この事例の要点
- ANAホールディングス株式会社は、航空事業を中核に航空関連事業、旅行事業、商社事業などを展開し、2026年3月期の売上高は2兆5,392億円(前期比12.3%増)、営業利益は2,174億円(同10.6%増)と説明しています。
- 国内線では「ANA SUPER VALUEセール」でレジャー需要を早期に取り込み、増便・臨時便と機材の小型化を組み合わせて需給適合を進めたと説明しています。
- マイレージ附帯収入を含む航空事業の「その他」収入は1,895億円で、「ANAガス」「ANAモバイル」など日常生活でマイルを貯めやすくするサービスを開始しています。
どんな事業か
ANAホールディングス株式会社は、航空事業、航空関連事業、旅行事業、商社事業、その他のセグメントで事業を営んでいます(2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結))。航空事業は、ANAブランドの国際線旅客・国内線旅客・貨物、2025年8月に全株式を取得した日本貨物航空株式会社(NCA)、PeachとAirJapanから構成されます。同社は、貨物便と旅客便のネットワークを併せ持つコンビネーションキャリアに、NCAの大型貨物専用機による日本と欧米を結ぶネットワークを融合させると説明しています。
国際線旅客では訪日需要と日本発レジャー需要を取り込み、2024年度下期から新規就航した欧州3路線が好調に推移したほか、香港・パース線などの増便を行いました。シンガポール航空とはジョイントベンチャー契約を結んでいます。国内線旅客では羽田=新千歳線・羽田=福岡線の増便と臨時便を設定する一方、機材の小型化で需給を合わせました。AirJapanブランドは2026年3月をもって休止し、ANAとPeachのデュアルブランド戦略に再構築するとしています。航空関連事業は空港地上支援業務や機内食関連業務の受託、旅行事業は「ANAトラベラーズ」の商品販売、商社事業は空港物販店・免税店などのリテール事業などを含みます(同)。
収益の仕組み
売上の大半は航空事業で、2026年3月期の売上高は2兆3,132億円(前期比12.4%増)、営業利益は2,219億円(同11.5%増)でした。その内訳として、国際線旅客収入8,789億円(同9.1%増)、国内線旅客収入7,380億円(同4.8%増)、国際線貨物収入1,841億円(同1.7%減)、NCAの貨物収入1,089億円、Peach収入1,433億円(同2.9%増)、AirJapan収入139億円、そしてマイレージ附帯収入・機内販売収入・整備受託収入等を含むその他収入1,895億円(同5.1%増)が示されています(2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結))。
運賃面では、国内線で「ANA SUPER VALUEセール」を継続的に実施してレジャー需要の喚起と早期取り込みに努め、2026年5月19日搭乗分からは運賃を価格重視の「シンプル」、基本の「スタンダード」、自由度の高い「フレックス」の3つに一新するとしています。費用面では、航空事業で燃油費や人件費等が増加したものの増収で吸収したと説明しており、営業費用は23,217億円です(同)。
数字で確かめる
- 売上高2兆5,392億円(前期比12.3%増)、営業利益2,174億円(同10.6%増)、親会社株主に帰属する当期純利益1,690億円(同10.5%増)(2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結))。
- 売上高営業利益率8.6%(前期8.7%)(同)。増収の一方で費用も増え、利益率はほぼ横ばいであることが読み取れます。
- 国際線旅客数902万人(同11.8%増)に対し収入は8,789億円(同9.1%増)、国内線旅客数4,563万人(同3.6%増)に対し収入は7,380億円(同4.8%増)(同)。国内線は旅客数の伸びを上回る収入の伸びが読み取れます。
- 営業活動によるキャッシュ・フロー4,434億円の収入、投資活動によるキャッシュ・フロー4,152億円の支出(同)。稼いだ現金の大半を有価証券の取得や設備投資などの投資活動に回していることが読み取れます。
- 2027年3月期予想は営業利益1,500億円(同31.0%減)で、前提は米ドル155円、ドバイ原油は第1四半期130米ドル・第2四半期100米ドル・下期75米ドル(同)。燃油価格の前提が利益を左右することが読み取れます。
Otsumuの読み解き:なぜ成り立つのか
ここからはOtsumuの考察です。航空運送は、便を飛ばす費用(燃油、人件費、機材)が乗客数にほとんど関係なく発生する事業です。したがって「ダイナミックプライシング」の型、すなわち同じ座席を需要に応じて異なる価格で売ることが、成り立つための中心にあると考えられます。「ANA SUPER VALUEセール」による早期取り込みや、増便・臨時便・機材の小型化による需給適合、3つの運賃タイプへの再編は、座席という消えてしまう在庫を、時期と客層ごとに最も高く売るための仕組みと読めます。国内線で旅客数の伸び以上に収入が伸びていることは、価格と供給の調整が効いている可能性を示しています。
もうひとつの型は「ポイント経済圏」です。「ANAガス」「ANAモバイル」のように日常生活でマイルが貯まる接点を増やすことで、次に飛行機を選ぶ理由を航空以外の場面でつくっていると考えられます。マイルは将来の座席で使われるため、空席が出やすい便の在庫を使って顧客をつなぎとめる装置にもなると読めます。
トレードオフは、費用の主要部分を自社で決められないことです。燃油価格と為替の前提だけで次期の営業利益予想が大きく動くことが示されています。価格を細かく調整できても、原価が外部要因で動く以上、需給適合の精度と経済圏による需要の下支えの両方が必要になると読めます。
自社事業に持ち帰る問い
- 自社に「時間が経つと価値がなくなる在庫」(席、枠、時間)はあるか。それを時期や客層で価格を変えて売っているか。
- 早期予約や早期契約に割引を出すことで、需要の見通しを先に確保できないか。
- 顧客が自社を選ぶ理由を、本業以外の日常接点でつくれないか。
- 自社で決められない費用(燃料、為替、原材料)が、利益をどこまで動かすかを把握しているか。
小さく試すなら
- 自社サービスのうち、日付や枠が決まっているものを1つ選び、直近4週間の予約・受注の埋まり方を日別に記録します。
- 埋まりにくい枠に早期割引、埋まりやすい枠に標準価格と柔軟性を高めた上位価格の2段階を設定し、4週間試します。
- 既存顧客向けに、利用ごとに貯まる簡単なポイントを設け、次回利用時に使えるようにします。
- 枠の埋まり方と単価の変化、ポイント保有者の再利用率を集計し、価格差の幅とポイント付与率を見直すかを決めます。
関連するビジネスモデル
資料の位置づけ
企業・サービス:ANAホールディングス株式会社 / 航空運送事業。参照資料:2026年3月期 決算短信。このページは公開情報にもとづく学習用の分析です。Otsumuの支援実績や当該企業との取引関係を示すものではありません。示唆と検証案はOtsumuの考察であり、企業自身の見解とは区別しています。
参考資料と編集について
上記の公開資料(企業の決算短信または年次報告書)をもとに、Otsumuが執筆しました。数値と企業の説明は資料の記載の範囲にとどめ、Otsumuの考察とは分けています。数値は資料の表記のままで、最新の情報は各社の開示をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.09.27