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サービスの継続率を上げる施策:初回体験の改善と利用習慣化の設計

サービスの継続率を上げる施策を、初回体験の改善、利用の習慣化、価値の再認識の三段階に分けて整理します。離脱が大きい段階の見つけ方、段階ごとの具体策、効果の確かめ方、社内体制、よくある失敗までを解説します。

サービスの継続率を上げる施策は、利用者が離れる時期と理由に合わせて三つの段階に分けて考えると整理しやすくなります。一つ目は、登録直後に価値を実感してもらう「初回体験」の改善。二つ目は、使うことが日常の一部になるようにする「利用の習慣化」の設計。三つ目は、長く使っている人に改めて価値を感じてもらう「価値の再認識」の仕組みです。どの段階で人が離れているかを数字で確かめ、その段階に合った施策を選ぶことが、継続率改善の近道になります。

この記事は、サブスクリプション型のサービス、SaaS、会員制サービス、アプリなどの継続率改善を担当する事業責任者、プロダクト担当者、カスタマーサクセス担当者に向けて書いています。三つの段階それぞれで効果が見込める施策、施策を選ぶための判断基準、効果の確かめ方、よくある失敗を、架空の例とチェックリストで示します。

「解約を引き止める」ことではなく、「使い続ける理由を作る」ことに焦点を当てます。解約手続きを複雑にするような短期的な手法は、信頼を損ない、長い目で見ると事業を弱くするため扱いません。

継続率改善を三つの段階で考える理由

継続率の低下には、さまざまな原因があります。登録したものの使い方が分からずに離れる人、最初は使っていたが忘れてしまう人、長く使ったものの価値を感じなくなって解約する人。原因が違えば、効く施策も違います。

段階主な時期離れる典型的な理由施策の方向
初回体験登録から最初の数日〜数週間使い方が分からない、価値を感じる前に離れる最初の価値体験までの道のりを短くする
利用の習慣化最初の価値体験の後〜数か月使うきっかけがない、忘れる使うきっかけと、使うたびの手応えを作る
価値の再認識数か月〜それ以降当たり前になって価値を感じない、状況が変わった成果を見える化し、新しい使い方を提案する

すべての段階に同時に手を打とうとすると、施策が分散し、どれも中途半端になります。まずは、自社のサービスでどの段階の離脱が最も大きいかを確かめることから始めます。

段階を確かめる方法として最も有効なのは、登録月ごとの継続率を経過月に沿って並べるコホート表です。始めてから1〜2か月で大きく減るなら初回体験、半年ほどかけてじわじわ減るなら習慣化、長く使った後に解約が目立つなら価値の再認識に課題がある可能性が高くなります。表の作り方と読み方はコホート分析のやり方で詳しく解説しています。

継続率を改善する進め方:5つの手順

施策のアイデアに飛びつく前に、次の手順で進めます。

  1. 継続の定義を決める:課金が続いていることか、主要な行動を続けていることか。改善の対象とする継続を明確にします。
  2. 離脱が大きい段階を特定する:コホート表で、どの経過期間に最も多くの人が離れているかを確認します。
  3. 継続した人と離脱した人を比べる:同じ時期に始めた人のうち、継続した人と離脱した人で、最初の数日や数週間の行動に違いがないかを比べます。
  4. 離脱した理由を直接聞く:解約時のアンケート、解約した人への聞き取り、カスタマーサポートへの問い合わせ内容から、離れた理由の生の声を集めます。
  5. 段階に合った施策を選び、効果を確かめる:特定した段階と理由に合う施策を選び、施策を始めた後のコホートで継続率が変わったかを確認します。

手順3は特に重要です。継続した人に共通する行動、たとえば「最初の週にチームのメンバーを招待している」「最初の3日で特定の機能を使っている」といった行動が見つかれば、それを早く体験してもらうことが有力な施策の方向になります。ただし、相関があるからといって因果があるとは限りません。行動を促す施策を実行し、本当に継続率が変わるかで確かめる必要があります。

第1段階:初回体験を改善する施策

初回体験の段階で離れる人は、サービスの価値を実感する前に離れています。この段階の施策の目的は、登録から「このサービスは役に立つ」と感じる瞬間までの時間と手間を減らすことです。この瞬間は、アハモーメントと呼ばれることもあります。

