分類:企業事例 › 機械・素材・航空宇宙
この事例の要点
- Vertical Aerospace Ltd.は、電動垂直離着陸機(eVTOL)を開発する英国の会社で、約1,500機分の先行予約(プレオーダー)を受けていると説明しています(Form 20-F、2025年12月期)。
- 先行予約はいずれも法的拘束力がなく、条件付きで、いつでも当事者のどちらからでも解除でき、前払金(PDP)も一定の状況で全額返金される可能性があると記載されています(Form 20-F、2025年12月期)。
- 2025年12月期の営業活動によるキャッシュフローは82,764千ポンドの支出、財務活動によるキャッシュフローは127,815千ポンドの収入でした(Form 20-F、2025年12月期)。開発資金は予約ではなく、資金調達で支えられています。
どんな事業か
Vertical Aerospace Ltd.は、英国ブリストルに本社を置き、米国で外国民間発行体として有価証券報告書に相当するForm 20-Fを提出している会社です。電動垂直離着陸機(eVTOL)を開発しており、主力は電動版の機体「Valo」です。あわせて、ハイブリッド電動の派生機の開発も進めています(Form 20-F、2025年12月期)。
同社は、機体を航空会社やリース会社、商社などの運航事業者に販売する構えで、顧客と先行予約や予約オプションの取り決めを結んでいます。資料には、American Airlines、Marubeni、Bristow、Iberojet、Avolon、FLYINGGROUP、Kakao Mobility、JetSetGo、Héli Air Monacoなどが挙げられています。ほかに、Japan AirlinesやGOLからの予約を含むと説明しています(Form 20-F、2025年12月期)。
収益の仕組み
この事例の予約は、個人が少額を払う予約とは性格が異なり、事業者向けの大口で、条件付きの先行予約です。構造は次のように読めます。
- 入り口:顧客が覚書(MoU)の形で、機体の先行予約を表明します。例として、Marubeniは最大200機、American Airlinesは250機の条件付き先行予約と、さらに100機の購入オプションを持つとされています。
- 前払金(PDP):納入枠を確保するための前払金を、顧客から受け取る取り決めがあります。2023年1月にMarubeniから、最初の25機分の納入枠の予約のための前払金を受領しました。American Airlinesも、条件の成立を前提に、最初の50機分の納入枠について前払金を支払うことに合意しています。
- 確定:前払金は、最終的な購入契約(マスター購入契約)で定める機体の購入代金から相殺される扱いが想定されています。ただし、購入契約の締結までは法的拘束力がなく、前払金は一定の状況で全額返金される可能性があります。
つまり、同社の収益は、機体の引渡しの後に生じるもので、現段階の先行予約は、将来の販売の見通しを示すものです(Form 20-F、2025年12月期)。
数字で確かめる
- 先行予約は、4大陸の顧客からの約1,500機です(Form 20-F、2025年12月期)。需要の裾野が広いことが読み取れますが、同社自身が、これらは拘束力のない条件付きの予約だと明記していることも、あわせて読み取れます。
- Marubeniは最大200機の条件付き先行予約のうち、最初の25機分の納入枠について前払金を支払っています(Form 20-F、2025年12月期)。予約のなかでも、お金を払った部分は一部にとどまることが読み取れます。
- American Airlinesの先行予約は250機で、購入オプション100機が付き、最初の50機分の納入枠に前払金が予定されています(Form 20-F、2025年12月期)。予約は、納入枠の確保と購入代金への相殺という形で、段階的に強められていくことが読み取れます。
- 2025年12月期の研究開発費は71,991千ポンド、管理費は53,351千ポンドでした(Form 20-F、2025年12月期)。開発段階の費用が大きく、予約の金額では賄えない規模であることが読み取れます。
- 営業活動によるキャッシュフローは82,764千ポンドの支出、財務活動によるキャッシュフローは127,815千ポンドの収入でした(Form 20-F、2025年12月期)。事業を動かす資金は、主に外部からの調達で確保されていることが読み取れます。
Otsumuの読み解き:なぜ成り立つのか
ここからはOtsumuの考察です。この事例の特徴は、予約が「資金」というより「市場の見通し」を示す役割を持っている点だと読めます。約1,500機という数字は、投資家や部品の供給先、認証当局に対して、需要があることを示す材料になります。一方で、同社自身がその予約の法的拘束力のなさをリスクとして記載しています。予約の数と、確定した売上は別のものだと、事業者自身が区別して扱っていると読めます。
前払金は、予約の強さを一段上げる仕組みだと考えられます。お金を預けた顧客は、納入枠が確保されるため、乗り換えにくくなります。一方で、返金される可能性が残っていると、顧客にとっての負担は軽く、予約を結びやすくなります。強く縛りすぎないことで、予約の数を増やし、そこから前払金を積み上げる、段階的な設計だと考えられます。
この型を自社に持ち帰る場合の注意は、予約の数をそのまま需要や売上の見込みとして扱わないことです。何件が条件付きで、何件が前払いを伴い、何件が契約になったのかを、段階ごとに分けて数えることが大切だと考えられます。
自社事業に持ち帰る問い
- 自社の見込み案件のうち、口頭や覚書の段階にあるものと、前払いや契約に進んだものを、分けて数えているでしょうか。
- 顧客の負担を軽くしながら、予約を一段強くする(納入枠の確保、前払い、相殺など)仕組みは、自社ではどう作れるでしょうか。
- 予約の数が多いことを、仕入先や社内、金融機関にどう説明し、どこまでを「確定」と呼ぶでしょうか。
小さく試すなら
- 自社の見込み案件の一覧を作り、「関心の表明」「条件付きの予約」「前払い済み」「契約済み」の4段階に分類します。
- 各段階の件数と金額を並べ、段階が進むごとにどれだけ減るかを確認します。過去の案件があれば、同じ分類で振り返ります。
- 「条件付きの予約」の顧客のうち数社に、納入枠の確保や、少額の前払い(返金条件付き)を提案する文面を作り、反応を聞きます。契約書や返金条件は、専門家にも確認します。
- 2〜4週間で、提案に応じた顧客の数と、断った理由を整理します。応じる顧客がいれば前払いの範囲を広げ、いなければ予約の条件や価値の伝え方を見直します。
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資料の位置づけ
企業・サービス:Vertical Aerospace Ltd.(英国、米国市場に上場)/eVTOL機体の先行予約。参照資料の対象:2025年12月期 Form 20-F。このページは公開情報にもとづく学習用の分析です。Otsumuの支援実績や当該企業との取引関係を示すものではありません。示唆と検証案はOtsumuの考察であり、企業自身の見解とは区別しています。
参考資料と編集について
上記の公開資料(目論見書・年次報告書・企業の公式発表など)をもとに、Otsumuが執筆しました。数値と企業の説明は資料の記載の範囲にとどめ、Otsumuの考察とは分けています。数値は資料の表記のままで、最新の情報は各社の開示をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.25