← 実践記事

OTSUMU KNOWLEDGE

BtoB SaaSのオンボーディング指標:初期定着を数字で管理する方法

BtoB SaaSのオンボーディングは、初期設定完了・利用開始・定着の三段階に分けて完了の定義と期日を置き、顧客ごとに指標化すると立ち上がりの遅れを早く見つけられます。指標の定義、データの準備、遅れの検知と打ち手を解説します。

BtoB SaaSのオンボーディングを数字で管理するには、契約から定着までの道のりを「初期設定の完了」「利用の開始」「定着」の三段階に分け、それぞれに完了の定義と目標の期日を置いて指標化するのが基本です。「オンボーディングがうまくいっているか」を一つの数字で表そうとすると、どこで遅れているのかが分かりません。段階ごとに分けておけば、設定でつまずいている顧客、設定は終わったのに使われていない顧客、使い始めたものの広がらない顧客を、それぞれ別の打ち手で早めに支援できます。

もう一つの要点は、指標を「顧客ごとの状態」として持つことです。全体の平均値だけでは、遅れている個別の顧客に気づけません。顧客一社ごとに、いまどの段階にいて、予定より遅れているかどうかが一覧で分かる状態を作ることが、初期定着を数字で管理する目的です。

この記事は、BtoB SaaSのカスタマーサクセス、導入支援、プロダクトの担当者や、その責任者に向けて書いています。三段階それぞれの指標の定義の仕方、データの取り方、遅れを見つける仕組み、遅れたときの打ち手、よくある失敗までを順に整理します。

BtoB SaaSのオンボーディングで指標が必要な理由

BtoB SaaSでは、契約した時点では顧客はまだ価値を受け取っていません。アカウントを作り、既存のデータを移し、社内の利用者を招待し、業務の流れを変えて、初めてサービスの価値を実感できます。この立ち上がりの期間に価値を実感できなかった顧客は、更新の時期を迎える前に利用が細り、解約に向かいやすくなります。

ところが、オンボーディングの状況は、担当者の頭の中や個別のメモにしかないことが少なくありません。担当者が多くの顧客を抱えるようになると、「あの会社はそういえば最近連絡がない」と気づいたときには、すでに利用が止まっていた、ということが起こります。指標化の目的は、こうした気づきの遅れをなくし、担当者の経験や記憶に頼らずに、支援が必要な顧客を見つけられるようにすることです。

また、指標があると、オンボーディングの改善そのものも進めやすくなります。どの段階で多くの顧客がつまずいているかが分かれば、マニュアルを直すべきか、設定の機能を改善すべきか、導入支援の手順を変えるべきかを判断できます。カスタマーサクセス全体の指標についてはカスタマーサクセスのKPIで整理しています。

オンボーディングを三段階に分けて指標化する

オンボーディングの道のりは、サービスによって細部は違いますが、多くのBtoB SaaSでは次の三段階に分けられます。

段階状態完了の定義の例主な指標
初期設定の完了使い始めるための準備が整った管理者のアカウント作成、基本設定、既存データの取り込み、利用者の招待が完了設定完了率、設定完了までの日数
利用の開始実際の業務でサービスを使い始めた招待した利用者が主要な操作を一定回数行った利用開始率、利用開始までの日数、アクティブな利用者の割合
定着業務の一部として継続的に使われている一定期間、主要な機能が週ごとに継続して使われている定着率、主要機能の利用継続、利用部署の広がり

段階の分け方で大切なのは、「完了の定義」を具体的な行動やデータで書けるようにすることです。「導入が進んだ」「使い慣れてきた」のようなあいまいな表現では、誰が判定しても同じ結果になりません。

初期設定の完了

初期設定の段階は、顧客側の作業量が多く、最もつまずきやすい段階です。設定項目を一つずつ分解し、どこまで終わっているかを顧客ごとに記録します。たとえば、勤怠管理のSaaSなら「事業所の登録」「従業員データの取り込み」「勤務ルールの設定」「承認者の設定」「従業員への案内」のように、完了すべき作業を並べ、それぞれの完了をシステムのデータから判定できるようにします。

指標としては、契約から一定日数以内に設定を完了した顧客の割合と、完了までにかかった日数を見ます。日数は平均よりも中央値や分布で見るほうが、極端に遅い一部の顧客に引っ張られずに実態をつかめます。

