分類:企業事例 › ソフトウェア・SaaS
この事例の要点
- HashiCorpは、Terraform、Vault、Consul、Nomadといった製品の中核部分をオープンソースで開発し、無償でダウンロードできる状態にしています。有償のサブスクリプションには、独自機能のライセンス、サポート、クラウド提供が含まれます。
- 自社運用型の契約は、一定期間の利用権と保守サポートの組み合わせで、サポートは単独では販売していないと説明しています。
- 2023年8月には、今後公開する主要製品のソースコードのライセンスをBusiness Source License(BSL)に変更しました。同社は、このライセンスが自社の商用製品と競合する目的での利用に制限を設けるものだと説明し、開発者からの評価に影響しうるリスクも併せて記載しています。
どんな事業か
HashiCorp, Inc.は米国デラウェア州で設立され、サンフランシスコに本社を置く企業で、ナスダック・グローバル・セレクト市場に上場していました(Form 10-K、2024年1月期)。クラウド環境の構築・運用を支えるソフトウェアを提供しています。主力製品は、インフラをコードで管理するTerraform、機密情報を管理するVault、ネットワーク接続を管理するConsul、ワークロードを管理するNomadです(Form 10-K、2024年1月期)。
同社は、全製品の中核がオープンソースで開発されていると説明しています。利用者がフィードバックを返し、機能を提案し、不具合を直せる点が、普及と標準化の力になるという位置づけです。ソフトウェアは主に利用者が自分で運用する形で使われ、完全マネージド型のHashiCorp Cloud Platform(HCP)も提供しています(Form 10-K、2024年1月期)。
収益の仕組み
- 入り口:オープンソースの製品は無償で配布され、スタートアップから大企業まで幅広く使われていると説明しています。ユーザーグループ(HUG)は180超の支部、51,000人超の会員を持つとしています。
- 課金:自社運用型のサブスクリプションは、独自機能のライセンスと、保守サポートを期間契約で組み合わせます。クラウド提供の「HCP」は、運用をHashiCorpに任せるサービスです。
- 拡大:2022年3月に始めたHashiCorp Flexという価格プログラムは、利用量に応じた課金を可能にし、利用を自然に広げる狙いがあると説明しています。
数字で確かめる
- 2024年1月期の売上高は583,137千ドルで、前年から23%増えました。サブスクリプションが564,646千ドル(97%)です(Form 10-K、2024年1月期)。売上のほぼ全体が継続型であることが読み取れます。
- サブスクリプションの内訳は、ライセンス67,612千ドル(12%)、サポート420,948千ドル(72%)、クラウド提供76,086千ドル(13%)です(Form 10-K、2024年1月期)。サポートが収益の中心で、クラウドは前年の10%から13%へ高まっていることが読み取れます。
- 年間経常収益(ARR)が10万ドル以上の顧客は897社で、前年度の798社から増えました。この層が売上の89%を占めます(Form 10-K、2024年1月期)。無償で広がった利用が、少数の大口顧客に支えられた売上になっていることが読み取れます。
- 直近4四半期平均の純拡大率は115%でした。前年度は131%です(Form 10-K、2024年1月期)。既存顧客の拡大は続く一方、伸び率は低下していることが読み取れます。
- 純損失は190.7百万ドルでした(Form 10-K、2024年1月期)。普及に向けた投資が先行し、事業が採算に至っていないことが読み取れます。
Otsumuの読み解き:なぜ成り立つのか
ここからはOtsumuの考察です。この事例で大切なのは、無償の公開が「広告費の代わり」ではなく、技術者の習慣と標準をつくる仕組みとして働いている点です。多くの技術者が無償で使い慣れた製品は、会社の導入判断のとき、有償の窓口が自然と選ばれやすくなります。
一方で、有償の価値を保つ設計には緊張があります。無償部分が十分に良いと有償に移る理由が弱くなり、競合が無償部分を使ってサービスを作ることもできます。2023年のライセンス変更は、この緊張に対する同社の対応の一つと読めます。ただし、同社自身も、既存の公開版は引き続き競合が使えることや、開発者コミュニティの評価への影響を、リスクとして記載しています。
売上が少数の大口顧客に集まる構造は、営業・サポートの密度を高める必要があることも示します。無償の利用者は多くても、収益を生むのは「責任を持って運用したい」組織だと考えられます。
自社事業に持ち帰る問い
- 自社の無償提供は、見込み客の習慣や標準をつくっているか、それとも単に利益を減らしているか。
- 有償に移る理由は、機能・サポート・運用の手間のうち、どこに置くのが最も納得されやすいか。
- 収益が少数の大口顧客に集まるとき、その顧客に必要な窓口や対応を、いま用意できているか。
小さく試すなら
- 自社の無償資料・ツール・体験版の利用者数と、そこから問い合わせに至った件数を、直近3か月分で集計します。
- 問い合わせてくれた相手に、無償部分で足りなかったことを聞き、有償の候補(機能・サポート・運用代行)を3つ書き出します。
- 候補のうち一つを、期間契約の形(例:月額+保守対応)で、2〜3社に提示します。
- 2〜4週間で、返事の内容を整理し、無償と有償の線をどこへ引くか、仮の案を一つ決めます。
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資料の位置づけ
企業・サービス:HashiCorp, Inc. / Terraform・Vault・HCP。参照資料:Form 10-K(2024年1月期)。このページは公開情報にもとづく学習用の分析です。Otsumuの支援実績や当該企業との取引関係を示すものではありません。示唆と検証案はOtsumuの考察であり、企業自身の見解とは区別しています。
参考資料と編集について
上記の公開資料(目論見書・年次報告書・企業の公式発表など)をもとに、Otsumuが執筆しました。数値と企業の説明は資料の記載の範囲にとどめ、Otsumuの考察とは分けています。数値は資料の表記のままで、最新の情報は各社の開示をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.25