ベクトル検索とは
ベクトル検索とは、検索対象のデータと検索したい内容をそれぞれ数値の並び(ベクトル)に変換し、ベクトル同士の近さを計算して、意味が近いものを探し出す検索方法です。
従来のキーワード検索は「入力した言葉が含まれているか」で探しますが、ベクトル検索は「入力した内容と意味が近いか」で探します。たとえば「経費の立て替えをしたときの手続き」と入力したとき、文書に「立替精算の申請方法」としか書かれていなくても見つけ出せるのが、ベクトル検索の強みです。
ベクトルへの変換には埋め込み(エンベディング)モデルを使います。意味に基づいて探すという考え方そのものは「セマンティック検索」と呼ばれ、ベクトル検索はそれを実現する代表的な技術です。
仕組み・ポイント
ベクトル検索は、次の二つの段階で動きます。
- 準備:検索対象の文書を分割し、埋め込みモデルでベクトルに変換して保存しておく
- 検索:入力された質問を同じモデルでベクトルに変換し、保存されたベクトルの中から近いものを上位から取り出す
近さの計算にはコサイン類似度やドット積、ユークリッド距離などが使われます。データが大量になると全件の計算に時間がかかるため、多くの製品では近似的に高速に探す仕組みが使われています。
| 比較の観点 | キーワード検索 | ベクトル検索 |
|---|---|---|
| 探し方 | 言葉の一致 | 意味の近さ |
| 言い換え・表記揺れ | 苦手(辞書の整備が必要) | 得意 |
| 型番・固有名詞・数値 | 得意 | 苦手な場合がある |
| 検索結果の理由の説明 | 分かりやすい | 分かりにくい |
| 準備の手間 | 比較的少ない | ベクトル化と保存の仕組みが必要 |
実務での使い方・具体例
ベクトル検索は、生成AIが社内文書を参照して回答するRAGの中核として使われることが多い技術です。ほかにも次のような用途があります。
- FAQ検索:利用者の言い回しが多様でも、適切なFAQを候補として表示する
- 類似事例の検索:過去のトラブル報告や問い合わせ履歴から、似た事例を探す
- 商品の推薦:商品説明やレビューの意味が近い商品を提示する
- 社内人材の検索:職務経歴の記述から、条件に近い経験を持つ人を探す
たとえば架空の設備メンテナンス会社で、作業員が「ポンプから異音がして圧力が下がる」と入力すると、過去の修理報告の中から「吐出圧低下と振動音」などと書かれた事例を見つけ出せます。言葉が一致しなくても、似た状況を探せるのがポイントです。
一方、「部品番号A-1234の在庫」を探すような場面では、ベクトル検索だけだと似た番号の別部品が上位に来ることがあります。こうした場面では、キーワード検索と組み合わせるハイブリッド検索や、取り出した候補を並べ替えるリランキングを使うのが一般的です。
精度を確かめる際は、想定される質問と「正解となる文書」の組を数十件ほど用意し、上位に正解が入るかを確認する評価の仕組みを作っておくと、改善の効果を比べやすくなります。
導入時は、次の点を設計段階で決めておくと手戻りが減ります。
- 何件の候補を取り出して生成AIに渡すか(多すぎるとノイズ、少なすぎると取りこぼし)
- 類似度がどの値以下なら「該当なし」と扱うか
- 文書が追加・改訂されたとき、いつ、どの手順でベクトルを更新するか
- 検索に使われた文書と類似度をログに残し、後から誤回答の原因を追えるようにするか
また、利用者が実際に入力した質問と、そのときに選ばれた文書を定期的に見直すことも効果的です。「よく聞かれるのに正しい文書が出てこない質問」が見つかれば、文書の追記や分割方法の変更、同義語の補足など、具体的な改善策につなげられます。
文書の量が少ないうちは、ベクトル検索を使わずに全文を渡す方が早く作れる場合もあります。文書の量と増え方を見て、導入の時期を判断します。
よくある誤解と注意点
- 「意味で探せる=必ず正しい文書が見つかる」わけではない:似た話題の別の文書が上位に来ることはよくあります。評価用の質問セットで精度を確かめます。
- 文書の分割単位が精度を左右する:長すぎると論点がぼやけ、短すぎると文脈が失われます。チャンクの設計が重要です。
- 「近いもの」は必ず返ってくる:該当する文書がなくても、相対的に近いものが返されます。類似度の下限を設け、見つからない場合の振る舞いを決めておきます。
- 権限による絞り込みを忘れない:閲覧権限のない文書が検索結果に入らないよう、検索時に条件で絞ります。
関連用語
- 埋め込み(エンベディング):文章をベクトルに変換する技術
- ベクトルデータベース:ベクトルの保存と高速検索に特化したデータベース
- セマンティック検索:意味に基づく検索の考え方
- ハイブリッド検索:キーワード検索とベクトル検索の組み合わせ
- リランキング:検索結果を精度の高い方法で並べ替える処理
精度改善の進め方は「RAGの回答精度を改善する方法」で解説しています。
Otsumuに相談できること
「社内の検索で欲しい文書が見つからない」「RAGで的外れな文書を参照してしまう」といった課題は、検索方式の組み合わせと評価の仕組みを整えることで改善できる余地があります。OtsumuはRAG開発を中心に、検索精度の評価と改善まで含めて支援しています。
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執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.01