サーバーレス構成が自社のシステムに向いているかは、「処理が短時間で終わる単位に分けられるか」「利用量に波があるか」「特定のクラウドへの依存を受け入れられるか」「費用の変動を許容し、管理できるか」の四つで判断します。リクエストやイベントに応じて短い処理を実行するWebのAPI、フォームの受付、ファイルの変換、定期的な通知などは、サーバーレスの得意分野です。一方で、長時間かかる処理、常に一定の負荷がかかり続ける処理、細かな実行環境の制御が必要な処理、特定のクラウドから離れられなくなることを避けたいシステムでは、制約のほうが大きくなります。
サーバーレスの最大の魅力は、サーバーの管理から解放されることです。OSの更新、台数の調整、障害時のサーバーの入れ替えといった作業をクラウド事業者に任せ、開発者はアプリケーションの処理を書くことに集中できます。少人数のチームや、運用を担う人が限られる組織にとって、この利点は非常に大きなものです。ただし、それは「何も考えなくてよい」という意味ではありません。運用の手間が減る代わりに、実行時間や構成の制約、ベンダーへの依存、費用の読みにくさといった別の課題を引き受けることになります。
この記事は、新しいシステムやサービスの構成を検討している事業責任者や開発担当者、既存のシステムをクラウドに移す中でサーバーレスを候補に挙げている担当者に向けて書いています。サーバーレスの仕組みと利点、向いているシステムと向いていないシステム、判断の手順、導入時の注意点、よくある失敗を順に整理します。なお、各クラウドのサービスの制限値や料金は変わることがあるため、具体的な数値は公式の情報で確認してください。
サーバーレスとは何か:仕組みと従来の構成との違い
サーバーレスとは、サーバーの準備や管理を利用者が意識せずに、アプリケーションの処理を動かせる構成のことです。サーバーが存在しないわけではなく、サーバーの管理をクラウド事業者が担い、利用者からは見えなくなっているという意味です。
代表的な形は、関数と呼ばれる小さな処理の単位をクラウドに置いておき、リクエストやファイルのアップロード、決まった時刻といった出来事(イベント)が起きたときにだけ実行する方式です。処理が実行されていないあいだは費用がかからず、アクセスが増えればクラウドが自動で処理の数を増やします。データベース、ファイルの保管、認証、メッセージの受け渡しなども、サーバーの管理なしに使えるサービスとして提供されており、これらを組み合わせてシステム全体を構成します。
| 観点 | 従来のサーバー構成 | コンテナ中心の構成 | サーバーレス構成 |
|---|---|---|---|
| サーバーの管理 | OSから利用者が管理 | 実行基盤の一部を利用者が管理 | クラウド事業者が管理 |
| 性能の調整 | 台数や性能を利用者が決める | 設定に応じて自動で増減できる | 利用量に応じて自動で増減 |
| 費用の形 | 動かしている時間に応じて | 動かしている時間に応じて | 実行回数と実行時間に応じて |
| 実行時間の制約 | ほぼない | ほぼない | 一回の実行時間に上限がある |
| 移植のしやすさ | 比較的高い | 高い | クラウドのサービスに依存しやすい |
| 運用の手間 | 大きい | 中程度 | 小さい |
コンテナを使った構成は、従来のサーバー構成とサーバーレスの中間にあたる選択肢で、どのクラウドでも動かしやすい形でアプリケーションを作れる点が特徴です。最近は、コンテナをサーバーの管理なしに動かせるサービスもあり、両者の境目は少しずつあいまいになっています。
サーバーレスの利点
サーバーレス構成を選ぶことで、次のような利点が得られます。
運用の手間が小さい。 OSやミドルウェアの更新、サーバーの台数管理、ハードウェアの故障への対応をクラウド事業者に任せられます。運用の担い手が少ない組織にとって、最も大きな利点です。
使っていないときの費用が小さい。 処理が実行されたときにだけ費用がかかるため、利用が少ない時間帯や、まだ利用者の少ない立ち上げ期のサービスでは、常にサーバーを動かしておく構成より費用を抑えられることがあります。
利用量の急増に対応しやすい。 アクセスが急に増えても、クラウドが自動で処理を増やします。キャンペーンや季節的な需要など、負荷の波が大きいサービスで効果を発揮します。
