業務を自動化したり、システムを入れたりする前に、まず「誰が、どの業務に、どれだけの時間を使っているか」を把握する必要があります。これが業務可視化です。結論から言うと、業務可視化は、調査票による作業時間調査で全体の量を把握し、ヒアリングで中身と理由を掘り下げる、という二段構えで進めるのが効率的です。どちらか一方だけでは、数字はあるが理由が分からない、話は聞いたが全体像がない、という状態になります。
可視化を飛ばして自動化に進むと、目立つ業務や声の大きい人の困りごとから手を付けることになり、実は時間を最も使っている業務が手つかずのまま残ることがあります。また、可視化の結果は、自動化の効果を後から測るときの比較の基準にもなります。
この記事は、業務改善や自動化を検討している事業責任者・業務改善担当の方に向けて、作業時間調査の設計と実施、ヒアリングの進め方、集計と分析の方法、可視化の結果から改善の候補を選ぶまでを、手順とテンプレートの考え方で解説します。
業務可視化とは何をすることか
業務可視化とは、普段は個人の頭の中や日々の作業の中に埋もれている業務の内容、手順、量、担当者を、誰もが見て分かる形に書き出すことです。用語としての整理は業務の可視化の用語ページにまとめています。
可視化で明らかにしたいことは、主に次の四つです。
- 業務の一覧:どのような業務が存在するか
- 業務の量:それぞれの業務に、誰が、どれだけの時間を使っているか
- 業務の流れ:どの順番で、誰から誰へ、何が受け渡されているか
- 業務の課題:どこで時間がかかり、どこでミスや手戻りが起きているか
このうち、業務の一覧と量を把握するのが作業時間調査、流れと課題を掘り下げるのがヒアリングと業務フロー図の役割です。業務を一覧にする作業は業務棚卸しとも呼ばれ、可視化の最初の工程にあたります。
作業時間調査とヒアリングの使い分け
二つの方法には、それぞれ得意なことと苦手なことがあります。
| 観点 | 作業時間調査(調査票) | ヒアリング |
|---|---|---|
| 分かること | 業務ごとの時間の量、担当者ごとの配分 | 手順の詳細、困りごと、例外、理由 |
| 対象人数 | 多くの人を一度に調べられる | 一人ずつ時間をかける必要がある |
| 回答者の負担 | 記録の手間が日々かかる | 一回あたりの時間はかかるが、回数は少ない |
| 結果の形 | 数値で比較・集計できる | 文章やメモで、比較しにくい |
| 弱点 | 記録の粒度がそろわない、記入漏れ | 本人の印象に引きずられる、量が分からない |
| 向いている使い方 | 全体像の把握、優先順位付け | 優先度の高い業務の深掘り |
おすすめの順番は、まず調査票で全体の量を把握し、時間がかかっている業務や担当者による差が大きい業務を特定してから、そこに絞ってヒアリングを行うことです。全員に長時間のヒアリングを行うより、負担が少なく、結果も比較しやすくなります。
業務可視化の進め方:全体の手順
- 目的と範囲を決める:自動化の候補を探すのか、人員配置を見直すのか、目的によって調べる粒度が変わります。対象とする部署と期間を決めます。
- 業務の一覧(業務分類)を作る:調査票で選択肢として使う業務の一覧を、責任者と主要な担当者で作ります。
- 調査票を設計する:記録する項目、記録の単位、記録の方法を決めます。
- 調査の説明をする:目的、記録の仕方、結果の使い方を対象者に説明します。評価に使わないことを明言します。
- 作業時間調査を実施する:一定期間、日々の業務時間を記録してもらいます。
- 集計し、全体像をつかむ:業務ごと、担当者ごとに時間を集計し、偏りや差を見ます。
- 深掘りする業務を選び、ヒアリングを行う:時間が多い業務、担当者による差が大きい業務を中心に話を聞きます。
- 業務フロー図と課題一覧にまとめる:ヒアリングの結果を図と一覧に整理し、関係者で確認します。
- 改善の候補を選ぶ:可視化の結果から、自動化や標準化、廃止の候補を選びます。
調査票の設計:何を、どの粒度で記録するか
業務分類を先に決める
調査票で一番大切なのは、記録する業務の分類です。各自が自由に業務名を書くと、同じ業務が別の名前で記録され、集計できません。事前に業務の一覧を作り、回答者はその中から選ぶ形にします。
業務の一覧は、大分類と小分類の二段階程度にするのが扱いやすい粒度です。たとえば大分類「受注」の下に「注文の受付」「受注データの入力」「在庫の確認」「納期の回答」といった小分類を置きます。細かくしすぎると記録の負担が増え、粗すぎると改善の候補が見えません。小分類の数は、一人の担当者が日常的に選ぶものが十前後に収まる程度を目安にします。