最初の価値体験を定義する

まず、利用者が価値を実感する瞬間を具体的な行動で定義します。家計簿アプリなら「最初の1か月分の支出がグラフで見られた」、チーム向けのタスク管理ツールなら「チームのメンバーが初めてタスクを完了させた」、といった具合です。定義の考え方はアクティベーション率の改善で詳しく扱っています。

道のりを短くする施策

  • 初期設定の項目を減らす:最初の価値体験に必要ない設定は後回しにし、必要になった時点で案内します。
  • サンプルデータを用意する:自分のデータを入れる前に、サンプルで完成形を見せることで、何ができるかを先に理解してもらいます。
  • テンプレートを用意する:白紙から始めるのではなく、よくある使い方のテンプレートから始められるようにします。
  • 外部データの取り込みを用意する:既存のツールやファイルからデータを取り込めると、最初の入力の手間が大きく減ります。

迷わないための案内

  • 次にやることを一つだけ示す:画面に選択肢を並べるのではなく、「次はこれをしましょう」と一つに絞って案内します。
  • 進み具合を見せる:初期設定のチェックリストと進捗を示すと、途中で止まった人が戻りやすくなります。
  • 止まった人に声をかける:登録後に一定期間動きがない人に、メールやアプリ内の通知で、次の一歩を具体的に案内します。法人向けサービスでは、担当者からの直接の連絡が有効な場合もあります。

第2段階:利用の習慣化を設計する施策

最初の価値体験を経た人でも、使うきっかけがなければ次第に使わなくなります。この段階の施策の目的は、サービスを使うことが利用者の日常や業務の流れに組み込まれる状態を作ることです。

使うきっかけを作る

習慣は、決まったきっかけと行動の組み合わせで作られます。サービスの側から、適切なきっかけを用意します。

  • 利用者の行動に合わせた通知:定期的な業務があるサービスなら、その業務のタイミングに合わせて通知します。毎月の締め作業に使うツールなら、締め日の前に知らせる、といった形です。
  • 他の人の行動を知らせる:チームで使うサービスでは、メンバーのコメントや更新を知らせることが、自然に使うきっかけになります。
  • 既存の業務ツールとつなぐ:普段使っているチャットツールやカレンダーにサービスの情報が届くようにすると、別のサービスを開く手間が減ります。

通知は多すぎると逆効果です。利用者が通知を止めたり、メールを読まなくなったりすれば、大切な連絡も届かなくなります。通知ごとに「受け取った人が次に何をするか」を考え、行動につながらない通知は減らします。

使うたびの手応えを作る

使うきっかけがあっても、使ったときに手応えがなければ続きません。

  • 成果をすぐに見せる:入力したデータが集計され、グラフや一覧として返ってくるなど、使った結果がすぐに目に見えるようにします。
  • 作業の積み重ねを残す:過去の記録や作ったものが蓄積されていくと、使い続けるほど価値が増し、他のサービスに移りにくくなります。
  • 操作の負担を減らす:毎回行う操作は、手順を短くし、よく使う機能に素早くたどり着けるようにします。

利用の頻度を見て手を打つ

利用頻度の指標として、月間の利用者のうち日々使っている人の比率を見るスティッキネスという考え方があります。サービスの性質によって望ましい頻度は異なるため、自社のサービスが「毎日使うもの」なのか「週に一度使うもの」なのか「月に一度使うもの」なのかを決め、その頻度を下回った利用者に早めに手を打つ仕組みを作ります。

第3段階:価値の再認識を促す施策

長く使っている利用者は、サービスがあることが当たり前になり、その価値を意識しなくなります。契約の更新時期や、予算の見直しの時期に「本当に必要か」と考えたとき、価値を説明できなければ解約されてしまいます。この段階の施策の目的は、サービスが生み出している価値を改めて見える形にすることです。

  • 利用の成果をまとめて届ける:一定期間の利用実績や、サービスによって削減できた作業、達成できたことを、定期的なレポートとして届けます。法人向けサービスでは、担当者が社内で説明するための材料にもなります。
  • 使われていない機能を紹介する:利用者の目的に合うのに、まだ使われていない機能を提案します。使い方の幅が広がると、サービスへの依存度も高まります。
  • 状況の変化に合わせたプランを用意する:利用者の事業規模や利用量が変わったときに、解約ではなくプランの変更で対応できる選択肢を用意します。一時的な休止の仕組みも、解約を減らす選択肢になります。
  • 定期的に対話する:法人向けサービスでは、定期的な打ち合わせで利用状況を確認し、課題や今後の計画を聞くことで、解約の兆しを早く捉えられます。

