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自社データを活用した新規事業:データビジネスの組み立て方

自社データを活用した新規事業は、データそのものを売るより、データで顧客の判断や業務を助ける形にすると成立しやすくなります。データ価値の見極め方、提供形態の選び方、顧客検証、法的論点の整理まで、事業の組み立て方を解説します。

自社に蓄積したデータを活用した新規事業、いわゆるデータビジネスを考えるとき、多くの会社が最初に思い浮かべるのは「データを売る」ことです。しかし、データそのものを販売する事業は、買い手が限られ、価格もつけにくく、個人情報や取引先との契約の制約も受けやすいため、思ったほど成り立たないことが少なくありません。

データビジネスを成立させやすいのは、データで顧客の判断や業務を助ける形です。データを加工して分かりやすい指標や比較、予測として届ける、顧客の業務の仕組みの中にデータを組み込んで提供する、といった形にすると、顧客にとっての価値が明確になり、価格もつけやすくなります。出発点は「自社にどんなデータがあるか」ではなく、「そのデータで、誰のどんな判断が良くなるか」です。

この記事は、自社のデータを新規事業に活かしたいと考えている経営者や新規事業担当者、データの管理を担う部門の責任者に向けて書いています。データの価値の見極め方、提供形態の選び方、顧客の見つけ方、法的な論点の整理、事業化の手順までを具体的に整理します。

データビジネスが難しい理由

データビジネスの検討を始める前に、なぜ難しいのかを理解しておくと、落とし穴を避けやすくなります。

第一に、データの価値は持ち主には分かりにくいという点です。自社にとって当たり前のデータが他社にとって価値を持つこともあれば、自社が貴重だと考えているデータが他社には使い道のないこともあります。価値は、データを使う側の課題との組み合わせで初めて決まります。

第二に、データそのものは顧客にとって「使いにくい」という点です。生のデータを受け取っても、それを分析し、判断に結びつけるには手間と専門性が必要です。多くの顧客が求めているのはデータではなく、データから導かれる答えや判断の材料です。

第三に、データの利用には制約があるという点です。個人に関するデータは個人情報の保護に関する法令の対象となり、取引先から預かったデータは契約で利用の範囲が定められていることがあります。自社が持っているデータでも、自由に事業に使えるとは限りません。

第四に、データの質と継続性の問題です。事業として提供するには、データが継続的に、一定の質で更新される必要があります。過去に蓄積したデータが大量にあっても、今後も同じ形で集め続けられないなら、事業の基盤としては弱くなります。

データの価値を見極める観点

自社のデータが事業の材料になり得るかを、次の観点で見極めます。

観点確認すること価値が高い状態の例
独自性他社が同じデータを持っていないか、簡単に集められないか自社の事業を通じてしか得られない取引や利用の記録
判断との結びつきそのデータで、誰かの判断や業務が良くなるか仕入れの量、価格の設定、保守の時期など、具体的な判断に使える
鮮度と継続性定期的に更新され、今後も集め続けられるか日々の事業の中で自動的に蓄積される
網羅性と粒度判断に必要な範囲と細かさを満たしているか地域、時期、品目などの切り口で分析できる
品質誤りや欠けが少なく、定義がそろっているか入力の規則が決まっていて、表記の揺れが少ない
利用の自由度法令や契約の上で、事業に使える範囲が明確か利用の範囲について取引先や利用者の同意が得られている

この中で最も重要なのは「判断との結びつき」です。どれだけ独自で大量のデータでも、それによって誰かの判断が良くならなければ、事業にはなりません。逆に、量が少なくても、特定の業界の特定の判断に直結するデータなら、十分な価値を持ち得ます。

提供形態の選び方

データビジネスの提供形態は、データをどこまで加工して届けるかによって、いくつかの型に分けられます。

提供形態内容顧客にとっての価値注意点
データ提供加工したデータを一括または定期的に提供する自社で分析できる顧客には自由度が高い買い手が分析力を持つ企業に限られる
API提供必要なときに必要なデータを取得できる仕組み自社のシステムに組み込める安定した提供の体制と、利用の管理が必要
指標・レポート業界の動向、比較、ランキングなどの形で届ける分析なしに判断の材料が得られる顧客ごとに知りたいことが違う
ダッシュボード・分析ツール顧客が自分で切り口を変えて見られる画面自社の状況と比べながら判断できる画面の使いやすさと、顧客の定着の工夫が必要
業務の仕組みへの組み込み予測や推奨を、顧客の業務の仕組みの中で提供する判断が業務の流れの中で自動化・支援される顧客の業務への深い理解が必要
データを使った支援サービス専門家がデータを分析し、改善の提案まで行う答えと行動の提案が得られる人の作業が多く、規模の拡大に工夫が必要