小さく作って試しやすい。 機能ごとに小さな処理として作れるため、新しい機能を試し、不要になったら外すといった動きがしやすくなります。新規事業の検証段階のように、変化の多い時期のシステムと相性がよい面があります。立ち上げ期の構成の考え方はMVPのインフラ構成でも整理しています。
サーバーレスの制約とデメリット
利点の裏には、次のような制約があります。導入を決める前に、自社のシステムで問題にならないかを確認してください。
実行時間とリソースの制約
関数として動かす処理には、一回の実行時間やメモリの量に上限が設けられているのが一般的です。大量のデータを一度に処理するバッチ処理や、長い時間がかかる計算、動画の変換などは、そのままでは上限に収まらないことがあります。処理を細かく分割する、別の仕組みと組み合わせる、といった工夫が必要になり、設計が複雑になる場合があります。
起動の遅れ
しばらく実行されていなかった関数が呼び出されると、実行の準備のために応答が遅れることがあります。多くの用途では問題になりませんが、常に素早い応答が求められる画面や、応答時間に厳しい要件がある連携では注意が必要です。対策の設定もありますが、費用が増える場合があります。
ベンダーへの依存
サーバーレスの構成は、クラウド事業者が提供するサービスの組み合わせで成り立つため、特定のクラウドの仕組みに深く依存しやすくなります。別のクラウドに移ろうとすると、関数の書き方、イベントのつなぎ方、データベースや認証のサービスなど、多くの部分を作り直す必要が出てきます。どのクラウドを選ぶかの考え方はAWS・Google Cloud・Azureの選び方で整理しています。
費用の読みにくさ
実行回数と実行時間に応じて費用がかかるため、利用量が増えると費用も増えます。利用が少ないうちは安くても、常に大量のリクエストが来るような状態になると、一定の性能のサーバーを動かし続けるより割高になることがあります。また、設定の誤りや外部からの大量のアクセス、処理が自分自身を呼び出し続けるような不具合によって、費用が急に膨らむ危険もあります。
調査と検証の難しさ
処理が多くの小さな関数とサービスに分かれるため、障害が起きたときに、どこで何が起きたかを追うのが難しくなることがあります。手元の開発環境で本番と同じ動きを再現しにくい点も、検証の負担になります。ログの集め方や処理の追跡の仕組みを最初から設計しておく必要があります。
サーバーレスが向いているシステム・向いていないシステム
利点と制約を踏まえると、向き不向きは次のように整理できます。
| 向いているもの | 向いていないもの |
|---|---|
| 利用量に波があるWebのAPIやフォームの受付 | 常に一定以上の負荷がかかり続ける処理 |
| ファイルのアップロードをきっかけにした画像変換や取り込み | 一回に長時間かかるバッチ処理や重い計算 |
| 決まった時刻に動く通知や集計などの定期処理 | 実行環境の細かな制御が必要な処理 |
| 外部サービスからの通知(Webhook)の受け取り | 常に素早い応答が求められ、遅れを許容できない処理 |
| 立ち上げ期で利用者が少ない新規サービス | 特定のクラウドへの依存を避けたいシステム |
| 機能を小さく追加・削除しながら試す検証段階のシステム | 長年の資産を持つ大規模なシステムの全面的な置き換え |
実際には、システム全体をサーバーレスにするか、まったく使わないかの二択ではありません。メインの画面とデータベースは従来の構成やコンテナで動かし、画像の変換や定期的な通知、外部からの通知の受け取りといった周辺の処理だけをサーバーレスにする、という組み合わせが多くの場面で現実的です。
自社に向いているかを判断する手順
サーバーレスを採用するかどうかは、次の手順で検討します。
- システムの処理を一覧にする。画面の表示、データの登録、検索、定期処理、ファイル処理、外部連携など、処理の種類ごとに書き出す。
- 処理ごとの性質を整理する。一回の処理にかかる時間、実行の頻度、利用量の波、応答時間の要件を書き込む。
- 制約に引っかかる処理を洗い出す。長時間の処理、常に高い負荷がかかる処理、応答時間の要件が厳しい処理に印を付ける。
- 運用の体制を確認する。サーバーの管理を担える人がいるか、外部に依頼する場合の費用はどうかを整理する。