利用データから解約の予兆を早く見つける方法は、解約の予兆を検知するでまとめています。

架空の例:小規模店舗向けの予約管理サービス

架空の小規模店舗向け予約管理サービスを例に、三つの段階の考え方を当てはめてみます。このサービスは、美容室や整体院などが月額で利用する仕組みだとします。

コホート表を見ると、契約から2か月目までに解約が集中していることが分かりました。初回体験の段階に課題がありそうです。継続した店舗と解約した店舗を比べると、継続した店舗の多くは、契約して最初の2週間のうちに「お客様からのWeb予約を1件以上受けている」ことが分かりました。

解約した店舗への聞き取りでは、「設定が終わる前に忙しくなってしまった」「お客様に予約ページを案内する方法が分からなかった」という声が多く聞かれました。

そこで運営チームは、最初の価値体験を「Web予約を1件受けること」と定義し、三つの施策を実行しました。メニューと営業時間の設定を、業種別のテンプレートから選ぶだけで済むようにする。予約ページの案内に使えるカードの印刷用データや、SNSへの投稿文の例を用意する。契約から1週間たっても予約ページが公開されていない店舗に、担当者から電話で状況を確認する。

施策を始めた月以降のコホートで、2か月目までの継続率がどう変わるかを追うことにしました。同時に、2か月目以降の段階で継続の課題が見えてきた場合に備え、店舗ごとの月次の予約件数のレポートを用意し、価値の再認識の施策の準備も進めています。

施策の選び方と効果の確かめ方

施策の候補が複数ある場合は、次の観点で優先順位を付けます。

  • 離脱が大きい段階に効くか:最も多くの人が離れている段階に効く施策を優先します。
  • 根拠があるか:継続した人と離脱した人の行動の違い、離脱理由の声など、施策を支える根拠があるものを優先します。
  • 小さく試せるか:一部の利用者だけに試せる施策、元に戻しやすい施策は、早く学びが得られます。
  • 運用の負担が続けられる範囲か:担当者が個別に連絡する施策は効果が高いこともありますが、利用者が増えたときに続けられるかを考えます。

効果は、施策を始めた後のコホートの継続率で確かめます。全体の継続率は、新しい利用者の割合や過去のコホートの影響を受けるため、施策の効果を見るには向きません。施策の対象となった段階の継続率、たとえば「2か月目の継続率」を、施策の前後のコホートで比べます。可能であれば、一部の利用者だけに施策を当てて比べるA/Bテストを使います。設計の仕方はA/Bテストの設計を参照してください。

継続率改善を社内で回す体制

継続率の改善は、プロダクト、マーケティング、カスタマーサクセス、営業など、複数の部門にまたがるテーマです。担当が決まっていないと、「解約はカスタマーサクセスの問題」「機能の問題は開発の問題」と押し付け合いになりがちです。体制づくりで押さえておきたい点は次のとおりです。

  • 継続率の責任者を一人決める:数字の変化を毎月確認し、施策の優先順位を決める役割を持つ人を明確にします。
  • 段階ごとに主担当を決める:初回体験はプロダクト、習慣化はプロダクトとマーケティング、価値の再認識はカスタマーサクセス、のように主担当を決めつつ、施策は部門をまたいで検討します。
  • 解約理由を共有する場を作る:カスタマーサクセスや営業が聞いた解約理由を、開発やマーケティングにも届ける定期的な場を設けます。利用者の生の声は、数字だけでは見えない改善の手がかりです。
  • 施策と結果の一覧を共有する:どの段階に、何の施策を、いつ実施し、結果がどうだったかを一覧で管理し、全員が見られるようにします。