表の下に行くほど、顧客にとっての価値は分かりやすくなり、価格もつけやすくなる傾向があります。一方で、顧客の業務への理解や、提供のための仕組みづくりの負担も大きくなります。

立ち上げの初期には、データを使った支援サービスや指標・レポートの形から始め、顧客がどの切り口や指標に価値を感じるかを確かめてから、ダッシュボードや業務の仕組みへの組み込みに進む進め方が現実的です。最初から高度な分析ツールを作ると、顧客が本当に知りたいことと合わない画面ができあがる危険があります。外部にデータを提供する仕組みを事業として設計する場合は、APIを外部公開して事業にするも参考になります。

データビジネスを組み立てる手順

自社データを活用した新規事業は、次の手順で組み立てます。

  1. データの棚卸しをする:自社が持つデータを、種類、量、更新の頻度、保管場所、品質、取得の経緯(誰の同意を得て、どんな目的で集めたか)の観点で一覧にします。
  2. データで良くなる判断を書き出す:それぞれのデータについて、「このデータがあれば、誰のどんな判断が良くなるか」を書き出します。自社の外の顧客の判断を中心に考えます。
  3. 判断をしている人に話を聞く:書き出した判断を実際に行っている人に、今どんな情報をもとに判断しているか、何が分からなくて困っているかを聞きます。
  4. 利用の可否を確認する:事業に使いたいデータについて、法令や契約の上で利用できる範囲を、法務部門や専門家と確認します。
  5. 最小限の形で価値を試す:手作業で作った分析レポートなど、最小限の形で顧客にデータの価値を試してもらいます。
  6. 提供形態と価格を決める:顧客の反応をもとに、提供形態と価格の体系を決めます。顧客がその判断の改善によって得る価値を基準に考えます。
  7. データの収集と提供の仕組みを整える:継続的にデータを集め、加工し、提供するための仕組みを整えます。

手順1の棚卸しでは、データの「取得の経緯」を必ず確認してください。後から事業に使おうとしたときに、当初の取得目的の範囲を超えてしまい、利用できないことが判明する場合があるからです。社内でデータの扱いを管理する仕組みはデータガバナンスと呼ばれ、データビジネスの土台になります。

価格と運営体制の考え方

価格の体系

データビジネスの価格は、データを集めて加工する自社の手間から考えるのではなく、顧客がそのデータによって得る価値から考えるのが基本です。顧客が得る価値とは、判断が良くなることで減る損失や増える売上、判断にかけていた時間の短縮などです。

価格の体系には、いくつかの選び方があります。

  • 定額の利用料:月や年単位で一定の料金を受け取る形です。顧客にとって予算を立てやすく、自社にとっても収益の見通しが立てやすくなります。
  • 利用量に応じた料金:取得するデータの量や、分析の回数に応じて料金を受け取る形です。利用の多い顧客ほど多く払うため、顧客の得る価値と料金が連動しやすくなります。
  • 成果に応じた料金:データを使った判断によって得られた成果に応じて料金を受け取る形です。顧客にとって導入の不安は小さくなりますが、成果の測り方について合意が難しく、収益が安定しにくい面があります。
  • 段階的な料金:見られる指標の範囲や、更新の頻度によって複数の料金の段階を設ける形です。小さく始めて、価値を感じた顧客に上の段階を勧められます。

立ち上げの初期は、試験提供の中で顧客に「この情報にいくらまでなら払えるか」「何があればもっと払うか」を率直に聞き、価格の手がかりを集めます。データビジネスは、顧客がデータの価値を使って初めて実感するものなので、短い無料期間や小さな範囲での有料提供から始め、価値が実感された段階で範囲を広げる形が受け入れられやすくなります。

