この事例の要点
- NIKE, Inc.はスポーツ用のフットウェア、アパレル、用具、アクセサリーなどを世界で販売し、自社を運動靴とアパレルで世界最大の販売者と説明しています(Form 10-K、FY2026)。
- 販売チャネルは卸売先への販売とNIKE Directの2つで、FY2026はNIKE Brandの卸売が$27,453 million(前年比6%増)、NIKE Directが$17,720 million(同6%減)でした(Form 10-K、FY2026)。
- 同社はNIKE Brand Digitalを定価販売の場に位置づけ直し、卸売への再投資を進めており、これらの取り組みを2026年12月末までに完了する見込みとしています(Form 10-K、FY2026)。
どんな事業か
同社は、スポーツ用のフットウェア、アパレル、用具、アクセサリー、サービスを設計・開発し、マーケティングと販売を世界で行っていると説明しています。販売は2つのチャネルで行われます。1つはNIKE Directで、NIKEが所有する直営店と、デジタルプラットフォームでの販売(NIKE Brand Digital)からなります。もう1つは卸売先への販売で、独立したディストリビューター、ライセンシー、販売代理人を組み合わせて、世界のほぼすべての国で展開しています(Form 10-K、FY2026)。
FY2026の売上高は$46,398 millionで、NIKE Brandの製品別ではFootwearが$29,525 million、Apparelが$13,449 million、Equipmentが$2,199 millionでした。NIKE Brandの売上にはJordan Brand製品の$7,034 millionが含まれます。別ブランドのConverseは$1,174 million(前年比31%減)で、ブランドと販売網の戦略的な立て直しの途中にあるとされています(Form 10-K、FY2026)。
同社は、革新的な「must-have」の製品と、デジタルと店舗での体験を通じて、持続的で収益性のある長期成長を目指すとしています(Form 10-K、FY2026)。
収益の仕組み
売上は、卸売先への販売と、直営店・デジタルでの消費者への直接販売から生まれます。FY2026の売上高はほぼ横ばいで、為替の影響を除くと2%の減少でした。卸売の増加は主に北米の増収によるもので、NIKE Directの減少は主に来店・来訪の減少によると説明されています(Form 10-K、FY2026)。
同社は市場の管理として、NIKE Brand Digitalを定価販売の場に位置づけ直し、卸売への再投資を進めています。在庫を減らして新製品の余地をつくるため、NIKE Directでの値引き販売を増やし、卸売先への返品・値引きも増やしたとしています。(Form 10-K、FY2026)。
費用側では、売上原価が$26,487 million、需要創出費(Demand creation expense)が$4,754 million、営業間接費(Operating overhead expense)が$11,360 millionで、販売費及び一般管理費の合計は$16,114 million(売上高の34.7%)でした。また、IEEPA関税の還付見込みとして$986 millionの利益を売上原価に計上しています(Form 10-K、FY2026)。
数字で確かめる
- 売上高:$46,398 million(前年$46,309 million)(Form 10-K、FY2026)。報告ベースでは前年並みにとどまったことが読み取れます。
- NIKE Brandの卸売:$27,453 million、NIKE Direct:$17,720 million(Form 10-K、FY2026)。卸売が直販を上回り、増収を担ったことが読み取れます。
- 粗利益率:42.9%、前年比20ベーシスポイントの上昇(Form 10-K、FY2026)。値引き販売を進めながらも粗利益率が前年を上回ったことが読み取れます。
- 販売費及び一般管理費:$16,114 million、売上高の34.7%(Form 10-K、FY2026)。需要創出と営業間接費が売上高に対して大きな比率を占めていることが読み取れます。
- 純利益:$3,108 million、前年比3%減、純利益率6.7%(Form 10-K、FY2026)。売上が横ばいの中で利益はやや減ったことが読み取れます。
Otsumuの読み解き:なぜ成り立つのか
ここからはOtsumuの考察です。この事業は「卸・ディストリビューター」と「D2C」の2つの型を併せ持つ構造として読むことができます。卸売は、ディストリビューターやライセンシーなどを通じて世界のほぼすべての国に製品を届ける広がりを担い、NIKE Directは消費者との直接の接点とブランド体験を担います。FY2026に卸売が伸びNIKE Directが減ったことは、2つのチャネルの役割分担を同社が意図して組み替えている過程と読めます。
この組み合わせが成り立つには、チャネル間で価格と在庫を管理する仕事が欠かせないと考えられます。直販で値引きをすれば卸売先の販売と競合し、卸売先に在庫が滞留すれば返品や値引きの負担が戻ってきます。同社が在庫を減らすための値引き販売と返品・値引きの増加を認めたうえで、デジタルを定価販売の場に戻そうとしていることは、チャネル全体の価格を整えることを優先した判断と考えられます。
トレードオフは、短期の売上・利益と、ブランドの長期的な勢いの間にあります。同社自身、これらの取り組みが売上と収益性に悪影響を与えてきたし今後も与えうるとしつつ、ブランドの勢いを取り戻すためだと説明しています。卸売先との関係と価格の一貫性をどう保つかが常に問われる型だと読めます。
自社事業に持ち帰る問い
- 自社の商品を、代理店や販売店を通す経路と直接売る経路の両方で扱うとき、それぞれの役割を言葉にできていますか。
- 直販で値引きをしたとき、取引先の販売や価格にどんな影響が出るかを把握していますか。
- 在庫を減らすための値引きと、ブランドの価格を守ることの優先順位を決めていますか。
小さく試すなら
- 直近の売上を販売経路別に分け、経路ごとの売上、値引き額、返品額を一覧にします。
- 値引きの多い経路を1つ選び、値引きの理由(在庫過多、競合、時期)を担当者に聞き取ります。
- 2〜4週間、その経路で定価販売を維持する商品を数点決め、販売数と在庫の動きを記録します。
- 販売数の落ち込みが小さく粗利が改善するなら、定価販売の対象を広げ、他の経路との価格の整合を点検します。
関連するビジネスモデル
資料の位置づけ
企業・サービス:NIKE, Inc. / スポーツ用品の卸売とNIKE Direct。参照資料:Form 10-K(FY2026)。このページは公開情報にもとづく学習用の分析です。Otsumuの支援実績や当該企業との取引関係を示すものではありません。示唆と検証案はOtsumuの考察であり、企業自身の見解とは区別しています。
参考資料と編集について
上記の公開資料(企業の決算短信または年次報告書)をもとに、Otsumuが執筆しました。数値と企業の説明は資料の記載の範囲にとどめ、Otsumuの考察とは分けています。数値は資料の表記のままで、最新の情報は各社の開示をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.09.27