利用の開始

設定が終わっても、実際の業務で使われなければ価値は生まれません。利用開始の段階では、「誰が」「何を」したら利用が始まったとみなすかを決めます。管理者だけが操作している状態は、利用開始とは言えないことが多いでしょう。招待した利用者のうち、主要な操作(勤怠管理なら打刻、経費精算なら申請)を行った人の割合を見るのが一般的です。

定着

定着は、業務の一部として使われ続けている状態です。一度使われただけでなく、一定期間、継続して使われているかを見ます。たとえば「4週連続で主要な操作が行われている」「利用者の一定割合が毎週ログインしている」といった定義が考えられます。定着の段階では、利用する部署や機能が広がっているかも見ておくと、将来の追加契約の見込みも判断しやすくなります。

段階を分けるときにもう一つ決めておきたいのが、オンボーディングの「終わり」です。定着の定義を満たした時点でオンボーディングは完了とし、その後は通常の継続支援に引き継ぐ、という区切りを決めておくと、導入支援の担当者がいつまでも同じ顧客を抱え続けることを防げます。また、完了までにかかった日数を顧客ごとに記録しておけば、導入支援の体制に必要な人数を見積もる材料にもなります。

最初の価値実感までの時間を指標にする

三段階の指標とあわせて見ておきたいのが、契約から顧客が最初に価値を実感するまでの時間です。この考え方はTime to Value(TTV)と呼ばれます。価値を実感するまでの時間が短いほど、顧客は社内で利用を広げる理由を持ちやすくなり、途中で放置されるリスクも下がります。

「価値を実感した瞬間」をどう定義するかは、サービスによって異なります。経費精算なら最初の精算が承認まで通ったとき、営業管理なら最初の週次報告をサービス上で作れたとき、といった具合です。継続して使い続ける顧客に共通する初期の行動を探し、それを価値実感の目印にする考え方はアハモーメントとも呼ばれます。

価値実感の目印を見つけるには、次の手順が役立ちます。

  1. 継続している顧客と解約した顧客を分ける:過去の顧客を、一定期間後も継続しているグループと、解約や利用停止に至ったグループに分けます。
  2. 契約初期の行動を比べる:契約から最初の数週間に、どの操作をどのくらい行っていたかを両グループで比べます。
  3. 差の大きい行動を候補にする:継続グループで明らかに多く見られる行動を、価値実感の目印の候補にします。
  4. 担当者の感覚と照らし合わせる:導入支援の担当者に、「この顧客はうまくいくと感じる瞬間」を聞き、データの候補と一致するかを確かめます。
  5. 定義として固定し、追い続ける:候補を一つに絞って定義し、新しい顧客がその行動に到達するまでの日数を追います。

ここで見つかるのは、あくまで継続と一緒に起きている行動であり、その行動を促せば必ず継続するとは限りません。目印の行動を促す施策を打ったら、実際に継続が改善するかを確かめることが大切です。

指標を計測するためのデータの準備

三段階の指標を顧客ごとに把握するには、次のデータが必要です。

  • 契約の情報:契約日、プラン、契約した利用者数、担当者
  • 設定の状況:設定項目ごとの完了の有無と完了日
  • 利用のログ:誰が、いつ、どの機能を使ったか
  • 導入支援の記録:説明会の実施、問い合わせ、担当者とのやり取り

契約の情報はCRMや販売管理に、設定の状況と利用のログはサービスのデータベースやログに、導入支援の記録はサポートツールにある、というように散らばっていることが多いため、顧客IDで結び付けられるようにしておきます。利用のログは、後から分析できる形で残しておく必要があります。どの操作をどんな名前で記録するかの考え方はプロダクトのイベントログ設計で扱っています。

データがそろったら、顧客ごとに現在の段階と、各段階に到達した日、予定より遅れているかどうかを一覧にします。最初は表計算ソフトで週に一度更新する形でも構いません。顧客数が増えてきたら、自動で更新されるダッシュボードに移行します。

顧客ごとの一覧の形

一覧は、1行を1社とし、次のような列を並べると、担当者が状況をひと目でつかめます。

列内容
顧客名・担当者契約先と社内の担当
契約日・区分契約日と、規模やプランによる区分
現在の段階初期設定・利用開始・定着のどこにいるか
各段階の到達日段階ごとに到達した日(未到達なら空欄)
期日との差区分ごとの期日に対して何日遅れているか
状態順調・注意・要対応
直近の対応最後に連絡した日と内容

