業務の属人化を解消するには、「可視化」「標準化」「仕組み化」の順番で進めることが大切です。まず、その人が実際に何をしているかを見える形にし、次に、誰がやっても同じ結果になる手順とルールに整え、最後に、システムや自動化で手順そのものを人に頼らない形にします。この順番を飛ばして、いきなりシステムを導入したり、マニュアルを作らせたりしても、属人化はなかなか解消しません。
属人化した業務には、多くの場合、本人も言葉にしていない判断や、例外への対応が含まれています。それを見えるようにしないまま仕組みを作ると、仕組みでは対応できない部分が残り、結局その人に頼り続けることになります。逆に、見える化と標準化まで進めておけば、仕組み化の範囲を正しく決められ、人が判断すべき部分と仕組みに任せる部分の境目もはっきりします。
この記事は、「この業務はあの人しか分からない」という状態に不安を感じている経営者、部門の管理者、業務改善の担当者に向けて書いています。属人化が起きる理由、解消の3段階それぞれの進め方、優先順位の付け方、具体的な場面の例、よくある失敗までを整理します。読み終えるころには、自社の属人化した業務を、どこから、どの順番で解消していけばよいかが見えるはずです。
属人化とは何か、なぜ起きるのか
属人化とは、業務の手順や判断のよりどころが特定の人の頭の中にしかなく、その人がいないと業務が回らない状態を指します。長く担当している人が、経験から最適なやり方を身に付け、周りもその人に任せておけば安心という状態が続くうちに、自然と生まれます。
属人化が起きる理由は、担当者の怠慢ではありません。多くの場合、次のような構造的な原因があります。
- 業務が忙しく、手順を書き残す時間が取れない
- 担当者が一人しかおらず、引き継ぐ相手がいない
- 例外が多く、手順を書き出しても実態に合わない
- 担当者自身が工夫して作った仕組み(Excelのマクロや独自の表など)に業務が依存している
- 評価の仕組みが「その人にしかできないこと」を価値として扱っている
属人化の問題は、その人が休んだり辞めたりしたときに業務が止まることだけではありません。業務の品質がその人の調子に左右される、改善の提案が出にくい、担当者が別の仕事に挑戦できない、業務の中身が見えないため不正や誤りに気づけない、といった問題も含んでいます。
属人化を解消する3つの段階
属人化の解消は、次の3つの段階で進めます。
| 段階 | 目的 | 主な作業 | できあがるもの |
|---|---|---|---|
| 可視化 | その人が実際に何をしているかを見える形にする | 作業の観察、聞き取り、記録、判断の理由の言語化 | 業務の流れ図、作業一覧、判断の条件と例外の一覧 |
| 標準化 | 誰がやっても同じ結果になる形に整える | 手順の統一、判断ルールの決定、不要な作業の廃止 | 手順書、判断基準、書式やテンプレート |
| 仕組み化 | 手順そのものを人に頼らない形にする | システム化、自動化、チェックの仕組みの導入 | 業務システム、自動化の仕組み、入力のチェック |
それぞれの段階には、前の段階の成果が必要です。可視化しないまま標準化すると、実態と合わない手順書ができます。標準化しないまま仕組み化すると、人によって違うやり方をそのままシステムに持ち込むことになり、例外だらけの複雑な仕組みになります。
どの業務から解消するか:優先順位の付け方
属人化した業務が複数ある場合は、すべてに同時に取り組むのではなく、優先順位を付けます。判断の軸は、主に次の3つです。
- 止まったときの影響:その業務が止まると、顧客対応、売上、法令上の手続きなどにどれだけ影響が出るか
- 担当者の状況:担当者が一人しかいない、退職や異動の予定がある、負担が集中している
- 解消のしやすさ:手順がある程度決まっていて、可視化と標準化が短期間で進められるか
影響が大きく、担当者の状況が切迫している業務は、解消のしやすさにかかわらず最優先で取り組みます。特に担当者の退職が決まっている場合は、可視化だけでも先に終わらせることが重要です。標準化と仕組み化は後からでも進められますが、本人がいなくなった後に可視化することはできません。
