← 企業事例

OTSUMU KNOWLEDGE

Riskified「Chargeback Guarantee」に学ぶ不正の損失を引き受けるAI事業の設計

イスラエル法人Riskifiedが、ECの注文を審査し、承認した注文の不正損失を自社で引き受けて手数料を得る仕組みを、年次報告書(Form 20-F、2025年12月期)から整理した事例です。

この事例の要点

  • Riskifiedは、ECの注文をAIで審査し、承認した注文について不正による損失(チャージバック)を同社が負担する「Chargeback Guarantee」を主力にしています(Form 20-F、2025年12月期)。
  • この料金は、承認した注文の取引額(GMV)に対する割合で、販売者ごとのリスクに応じて決まる価格です。審査の精度が、そのまま同社の損益に結びつく設計になっています(Form 20-F)。
  • 売上の約4割は、補償の引き受けにあたる部分として会計処理されています。AIの判断に対して、同社自身が結果責任を持つ点が特徴です(Form 20-F)。

どんな事業か

Riskified Ltd.は、イスラエルの法律に基づく法人で、主たる事務所は米国ニューヨークに置いています。Class A普通株式は米国のニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場しています(Form 20-F、2025年12月期)。同社は、AIを活用したEC向けのリスク判断のプラットフォームを提供しています。

同社は、注文ごとに数百の属性を分析してリアルタイムで判断し、その判断の結果に責任を負うと説明しています。具体的には、承認した注文にかかる不正の費用を同社が引き受け、あわせてChargeback Guaranteeの契約者には、販売者が自力で得られるより高い最低限の承認率を契約で約束します。販売者のEC、決済、配送、返品、顧客管理などのシステムに深く連携してデータを取得する、とも記載されています(Form 20-F)。

収益の仕組み

Form 20-Fによれば、収益は主にChargeback Guaranteeから生じます。ほかの製品の課金も含め、構造は次のとおりです。

  • 入り口:販売者のEC・決済などのシステムに連携し、注文ごとにAIが承認・否認を判断します。
  • 課金(Chargeback Guarantee):承認した取引額(GMV)に対する割合で表されるリスク調整後の価格です。販売者の種類、注文の構成、過去の不正の水準、地域や業種のリスク、約束した承認率などで決まり、契約の開始時に確定します。
  • 課金(その他):Policy Protectは、通常は1取引当たりの固定料金です。Chargeback Managementは、月額のプラットフォーム料金に、代理申立てを行う場合の取引ごとの料金が加わります。
  • 継続:同社は、販売者の基幹システムへの深い連携を通じて取引データを取得すると説明しています。

数字で確かめる

  • 2025年の売上高は344.6百万ドルで、2024年は327.5百万ドル、2023年は297.6百万ドルでした(Form 20-F)。毎年、売上が増えていることが読み取れます。
  • 2025年に同社のAIプラットフォームを使う販売者が処理した注文の総額(GMV)は1,551億ドルで、2024年の1,412億ドルから増えました(Form 20-F)。審査の対象となる取引額が拡大していることが読み取れます。
  • 補償(インデムニティ・ギャランティ)に当たる売上は、2025年が142.4百万ドルで売上の41%を占めました。2024年は139.3百万ドル(43%)、2023年は130.3百万ドル(44%)です(Form 20-F)。売上の4割余りを、損失の引き受けに対する対価が占めていることが読み取れます。
  • 売上総利益率は、2025年・2024年とも52%でした。チャージバック対請求比率(CTB比率)は2025年に42%で、前年の40%から上がりました(Form 20-F)。加盟する販売者の構成により、損失率と採算が動くことが読み取れます。
  • 2025年の純損失は27.6百万ドルで、2024年の34.9百万ドル、2023年の59.0百万ドルから縮小しました(Form 20-F)。赤字の幅が小さくなってきていることが読み取れます。

Otsumuの読み解き:なぜ成り立つのか

ここからはOtsumuの考察です。この事例の核は、AIによる判断を「ツール」として売るのではなく、判断の結果に対する損失を引き受ける「成果連動」の契約として売っている点だと読めます。販売者から見れば、不正対策の精度が高いかどうかを自分で評価しなくても、損失が減るなら払う、という分かりやすい取引になります。

一方で、同社は審査の精度がそのまま利益に跳ね返る立場に立ちます。2025年にCTB比率が42%へ上がり、新しい業種の販売者の受け入れが損失費用を押し上げたと説明されているように、客の組み合わせ次第でリスクが変わります(Form 20-F)。価格をリスクに応じて調整し、承認率の水準を継続的に点検する運営が、設計の一部になっていると考えられます。

この型は、判断の質に自信があり、結果を計測できる領域で成り立ちやすい一方、データの質や前提が崩れると損失が直接発生する点がトレードオフです。

自社事業に持ち帰る問い

  • 自社が提供している「判断」や「診断」の結果に対して、責任の一部を引き受けるとしたら、何を条件に契約できるでしょうか。
  • 結果を計測できるデータは、顧客のどのシステムから得られるでしょうか。
  • 損失が大きくなりやすい顧客の条件は、料金やお断りの基準にどう反映できるでしょうか。

小さく試すなら

  1. 過去の案件や取引を10〜20件ほど取り出し、自社の判断が外れて顧客に損失が出た例と、その金額を整理します。
  2. 外れた割合を見積もり、損失の一部を自社が負担すると仮定したとき、料金をいくら上げれば採算が合うかを計算します。
  3. 顧客2〜3社に、固定料金の案と、成果連動で責任を分け合う案を並べて見せ、どちらを選ぶか、条件は何かを聞きます。
  4. 2〜4週間のうちに、負担の上限を小さく決めたうえで1社と試行し、損失の実績と顧客の反応を記録します。

関連するビジネスモデル

資料の位置づけ

企業・サービス:Riskified Ltd. / Chargeback Guarantee(EC向けリスク判断)。参照資料:Form 20-F(2025年12月期)。このページは公開情報にもとづく学習用の分析です。Otsumuの支援実績や当該企業との取引関係を示すものではありません。示唆と検証案はOtsumuの考察であり、企業自身の見解とは区別しています。

参考資料と編集について

上記の公開資料(目論見書・年次報告書・企業の公式発表など)をもとに、Otsumuが執筆しました。数値と企業の説明は資料の記載の範囲にとどめ、Otsumuの考察とは分けています。数値は資料の表記のままで、最新の情報は各社の開示をご確認ください。

執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.25

あわせて読む

次の一手を、一緒に。

事業の検証から開発・運用まで、現在の段階に合わせて支援します。

事業について相談する ↗
FROM KNOWLEDGE TO ACTION

知識を、次の一手へ。

AIツール診断で、次の一手を整理する ↗