この事例の要点
- 第一三共株式会社の2026年3月期の売上収益は2,123,045百万円(前期比12.6%増)で、グローバル主力品エンハーツ等の伸長とダトロウェイの売上寄与、円安による為替の増収影響により増収となりました(2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結))。
- コア営業利益は359,962百万円(前期比15.1%増)でしたが、製造委託先への損失補償等を一過性の費用に計上したことにより、営業利益は229,089百万円(前期比31.0%減)となりました(2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結))。
- 販売費及び一般管理費はアストラゼネカとのプロフィット・シェアの増加による費用増等により8,596億円(18.6%増)となり、共同開発先と利益を分け合う構造が費用に表れています(2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結))。
どんな事業か
同社グループは、5つのDXd ADC(抗体薬物複合体)の製品価値最大化にリソースを集中投入する「5DXd ADCs and Next Wave」戦略のもと研究開発に取り組んでいると説明しています。エンハーツ及びダトロウェイはアストラゼネカと、パトリツマブ デルクステカン、イフィナタマブ デルクステカン、ラルドタツグ デルクステカンは米国メルクと共同開発しています(2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結))。
売上収益はユニット別に開示されています。ジャパンビジネスユニットは4,858億円(前期比1.9%増)、第一三共ヘルスケアユニットは907億円(4.7%増)、オンコロジービジネスユニットは欧米のがん製品で6,088億円(31.3%増)、アメリカンリージェントユニットは1,822億円(16.1%減)、EUスペシャルティビジネスユニットは2,766億円(16.5%増)、ASCAビジネスユニットは海外ライセンシーへの売上収益等を含み2,510億円(18.8%増)です(2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結))。
収益の仕組み
売上収益には為替の増収影響218億円が含まれます。ASCAビジネスユニットには海外ライセンシーへの売上収益等が含まれ、中国、ブラジルにおけるエンハーツの伸長等により増収となりました。営業活動によるキャッシュ・フロー777億円には、ラルドタツグ デルクステカンの戦略的提携の契約時一時金の収入等が含まれると説明されています(2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結))。
費用はコアベースで開示されています。売上原価は4,413億円(6.2%増)、販売費及び一般管理費はアストラゼネカとのプロフィット・シェアの増加等により8,596億円(18.6%増)、研究開発費は5DXd ADCs及びDS-3939への投資増加等により4,621億円(6.8%増)です。営業利益は一過性の費用152,974百万円の計上により2,291億円に減少しました(2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結))。
数字で確かめる
- 売上収益2,123,045百万円、前期比12.6%増(2026年3月期)(2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結))。うち為替の増収影響が218億円で、実質でも増収であることが読み取れます。
- コア営業利益359,962百万円(15.1%増)、営業利益229,089百万円(31.0%減)(2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結))。経常的な収益性と、一過性費用を含む利益が大きく乖離した期であることが読み取れます。
- 販売費及び一般管理費8,596億円(18.6%増)、研究開発費4,621億円(6.8%増)(2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結))。売上の伸びを上回る販管費の増加に、プロフィット・シェアの支払いが含まれることが読み取れます。
- 2027年3月期の予想は売上収益2兆2,800億円(7.4%増)、コア営業利益3,600億円(定義変更後の前期282,369百万円比27.5%増)(2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結))。売上原価率の改善とアストラゼネカへのプロフィット・シェア支払い増加の両方を見込んでいることが読み取れます。
Otsumuの読み解き:なぜ成り立つのか
ここからはOtsumuの考察です。この事業は「ライセンス」と「ロイヤルティ(IP使用料)」の型で読むと整理できます。同社はエンハーツとダトロウェイをアストラゼネカと、他の3つのADCを米国メルクと共同開発しています。プロフィット・シェアの支払いが販管費の増加要因として挙げられていることから、共同開発先と利益を分け合う代わりに、開発と販売の負担も分け合う構造だと読めます。逆にASCAビジネスユニットの「海外ライセンシーへの売上収益」や戦略的提携の契約時一時金は、自社の知的財産を他社に使わせて対価を得る側の収益と読めます。同じ会社が、対価を支払う立場と受け取る立場の両方を取っていることになります。
この型が成り立つ条件は、対価を払ってでも組みたいと思われる知的財産を持っていることと考えられます。5DXd ADCsにリソースを集中投入していることが交渉力の源になっていると読めます。裏側では承認申請や臨床試験を国・適応ごとに積み重ねる仕事が必要で、決算短信に列挙された多数の承認取得・申請受理がその量を示しています。
トレードオフとして、売上が伸びるほどプロフィット・シェアの支払いも増える点があります。同社も翌期の見通しで、売上拡大に伴うアストラゼネカへの支払い増加により経費の増加が見込まれると述べています。また製造委託先への損失補償等が営業利益を押し下げたように、製造を外部に委ねる構造には固有のリスクがあると読めます。
自社事業に持ち帰る問い
- 自社の技術や知財は、他社が対価を払って使いたいと思う水準にあるか。それを判断する材料は何か。
- 共同で事業を進める相手と利益を分け合う場合、どの費用も分担してもらえるのか、契約の中身を整理しているか。
- 売上が伸びると連動して増える支払い(分配、手数料)は、事業計画の中でどう見込んでいるか。
- 経常的な収益力と一過性の損益を分けて示す指標を、自社の業績管理に持っているか。
小さく試すなら
- 自社が持つ技術・ノウハウ・コンテンツを棚卸しし、他社に使わせて対価を得られそうなものを3つ挙げる。
- そのうち一つについて、想定相手に2〜4週間のヒアリングを行い、「対価を払ってでも使いたいか」「どの範囲(地域・用途)で使いたいか」を確かめる。
- 前向きな反応があれば、一時金・継続的な使用料・利益分配のどれで対価を受け取るかを比較し、自社の費用負担がどこまで残るかを試算する。
- 試算で利益が残るなら、契約の範囲を一つの地域か用途に絞った小さな提携から始め、実績を次の交渉材料にする。
関連するビジネスモデル
資料の位置づけ
企業・サービス:第一三共株式会社 / 医薬品(がん領域のADCを中心とした医薬品事業)。参照資料:2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)。このページは公開情報にもとづく学習用の分析です。Otsumuの支援実績や当該企業との取引関係を示すものではありません。示唆と検証案はOtsumuの考察であり、企業自身の見解とは区別しています。
参考資料と編集について
上記の公開資料(企業の決算短信または年次報告書)をもとに、Otsumuが執筆しました。数値と企業の説明は資料の記載の範囲にとどめ、Otsumuの考察とは分けています。数値は資料の表記のままで、最新の情報は各社の開示をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.09.27