この事例の要点
- Spotify Technology S.A.は、無料の広告付きサービス(Ad-Supported)と有料のPremiumを並行して提供しており、同社は広告付きサービスが新規Premium会員の大きな入口になっていると説明しています(Form 20-F、FY2025)。
- 2025年12月31日時点で、MAUは751 million、Premium Subscribersは290 million(前年は263 million)、提供地域は184の国と地域でした(Form 20-F、FY2025)。
- 2025年の売上高は€17,186 million、営業利益は€2,198 millionで、前年の€1,365 millionから増えました(Form 20-F、FY2025)。
どんな事業か
同社はルクセンブルクの公開有限責任会社で、主な事業拠点はストックホルムにあります。音楽、ポッドキャスト、オーディオブックを配信し、100 millionを超える楽曲と7 millionのポッドキャストを提供しています。2006年の創業以来、音楽を「買って所有する」形から「アクセスして聴く」形への転換を進めてきたとしています(Form 20-F、FY2025)。
利用者は2つのサービスから選びます。広告付きサービスは無料で、楽曲には制限付きのオンデマンドアクセス、ポッドキャストには無制限のアクセスができます。Premiumは広告なしで、オフライン再生や高音質の配信、一部市場ではオーディオブックの月間の視聴時間も含まれます。同社は「2つのサービスはそれぞれ独立しているが、一緒になって伸びる」と説明しています(Form 20-F、FY2025)。
地域別では、欧州がMAUの26%で最大、ラテンアメリカが21%、北米が16%、その他の地域が37%を占め、その他の地域のMAUは前年から21%増えました。利用者全体の2025年の再生時間は211 billion時間で、前年比11%増でした(Form 20-F、FY2025)。
収益の仕組み
Premiumセグメントの売上は、料金と会員数で決まります。個人、ファミリー、デュオ、学生などのプランがあり、料金は各市場の購買力などに合わせて変えています。販売は主に利用者への直販ですが、通信会社などのパートナーを通じた販売もあり、その場合は契約で決めた会員あたりの料金で収益を得ます。新規会員は主に広告付きサービスの利用者からの転換で、無料や割引のお試しプログラムも使っています(Form 20-F、FY2025)。
Ad-Supportedセグメントの売上は、ディスプレイ、音声、動画広告の表示回数にもとづきます。広告代理店や大手広告主との直接契約(主にCPM、cost-per-thousand impressionsの単価)に加え、Spotify Ad Exchangeなどの自動取引の仕組みでも販売しています(Form 20-F、FY2025)。
費用面では、楽曲などを配信する権利のために、レコード会社や音楽出版社などの権利者にロイヤリティを支払っています。ロイヤリティは売上や利用量にもとづいて計算され、最低保証額や前払いを含む契約もあるとしています(Form 20-F、FY2025)。
数字で確かめる
- 売上高:€17,186 million(2025年)、前年は€15,673 million(Form 20-F、FY2025)。会員と利用者の増加が売上の拡大につながっていることが読み取れます。
- 売上原価:€11,690 million、売上総利益:€5,496 million(2025年)(Form 20-F、FY2025)。売上の大半が権利者への支払いを含む原価に回る構造が読み取れます。
- 営業利益:€2,198 million(2025年)、純利益(親会社所有者帰属):€2,212 million(Form 20-F、FY2025)。研究開発費などを抑えながら利益を出す段階にあることが読み取れます。
- Premium Subscribers:290 million(2025年12月31日時点)(Form 20-F、FY2025)。MAU 751 millionのうち有料会員が一定の比率を占めていることが読み取れます。
- 大手レコード会社などとの契約による楽曲の権利:レコード会社から提供された音声ストリームの約72%(2025年)(Form 20-F、FY2025)。限られた権利者との契約に配信の多くを依存していることが読み取れます。
Otsumuの読み解き:なぜ成り立つのか
ここからはOtsumuの考察です。フリーミアムは、無料版で多くの利用者を集め、その一部を有料版に移す形です。Spotifyの場合、無料版は単なる入口ではなく、広告という別の収益源を持っています。有料に移らない利用者からも広告収入を得られるため、無料版を広く提供し続けられる点が、このモデルが成り立つ条件になっていると考えられます。
広告付き無料プランの観点では、無料版と有料版の差の付け方が要になります。無料版を便利にしすぎると有料への転換が進まず、不便にしすぎると利用者が集まらないというトレードオフがあります。同社が楽曲には制限を付け、ポッドキャストは無料でも無制限にしているのは、この線引きの一例と読めます。
裏側では、膨大な再生データにもとづいて権利者へのロイヤリティを計算する仕組み、お試しプログラムの運用、広告の効果測定が必要です。売上原価の大きさから、利益を伸ばすには権利者との契約条件と、原価以外の費用の管理が重要になると考えられます。
自社事業に持ち帰る問い
- 無料で使える範囲と有料で使える範囲の線引きを、どんな根拠で決めているでしょうか。
- 有料に移らない利用者からも収益を得る手段(広告やスポンサーなど)はあるでしょうか。
- 無料から有料への転換を促す「お試し」の仕組みを、時期を決めて運用しているでしょうか。
- 仕入れや権利の費用が売上に連動する場合、利益を残すための条件は何でしょうか。
小さく試すなら
- 1週目:自社サービスの機能を一覧にし、無料で提供するものと有料にするものの候補を分けます。
- 2週目:無料利用者の一部に、有料機能を期間限定で開放するお試しを案内します。
- 3週目:お試し利用者のうち有料に移った割合と、移らなかった利用者の利用状況を記録します。
- 4週目:無料利用者向けにスポンサー枠を1つ用意して反応を見て、転換率と広告収入のどちらを優先するかを決めます。
関連するビジネスモデル
資料の位置づけ
企業・サービス:Spotify Technology S.A. / 音楽配信(広告付き無料とPremium)。参照資料:Form 20-F(FY2025)。このページは公開情報にもとづく学習用の分析です。Otsumuの支援実績や当該企業との取引関係を示すものではありません。示唆と検証案はOtsumuの考察であり、企業自身の見解とは区別しています。
参考資料と編集について
上記の公開資料(企業の決算短信または年次報告書)をもとに、Otsumuが執筆しました。数値と企業の説明は資料の記載の範囲にとどめ、Otsumuの考察とは分けています。数値は資料の表記のままで、最新の情報は各社の開示をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.09.27