- 費用を試算する。想定する利用量で、サーバーレスの場合と、サーバーやコンテナを動かし続ける場合の費用を比べる。利用量が増えた場合の試算も行う。
- ベンダー依存の許容度を決める。将来クラウドを乗り換える可能性があるか、その場合の作業をどこまで許容できるかを考える。
- 全体をサーバーレスにするか、一部の処理だけに使うか、使わないかを決め、理由を記録する。
手順5では、利用量が少ない段階と、事業が成長した段階の両方を試算するのが大切です。立ち上げ期に安くても、成長後に割高になる可能性があるなら、その時点で構成を見直す前提で採用する、という判断もあり得ます。
導入時に押さえておくべき注意点
サーバーレスを採用する場合、次の点を最初から設計に組み込んでおくと、後の苦労を減らせます。
- 費用の上限と通知:予算の通知を設定し、関数の同時実行の数に上限を設けるなど、費用が急に膨らまないための歯止めを用意する。
- ログと追跡:すべての処理のログを一か所に集め、一つのリクエストが複数の処理をどう通ったかを追える仕組みを作る。
- 失敗時の扱い:処理が失敗したときに再実行するのか、通知するのか、失敗したデータをどこに残すのかを決めておく。同じ処理が二回実行されても問題が起きないように作る。
- 構成の管理:関数や関連するサービスの設定をコードとして管理し、同じ構成を再現できるようにする。
- 開発と検証の環境:本番とは別の検証用の環境を用意し、変更を試してから本番に反映する流れを作る。
- 権限の最小化:関数ごとに必要な権限だけを与え、一つの関数に問題があっても被害が広がらないようにする。
費用の見直しの考え方は、クラウド費用が想定より高いときの見直しポイントと削減手順とも共通しています。
開発会社に相談・発注するときの確認点
サーバーレスでの構築を開発会社に依頼する場合、見積もりや提案を比べる際に確認しておきたい点があります。サーバーレスは設計の考え方が従来の構成と異なるため、会社によって経験の差が出やすい領域です。
まず、なぜサーバーレスを提案するのか、その理由を確認します。運用の手間を減らしたい、利用量の波に対応したい、立ち上げ期の費用を抑えたいなど、自社の事情に合った理由が説明されているかを見ます。理由があいまいなまま流行の構成として提案されている場合は、他の構成との比較を求めてください。
次に、運用に残る作業が見積もりや保守の範囲に含まれているかを確認します。ログの確認、失敗した処理への対応、費用の監視、権限の見直し、使っているサービスの仕様変更への追従などです。サーバーの管理がないぶん保守の費用が安くなると考えがちですが、これらの作業は残ります。
さらに、費用の試算の前提を確認します。想定している利用量、実行回数、データの量が示されているか、利用量が増えた場合の試算があるかを見ます。前提が示されていない費用の見込みは、比較の材料になりません。
最後に、将来の見直しの方針を聞いておきます。利用量が大きく増えた場合にどの処理から構成を変えるのか、他のクラウドに移る可能性がある場合にどこが作り直しになるのかを説明できる会社であれば、長く付き合える相手だと判断しやすくなります。
具体的な場面の例:新規サービスの検証段階での採用
架空の一般例として、ある会社が、専門家と相談者をつなぐ新しいオンライン相談サービスを立ち上げる場面を考えます。まずは限られた利用者で需要を確かめる段階で、利用者がどれだけ集まるかはまだ分かりません。開発と運用を担うのは少人数のチームです。
この会社は、相談の申し込み、予約の確定通知、決済の完了通知の受け取り、相談後のアンケート送信といった処理をサーバーレスの関数として作り、データベースと認証もサーバーの管理が不要なサービスを使うことにしました。利用者が少ない時間帯は費用がほとんどかからず、運用の手間もほとんど発生しません。
一方で、毎月の専門家への報酬計算は、全相談のデータをまとめて処理するため時間がかかる可能性がありました。そこで、この処理だけは実行時間の制約を受けない仕組みで動かすことにしました。また、予算の通知と同時実行数の上限を最初から設定し、処理の失敗時には担当者に通知が届くようにしています。
検証の結果、サービスが本格的に成長して利用量が常に高い水準になった場合は、利用の多い処理からコンテナを使った構成に移すことも視野に入れています。立ち上げ期の身軽さを優先しつつ、成長後の見直しの余地を残した判断です。