「直近の対応」の列があると、遅れている顧客に誰も連絡していない、という状態を防げます。指標の数字と、担当者の行動の記録を同じ表で見られるようにすることが、運用を続けるうえでのこつです。

遅れを早く見つける仕組み

指標は、見つけた遅れに対して早く手を打てて初めて意味を持ちます。そのためには、段階ごとに「この日までに到達しているべき」という期日を置き、期日を過ぎた顧客を自動的に洗い出す仕組みを作ります。

期日は、過去の顧客がそれぞれの段階に到達するまでにかかった日数をもとに決めます。たとえば、過去に定着した顧客の多くが契約から一定日数以内に設定を完了していたなら、その日数を期日の目安とします。顧客の規模や契約プランによって必要な作業量が大きく違う場合は、区分ごとに期日を分けます。

遅れの洗い出しは、次のような段階的な基準にすると対応の優先度を付けやすくなります。

状態基準の例対応の例
順調各段階を期日内に到達定期的な案内のみ
注意期日を少し過ぎた、または一定期間ログインがない担当者からの確認の連絡、つまずきやすい点の案内
要対応期日を大きく過ぎた、または利用が止まった打ち合わせの設定、設定作業の代行や個別の説明

洗い出した結果は、担当者が毎朝見る画面や、チャットツールへの通知など、日々の業務の中で必ず目に入る場所に出すようにします。月に一度の報告資料に載せるだけでは、対応が遅れます。また、通知の基準が緩すぎて毎日多くの顧客が「注意」に入ると、担当者は通知を見なくなります。最初は基準を厳しめにして件数を絞り、運用しながら調整します。

遅れたときの打ち手を段階別に用意する

遅れの原因は段階によって異なるため、打ち手も段階別に用意しておきます。

  • 初期設定で遅れている場合:どの設定項目で止まっているかを確認します。特定の項目で止まる顧客が多いなら、手順書の改善や設定画面の見直しが必要です。個別には、画面共有での設定支援や、データの取り込みの代行が効果的です。
  • 利用開始で遅れている場合:管理者は設定を終えたものの、現場の利用者に使い方が伝わっていないことが多い段階です。現場向けの説明会の開催や、社内展開用の案内資料の提供が役立ちます。
  • 定着で遅れている場合:使い始めたものの、従来のやり方(表計算ソフトや紙)が残っていて併用されていることがあります。顧客の業務の流れのどこをサービスに置き換えるかを一緒に整理し、旧来のやり方をやめる時期を決めてもらいます。

定型的な案内や通知は、自動化すると担当者の負担を減らせます。アカウント発行から初期設定の案内までを自動化する考え方は顧客オンボーディング業務の自動化で扱っています。人が対応すべき顧客に担当者の時間を集中させるためにも、自動化できる部分は早めに仕組みにしておきます。

指標は、カスタマーサクセスだけでなく、営業やプロダクトの担当者とも共有します。営業にとっては、契約前の説明と導入後の実態のずれに気づく材料になり、プロダクトにとっては、設定画面や機能の改善の優先度を決める材料になります。月に一度、段階ごとのつまずきの傾向を関係部署で確認する場を設けると、個別の顧客対応で終わらず、仕組みの改善につながります。

架空の例:設定完了後に止まる顧客を見つけたケース

ある架空の、中小企業向けの受発注管理SaaSで、オンボーディングの指標を三段階に分けて追い始めたとします。それまでは「契約から一定期間後の継続率」しか見ていなかったため、問題がどこにあるかが分かっていませんでした。

三段階で見てみると、初期設定の完了率は高い一方で、設定完了から利用開始までに時間がかかる顧客が多いことが分かりました。詳しく見ると、管理者が設定を終えても、取引先への案内(新しい受発注の方法に切り替えてもらう連絡)が後回しになり、実際の受発注が始まらないことが原因でした。

この会社は、取引先向けの案内文のひな形と、切り替えの手順を説明する資料を用意し、設定完了の直後に管理者へ届けるようにしました。さらに、設定完了から一定日数が経っても最初の受発注が行われていない顧客を「注意」として担当者に通知する仕組みを加えました。継続率だけを見ていたときには見えなかった「設定完了後の空白」が、段階を分けたことで具体的な改善の対象になった例です。

