人が行う設計にしておくのが安全です。
運用作業のコストを下げる:繰り返しの手作業をなくす
運用作業は、サポートほど目立たないものの、担当者の時間を確実に奪っています。アカウントの発行、契約内容の手動変更、データの修正依頼への対応、月次の請求処理、社内向けレポートの作成などです。
まずは作業の棚卸しをします。担当者ごとに、一週間でどんな作業に何時間使ったかを記録してもらい、繰り返し発生している作業を洗い出します。そのうえで、頻度が高く、手順が決まっていて、判断が少ない作業から自動化の候補にします。進め方の全体像は自社サービス運用の手作業を減らす:運用業務の棚卸しと自動化にまとめています。
自動化の前に検討したいのが、管理画面の改善です。運用担当がデータベースを直接操作して修正している、複数の画面を行き来して転記している、という状態であれば、専用の操作画面を一つ用意するだけで、作業時間とミスの両方が減ります。運用作業が多いのに管理画面への投資が後回しになっているサービスは少なくありません。
架空の例:BtoB向けSaaSの運用チーム
あるBtoB向けSaaSを例に考えます。契約が増えるたびに、運用担当が契約書の内容を見ながら手作業でアカウントを作り、プランに応じた設定を入れ、請求システムにも同じ情報を登録していたとします。契約の増加に比例して運用担当の作業が増え、担当を増やすか迷っていました。
工程を見直すと、契約情報の入力が三か所に分かれていることが分かりました。そこで、契約情報を一度入力すれば、アカウント作成と請求の登録が自動で行われる仕組みに変えることを検討しました。運用担当の仕事は、入力内容の確認と例外的な契約の対応だけになります。契約が増えても作業時間がほとんど増えない構造になり、担当を増やす判断を先送りできる見込みが立ちました。
インフラと外部サービスのコストを見直す
インフラの費用は、サービスの成長とともに静かに増えていきます。月々の請求額の推移を見ていないと、いつの間にか売上に対する比率が上がっていることがあります。
インフラの見直しの観点
- 使われていないサーバー、開発用に作って放置された環境、古いバックアップや不要なストレージがないか
- サーバーの性能が実際の負荷に対して過剰になっていないか
- 夜間や休日など、利用が少ない時間帯に資源を減らせないか
- 長期利用を前提にした割引の契約形態が使えないか
- ログやデータの保存期間が必要以上に長くなっていないか
クラウド費用の具体的な削減手順はクラウド費用が想定より高いときの見直しポイントと削減手順で詳しく扱っています。クラウド事業者ごとの料金体系や割引の条件は変わりやすいため、最新の情報は各社の公式な案内で確認してください。
外部サービスの見直しの観点
外部のSaaSやAPIの利用料も、気づかないうちに増えやすいコストです。社員ごとにアカウントを契約するツールは、退職者や使っていない人のアカウントが残っていないかを確認します。同じ目的のツールを部署ごとに別々に契約している場合は、統合を検討します。
従量課金のAPIは、呼び出し回数に比例して費用が増えます。同じデータを何度も取得していないか、結果を一時的に保存して再利用できないかを確認します。生成AIのAPIでは、送る文章の量や使うモデルの選び方で費用が大きく変わることがあります。
インフラや外部サービスの見直しは、開発や運用の担当者だけに任せず、事業責任者も月々の請求の推移を確認する習慣を持つことが大切です。請求の内訳を用途ごとに分けて見られるよう、環境やサービスに用途の名前を付けて管理しておくと、どの機能やどの顧客のためにどれだけ費用がかかっているかが分かりやすくなります。費用の増加が新機能の公開や特定の顧客の利用の増加と結びついていれば、価格設定や契約条件の見直しといった、技術以外の打ち手も検討できます。
保守開発のコストを下げる:機能を減らし、障害を減らす
保守開発の費用は、機能の数と、コードの品質に左右されます。使われていない機能も、ライブラリの更新や不具合の対応、テストの対象として保守の手間を生み続けます。
利用データを見て、ほとんど使われていない機能を洗い出し、削除や統合を検討します。機能を減らすことはユーザーに不便をかけるように思えますが、使われていない機能を削ると、画面が分かりやすくなり、問い合わせが減ることもあります。
障害対応の時間も、保守のコストの大きな部分を占めます。障害を早く検知する監視の仕組みや、繰り返し起きる障害の根本原因の解消は、長期的に保守の費用を下げます。保守の契約内容そのものの見直しについてはシステム保守費用の考え方:月額費用の内訳と見直しのポイントも参考にしてください。
削減の効果を測り、続ける仕組みを作る
見直しの施策を実行したら、効果を測って次の判断につなげます。効果の測り方を決めないまま進めると、削減できたのかどうかが分からず、社内での評価も得にくくなります。
施策ごとに測る指標を決める
施策を始める前に、何を見れば効果が分かるのかを決めておきます。たとえば、FAQの整備なら対象の質問の問い合わせ件数、管理画面での手続きの完結なら該当する手続きの問い合わせ件数と運用担当の作業時間、インフラの構成の見直しなら月額費用と応答時間、という具合です。施策の前の値を記録しておき、実施後の一〜二か月の値と比べます。
このとき、ユーザー数や取引件数の増減の影響を除くために、単位あたりの値で比べるのが基本です。総額では横ばいでも、ユーザーが増えている中で横ばいなら、単位あたりのコストは下がっていることになります。
品質の指標を必ず並べる
コストの指標と同時に、品質の指標も並べて見ます。サポートなら問い合わせへの初回回答までの時間や、対応後の満足度、運用作業なら処理のミスや差し戻しの件数、インフラなら応答時間とエラーの発生状況、事業全体では解約の件数です。コストが下がり、品質が保たれているか上がっていれば、その施策は成功と判断できます。
