マッチングサービスの立ち上げで多くの事業が直面するのが、「提供者がいないから利用者が来ない、利用者がいないから提供者が集まらない」という鶏と卵の問題です。この問題を解く基本の考え方は、両方を同時に集めようとせず、まず片側(多くの場合は提供者側)を先に集めること、そして対象とする地域や業種、利用場面を思い切って絞り、狭い範囲で「探せば見つかる」状態を作ることです。システムの開発は、その狭い範囲で取引が回ることを確かめるための最小限に抑え、足りない部分は運営の手作業で補います。
この記事は、マッチングサービスやマーケットプレイス型の新規事業を立ち上げようとしている起業家、事業責任者、既存事業の顧客を活かして新しいマッチングの仕組みを作ろうとしている企業の担当者に向けて書いています。鶏卵問題が起きる理由、どちらの側から集めるかの判断、範囲の絞り方、初期の流動性を作る具体的な方法、そしてそれに合わせた開発範囲の決め方を説明します。
読み終えたときに、自社のマッチングサービスでどちらの側から、どの範囲で集め始めるか、そのために最初に作るシステムはどこまでかを決められることを目指しています。
マッチングサービスの立ち上げで鶏卵問題が起きる理由
マッチングサービスの価値は、利用者が探したときに、条件に合う相手が見つかることにあります。この「探せば見つかる」状態を、取引の成立しやすさという意味で流動性と呼ぶことがあります。流動性が高いサービスほど利用者は満足し、また使いたいと考えます。
ところが、立ち上げ直後のサービスには相手がほとんどいません。利用者が検索しても誰も見つからなければ、二度と戻ってこないでしょう。提供者の側も、利用者が来ないサービスに時間をかけて掲載しようとは思いません。どちらも「相手が多いなら参加する」と考えるため、どちらも最初の一歩を踏み出さない状態が生まれます。これが鶏卵問題です。
一般的な商品やサービスであれば、商品そのものの良さで最初の顧客を獲得できます。マッチングサービスでは、商品の価値が相手の数に依存するため、システムをいくら作り込んでも、それだけでは価値が生まれません。立ち上げの課題は、開発よりも参加者の集め方にあります。
この構造は、売り手と買い手が集まるマーケットプレイス型の事業に共通するものです。いったん参加者が十分に集まれば、相手が多いことがさらに参加者を呼び込む好循環が生まれますが、その手前の段階では、自然に参加者が増えることはほとんど期待できません。だからこそ、立ち上げ期には、運営が意図的に片側を集め、狭い範囲に参加者を集中させるといった、規模が大きくなってからは行わないような手間のかかる取り組みが必要になります。最初の段階の取り組みは効率が悪く見えますが、好循環が始まるまでの助走として割り切ることが大切です。
どちらの側から集めるか:判断の基準
鶏卵問題を解くには、両方の側を同時に集めようとせず、どちらか一方を先に集めます。多くの場合は提供者の側(出品者、サービスの提供者、求人を出す企業など)から集めるのが定石とされますが、サービスによっては逆の方がよいこともあります。次の表を目安に判断します。
| 判断の観点 | 提供者から集める方がよい場合 | 利用者から集める方がよい場合 |
|---|---|---|
| 価値の感じ方 | 利用者が選択肢の多さに価値を感じる | 提供者が利用者の数や質に価値を感じる |
| 集めやすさ | 提供者の数が限られ、個別に声をかけられる | 利用者が特定のコミュニティにまとまっている |
| 待ってもらえるか | 提供者は掲載だけなら負担が小さく、待てる | 利用者が事前登録して待ってくれる |
| 運営での代替 | 提供者の代わりを運営が一時的に務めにくい | 利用者の需要を運営が代わりに作りにくい |
一般的には、提供者は数が少なく、営業や紹介で一人ひとりに声をかけやすいうえ、掲載するだけなら負担も小さいため、先に集めやすい傾向があります。一方で、すでに特定の業界や地域の利用者とのつながりを持っている事業者であれば、利用者の需要を先に示すことで提供者を呼び込む方が早い場合もあります。
