この事例の要点
- Nasdaq, Inc.の2025年12月期の総収益(Total revenues)は$8,262 millionで、取引関連費用を差し引いた収益(Revenues less transaction-based expenses)は$5,249 million(12.9%増)でした(Form 10-K、FY2025)。
- 事業はCapital Access Platforms、Financial Technology、Market Servicesの3つのセグメントで運営され、Financial TechnologyセグメントはARRと収益がともに14%伸びました(Form 10-K、FY2025)。
- 営業利益は$2,331 million(29.7%増)、Nasdaqに帰属する当期純利益は$1,788 million(60.1%増)でした(Form 10-K、FY2025)。
どんな事業か
Nasdaqは市場のインフラを運営し、技術、データ、分析を顧客に提供する企業だと自社を説明しています。Capital Access Platformsは、Data & Listing Services(市場データと上場)、Index(指数)、Workflow & Insights(分析など)で構成されます。2025年12月31日時点のThe Nasdaq Stock Marketの上場会社数は4,480社(ETP 1,112を含む)で、2025年のIPOは281件でした。Nasdaqの指数に連動するETPのAUMは期末に$882 billionとなりました(Form 10-K、FY2025)。
Financial Technologyは規制対応や金融犯罪対策などのソフトウェア事業です。Market Servicesは株式や株式オプションなどの取引サービスで、同社は2025年に米国の現物株と株式オプションの取引量が強く、過去最高の収益になったと説明しています(Form 10-K、FY2025)。
収益の仕組み
取引所の部分では、取引に応じて収益が入ります。Market Servicesの収益は$4,214 millionですが、ここからtransaction rebates($2,572 million)とbrokerage, clearance and exchange fees($441 million)を差し引いた純額は$1,201 millionです。同社は、総収益から取引関連費用を差し引いた額で業績を示しています(Form 10-K、FY2025)。
データ・ソフトの部分では、継続的な契約から収益が入ります。同社はARRを、契約額が定まったサブスクリプション契約から算出した現時点の年換算額と定義し、継続事業の健全性を測る主要指標の一つとしています。Index事業の収益は、主に指数に連動するETPの平均AUMの増加と取引量の増加で伸びたと説明されています(Form 10-K、FY2025)。
費用の内訳は、今回参照した公開資料には示されていません。営業費用の合計は$2,918 million(2.3%増)でした(Form 10-K、FY2025)。
数字で確かめる
- 総収益$8,262 million、取引関連費用を差し引いた収益$5,249 million(Form 10-K、FY2025)。取引所の総収益の一部がリベート等として差し引かれる構造であることが読み取れます。
- セグメント別収益:Capital Access Platforms $2,137 million(9.9%増)、Financial Technology $1,850 million(14.1%増)(Form 10-K、FY2025)。取引以外の事業も伸びたことが読み取れます。
- 営業利益$2,331 million(29.7%増)、営業費用$2,918 million(2.3%増)(Form 10-K、FY2025)。費用の伸びを収益の伸びが上回ったことが読み取れます。
- Capital Access PlatformsのARR $1,340 million(前年$1,240 million)(Form 10-K、FY2025)。上場・データ・指数の継続収益が積み上がっていることが読み取れます。
- 指数に連動するETPのAUMは期末$882 billion、純流入$99 billion、ライセンス先のETP数451(Form 10-K、FY2025)。指数の利用が広がるほどIndex事業の収益基盤が大きくなることが読み取れます。
Otsumuの読み解き:なぜ成り立つのか
ここからはOtsumuの考察です。「取引所」の型は、売り手と買い手が集まる場を運営し、取引や上場に応じて対価を得る仕組みです。成り立つ条件は、取引が取引を呼ぶ状態をつくることで、Market Servicesの収益から多額のtransaction rebatesが差し引かれている点は、取引を呼び込むために収益の一部を市場参加者に還元していることを示していると読めます。ただし取引量は市場環境に左右されます。
「データ事業」の観点では、取引所の運営から生まれる市場データや指数を、サブスクリプションやライセンスとして販売しています。取引の場があるからデータが生まれ、データや指数があるから商品や投資家が集まるという循環が、この事業の土台だと考えられます。さらにFinancial Technologyのソフトウェアで、取引量に左右されにくいARRを積み増していると読めます。
トレードオフとして、取引所とデータ・ソフトを併せ持つと、相場の変動に対する耐性が増す一方で、買収後の統合など裏側の仕事が重くなります。同社がAdenzaの買収後にリストラクチャリングを実施したと説明しているのは、その表れと考えられます。
自社事業に持ち帰る問い
- 自社の事業から、副産物として生まれているデータはあるか。それを必要とする人は誰か。
- 市場環境に左右される収益と、継続契約による収益の比率を把握しているか。
- 参加者を集めるために、収益の一部を還元する仕組みを検討する余地はあるか。
- 継続収益を測る自社の指標(ARRなど)を定義し、定期的に追っているか。
小さく試すなら
- 直近1年の売上を、取引や案件ごとに入る収益と、継続契約で入る収益に分けて集計する。
- 自社の業務で蓄積しているデータを一つ選び、匿名化・集計したレポートの試作品を作る。
- そのレポートを既存顧客や取引先3〜5社に2〜4週間提供し、有料でも使いたいかを聞く。
- 継続利用の意向が得られれば年間契約の料金案を作り、得られなければデータの切り口を変えて再度試す。
関連するビジネスモデル
資料の位置づけ
企業・サービス:Nasdaq, Inc. / 取引所とデータ・ソフト。参照資料:Form 10-K(FY2025)。このページは公開情報にもとづく学習用の分析です。Otsumuの支援実績や当該企業との取引関係を示すものではありません。示唆と検証案はOtsumuの考察であり、企業自身の見解とは区別しています。
参考資料と編集について
上記の公開資料(企業の決算短信または年次報告書)をもとに、Otsumuが執筆しました。数値と企業の説明は資料の記載の範囲にとどめ、Otsumuの考察とは分けています。数値は資料の表記のままで、最新の情報は各社の開示をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.09.27