優先順位を決めたら、対象の業務と担当者、着手の時期を一覧にして関係者に共有します。属人化の解消は日々の業務と並行して進めるため、期限を決めずにいると後回しになりがちです。一つの業務の可視化を終えたら次に進む、というように、区切りを決めて少しずつ進めるほうが、結果的に早く全体が片付きます。
第1段階:可視化の進め方
可視化の目的は、属人化した業務の中身を、本人以外の人が理解できる形にすることです。ここで大切なのは、本人に「マニュアルを書いてください」と頼むのではなく、周りの人が一緒に業務を見て、聞いて、書き出すことです。本人は慣れているがゆえに、どこが他の人には分からないのかに気づきにくいからです。
可視化は、次の手順で進めます。
- 対象業務の始まりと終わりを決める。「受注の連絡を受けてから請求書を送るまで」のように範囲を区切る。
- 本人の作業に同席し、実際の操作を見ながら、何をしているかを書き出す。画面の操作、使っているファイル、連絡している相手も記録する。
- 作業の途中で「なぜそうしたのか」を質問し、判断の理由を言葉にしてもらう。「この取引先は締め日が違うから」「この金額だと上長の確認が要るから」といった理由が、後の標準化の材料になる。
- 例外の対応を聞き出す。「いつもと違う処理をするのはどんなときですか」「最近困ったことは何ですか」と質問し、例外の種類と頻度を記録する。
- 月末・期末・年度末など、周期の長い作業を別に聞き取る。
- 書き出した内容を業務の流れ図と作業一覧にまとめ、本人に確認してもらう。
可視化の段階では、作業の良し悪しを評価しないことが大切です。本人が「やり方を否定される」と感じると、協力が得られにくくなります。目的は、本人の負担を減らし、休みを取りやすくし、より価値のある仕事に時間を使えるようにすることだと、最初に伝えておきます。
判断の暗黙知を言葉にするコツ
属人化した業務で最も見えにくいのは、判断の部分です。本人に「どう判断していますか」と聞いても、「なんとなく」「経験で」という答えが返ってくることがあります。そうした場合は、過去の具体的な案件を一緒に振り返り、「このときはなぜこちらを選んだのか」「どんな情報を見て決めたのか」を一件ずつ聞くと、判断の材料と基準が見えてきます。数件を並べると、共通する条件が浮かび上がります。
第2段階:標準化の進め方
可視化した業務をもとに、誰がやっても同じ結果になる形に整えます。標準化は、手順書を作ることだけではありません。業務のやり方そのものを見直し、単純にすることも含みます。
まず、不要な作業を取り除きます。可視化の結果を見ると、誰も見ていない帳票の作成や、二重に行われている確認、以前の事情で残っているだけの手順が見つかることがあります。これらを廃止するだけで、業務は軽くなり、引き継ぐべき内容も減ります。
次に、判断のルールを決めます。可視化で言葉にした判断の理由をもとに、「この条件ならこう処理する」という形に整理します。すべての判断をルールにできるわけではありませんが、大半のケースをルールで処理し、ルールで決められない少数のケースだけを経験のある人が判断する、という形にできれば、属人化の度合いは大きく下がります。
そのうえで、手順を文書にします。手順書は、業務の目的、全体の流れ、各作業の手順、判断の基準、例外の対応、困ったときの相談先を含めます。業務の手順を標準化した文書はSOP(標準作業手順書)とも呼ばれます。書き方と、更新され続ける形にする工夫は業務マニュアルの作り方で詳しく解説しています。
標準化の仕上げは、本人以外の人が手順書だけで業務を行ってみることです。実際にやってみると、手順書に書かれていない前提や、分かりにくい表現が見つかります。それを修正して、初めて標準化は完了します。
あわせて、書式やテンプレートもそろえます。担当者ごとに別々の表や文面を使っていると、手順が同じでも結果がばらつきます。よく使う表、メールの文面、確認用のチェック表を共通のものにし、決まった場所に置いておくと、誰が担当しても同じ形の成果物ができ、次の仕組み化の段階でもデータとして扱いやすくなります。
第3段階:仕組み化の進め方
標準化した業務のうち、システムや自動化に任せられる部分を仕組みにします。仕組み化の目的は、手順書を読んで正しく作業することにすら頼らず、仕組みが正しいやり方へ自然に導く状態を作ることです。