大切なのは、どちらを先にするかを決めたら、その側に集中することです。両方に少しずつ力を分散させると、どちらの側も「相手が少ない」状態から抜け出せません。
範囲を絞る:狭い場所で流動性を作る
鶏卵問題を解くもう一つの鍵は、サービスの対象範囲を絞ることです。全国のあらゆる業種を対象にすると、提供者を何百人集めても、利用者が探したときには条件に合う相手がほとんど見つかりません。範囲を絞れば、少ない提供者でも「探せば見つかる」状態を作れます。
絞り方の軸
- 地域:特定の市区町村や沿線、商圏に限定する。対面のサービスや配送を伴う取引では特に有効
- 業種・カテゴリ:特定の専門分野、特定の商品カテゴリに限定する
- 利用場面:特定の季節、特定のイベント、特定の困りごとに限定する
- 参加者の属性:特定の業界団体の会員、特定の学校の卒業生など、すでにつながりのある集団に限定する
絞った範囲で成功してから広げる
範囲を絞ると、市場が小さく見えて不安になるかもしれません。しかし、狭い範囲で取引が回る状態を作れれば、その成功の型を別の地域やカテゴリに横展開できます。逆に、広い範囲で薄く始めると、どこでも取引が回らず、何が問題なのかも分かりません。
範囲を広げる目安は、絞った範囲で、利用者が探したときに十分な選択肢が見つかり、取引が継続的に発生し、提供者がサービス経由で一定の仕事を得られている状態になったときです。
初期の流動性を作る具体的な方法
先に集める側と範囲が決まったら、実際に参加者を集めます。ここでは、立ち上げ期によく使われる方法を整理します。
提供者を集める方法
- 一人ひとりに直接声をかける:対象範囲の提供者をリストアップし、訪問や電話、紹介で個別に依頼する。初期はこれがもっとも確実
- 掲載の手間を運営が肩代わりする:提供者の情報を運営が聞き取り、代わりに登録・掲載する。提供者の負担がほぼなくなる
- 既存の掲載情報を活かす:提供者がすでに持っているウェブサイトや資料の情報をもとに、許可を得て掲載する
- 初期の参加者に特典を設ける:一定期間の手数料を下げる、目立つ位置に掲載するなど、早く参加した提供者に利点を用意する
- 提供者にとって単独でも役立つ機能を用意する:予約管理や顧客管理など、利用者が少なくても提供者が使いたくなる機能を提供する
利用者を集める方法
- 事前登録を募る:サービス公開前に関心のある利用者を集め、公開時にまとめて案内する。ウェイティングリストを使う方法とも呼ばれる
- すでにある集団に入り込む:対象とする利用者が集まるコミュニティやイベント、業界団体と連携する
- 困りごとを起点に発信する:特定の困りごとを解決する情報を発信し、検索や紹介から利用者を呼び込む
運営が片側を一時的に担う
立ち上げ期には、運営自身が一時的に片側の役割を担う方法もあります。たとえば、提供者がまだ少ないうちは、利用者からの依頼を運営が受け付けて、運営が個別に提供者を探して紹介する、といった形です。利用者から見ればサービスとして成り立っており、その裏で運営が手作業でマッチングしています。これにより、システムや提供者の数がそろう前から、需要の有無と取引の流れを確かめられます。
立ち上げの進め方
ここまでの考え方を、立ち上げの手順にまとめます。
- 取引の型と価値を定める:誰と誰を、何のために結びつけるのか、利用者にとっての価値は何かを一文で書きます。
- 先に集める側を決める:前の章の判断基準を使って、提供者と利用者のどちらから集めるかを決めます。
- 最初の範囲を決める:地域、業種、利用場面、参加者の属性のいずれかで、狭い範囲を決めます。
- 成立の目安を決める:絞った範囲で、どれくらいの提供者がそろえば「探せば見つかる」状態になるかの目安を決めます。
- 手作業で取引を回す:システムを作り込む前に、運営の手作業を中心に取引を成立させ、価値があることを確かめます。
- 最小限のシステムを作る:手作業で回して見えてきた、システムがないと回らない部分だけを開発します。