数字の確認と行動の決定を定例会議で回す方法は、KPIを使った定例会議の進め方で詳しく解説しています。

よくある失敗とその避け方

継続率改善でよく見かける失敗を、避け方とあわせて整理します。

  • 解約手続きを難しくして数字を守る:短期的に解約が減っても、不満を持った利用者の評判や、問い合わせ対応の負担が増えます。継続率は「使い続けたい理由」で上げるものと考えます。
  • 全員に同じ施策を打つ:初回体験でつまずいている人と、長く使っている人では、必要な支援が違います。段階や利用状況で対象を分けます。
  • 通知やメールを増やしすぎる:使うきっかけのつもりが、うるさい印象を与えて通知を止められる原因になります。通知ごとに目的と次の行動を決めます。
  • 解約理由のアンケートだけで判断する:解約時の選択式のアンケートは、本当の理由が選択肢にないことも多いものです。自由記述や直接の聞き取りで補います。
  • 新規獲得の質の変化を見落とす:継続率が下がったとき、原因がサービス側ではなく、獲得チャネルの変化による顧客の変化であることがあります。流入元別のコホートで確認します。
  • 効果を全体の継続率で判断する:施策の効果が他の要因に埋もれます。施策の対象段階とコホートを絞って確かめます。

継続率改善のチェックリスト

施策を検討する前に、次の項目を確認してください。

  • 継続の定義(課金継続か、主要な行動の継続か)が決まっている
  • コホート表で、離脱が大きい経過期間を特定した
  • 継続した人と離脱した人の、初期の行動の違いを比べた
  • 解約理由や利用の不満を、利用者の言葉で集めた
  • 対象とする段階(初回体験・習慣化・価値の再認識)を一つに絞った
  • 施策ごとに、対象者・期待する行動の変化・確認する指標を決めた
  • 効果を、施策前後のコホートで比べる方法を決めた
  • 通知やメールの量が、利用者の負担にならないかを確認した
  • 解約手続きが分かりやすく、利用者の信頼を損なわない状態になっている

よくある質問

Q. 継続率と解約率は、どちらを見ればよいですか?

同じことを逆の側から見た指標なので、どちらでも構いません。大切なのは、全体の数字だけでなく、始めた時期ごとのコホートで見ることです。法人向けサービスでは、顧客数ベースの継続と、売上ベースの継続の両方を見ると、より実態に近い判断ができます。

Q. 継続率を上げる施策と、新規獲得の施策のどちらを優先すべきですか?

初回体験の段階で多くの人が離れている状態で新規獲得を増やしても、獲得した人の多くが定着せず、獲得の費用が無駄になりがちです。一般には、まず初回体験の離脱を減らし、定着する仕組みができてから獲得を強めるほうが効率的です。顧客生涯価値の考え方はLTVを伸ばす施策でも解説しています。

Q. 少人数のチームでもできる施策はありますか?

あります。最も手軽なのは、登録後に止まっている利用者への案内メールと、初期設定の手順の見直しです。また、解約した利用者に短い聞き取りをお願いするだけでも、改善の手がかりが多く得られます。大がかりな機能開発の前に、こうした施策から始めることをおすすめします。

Q. 継続率の目標値はどう決めればよいですか?

自社のコホート表で、減り方が落ち着く地点とその水準を確認し、事業計画に必要な水準から逆算して決めます。他社の数字は、商材や顧客層が違えば参考になりにくいため、自社の推移を基準にするのが現実的です。

Otsumuに相談できること

継続率のコホート表が作れていて、離脱が大きい段階もおおよそ見えており、施策を実行できる担当者と開発の体制がある場合は、この記事の三つの段階の考え方とチェックリストを使って、社内で改善を進めていけます。まずは最も離脱が大きい段階に絞って、小さな施策から試してください。

一方で、利用データが整っておらずどの段階で離れているか分からない、施策を考えても開発の手が回らない、通知や初期設定の改善に必要な仕組みづくりが社内で難しい、といった状況では、分析と実装の両方を担える相手がいると改善の速度が上がります。

Otsumuは自らも事業を手がける立場から、継続の定義づくり、コホート分析、定着につながる行動の特定、オンボーディングや通知の仕組みの実装までを一気通貫で支援しています。KPI改善コンサルティングでは、目的から逆算して優先すべき段階と施策を絞り込み、改善を続ける運用づくりをお手伝いします。初期設定の案内や利用者への連絡を仕組み化したい場合は、自社サービス運用の自動化コンサルティングもあわせてご検討ください。

どの段階から手を付けるべきか整理したい、という段階からご相談いただけます。まずは30分の無料相談で状況をお聞かせください。

この記事について

Otsumu株式会社が執筆しました。統計値や他社の事例には依拠せず、進め方と判断の枠組みを中心にまとめています。法務・税務・会計などの制度は、専門家や公的窓口で最新の情報をご確認ください。

執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.01

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