データビジネスを担う体制

データビジネスを継続的に運営するには、事業、データ、法務の三つの役割が連携する必要があります。

役割主な仕事
事業責任者顧客と提供価値の定義、価格、優先順位の判断
データの担当者データの収集、整備、加工、品質の管理
法務・情報管理の担当者利用範囲の確認、契約や利用規約の整備、取り扱いの規則づくり
顧客対応の担当者顧客の利用の支援、要望の収集、データの説明

立ち上げの初期は一人が複数の役割を兼ねることが多いものの、データの品質と法的な確認の責任者は明確にしておく必要があります。データの誤りや不適切な扱いは、事業の信用を一度で損なうからです。

また、データの担当者が既存事業の部門に属している場合、既存業務のためのデータ整備と、新規事業のためのデータ整備の優先順位がぶつかることがあります。新規事業のためにどれだけの時間を割いてよいかを、データの担当者の上司と事前に合意しておくと、提供の遅れや品質の低下を防げます。データの定義や更新の手順を文書にしておくことも、担当者が替わったときに品質を保つうえで役立ちます。

法的な論点の整理

データビジネスでは、法的な論点を早い段階で整理しておくことが欠かせません。ここでは主な論点を挙げますが、具体的な判断は、最新の法令や指針を踏まえて専門家に確認してください。

個人情報:個人に関するデータを扱う場合、個人情報の保護に関する法令に沿った取り扱いが必要です。取得時に示した利用目的の範囲、第三者への提供の可否、統計的に加工して個人を特定できない形にする場合の取り扱いなどを確認します。

取引先から預かったデータ:取引先との契約の中で、データの利用の範囲や目的が定められていることがあります。取引先のデータを含む形で事業に使う場合は、契約の確認と、必要に応じた取引先との合意が必要です。

提供先との契約:データを提供する際は、提供先がデータをどの範囲で使えるか、第三者に渡してよいか、契約終了後のデータの扱いなどを契約で定めます。

データの正確性と責任:提供したデータや分析結果をもとに顧客が判断を誤った場合の責任の範囲を、利用規約や契約で明確にしておきます。

営業上の秘密との関係:自社のデータを外部に提供することで、自社の競争力に関わる情報が漏れないかも検討します。

架空の例:食品卸のデータを使った需要予測支援

ある架空の地域の食品卸会社が、自社の受発注データを活用した新規事業を検討した場面を想定してみます。

この会社は、地域の飲食店や小売店に食材を卸しており、長年にわたる受発注の記録を持っていました。担当者はまず、このデータで誰のどんな判断が良くなるかを考え、「飲食店の仕入れの量の判断」と「食品メーカーの地域ごとの販売計画」の二つを候補に挙げました。

飲食店の店主数人に話を聞くと、仕入れの量を経験と勘で決めており、食材の廃棄や品切れに悩んでいることが分かりました。一方、食品メーカーの担当者からは、地域の飲食店での細かな需要の動きが分からないという声が聞かれました。

法務の専門家に相談したところ、取引先ごとの記録をそのまま外部に出すことは取引先との関係や契約の上で問題があるが、自社の顧客である飲食店に対して、その店自身の過去の発注の傾向と、季節や曜日による需要の変化の目安を示すことは、既存の取引の範囲内で検討しやすいことが分かりました。

そこで担当者は、まず既存の取引先の飲食店数店に、過去の発注の傾向をもとにした翌週の仕入れの目安を、手作業でまとめたレポートとして届ける試験を始めました。店主の反応を見ながら、継続的に使われるかどうか、対価を払う価値を感じるかを確かめる計画です。食品メーカー向けの提供は、取引先の合意や加工の方法を検討する必要があるため、次の段階の候補として残しました。

試験の評価の基準としては、店主が届いたレポートを実際の発注の判断に使ったか、数週間続けて受け取りたいと答えたか、の二点を置きました。レポートを読んだ感想の良し悪しよりも、行動が変わったかどうかを見るためです。