一覧には、必ず「その他」と「会議・打ち合わせ」「移動」「割り込み対応」を入れておきます。どの業務にも当てはまらない時間がどれだけあるかも、重要な情報だからです。
記録する項目
調査票で記録する項目は、次のようなものが考えられます。
- 日付と担当者
- 業務の分類(大分類・小分類)
- 作業時間(開始と終了、または所要時間)
- 処理した件数(受注件数、問い合わせ件数など、数えられるもの)
- 使ったツールやファイル
- 気づいたこと(ミス、手戻り、待ち時間など、任意の一言)
件数を記録しておくと、一件あたりの時間を計算でき、担当者間の差や改善の効果を比較しやすくなります。ただし、項目を増やすほど記録の負担が増え、正確さが落ちます。目的に照らして、必要な項目だけに絞ります。
記録の方法と期間
記録の方法は、表計算ソフトの共有ファイル、入力フォーム、紙の記録票などから、対象者が普段使っているものに合わせて選びます。入力フォームを使うと、選択肢の統一や集計がしやすくなります。
期間は、業務の周期を一回分含むように設定します。月末に請求業務が集中する部署なら、月末を含む期間にしなければ実態とずれます。一般的には、通常の週と繁忙の時期を含む二〜四週間程度で設計することが多いです。
記録の粒度は、十五分や三十分といった区切りで記録してもらう方法が現実的です。分単位の厳密な記録を求めると負担が大きく、続きません。
調査の説明と実施で気をつけること
作業時間調査は、対象者に「監視されている」「評価に使われる」という不安を与えやすい調査です。この不安があると、記録が実態とずれ、調査の意味がなくなります。
実施前の説明では、次の点を伝えます。
- 調査の目的は、業務の負担を減らす方法を探すことであること
- 結果は個人の評価に使わないこと
- 集計は業務単位で行い、個人を比較して責めることはしないこと
- 記録の仕方と、迷ったときの記録のルール
- 記録にかかる時間の目安と、記録を忘れたときの対応
調査期間中は、推進担当者が数日おきに記録の状況を確認し、記入漏れや分類の迷いがあれば早めにフォローします。最初の数日で分類の迷いが多く出る場合は、業務一覧を修正することもあります。
ヒアリングの進め方:中身と理由を掘り下げる
対象と順番を決める
作業時間調査の集計結果から、ヒアリングの対象を選びます。対象になりやすいのは次のような業務です。
- 合計の時間が多い業務
- 一件あたりの時間が担当者によって大きく異なる業務
- 「気づいたこと」にミスや手戻りの記録が多い業務
- 特定の担当者だけが行っている業務
ヒアリングで聞くこと
一回のヒアリングは、一つか二つの業務に絞り、一時間程度を目安にします。次のような流れで聞くと、抜け漏れが少なくなります。
- 業務の始まりと終わり(何を受け取って始まり、何を渡して終わるか)
- 手順を順番に(実際の画面や書類を見せてもらいながら)
- 各工程で使うツール、参照する資料、判断の基準
- 時間がかかる工程と、その理由
- ミスや手戻りが起きやすい工程と、起きたときの対応
- 普段と違う対応が必要になるケース(例外)と、その頻度
- 本人が「こうなれば楽になる」と考えていること
聞き方のコツ
- 「普段はどうしていますか」と、実際の行動を聞きます。「本来はどうあるべきですか」と聞くと、理想の手順が返ってきて実態とずれます。
- 実物を見せてもらいます。画面や書類を見ると、言葉では出てこない手順や工夫が見えます。
- 数字で確認します。「時間がかかる」と言われたら、どのくらいか、調査票の結果と照らし合わせます。
- 改善策をその場で約束しません。期待だけが先行すると、後で失望につながります。
ヒアリングで聞いた手順は、業務フロー図にまとめると関係者で共有しやすくなります。書き方は業務フロー図の書き方:システム化の前に現状を可視化する手順で詳しく解説しています。
集計と分析:可視化の結果から何を読み取るか
調査票の結果は、次の切り口で集計します。
- 業務別の合計時間:部署全体として、どの業務に最も時間を使っているか
- 担当者別の業務配分:誰がどの業務に時間を使っているか、特定の人に偏っていないか
- 一件あたりの時間:同じ業務で担当者による差がどれだけあるか
- 時期による変動:月末や特定の曜日に集中する業務はあるか