定例の場で確認する
効果の確認を担当者任せにすると、日々の業務に埋もれて続きません。月に一度、運用コストの単位あたりの推移と、実施中の施策の効果を確認する短い場を設けます。参加者は、事業責任者、サポートと運用の担当、インフラや開発の担当です。ここで次に着手する施策を決めると、見直しが一度きりで終わらず、継続的な改善の流れになります。
数字をまとめる手間が負担になる場合は、問い合わせの件数や作業時間、インフラの費用を自動で集計して一つの画面で見られるようにすると、確認の場の準備が楽になります。
よくある失敗とその避け方
目に見える金額だけを削る
サーバー代やツールの利用料は請求書で見えるため削りやすい一方、社内の作業時間は見えにくく、後回しにされがちです。実際には、運用担当の時間の方が大きなコストになっていることがあります。作業時間を時給換算して並べると、優先順位が変わることがあります。
サポートを削ってユーザー体験を損なう
問い合わせ窓口を見つけにくくする、返信を遅らせる、といった方法で件数を減らすと、ユーザーの不満が積み重なり、解約につながります。減らすべきなのは「問い合わせなくても済んだはずの問い合わせ」であり、ユーザーが困ったときの手段ではありません。
インフラを削りすぎて障害を招く
性能を絞りすぎたり、冗長構成をやめたりすると、負荷の高い時間帯に応答が遅くなったり、障害時の復旧に時間がかかったりします。削減の前後で応答時間やエラーの発生状況を比べ、品質が落ちていないことを確認します。
一度見直して終わりにする
コストの見直しを一度きりの取り組みにすると、時間とともに元に戻ります。不要な環境は再び増え、問い合わせの原因も新機能とともに生まれます。単位あたりのコストを毎月確認する仕組みを作り、異常があれば早めに手を打てるようにします。
運用コスト見直しのチェックリスト
- 運用コストを五つの区分に分け、月額と推移を把握しているか
- ユーザー数や取引件数あたりのコストを計算し、推移を見ているか
- 問い合わせを内容で分類し、件数の多い順に原因を調べたか
- 問い合わせでしかできない手続きが残っていないか
- 運用担当の一週間の作業内容と時間を記録したか
- データベースの直接操作や複数画面の転記が発生していないか
- 使われていないサーバー、環境、ストレージ、アカウントを洗い出したか
- 外部サービスの重複契約や、使っていないアカウントがないか
- 使われていない機能を利用データで確認したか
- 削減の前後で、応答時間、エラー、解約、問い合わせの満足度などの品質を比べる準備があるか
- 単位あたりのコストを毎月確認する担当と場を決めたか
よくある質問
Q. 運用コストの見直しは、どのくらいの頻度で行うべきですか?
単位あたりのコストの確認は毎月、区分ごとの詳しい見直しは四半期か半年に一度が目安です。新しい機能をリリースした後や、ユーザー数が大きく増えた後は、問い合わせやインフラの負荷が変わりやすいため、時期を前倒しして確認するのがおすすめです。
Q. セルフサービス化を進めると、ユーザーとの接点が減りませんか?
手続きや定型の質問の接点は減りますが、その分、サポート担当が個別の相談や活用の支援に時間を使えるようになります。ユーザーにとっても、待たずに手続きが終わる方が満足度は高くなりやすいです。接点を減らすのではなく、接点の中身を価値のあるものに入れ替えると考えるとよいでしょう。
Q. インフラの見直しは、開発会社に任せていても進められますか?
進められます。まずは月々の請求の内訳と、環境ごとの用途の一覧を開発会社に出してもらい、使っていない資源や過剰な構成がないかを一緒に確認します。発注側が費用の推移を把握しているだけでも、見直しのきっかけを作れます。
Q. 自動化に投資するか、人を採用するか迷っています。
作業が定型的で今後も増え続けるなら、自動化の方が長期的に有利になることが多いです。一方で、業務の手順がまだ固まっておらず変わり続けている段階では、先に人が回しながら手順を固め、安定してから自動化する方が無駄が少なくなります。判断の考え方はBPO(業務委託)と自動化の比較も参考にしてください。
Otsumuに相談できること
コストの区分ごとの金額と推移が把握でき、問い合わせの分類や作業の棚卸しを社内で進められる体制があれば、この記事の手順に沿って自社で見直しを進めることは十分可能です。不要なアカウントや環境の整理、FAQの充実といった取り組みは、外部に頼まなくても始められます。
一方で、どのコストから手を付けるべきか判断がつかない、運用作業の自動化や管理画面の改修に開発が必要になる、サポートと運用と開発の担当が分かれていて全体を見渡せる人がいない、といった場合は、外部の視点と手を借りた方が早く進むことがあります。
Otsumuでは、サービス運用のコストの分解と優先順位付けから、セルフサービス化や運用作業の自動化の設計・構築、導入後の効果測定までを一貫して支援しています。自らも事業を運営する実践者として、削減額だけでなくユーザー体験への影響も含めて、目的から逆算して打ち手を絞り込みます。詳しくは自社サービス運用の自動化コンサルティングのページをご覧ください。
自社のサービスでどこにコストが偏っているのか、まず整理するところから一緒に考えることもできます。30分の無料相談からお気軽にご連絡ください。
この記事について
Otsumu株式会社が執筆しました。統計値や他社の事例には依拠せず、進め方と判断の枠組みを中心にまとめています。法務・税務・会計などの制度は、専門家や公的窓口で最新の情報をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.01