この例のように、データの使い道を複数考え、法的な制約と価値の大きさを比べながら、取り組みやすいものから始めることが現実的な進め方です。

よくある失敗と避け方

  • データの量から事業を考える:大量のデータがあることを強みと考え、使い道を後から探すと、誰の判断にも結びつかない事業になります。判断を起点に考えましょう。
  • 生のデータを売ろうとする:分析力のある一部の顧客にしか売れず、事業の規模が限られます。顧客が判断に使える形まで加工することを考えます。
  • 法的な確認を後回しにする:事業の形が固まってから法的な問題が見つかると、作り直しになります。棚卸しの段階で取得の経緯と利用の範囲を確認します。
  • データの品質を確かめずに提供する:表記の揺れや欠けが多いデータをそのまま使うと、誤った分析結果を顧客に届けることになります。提供の前に、データの整備の手間を見積もります。
  • データの収集が続かない:一度きりのデータでは、継続的な事業になりません。今後も同じ形でデータを集め続けられるかを確認し、必要なら収集の仕組みを整えます。複数のシステムからデータを集める仕組みは複数システムのデータを集約するで扱っています。

データビジネス検討のチェックリスト

  • 自社のデータを、種類、更新の頻度、品質、取得の経緯の観点で棚卸しした
  • データで良くなる「誰のどんな判断」を具体的に書き出した
  • その判断を行っている人に、現在の判断の仕方と困りごとを聞いた
  • データの独自性と、他社が簡単に集められない理由を説明できる
  • 個人情報や取引先のデータの利用の範囲を、専門家と確認した
  • 提供形態の候補を比べ、最初に試す形を決めた
  • 手作業で作ったレポートなど、最小限の形で価値を試す計画がある
  • データの品質の整備にかかる手間を見積もった
  • 今後も継続的にデータを集められる見通しがある
  • 提供先との契約や利用規約で定める事項を整理した

よくある質問

Q. 自社のデータが少なくても、データビジネスはできますか?

量よりも、特定の判断に直結するかどうかが重要です。少ないデータでも、他では得られない独自の情報であれば価値を持ち得ます。また、顧客から新たにデータを集める仕組みを組み合わせ、事業を通じてデータを増やしていく設計も考えられます。

Q. 複数の企業のデータを集めて提供する事業は成り立ちますか?

複数の企業のデータを集めることで、一社では得られない業界全体の傾向を示せるようになるため、価値の高い事業になり得ます。ただし、データを提供する企業に参加の利点を示すこと、データの扱いへの信頼を得ることが前提になります。参加者同士の関係と収益の構造の設計はプラットフォーム事業の設計が参考になります。

Q. 生成AIを使えば、データビジネスは作りやすくなりますか?

生成AIは、データの分析結果を分かりやすい文章で説明する、顧客の質問に応じてデータを検索して答える、といった形で、データを顧客が使いやすい形に変える手段として役立ちます。ただし、生成AIは誤った説明をすることがあるため、数値の正確さを確かめる仕組みを組み込む必要があります。

Otsumuに相談できること

データの棚卸しができていて、データで良くなる判断と、その判断をしている人が具体的に見えている場合は、この記事の手順に沿って、手作業のレポートで価値を試すところまでは自社で十分に進められます。最初の試験に高度な分析基盤は必要なく、表計算ソフトで作ったレポートでも顧客の反応は確かめられます。

一方で、データはあるが誰のどんな判断に使えるか見当がつかない、提供形態や価格の決め方に迷っている、データを継続的に集めて提供する仕組みを作る体制が社内にない、といった状況では、事業と開発の両面を見られる外部の力を借りたほうが、無駄な投資を避けられます。

Otsumuは自らも事業を手がける立場から、データの価値の見極めと事業の組み立て、顧客検証、そしてデータを届ける仕組みの開発までを一気通貫で支援します。新規事業開発コンサルティングでは事業の組み立てと検証の設計を、ダッシュボード開発ではデータを顧客が判断に使える形で届ける仕組みの開発を、AIを活用した少人数・短期間の体制でお手伝いしています。事業案の論点を短期間で洗い出す段階では、新規事業レビュー Sprint(48万円・税別・参考価格、1〜2週間)という形もあります。

自社のデータにどんな事業の可能性があるか、話を聞いてみたいという段階でも構いません。まずは30分の無料相談でお聞かせください。

この記事について

Otsumu株式会社が執筆しました。統計値や他社の事例には依拠せず、進め方と判断の枠組みを中心にまとめています。法務・税務・会計などの制度は、専門家や公的窓口で最新の情報をご確認ください。

執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.01

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