仕組み化の手段は、業務の性質によって選びます。
| 標準化した業務の性質 | 仕組み化の手段の例 |
|---|---|
| 入力の誤りや漏れが多い | 入力フォームの選択肢化、必須項目のチェック、入力時の確認 |
| 転記や集計の手作業が多い | システム間の連携、定期的な自動集計 |
| 判断のルールが明確で件数が多い | ルールに基づく自動処理、例外だけを人に回す仕組み |
| 承認や確認の経路が決まっている | ワークフローシステム、通知の自動化 |
| 個人のExcelやマクロに依存している | 共有の業務システムへの移行 |
どの業務から仕組み化するかは、頻度・所要時間・ルールの明確さで評価すると決めやすくなります。評価の方法は自動化すべき業務の見つけ方で解説しています。
特に注意したいのは、属人化の原因が担当者の作った独自の仕組みにある場合です。担当者が作ったExcelのマクロやスクリプトに業務が依存していると、その仕組みの中身も含めて属人化しています。こうした場合は、仕組みの中身を可視化し、標準化したうえで、共有の業務システムに置き換えることが解消への道筋になります。進め方はExcelマクロの属人化を解消するが参考になります。
仕組み化しても、人の判断がすべてなくなるわけではありません。ルールで決められない例外は、人が判断する工程として仕組みの中に組み込みます。ただし、その判断も、判断の材料が仕組みから自動で提示され、判断の結果が記録される形にしておけば、特定の人の頭の中だけに知識がたまる状態は避けられます。
仕組み化した後は、仕組みそのものが新たな属人化の原因にならないよう注意します。誰が設定を変えられるのか、止まったときに誰が対応するのかを決め、仕組みの説明書を手順書と同じ場所に置いておきます。担当者の頭の中から仕組みを作った人の頭の中へ、属人化の場所が移っただけ、という結果を避けるためです。
具体例:経理担当者一人に依存していた月次処理
架空の一般例として、従業員数十名の会社で、月次の経理処理をベテランの担当者一人が長年担っていた場面を考えます。担当者は、取引先ごとの入金の確認、売上と請求の照合、経費の仕訳、月次の報告資料の作成を、独自に作ったExcelの表とマクロを使って行っていました。担当者が体調を崩して長く休んだとき、誰も月次の処理を進められず、報告が大きく遅れました。
立て直しは3段階で進めました。可視化の段階では、別の社員が翌月の処理に同席し、作業を一つずつ書き出しました。担当者に過去の処理を振り返ってもらい、取引先ごとの例外(締め日が違う、入金がまとめて行われる、手数料の扱いが異なるなど)を一覧にしました。Excelのマクロが何をしているかも書き出しました。
標準化の段階では、毎月作っていたものの誰も見ていなかった集計表を廃止し、取引先ごとの例外を判断基準として整理しました。手順書を作り、別の社員が手順書だけで一か月分の処理を行い、分かりにくい部分を直しました。
仕組み化の段階では、売上と入金の照合をマクロから会計ソフトの機能と連携の仕組みに置き換え、照合できなかったものだけを一覧にして人が確認する形にしました。取引先ごとの例外は、取引先の情報に設定として持たせ、処理のたびに担当者が思い出す必要をなくしました。
結果として、月次の処理を複数の社員で分担できるようになり、ベテランの担当者は例外の判断と処理の改善に時間を使えるようになりました。この例のポイントは、可視化と標準化を飛ばしてシステムを入れるのではなく、順番に進めたことで、仕組みに任せる範囲を正しく決められた点にあります。
よくある失敗と解消を進めるためのチェックリスト
よくある失敗と避け方
本人にマニュアル作成を丸投げする。 忙しい担当者に「手順を書いておいて」と頼んでも、時間が取れず進まないか、本人にしか分からない書き方になります。周りの人が一緒に書き出す体制を作ります。
いきなりシステムを導入する。 業務を可視化・標準化しないままシステムを入れると、システムで対応できない例外が残り、その例外を担当者が手作業で処理し続けます。結果として、属人化がシステムの外側に残ります。
手順書を作って終わりにする。 業務が変わっても手順書が更新されなければ、数か月で実態と合わなくなり、再び担当者に頼る状態に戻ります。手順書の更新の担当と時期を決めておきます。