サーバーレス導入でよくある失敗と避け方
運用がゼロになると考える。 サーバーの管理は減りますが、ログの確認、失敗時の対応、費用の管理、権限の管理は残ります。運用の担い手を決めてから導入します。
すべてをサーバーレスで作ろうとする。 長時間の処理や常に高い負荷がかかる処理まで無理に載せると、設計が複雑になり、費用もかさみます。向いている処理に絞って使います。
費用の歯止めを設けない。 不具合や想定外のアクセスで、費用が急に膨らむことがあります。予算の通知と実行数の上限を最初に設定します。
ログと追跡を後回しにする。 障害が起きてから原因を追えないことに気づいても手遅れです。最初からログを一か所に集める設計にします。
成長後の費用を試算しない。 立ち上げ期の安さだけで判断すると、成長後に構成を大きく作り直すことになりかねません。成長した場合の費用も試算し、見直しの目安を決めておきます。
採用判断のチェックリスト
- システムの処理を一覧にし、処理ごとの時間・頻度・波・応答時間の要件を整理した
- 実行時間の上限に収まらない処理を洗い出した
- 応答時間の要件が厳しい処理を確認した
- 運用の担い手と、運用に残る作業を確認した
- 立ち上げ期と成長後の両方で費用を試算した
- 特定のクラウドへの依存をどこまで許容するかを決めた
- 全体か一部か、どの処理にサーバーレスを使うかを決めた
- 予算の通知と実行数の上限を設定する計画がある
- ログの集約と処理の追跡の方法を決めた
- 失敗時の再実行・通知の方法を決めた
- 検証用の環境と、構成をコードで管理する方法を決めた
よくある質問
Q. サーバーレスにすると費用は安くなりますか?
利用量が少ない、または波が大きいシステムでは安くなることがあります。一方、常に大量の処理が続くシステムでは、サーバーやコンテナを動かし続けるほうが安くなる場合もあります。想定する利用量で試算して比べてください。
Q. 既存のシステムをサーバーレスに移すことはできますか?
可能ですが、多くの場合は処理の分け方を見直す必要があり、単純な移し替えでは済みません。まずは定期処理やファイル処理など、切り出しやすい周辺の処理から移すのが現実的です。
Q. サーバーレスはセキュリティ面で安全ですか?
サーバーの更新をクラウド事業者が担うため、OSの更新漏れといったリスクは減ります。ただし、アプリケーションの不具合、権限の設定の誤り、外部に公開する範囲の設定などは利用者の責任です。関数ごとに権限を最小限にするなど、設計上の対策が必要です。
Q. 小規模なチームでもサーバーレスを扱えますか?
運用の手間が少ないため、むしろ小規模なチームと相性がよい面があります。ただし、設計の考え方は従来の構成と異なるため、最初の設計は経験のある人が関わると、後の苦労を減らせます。
Otsumuに相談できること
作ろうとしているシステムが、短い処理の組み合わせで構成でき、利用量にも波があり、特定のクラウドを使い続けることに抵抗がないなら、この記事の判断手順とチェックリストに沿って、自社でサーバーレスの採用を判断できます。社内にクラウドの経験がある開発者がいれば、各社の公式の手引きを参考に小さく始めることも十分可能です。
一方で、処理の性質が混在していてどこにサーバーレスを使うべきか分からない、成長後の費用の見通しが立たない、既存のシステムからの移行と組み合わせて検討したい、といった状況では、構成の設計から外部の視点を入れたほうが確実です。最初の構成は、その後の運用の手間と費用を長く左右するからです。
Otsumuは、システムの目的と処理の性質、運用の体制、事業の成長の見通しを踏まえて、サーバーレス、コンテナ、従来の構成の組み合わせを設計し、構築から運用までを一気通貫で支援します。既存環境の移行と合わせて検討する場合は、クラウド移行の支援としてご相談いただけます。費用は範囲に応じて個別にお見積もりします。
構成の方向性を決めかねている段階でもご相談いただけます。30分の無料相談で、作りたいシステムと体制をお聞かせください。
この記事について
Otsumu株式会社が執筆しました。統計値や他社の事例には依拠せず、進め方と判断の枠組みを中心にまとめています。法務・税務・会計などの制度は、専門家や公的窓口で最新の情報をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.01