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デジタルアーツ株式会社「i-FILTER」に学ぶ事業設計:ライセンスからクラウドへの移行

Webフィルタリング「i-FILTER」などを企業・公共・家庭に提供するデジタルアーツ。2026年3月期は契約高16,604百万円(前期比57.1%増)に対し売上高は10,835百万円(同8.5%増)。この差からライセンスとサブスクリプションの設計を学びます。

この事例の要点

  • デジタルアーツ株式会社は、Webフィルタリング「i-FILTER」、メールセキュリティ「m-FILTER」、2025年11月4日に販売開始したゼロトラストセキュリティ「Z-FILTER」などを、企業向け・公共向け・家庭向けの3市場に提供しています(2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結))。
  • 2026年3月期の契約高は16,604百万円(前期比57.1%増)、売上高は10,835百万円(同8.5%増)、売上高営業利益率は44.2%でした(2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結))。
  • 契約高と売上高の伸びに差があるのは、クラウドサービス系製品はサービス提供期間に応じて月次で按分して売上計上するためで、同社は収益モデルが「一時的なライセンス売上」から「継続的なサービス収益」へ移行していると説明しています(2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結))。

どんな事業か

同社は、安全な通信や挙動のみを許可する独自モデル「ホワイト運用」を掲げ、企業・官公庁・教育機関・家庭に向けてセキュリティ製品を提供しています。2026年3月末時点で「ホワイト運用」は約1,500万人規模のユーザー基盤に広がっていると説明しています(2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結))。

企業向け市場では、「i-FILTER」がクラウド型のWebアクセスセキュリティ対策ニーズを取り込み、生成AI利用状況の可視化などの機能で推移しました。新製品「Z-FILTER」は、認証からアクセス制御までを同一基盤で提供するゼロトラストセキュリティソリューションで、次期における収益化を見込んでいます(2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結))。

公共向け市場では「GIGAスクール構想 第2期」案件を重点施策とし、クラウド版の機能強化とISMAP登録を進めました。家庭向け市場では、「i-フィルター 10」の販路拡大を進めましたが、当期の収益化には至りませんでした(2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結))。

収益の仕組み

売上は3市場から成り、2026年3月期は企業向け市場の売上高5,176百万円(前期比8.2%増)、公共向け市場5,256百万円(同9.8%増)、家庭向け市場402百万円(同1.8%減)でした。契約高では企業向け5,564百万円(同10.9%増)、公共向け10,639百万円(同106.7%増)、家庭向け400百万円(同1.9%減)です。同社は、オンプレミス型のライセンス販売系製品は出荷時に契約金額の大部分を一括で売上計上する一方、クラウドサービス系製品はサービス提供期間に応じて月次で按分し段階的に売上計上する会計基準になっていると説明しています。このため公共向けの契約高が大幅に増えても、当期の売上高の伸びは限定的でした(2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結))。

費用面では、人材投資により売上原価、販売費及び一般管理費が前期比で増加した一方、AIの業務活用などでコストコントロールを進めたと説明しています。費用のこれ以上の内訳は今回参照した公開資料には示されていません(2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結))。

数字で確かめる

  • 契約高16,604百万円(前期比57.1%増)に対し売上高10,835百万円(同8.5%増)(2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結))。受注が先に積み上がり、売上は後から段階的に計上される構造が読み取れます。
  • 営業利益4,791百万円(同5.1%増)、売上高営業利益率44.2%(前期45.7%)(2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結))。人材投資を行いながらも高い利益率を保っていることが読み取れます。
  • 前受金が3,717百万円増加し、営業活動によるキャッシュ・フローは8,381百万円の収入(前期2,817百万円)(2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結))。売上計上より先に現金を受け取る資金の流れが読み取れます。
  • 自己資本比率66.1%(前期76.6%)(2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結))。前受金の増加で総資産が拡大し、利益が出ていても比率は下がることが読み取れます。
  • 2027年3月期の予想は契約高13,500百万円(前期比18.7%減)、売上高12,000百万円(同10.8%増)(2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結))。契約高が減っても受注残から売上が伸びる見込みであることが読み取れます。

Otsumuの読み解き:なぜ成り立つのか

ここからはOtsumuの考察です。「ライセンス」の型では、製品を出荷した時点で契約金額の大部分が売上になるため、売上と受注がほぼ同時に動きます。「サブスクリプション」の型では、契約時に受け取った金額を提供期間にわたって按分するため、受注が伸びた年の売上は控えめに見え、翌期以降に受注残が売上として現れます。同社の契約高57.1%増と売上高8.5%増の差は、この2つの型が同じ会社の中で並走していることの表れと読めます。

この移行が成り立つ条件は、売上が遅れて計上される期間を耐えられる資金と利益の余裕があることだと考えられます。同社の場合、前受金が増加し、営業キャッシュ・フローも前期を大きく上回っており、移行期に資金が細る状況は見られません。裏側では、継続提供のための機能追加や認証取得、販売代理店との協業と自社によるエンドユーザー接点の強化が必要な仕事になると読めます。

トレードオフとして、契約高は国の施策の時期に左右され、2027年3月期の契約高予想は18.7%減、売上高は10.8%増とされており、受注集中の反動を按分計上された売上が緩和する構造になっています。また、家庭向け市場では新製品の収益化に至っておらず、企業・公共で機能した価値を別の顧客層に届ける難しさも示されていると考えられます。

自社事業に持ち帰る問い

  • 自社の売上は「売った時点で計上」か「提供期間で按分」か。両方が混ざっている場合、受注の指標と売上の指標を分けて追っているか。
  • サブスクリプション型に移行する場合、売上が遅れて現れる期間の資金と利益を、どの程度の余裕で支えられるか。
  • 大型の案件が特定の時期に集中する場合、その反動を和らげる収益源を持っているか。

小さく試すなら

  1. 直近1年の受注を「一括計上」と「期間按分」に分け、契約高と売上高を別々の月次グラフにして、両者の差を可視化する。
  2. 期間按分の案件について、契約時に受け取る前受金の割合と、提供期間中に必要な費用(サポート、機能追加)を並べ、資金が先行するか後行するかを確認する。
  3. 既存顧客に対し、継続契約の際に価値を感じている機能を聞き取り、更新率を高める機能追加の候補を3つ挙げる。

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資料の位置づけ

企業・サービス:デジタルアーツ株式会社 / Webフィルタリング「i-FILTER」とセキュリティ製品。参照資料:2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)。このページは公開情報にもとづく学習用の分析です。Otsumuの支援実績や当該企業との取引関係を示すものではありません。示唆と検証案はOtsumuの考察であり、企業自身の見解とは区別しています。

参考資料と編集について

上記の公開資料(企業の決算短信または年次報告書)をもとに、Otsumuが執筆しました。数値と企業の説明は資料の記載の範囲にとどめ、Otsumuの考察とは分けています。数値は資料の表記のままで、最新の情報は各社の開示をご確認ください。

執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.09.27

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