担当者の協力を得られない。 「自分の仕事を奪われる」「やり方を否定される」と感じると、可視化は進みません。解消の目的が担当者の負担を減らし、より価値のある仕事に移ってもらうことだと伝え、評価の仕組みでも、知識を共有したことを正当に評価します。
すべてをルールにしようとする。 経験に基づく判断のすべてをルールにすることはできません。ルールで処理できる範囲を広げつつ、残る判断は複数の人が担えるよう、判断の記録と共有の場を設けます。
解消を進めるためのチェックリスト
- 属人化している業務の一覧を作り、担当者と止まったときの影響を書き出したか
- 優先度の高い業務から、可視化に着手したか
- 本人以外の人が同席して、作業と判断の理由を書き出したか
- 例外の種類と頻度を記録したか
- 不要な作業を洗い出し、廃止したか
- 判断のルールを決め、ルールで決められない判断を明確にしたか
- 本人以外の人が、手順書だけで業務を行えたか
- 手順書の更新の担当と時期を決めたか
- 仕組み化する範囲を、頻度・時間・ルールの明確さで選んだか
- 担当者の協力を評価する仕組みがあるか
よくある質問
Q. 属人化の解消にはどれくらいの期間がかかりますか?
業務の範囲と複雑さによって大きく変わります。一つの業務であれば、可視化と標準化は数週間から数か月、仕組み化はその後に業務の規模に応じて期間を見込むのが一般的な進め方です。周期の長い業務は、少なくとも一巡するまで見ないと全体が把握できないため、その分の期間も考慮します。
Q. 担当者の退職が迫っています。何を優先すべきですか?
可視化を最優先にします。標準化や仕組み化は本人がいなくなった後でも進められますが、本人の頭の中にある判断の理由や例外の対応は、本人がいる間にしか聞き出せません。作業への同席と、過去の案件を振り返る聞き取りに時間を集中させ、記録を残します。
Q. 少人数の会社で、引き継ぐ相手がいません。それでも属人化を解消すべきですか?
引き継ぐ相手がいなくても、可視化と標準化には意味があります。業務が書き出されていれば、緊急時に一時的に別の人が対応したり、外部に業務を委託したりする選択肢が生まれます。また、仕組み化によって業務そのものが軽くなれば、少人数でも回る状態に近づけます。
Q. 属人化を解消すると、担当者のやる気が下がりませんか?
伝え方と評価の仕方次第です。担当者の知識を組織の資産として共有することを評価し、解消によって空いた時間で、より高度な判断や改善に取り組んでもらう道筋を示すと、前向きに協力してもらいやすくなります。
Otsumuに相談できること
属人化した業務が一つか二つで、社内に可視化と標準化を進める時間を取れる人がいれば、この記事の3段階に沿って自社で解消を進めることができます。まずは優先度の高い業務を一つ選び、作業への同席と書き出しから始めてみてください。
一方で、属人化した業務が部署をまたいで多数ある、担当者の作った独自のExcelやマクロに業務が依存している、標準化まではできたがシステムに移す方法が分からない、といった状況では、業務とシステムの両方を見られる外部の力を借りたほうが早く進みます。特に仕組み化の段階では、どこまでをシステムに任せ、どこを人の判断に残すかの設計が、その後の運用のしやすさを左右します。
Otsumuは、業務の可視化と標準化の支援から、仕組み化の手段の選定、業務システムや自動化の構築、運用の改善までを一気通貫で支援しています。業務の仕組み化と自動化の進め方は自社サービス運用の自動化コンサルティングで、個人のExcelや手作業からの移行はExcel業務のシステム化や業務システム開発でご相談いただけます。費用は範囲に応じて個別にお見積もりします。
どの業務から手を付けるべきか迷っている段階でも構いません。まずは30分の無料相談で、状況をお聞かせください。
この記事について
Otsumu株式会社が執筆しました。統計値や他社の事例には依拠せず、進め方と判断の枠組みを中心にまとめています。法務・税務・会計などの制度は、専門家や公的窓口で最新の情報をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.01