この事例の要点
- 中外製薬株式会社は、ロシュとの戦略的アライアンスのもとで医薬品を創製・開発・販売し、2025年12月期の売上収益は1,257,941百万円(前期比7.5%増)、営業利益は598,833百万円(10.5%増)でした(2025年12月期決算短信〔IFRS〕(連結))。
- 売上収益は製商品売上高1兆778億円と、ロイヤルティ等を含むその他の売上収益1,801億円で構成され、海外製商品売上高6,054億円はロシュ向けのヘムライブラ・アクテムラ輸出の増加で12.8%伸びました(2025年12月期決算短信〔IFRS〕(連結))。
- 売上収益営業利益率は47.6%で、Coreベースの研究開発費は1,801億円、売上収益研究開発費比率は14.3%でした(2025年12月期決算短信〔IFRS〕(連結))。
どんな事業か
中外製薬株式会社は、世界有数の製薬企業であるロシュとの戦略的アライアンスのもと、「革新的な医薬品とサービスの提供を通じて新しい価値を創造し、世界の医療と人々の健康に貢献する」ことをMissionに掲げる製薬企業です。同社は自らの事業モデルを、ロシュの充実したパイプラインにより日本市場における安定した収益基盤を確保しながら、自社創製品の後期開発や販売ではロシュのグローバル・プラットフォームを活用する、高い生産性を実現するビジネスモデルと説明しています(2025年12月期決算短信〔IFRS〕(連結))。
製商品売上高は国内と海外に分かれます。国内製商品売上高4,724億円はオンコロジー領域2,465億円とスペシャリティ領域2,258億円で構成され、新製品のフェスゴ、ピアスカイ、主力品のバビースモ、エンスプリング、ヘムライブラが伸長しました。海外製商品売上高6,054億円は、ロシュ向けのヘムライブラ及びアクテムラ輸出の増加で伸びました(2025年12月期決算短信〔IFRS〕(連結))。
収益の仕組み
売上収益1兆2,579億円のうち、製商品売上高が1兆778億円(前年同期比8.0%増)、その他の売上収益が1,801億円(同4.3%増)です。その他の売上収益は、一時金収入が減少したものの、ヘムライブラに関する収入の増加等により増加したと説明されています。2026年12月期の見通しでは、その他の売上収益2,450億円のうちロイヤルティ及びプロフィットシェア収入が2,172億円(同25.8%増)、一時金収入を含むその他の営業収入が278億円と示されており、第三者導出品やヘムライブラに関するロイヤルティ及びプロフィットシェア収入も収益源の一つになっています(2025年12月期決算短信〔IFRS〕(連結))。
費用面では、Coreベースで売上原価3,515億円、研究開発費1,801億円、販売費及び一般管理費1,032億円が示されています。製商品原価率は為替影響及び製品別売上構成比の変化等により32.6%と前年同期比で1.3ポイント改善しました。IFRS実績には事業再構築費用133億円、自社開発一括中止費用等164億円などCoreベースで除外している項目が含まれています(2025年12月期決算短信〔IFRS〕(連結))。
数字で確かめる
- 売上収益1,257,941百万円、前期比7.5%増(2025年12月期)(2025年12月期決算短信〔IFRS〕(連結))。国内と海外の製商品売上高がともに増収に寄与したことが読み取れます。
- 営業利益598,833百万円(10.5%増)、売上収益営業利益率47.6%(2025年12月期決算短信〔IFRS〕(連結))。売上収益の47.6%が営業利益として残る収益性が読み取れます。
- 海外製商品売上高6,054億円(12.8%増)、国内製商品売上高4,724億円(2.5%増)(2025年12月期決算短信〔IFRS〕(連結))。ロシュ向け輸出が成長の主な担い手であることが読み取れます。
- Coreベースの研究開発費1,801億円、売上収益研究開発費比率14.3%(2025年12月期決算短信〔IFRS〕(連結))。売上の一定割合を次の製品づくりに回し続ける構造が読み取れます。
- Core当期利益4,510億円(13.6%増)で9期連続の増益、当社株主帰属持分比率82.1%(2025年12月期決算短信〔IFRS〕(連結))。継続的に利益を積み上げてきたことと財務基盤の厚さが読み取れます。
Otsumuの読み解き:なぜ成り立つのか
ここからはOtsumuの考察です。この事業は「ロイヤルティ(IP使用料)」と「ライセンス」の型で読むと構造が見えてきます。同社は自社で創製した医薬品を、後期開発や海外販売ではロシュのグローバル・プラットフォームに載せ、輸出とロイヤルティ及びプロフィットシェア収入という形で回収しています。自社で世界中に販路を築くのではなく提携先の販路を使うことで、資源を自社創薬に集中させる設計と読めます。
この型が成り立つには裏側の仕事があります。第一に、ライセンスに値する知的財産を継続的に生み出す研究開発です。同社は売上収益の14.3%にあたる1,801億円を研究開発に投じ、「R&Dアウトプット倍増」「自社グローバル品毎年上市」を目標に掲げています。第二に、うまくいかないプロジェクトを止める判断です。2025年には複数のプロジェクトで自社開発を中止する経営判断が示され、一括中止費用等164億円がIFRS実績に含まれています。IPで稼ぐ事業では、生み出す力と止める力の両方が必要だと考えられます。
トレードオフは、収益の多くを特定の提携先に依存する点です。海外製商品売上高の伸びはロシュ向け輸出の増加によるもので、提携先の販路を使う効率の高さと、提携先の判断に左右される度合いは表裏一体だと読めます。
自社事業に持ち帰る問い
- 自社が生み出す知的財産や独自の強みのうち、他社の販路に載せて回収できるものは何か。
- 提携先に任せる工程と自社で握る工程の線引きは、どこに置くと生産性が最も高いか。
- 続けるか止めるかの判断基準を、プロジェクト開始時点で決めているか。
- 一時金のような単発収入と、ロイヤルティのような継続収入を分けて管理しているか。
小さく試すなら
- 自社の製品・技術・コンテンツを棚卸しし、「自社で売る」「他社に使わせて対価を得る」のどちらが向くかを一つずつ仮判定する。
- 使わせる候補について、想定パートナー2〜3社に「どんな条件なら扱うか」をヒアリングし、対価の形(一時金・売上連動)の感触をつかむ。
- 進行中の取り組みごとに「ここまでに何が出なければ止める」という基準を書き出し、次の見直し会議で運用してみる。基準が機能すれば、投資配分の見直しに進む。
関連するビジネスモデル
資料の位置づけ
企業・サービス:中外製薬株式会社 / 医薬品の創製とライセンス。参照資料:2025年12月期決算短信〔IFRS〕(連結)。このページは公開情報にもとづく学習用の分析です。Otsumuの支援実績や当該企業との取引関係を示すものではありません。示唆と検証案はOtsumuの考察であり、企業自身の見解とは区別しています。
参考資料と編集について
上記の公開資料(企業の決算短信または年次報告書)をもとに、Otsumuが執筆しました。数値と企業の説明は資料の記載の範囲にとどめ、Otsumuの考察とは分けています。数値は資料の表記のままで、最新の情報は各社の開示をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.09.27