オンボーディング指標でよくある失敗と避け方

  • 完了の定義があいまい:「導入完了」の判断が担当者によって違うと、数字が比べられません。データで判定できる行動として定義します。
  • 平均値だけを見る:全体の平均日数が問題なくても、一部の顧客が大きく遅れていることがあります。顧客ごとの一覧と分布で見ます。
  • 管理者の行動だけを見る:BtoBでは、契約した管理者と実際に使う利用者が違います。利用者の行動まで見ないと、使われていない状態を見逃します。
  • 指標を作って満足する:遅れを見つけても、対応の手順が決まっていなければ何も変わりません。状態ごとの対応を決め、担当者の業務に組み込みます。
  • 顧客の規模の違いを無視する:大企業と小規模企業では、必要な作業量も意思決定の速さも違います。区分ごとに期日を分けて評価します。

オンボーディング指標のチェックリスト

  • オンボーディングを段階に分け、それぞれの完了の定義がデータで書かれている
  • 価値実感の目印となる行動が定義されている
  • 契約、設定、利用ログ、支援記録が顧客IDで結び付いている
  • 顧客ごとに現在の段階と遅れの有無が一覧で見られる
  • 段階ごとの期日が、過去の実績をもとに決まっている
  • 遅れの状態ごとに、対応の手順と担当が決まっている
  • 遅れの通知が日々の業務の中で目に入る場所に出る
  • 段階ごとのつまずきの傾向を、手順書や製品の改善に反映している

よくある質問

Q. 顧客数が少ないうちから指標化する必要はありますか?

顧客数が少ないうちは、担当者が全社の状況を把握できるため、仕組みとしての指標は簡単なもので構いません。ただし、段階と完了の定義は早めに決めておくことをおすすめします。顧客が増えてから定義を決めると、過去のデータと比べられなくなるからです。

Q. 利用ログが取れていない場合はどうすればよいですか?

まずは、ログインの日時と主要な操作の回数だけでも記録できるようにします。それも難しい場合は、担当者が定期的に顧客に確認した結果を記録する方法で始め、並行して利用ログを取れるように開発を進めます。

Q. オンボーディングの期間はどのくらいに設定すべきですか?

サービスの複雑さや顧客の規模によって大きく異なるため、一般的な目安よりも、自社の過去の顧客が定着に至るまでにかかった日数をもとに決めるのが確実です。区分ごとに分けて設定し、実績を見ながら見直します。

Q. 定着した後の顧客は、どのような指標で見ればよいですか?

定着後は、利用の広がり(部署や利用者数、使われる機能の数)と、継続の兆し(利用頻度の変化)を見ます。利用の減少から解約の兆しを見つける考え方は、継続率を上げる施策とあわせてサービスの継続率を上げる施策で扱っています。

Otsumuに相談できること

顧客数がまだ多くなく、利用ログや設定の状況がサービスの管理画面から確認できる場合は、この記事の三段階の考え方で完了の定義を決め、表計算ソフトの一覧から始めて自社で運用できます。段階と定義を決めるだけでも、担当者間で顧客の状況を共有しやすくなります。

一方で、利用ログが取れていない、契約情報と利用データが別々のシステムにあって結び付かない、顧客数が増えて手作業の一覧が追いつかない、といった状況では、計測とデータ統合の仕組みづくりが必要です。指標の定義と実装の両方が絡むため、両方を見られる体制で進めると手戻りが少なくなります。

Otsumuは自らも事業を手がける立場から、目的から逆算した指標の設計、計測の実装、ダッシュボードでの可視化までを一気通貫で支援しています。KPI改善コンサルティングでは、オンボーディングの段階と定義の設計、価値実感の目印の特定、遅れを見つける仕組みづくりをお手伝いします。案内や通知の自動化が必要な場合は自社サービス運用の自動化コンサルティングもあわせてご相談いただけます。

いまの顧客データで何が分かるかを確かめたい、という段階からでも構いません。まずは30分の無料相談で状況をお聞かせください。

この記事について

Otsumu株式会社が執筆しました。統計値や他社の事例には依拠せず、進め方と判断の枠組みを中心にまとめています。法務・税務・会計などの制度は、専門家や公的窓口で最新の情報をご確認ください。

執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.01

あわせて読む

次の一手を、一緒に。

事業の検証から開発・運用まで、現在の段階に合わせて支援します。

事業について相談する ↗
FROM KNOWLEDGE TO ACTION

知識を、次の一手へ。

30分の無料診断で、次の一手を整理する ↗