- その他・割り込みの割合:分類できない時間や、割り込みで中断される時間がどれだけあるか
集計結果を見るときは、時間の多さだけで判断しないことが大切です。時間が多くても、顧客との対話など価値を生む業務であれば、減らすべき対象ではありません。逆に、時間は少なくても、ミスが起きたときの影響が大きい業務は、改善の優先度が高くなります。
業務を、ルールに沿って繰り返し行う定型業務と、状況に応じて判断が必要な非定型業務に分けて見ると、自動化の候補が見えやすくなります。考え方は定型業務・非定型業務の用語ページで整理しています。
可視化の結果から改善の候補を選ぶ
可視化が終わったら、結果を改善の候補選びにつなげます。業務ごとに、次のどの手段が当てはまるかを検討します。
| 状態 | 考えられる手段 |
|---|---|
| 誰のためにやっているか分からない、結果が使われていない | 業務そのものをやめる |
| 似た業務が複数の部署で重複している | 業務をまとめる |
| 担当者によって手順や時間に差がある | 手順をそろえる(標準化) |
| 転記や照合など、ルールが明確な繰り返し作業 | ツールや自動化で置き換える |
| 判断が必要だが、情報が散らばっていて時間がかかる | 情報を集約する仕組みを作る |
| 特定の担当者にしかできない | 手順の文書化と、複数人で担える体制づくり |
いきなり自動化を考えるのではなく、やめる、まとめる、そろえる、を先に検討する方が、少ない費用で効果が出ることがよくあります。この「なくす・まとめる・入れ替える・簡単にする」の順で検討する考え方は、ECRS(改善の4原則)とも呼ばれます。担当者ごとの差をそろえる進め方は業務標準化の進め方:担当者ごとに違うやり方をそろえる手順で、自動化の候補の優先順位の付け方は自動化すべき業務の見つけ方:頻度・時間・ルールで優先順位を付けるで解説しています。
架空の例:カスタマーサポート部門の可視化
ここでは、架空のサービス会社のカスタマーサポート部門を想定します。五人の担当者が、問い合わせ対応、契約変更の手続き、請求に関する確認などを行っており、「とにかく忙しい」という声が上がっていました。
業務一覧を作り、三週間の作業時間調査を行ったところ、問い合わせ対応そのものよりも、問い合わせ内容を社内の管理表に転記し、関係部署に連絡する作業に多くの時間が使われていることが分かりました。また、契約変更の手続きは担当者によって一件あたりの時間に大きな差がありました。
契約変更の手続きについてヒアリングを行うと、時間がかかる担当者は、変更内容を三つの画面で確認し直していることが分かりました。一方、時間が短い担当者は、確認を一つの画面で済ませる方法を知っていました。この結果から、改善の候補として「問い合わせ内容の転記と連絡の自動化」と「契約変更手続きの手順の標準化」の二つが挙がりました。
部門の責任者は、まず効果が分かりやすく関係者の少ない手順の標準化から着手し、並行して転記と連絡の自動化の要件を整理することにしました。可視化の段階で記録した一件あたりの時間は、改善後に同じ方法で再調査し、効果を確かめるための基準として保存しておきます。「忙しい」という漠然とした声が、具体的な業務と時間に置き換わったことで、改善の議論が進めやすくなった例です。
可視化の結果を関係者と共有し、合意をつくる
可視化の結果は、まとめた担当者だけが理解していても役に立ちません。改善の候補を実行に移すには、現場の担当者、部署の責任者、経営者のそれぞれが同じ事実を見て、何から手を付けるかに合意している必要があります。
報告は「事実」と「解釈」を分ける
報告資料では、調査で分かった事実(業務ごとの時間、担当者ごとの配分、ヒアリングで聞いた手順)と、そこから読み取った解釈(どこに無駄がありそうか、何を改善すべきか)を分けて示します。混ぜてしまうと、解釈に納得できない人が事実まで疑い、議論がかみ合わなくなります。
現場に結果を返す
調査に協力した担当者には、集計結果を必ず共有します。自分たちの記録がどう使われたのかが分かると、次の調査や改善の取り組みにも協力してもらいやすくなります。結果を見た担当者から「この業務の時間は繁忙期だけ多い」「この分類には別の作業も含まれている」といった補足が出ることもあり、結果の精度を上げる機会にもなります。
決めることを明確にした場を設ける
