この事例の要点
- 同社は報告セグメントをMA(Moody's Analytics)とMIS(Moody's Investors Service)の2つに分け、データ、分析、格付けを通じてリスク判断を支えると説明しています(Form 10-K、FY2025)。
- 独自に収集・整理したデータと検証済みの分析モデルを強みとし、判断に使える情報を顧客の業務の流れに直接組み込むことを掲げています(Form 10-K、FY2025)。
- 2025年のRevenueは$7,718 million、Operating incomeは$3,351 millionでした(Form 10-K、FY2025)。
どんな事業か
MISは、社債などの債務、プログラム、ファシリティと、それらを発行する事業体に対して信用格付けを公表し、評価サービスを提供しています。対象には事業会社、金融機関、政府の債務やストラクチャード・ファイナンス証券が含まれ、同社はMISが115年以上にわたり信用格付け、調査、リスク分析を提供してきたと説明しています(Form 10-K、FY2025)。
MAは3つの事業で構成されます。債券・経済の調査事業(Research & Insights)、企業と信用に関するデータベースを基盤とするデータ事業(Data & Information)、銀行、保険、KYCの業務に向けた3つのクラウド型サブスクリプション事業(Decision Solutions)です。顧客はこれらを通じて同社のデータと分析を自社の業務に取り込めるとしています(Form 10-K、FY2025)。
従業員は40超の国に約16,000人で、2025年末時点でMAが7,803人、MISが6,128人でした。MAはソフトウェアエンジニア、データアナリスト、エコノミストなど、MISは信用アナリストや格付け手法の専門家などが中心と説明しています(Form 10-K、FY2025)。
収益の仕組み
今回参照した10-Kの抜粋には、セグメント別の売上や料金体系の詳しい説明は含まれていません。確認できるのは、MAにクラウド型のサブスクリプション事業があること、MISが格付けに加えて格付け以外の業務(アジア太平洋での金融商品の価格評価、Second Party Opinions、Net Zero Assessmentsなど)からも売上を得ていることです(Form 10-K、FY2025)。貸借対照表には、流動負債としてDeferred revenue $1,582 millionが計上されています。
費用は、Operatingが$1,973 million、Selling, general and administrativeが$1,803 million、Depreciation and amortizationが$480 million、Restructuringが$108 millionで、Total expensesは$4,367 millionです(Form 10-K、FY2025)。
数字で確かめる
- Revenueは$7,718 millionで、前年の$7,088 millionから増加(Form 10-K、FY2025)。データと格付けを合わせた事業規模が伸びていることが読み取れます。
- Operating incomeは$3,351 million(前年$2,875 million)(Form 10-K、FY2025)。売上の伸びに対して費用の伸びが小さく、利益が大きく増えたことが読み取れます。
- Total expensesは$4,367 millionで、前年の$4,213 millionからの増加は限られています(Form 10-K、FY2025)。売上の増加に比べて費用の増加が小さかったことが読み取れます。
- Net income attributable to Moody'sは$2,459 million、Diluted EPSは$13.67(Form 10-K、FY2025)。
- Deferred revenueは$1,582 million(前年$1,454 million)(Form 10-K、FY2025)。サービス提供前に請求・受領している金額が一定規模あることが読み取れます。
Otsumuの読み解き:なぜ成り立つのか
ここからはOtsumuの考察です。データ事業の型は、集めたデータを一度整えれば、多くの顧客に繰り返し提供できる点に強みがあります。同社が世界最大と説明する企業と信用のデータベースを基盤にし、データと分析を銀行、保険、KYCの業務ツールに組み込んでいる点は、データを単体で売るより、顧客の日々の判断の中で使われる形にしていると読めます。
格付け事業とデータ事業が同じ会社にあることも、この型を支えていると考えられます。格付けの仕事の中で蓄積される信用分析の知見や手法が、MAの調査やデータの信頼性の裏付けにもなりうるからです。一方で、そのためには信用アナリストや手法の専門家を多く抱え続ける必要があり、MISの人員が6,128人と大きいことはその負担の表れと読めます。
トレードオフは、信頼が価値の中心であるぶん、その維持に手間とリスクがかかる点です。同社は気候関連リスクを格付け手法に取り込むことによる評判や信用面の懸念を、取締役会が監督するリスクとして挙げています。データを業務に深く組み込むほど、誤りや手法への疑義が顧客の判断に直接響くため、品質管理の仕組みが事業そのものになると考えられます。
自社事業に持ち帰る問い
- 自社が日々の業務で蓄積しているデータのうち、他社の判断材料として価値を持つものは何でしょうか。
- そのデータを「売る」のではなく、顧客の業務の流れに組み込む形で提供できるでしょうか。
- 提供するデータや評価の信頼性を、誰がどんな手順で担保しているでしょうか。
- 前払いの契約にできるほど、継続して使われる理由があるでしょうか。
小さく試すなら
- 自社にあるデータを棚卸しし、顧客の意思決定に使えそうなものを3つに絞ります。
- そのうち1つを簡単なレポートや一覧表の形に整え、既存顧客数社に2〜4週間無償で提供します。
- 顧客がそれをどの業務・どの判断で使ったかを聞き取り、使われた場面を記録します。
- 繰り返し使われる場面が確認でき、有料でも続けたいという声が得られたら、定期提供の料金を設計します。
関連するビジネスモデル
資料の位置づけ
企業・サービス:Moody's Corporation / 信用格付けとリスク分析(データ・分析)。参照資料:Form 10-K(FY2025)。このページは公開情報にもとづく学習用の分析です。Otsumuの支援実績や当該企業との取引関係を示すものではありません。示唆と検証案はOtsumuの考察であり、企業自身の見解とは区別しています。
参考資料と編集について
上記の公開資料(企業の決算短信または年次報告書)をもとに、Otsumuが執筆しました。数値と企業の説明は資料の記載の範囲にとどめ、Otsumuの考察とは分けています。数値は資料の表記のままで、最新の情報は各社の開示をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.09.27