この事例の要点
- Coupang, Inc.は、韓国の小売(自社在庫)とマーケットプレイス(第三者の商店)を中心とするProduct Commerceと、Eats、Play、台湾の小売、Farfetchなどを含むDeveloping Offeringsの2セグメントで運営されています(Form 10-K、FY2025)。
- FY2025の売上高(Total net revenues)は$34,534 million(前年比14%増)、営業利益は$473 million、純利益は$214 millionでした(Form 10-K、FY2025)。
- 同社は、自社で構築したエンドツーエンドの物流・技術ネットワークにより、深夜直前の注文でも翌日無料で届ける「Rocket Delivery」を韓国で実現していると説明しています(Form 10-K、FY2025)。
どんな事業か
Coupang, Inc.は、190を超える国と地域の顧客に、Coupang、Eats、Play、Rocket Now、Farfetchなどのブランドでサービスを提供しています(Form 10-K、FY2025)。
Product Commerceは、韓国での自社在庫による小売、SMEを含む第三者商店のマーケットプレイス、生鮮食品の「Rocket Fresh」と、付随する広告商品を含みます。顧客は翌日、早朝、当日といった配送を受けられ、有料会員制のWOW membershipでは配送やサービスの特典を提供しています。Developing Offeringsは、Eats(レストラン配達)、Play(動画配信)、フィンテック、台湾での小売事業、2024年1月に買収したラグジュアリーファッションのマーケットプレイスFarfetchを含みます。商店向けには、韓国でフルフィルメント・物流を提供する「FLC」や広告も提供しています。2025年12月31日時点の従業員数は約108,000人で、大半が韓国に所在し、多くはフルフィルメントと物流の現場で働いています(Form 10-K、FY2025)。
収益の仕組み
売上は「Net retail sales」と「Net other revenue」に分類されます。Product Commerceの売上は、主に韓国の顧客への自社在庫の商品販売、商店からの手数料および物流・フルフィルメント料、韓国のWOW membershipから得られると説明されています。売上は、返品見込み、販促割引、ロイヤルティ特典を差し引いた金額で計上されます(Form 10-K、FY2025)。
費用は、Cost of sales(FY2025は$24,393 million)とOperating, general and administrative($9,668 million)に分かれます。2025年11月に判明した顧客アカウントへの不正アクセスを受け、12月には約$1.2 billion相当のバウチャーによる顧客補償プログラムを発表しました(Form 10-K、FY2025)。
数字で確かめる
- 売上高$34,534 million(前年比14%増)、うちNet retail sales $26,312 million(10%増)、Net other revenue $8,222 million(28%増)(FY2025)(Form 10-K、FY2025)。直販以外の売上が速く伸びていることが読み取れます。
- 売上総利益$10,141 million(15%増)、営業利益$473 million(8%増)、純利益$214 million(Form 10-K、FY2025)。粗利に対して営業利益が薄い構造が読み取れます。
- セグメント別Adjusted EBITDAはProduct Commerce $2,485 million、Developing Offerings $(995) million(FY2025)(Form 10-K、FY2025)。中核事業の利益で新規事業の損失を支えていることが読み取れます。
- Product Commerce Active Customersは2025年12月31日までの四半期で24.6 million(前年同期比8%増)、顧客1人あたり売上高は$301(Form 10-K、FY2025)。顧客数の増加が成長の主因と読み取れます。
- Property and equipment, net $3,722 million(前年$2,813 million)(Form 10-K、FY2025)。設備投資を続けていることが読み取れます。
Otsumuの読み解き:なぜ成り立つのか
ここからはOtsumuの考察です。型は「店舗×EC(オムニチャネル)」と「サブスクリプション」ですが、同社に実店舗の記載はなく、店舗の代わりに自社の物流網を「物理的な接点」として持つ事業と読めます。同社は体験全体を自社で制御することを方針とし、その統合と規模の経済が効率を生み、価格の引き下げとして顧客に還元されると説明しています。直販とマーケットプレイスを同じ物流網に載せ、設備の稼働を上げつつ品揃えを広げる設計と考えられます。
サブスクリプションの型としては、WOW membershipが配送の特典を軸に置かれている点が要です。会員が購入頻度を上げ、同社が重視する「顧客あたり売上高」が伸びるという循環が読み取れます。ただし会員向けの特典は物流費として先に発生し、粗利$10,141 millionに対して営業利益$473 millionにとどまる構造の一因と考えられます。
トレードオフは、自社で物流と人員を抱えることの重さです。従業員約108,000人の大半が現場で働き、Developing OfferingsのAdjusted EBITDA $(995) millionや約$1.2 billionの顧客補償を吸収できる中核事業の利益があってこそ支えられていると読めます。物流を自社で持つ選択は、差別化と固定費の増大を同時に引き受ける決断だと考えられます。
自社事業に持ち帰る問い
- 自社の顧客体験のうち、外部に委ねず自社で制御すべき工程はどこか。
- 会員制を導入するなら、会員が「使えば使うほど得になる」特典は何か。その原価はいくらか。
- 自社で在庫を持つ直販と、他社の商品を扱う仲介を同じ基盤に載せられるか。
- 中核事業の利益のうち、どれだけを新規事業の損失に振り向けるかの上限を決めているか。
小さく試すなら
- 顧客1人あたりの購入頻度と売上を月次で出し、上位顧客と平均の差を把握する。
- 顧客が価値を感じる「速さ」の要素を一つ選び、限定した顧客群に2〜4週間試して購入頻度の変化を見る。
- 変化があった顧客群に有料会員の特典案を提示し、加入意向を確認する。頻度の増分が特典の原価を上回れば、会員制の設計に進む。
関連するビジネスモデル
資料の位置づけ
企業・サービス:Coupang, Inc. / 韓国のEC(自社在庫の直販とマーケットプレイス、WOW membership)。参照資料:Form 10-K(FY2025)。このページは公開情報にもとづく学習用の分析です。Otsumuの支援実績や当該企業との取引関係を示すものではありません。示唆と検証案はOtsumuの考察であり、企業自身の見解とは区別しています。
参考資料と編集について
上記の公開資料(企業の決算短信または年次報告書)をもとに、Otsumuが執筆しました。数値と企業の説明は資料の記載の範囲にとどめ、Otsumuの考察とは分けています。数値は資料の表記のままで、最新の情報は各社の開示をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.09.27