報告の場では、「どの改善候補から着手するか」「誰が担当するか」「いつまでに何をするか」を決めることを目的にします。結果を共有するだけの場にすると、関心は集まっても行動につながりません。
業務可視化のチェックリスト
- 可視化の目的と対象範囲(部署・期間)が決まっている
- 業務の一覧が大分類と小分類で作られ、「その他」「割り込み」などが含まれている
- 調査票の項目が目的に照らして必要なものに絞られている
- 調査期間が業務の周期(月末など)を含んでいる
- 対象者に目的と、評価に使わないことを説明している
- 調査期間中に記録の状況を確認し、フォローしている
- 業務別・担当者別・一件あたりの時間で集計している
- 時間の多さだけでなく、ミスの影響や業務の価値も考慮している
- 優先度の高い業務に絞ってヒアリングを行っている
- ヒアリング結果を業務フロー図と課題一覧にまとめ、関係者で確認している
- 改善の候補を、やめる・まとめる・そろえる・自動化するの観点で検討している
- 可視化の結果を、改善後の効果測定の基準として保存している
よくある失敗とその避け方
調査票の項目を増やしすぎる
知りたいことを全部入れると、記録の負担が大きくなり、途中から記録が雑になります。目的に必要な項目に絞り、迷ったら削ります。
業務の分類があいまいなまま始める
分類があいまいだと、同じ業務が別の分類で記録され、集計結果が信用できなくなります。事前に主要な担当者と分類を確認し、迷いやすい業務には記録のルールを決めておきます。
結果を個人の評価に使ってしまう
一度でも評価に使われると、次からは誰も正直に記録しなくなります。集計は業務単位で行い、担当者間の差は「手順の違い」として扱います。
可視化して終わる
可視化そのものが目的になり、立派な資料ができたところで止まってしまうことがあります。可視化を始める前に、結果を使って何を決めるのかを決めておき、改善の候補を選ぶところまでを一続きの取り組みとして計画します。
よくある質問
Q. 作業時間調査は全員に行う必要がありますか?
対象部署の業務を担っている人は、できるだけ全員に記録してもらう方が、全体像が正確になります。人数が多い場合は、業務の種類ごとに代表者を選ぶ方法もありますが、担当者による差が見えにくくなる点に注意が必要です。
Q. 業務の記録を自動で取る方法はありますか?
パソコンの操作ログや、業務システムの処理履歴から時間を推計する方法もあります。ただし、電話や打ち合わせ、紙の作業など、パソコンの外で行う業務は記録できません。自動の記録は補助として使い、調査票と組み合わせるのが現実的です。
Q. 可視化にはどのくらいの期間が必要ですか?
業務一覧と調査票の準備、二〜四週間程度の調査、集計とヒアリング、まとめを合わせると、一つの部署で一〜二か月程度を見込むことが多いです。目的を絞り、対象を一つの部署から始めると、早く結果を得られます。
Q. 可視化の結果は、どのくらいの頻度で更新すべきですか?
業務の内容や担当者が大きく変わったとき、または改善を行った後に、効果を確かめる目的で同じ方法で再調査するのがおすすめです。改善前と同じ業務分類で調べると、比較がしやすくなります。
Otsumuに相談できること
対象が一つの部署で、業務の種類がそれほど多くなく、推進担当者が調査票の作成と集計に時間を割けるのであれば、この記事の手順で自社だけで業務可視化を進めることは十分可能です。まずは業務の一覧を作るところから始めてみてください。
一方で、複数の部署にまたがる業務を可視化したい、可視化の結果をもとに自動化やシステム化の範囲まで決めたい、社内で行うと担当者が本音を話しにくい、といった場合は、外部の第三者が調査とヒアリングを担う方が、早く正確に結果を得られることがあります。
Otsumuの自社サービス運用の自動化コンサルティングでは、業務一覧と調査票の設計、作業時間調査の実施と集計、ヒアリング、改善の候補選びから、自動化の設計と実装、効果の測定までを一貫して支援しています。可視化を目的にせず、改善につながる結論を出すことを重視しています。
どの部署から手を付けるべきか、どこまで調べればよいかの相談だけでも構いません。30分の無料相談からお気軽にご連絡ください。
この記事について
Otsumu株式会社が執筆しました。統計値や他社の事例には依拠せず、進め方と判断の枠組みを中心にまとめています。法務・税務・会計などの制度は、専門家や公的窓口で最新の情報をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.01