この事例の要点
- Solid Powerは、硫化物系の固体電解質を電池メーカーや自動車メーカーに製造・販売し、セル設計や製造プロセスのライセンスも進める方針です。自らは商業用の電池セルを作らない設計です(Form 10-K、2025年12月期)。
- 2025年の売上高と助成金収入の合計は21,747千ドルで、内訳は共同開発などの収入15,789千ドル、政府関連5,958千ドルです(Form 10-K、2025年12月期)。
- パートナー契約は非独占で、BMW、SK On、Ford、Samsung SDIなど複数社と結んでいます。契約ごとにライセンス料・設備設置・電解質購入が組み合わされています(Form 10-K、2025年12月期)。
どんな事業か
Solid Power, Inc.は米国コロラド州ルイビルに本社を置く、米国上場企業です。同社は自社を、固体電池技術と製造プロセスの開発企業と説明しています。中核技術は、従来のリチウムイオン電池の液体またはゲル状の電解質に置き換わる、硫化物系の固体電解質材料です。現在はEV向けを主な対象にしています(Form 10-K、2025年12月期)。
同社の商業化戦略は、電解質をTier 1の電池メーカーや、自社でセルを作る自動車メーカーに製造・販売することです。あわせて、セル製造プロセスとセル設計のライセンスも検討しています。同社は、商業用セルの製造は計画していないため、セルメーカーに比べて必要な資本が大幅に小さいと見込むと説明しています(Form 10-K、2025年12月期)。
収益の仕組み
同社の収益は、技術を早い段階から顧客に使ってもらう入り口と、契約に基づく課金が組み合わさっています。
- 入り口:自動車メーカーや電池メーカーとの共同開発契約(JDA)。BMWとは2017年にJDAを結び、Ford、SK Onとも2021年にJDAを結んでいます。
- 課金:SK Onとは、セル設計と製造プロセスのライセンス(2024年から2027年にマイルストーン達成に応じ合計20百万ドル)、SK Onの韓国拠点に試験ラインを設計・調達・設置する契約(見積り約22百万ドル)、電解質の供給契約の3本立てです。
- 継続:SK Onは2030年までに電解質を最低8メートルトン購入する義務があり、同社は少なくとも8.3百万ドルの電解質売上を見込んでいます。
いずれも、同社の資料では非独占の契約として説明されており、複数の相手と並行して関係を築く設計です(Form 10-K、2025年12月期)。
数字で確かめる
- 売上高と助成金収入の合計は、2025年が21,747千ドル、2024年が20,139千ドルで、前年から8%増えています。共同開発などの収入は15,789千ドルで、SK Onとの契約の進捗が主な内容です。事業の中心が量産品の販売ではなく、契約に基づく開発・設置の収入であることが読み取れます(Form 10-K、2025年12月期)。
- 政府関連の売上と助成金収入は5,958千ドルで、前年の2,732千ドルから118%増えています。連続生産のパイロットライン計画が、助成金の対象事業になっていることが読み取れます(Form 10-K、2025年12月期)。
- 現金同等物と売却可能有価証券を合わせた流動性は336.5百万ドルで、前年末から9.0百万ドル増えています。研究開発段階の企業として、資金の厚みが事業を続ける前提になっていることが読み取れます(Form 10-K、2025年12月期)。
- 電解質は現在、バッチ方式のパイロットライン2本で生産し、顧客への試供と社内のセル開発に使っています。2026年末までに連続生産方式のパイロットラインを稼働させる予定です。量産の前に、製造プロセスの実証を段階的に進めていることが読み取れます(Form 10-K、2025年12月期)。
- 2025年末付けで、Fordとのセル開発を終了する方向でJDAを修正し、期限を2026年3月31日まで延長しています。提携が永続する前提ではなく、期限と成果物を決めて更新する関係であることが読み取れます(Form 10-K、2025年12月期)。
Otsumuの読み解き:なぜ成り立つのか
ここからはOtsumuの考察です。電池の世界では、セルを量産するには巨額の設備投資が必要になります。同社は、セルではなく電解質という部品と、その作り方を売る位置に立つことで、資本の重さを避けようとしています。完成品メーカーが技術を選ぶ間は、複数社と非独占で組めるため、1社の判断に事業全体が左右されにくい構造です。
一方で、この設計は顧客が量産に進んで初めて、電解質の販売数量が増える構造でもあります。現時点の売上が共同開発や設備設置の収入に偏っていることは、量産前の企業にとって自然な姿とも、顧客の意思決定を待つ弱さとも読めます。部品を売る側が、顧客の量産計画をどこまで把握し、契約に最低購入量を入れられるかが、事業の安定度を左右します。
自社事業に持ち帰る問い
- 自社が完成品ではなく、部品・素材・ノウハウに絞って売るとしたら、どの部分が最も差別化できるでしょうか。
- 共同開発の段階で、将来の購入量やライセンス料を契約に織り込めているでしょうか。
- 特定の1社に依存しないために、非独占で複数社と組む設計を取り入れられるでしょうか。
小さく試すなら
- 1週目:自社の商品を「完成品」「部品・素材」「製法・ノウハウ」に分け、外部に提供できる要素を書き出す。
- 2週目:既存顧客3社ほどに、その要素だけを単体で試す意向があるかをヒアリングする。
- 3週目:試供または小規模な検証契約の条件(期間、成果物、最低購入量の目安)の案を作る。
- 4週目:反応が得られた1社と、期限と成果物を決めた試験導入の条件を詰め、続けるか止めるかの基準を決める。
関連するビジネスモデル
資料の位置づけ
企業・サービス:Solid Power, Inc.(米国、全固体電池の電解質)。参照資料:Form 10-K(2025年12月期)。このページは公開情報にもとづく学習用の分析です。Otsumuの支援実績や当該企業との取引関係を示すものではありません。示唆と検証案はOtsumuの考察であり、企業自身の見解とは区別しています。
参考資料と編集について
上記の公開資料(目論見書・年次報告書・企業の公式発表など)をもとに、Otsumuが執筆しました。数値と企業の説明は資料の記載の範囲にとどめ、Otsumuの考察とは分けています。数値は資料の表記のままで、最新の情報は各社の開示をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.25