この事例の要点
- VinFast Auto Ltd.は、ベトナムを拠点に電気自動車(EV)と電動スクーターを製造・販売しています。EVに専念し、2022年にガソリン車の生産をやめました(Form 20-F、2025年12月期)。
- 2025年のEV納車は196,919台で、前年から102%増えました。収益は90,178.6十億ベトナムドン(前年比104.9%増)でしたが、純損失は99,582.8十億ベトナムドンでした(Form 20-F、2025年12月期)。
- 購入方法として、車両とバッテリーを一緒に買う方法のほか、バッテリーを月額で借りる方法も用意していました。ただしベトナムでは、2025年3月1日以降、新規顧客への提供を終了しています(Form 20-F、2025年12月期)。
どんな事業か
VinFast Auto Ltd.はシンガポールで設立された企業で、本社の所在地はベトナムのハイフォン市です。米国の市場に上場し、SECにForm 20-Fを提出しています。2017年にベトナムで事業を始め、親会社グループのVingroupと創業者が株式の大半を持つと記載しています(Form 20-F、2025年12月期)。
ベトナム、インドネシア、フィリピン、インドなどのアジアのほか、中東、米国、カナダ、欧州にも納車しています。2025年は、ベトナム、インドネシア、インドを含む4つの工場で車両の生産を行い、年間の生産能力は合計で約600,000台と説明しています(Form 20-F、2025年12月期)。
収益の仕組み
収益は車両販売が中心で、リースやサービスが加わります。
- 入り口:低めの価格帯の車種(VF 3、VF 5など)を用意し、「より広い人に電動車を」という方針を掲げています。2025年は、VF 3が46,977台、VF 5が44,128台などでした。
- 課金:車両販売のほか、バッテリーのサブスクリプション(月額の固定料金、または走行距離に応じた変動料金)、車両・スクーターのレンタル、充電設備のリースがあります。
- 継続:スペアパーツ・部品の販売が、車の台数に応じて積み上がります。ベトナムでは一定の期間、無料充電プログラムも提供しています。
数字で確かめる
- 2025年の収益は90,178.6十億ベトナムドンで、2024年の44,019.0十億ベトナムドンから104.9%増えました。うち車両販売は84,594.7十億ベトナムドン、その他の収益・サービスは5,583.9十億ベトナムドンです(Form 20-F、2025年12月期)。収益の大半が車の販売であることが読み取れます。
- 2025年のEV納車196,919台のうち、ベトナム国内は175,099台でした。ベトナムの乗用車市場での占有率は、同社の推計で約36%(2024年は約22%)です(Form 20-F、2025年12月期)。事業が国内市場に集中していることが読み取れます。
- 売上総利益は40,910.5十億ベトナムドンのマイナスで、粗利益率はマイナス45.4%でした。前年のマイナス57.4%からは改善しています(Form 20-F、2025年12月期)。規模が増えると損失率は縮まっていますが、まだ原価が売上を上回っていることが読み取れます。
- 純損失は2023年に60,250.3十億ベトナムドン、2024年に77,354.9十億ベトナムドン、2025年に99,582.8十億ベトナムドンです。2025年12月末は流動負債が流動資産を79,319.2十億ベトナムドン上回っていました(Form 20-F、2025年12月期)。損失が続き、資金調達への依存が大きいことが読み取れます。
- 2017年から2025年12月までに、Vingroup、その関連会社、外部の貸し手が、約17.0十億米ドルを同社の運営費と設備投資のために投じたと記載しています。また2025年のEV納車の27.3%は、同社の関連当事者向けでした(Form 20-F、2025年12月期)。親会社グループの資金と販売網に支えられていることが読み取れます。
Otsumuの読み解き:なぜ成り立つのか
ここからはOtsumuの考察です。この事例は、普及の初期に「買う側の初期負担を下げる」仕組みを重ねた設計だと読めます。バッテリーは車両価格の大きな部分を占めるため、車両本体と分けて月額で借りられるようにすれば、購入時の金額を抑えられます。同社は、これを低価格のバッテリーが普及するまでのつなぎの施策と位置づけています。ベトナムで新規提供をやめたのは、バッテリー込みで買う顧客が増えたためと説明しており、段階に応じて売り方を変えていることが読み取れます。
もう一つの特徴は、事業が親会社グループの資金、販売、充電、サービスの網に支えられている点です。グループ内の会社が車を売り、充電設備や移動サービスを担う構造は、需要を作る力になる一方、会社単体の収益力が見えにくくなります。資料でも、関連当事者への販売や資金支援が、リスク要因として並べられています。
留意点は、粗利益率がマイナスで、純損失が大きいことです。急成長が、そのまま持続可能な収益につながるとは限りません。規模の拡大で原価が下がるかが、今後の確認点だとOtsumuは考えます。
自社事業に持ち帰る問い
- 初期費用が高くて買われない商品があるとき、一部を月額に分けて負担を下げられないか。
- グループや提携先に頼った売上の割合は、どの程度で、外部の顧客に広げる計画はあるか。
- 売り方(一括、月額、リース)を、普及の段階に応じて見直す基準を決めているか。
小さく試すなら
- 1週目:主力商品の価格を、初期費用・継続費用・更新費用に分解し、顧客が最も重いと感じそうな部分を特定する。
- 2週目:その部分を月額や分割に置き換えた場合の、顧客の総支払額と自社の回収期間を試算する。
- 3週目:既存の見込み客や顧客5〜10社に、新しい支払い方法の案を見せて反応を聞く。
- 4週目:反応の良かった案について、対象を絞った試験提供の条件(期間、対象、解約条件)を決める。
関連するビジネスモデル
資料の位置づけ
企業・サービス:VinFast Auto Ltd.「EVとバッテリーのサブスクリプション」(ベトナム、シンガポール法人)。参照資料:Form 20-F(2025年12月期)。このページは公開情報にもとづく学習用の分析です。Otsumuの支援実績や当該企業との取引関係を示すものではありません。示唆と検証案はOtsumuの考察であり、企業自身の見解とは区別しています。
参考資料と編集について
上記の公開資料(目論見書・年次報告書・企業の公式発表など)をもとに、Otsumuが執筆しました。数値と企業の説明は資料の記載の範囲にとどめ、Otsumuの考察とは分けています。数値は資料の表記のままで、最新の情報は各社の開示をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.25