- 計測しながら改善する:登録、掲載、申し込み、成立、継続の各段階の数字を見て、止まっている部分を改善します。
- 範囲を広げる:絞った範囲で取引が継続的に回るようになったら、隣の地域やカテゴリに広げます。
立ち上げ期の開発範囲の決め方
鶏卵問題に向き合う時期のシステム開発は、「参加者を集めるための道具」と「取引を確かめるための道具」に絞ります。
立ち上げ期に作るべきもの
- 提供者の掲載情報を見せる一覧と詳細ページ(運営が代わりに登録できる管理画面とセット)
- 利用者からの申し込みや問い合わせを受け付ける仕組み
- 申し込みを運営と提供者に知らせる通知
- 登録から成立までの各段階を数える計測
- 事前登録を受け付ける仕組み(利用者を先に集める場合)
立ち上げ期に作らなくてよいもの
- 細かな絞り込み条件を備えた検索(掲載数が少ないうちは一覧で十分)
- おすすめ表示や自動マッチング(取引のデータがたまってから)
- 提供者が自分で掲載情報を編集できる高機能な画面(運営が代行できるうちは不要)
- 評価やランキングの表示(件数が少ないうちは効果が薄い)
運営の手作業で補う範囲の決め方は、マッチングサービスのMVP:最初は手作業で回す範囲の決め方で詳しく説明しています。将来必要になる機能の全体像は、マッチングサービスの作り方:必要な機能・決済・信頼性の設計を参考にしてください。
ただし、決済の方針と、利用者の立場(提供者と利用者を兼ねられるかどうか)の持ち方は、後から変えると手戻りが大きいので、実装は簡易にしても方針は最初に決めておきます。
立ち上げ期に見るべき指標
立ち上げ期は、参加者の数そのものよりも、取引が実際に回っているかを示す指標を重視します。次のような指標を、絞った範囲ごとに記録します。
| 指標 | 見る理由 | 悪いときに疑うこと |
|---|---|---|
| 利用者の検索・閲覧のうち、申し込みに至った割合 | 探したときに相手が見つかっているか | 掲載が少ない、条件に合う提供者がいない |
| 申し込みのうち、成立した割合 | 提供者が応えられているか | 提供者の空きがない、返答が遅い |
| 掲載している提供者のうち、取引があった割合 | 提供者がサービスで仕事を得られているか | 利用者が少ない、掲載の見せ方が弱い |
| 一度取引した利用者が再び利用した割合 | サービスの価値が実感されているか | 取引の体験に不満がある |
| 一度取引した提供者が掲載を続けている割合 | 提供者にとって続ける価値があるか | 手数料や手間に見合っていない |
ここで割合と書いているのは、自社の記録の中で前の期間と比べて変化を見るためのもので、一般的な基準値があるわけではありません。大切なのは、どの段階で止まっているかを特定し、止まっている段階に手を打つことです。
たとえば、利用者の閲覧は多いのに申し込みが少ないなら、提供者側の掲載の充実を優先します。申し込みは多いのに成立が少ないなら、提供者の対応力の不足が疑われるので、提供者を増やすか、対応できる時間帯や内容を掲載情報で明確にします。計測の仕込み方は、MVPに最低限入れる計測も参考にしてください。
これらの指標は、範囲を広げる判断にも使います。絞った範囲で成立や再利用の数字が安定し、提供者が掲載を続けている状態になってから広げると、広げた先でも同じ型を再現しやすくなります。
立ち上げ前のチェックリスト
- 誰と誰を何のために結びつけるのかを一文で説明できる
- 先に集める側を決め、その理由を説明できる
- 最初の範囲(地域・業種・利用場面・属性)を一つに絞った
- 絞った範囲で「探せば見つかる」状態の目安を決めた
- 初期の提供者・利用者の候補を具体的にリストアップした
- 運営が手作業で担う部分と、担当者・時間を決めた
- システムで作るものと作らないものを分けた
- 登録から成立・継続までの計測方法を決めた
- 範囲を広げる判断の目安を決めた
よくある失敗とその避け方
システムを作り込んでから集客を始める
完成度の高いシステムを作ってから参加者を集め始めると、公開しても相手がいない状態が続き、開発に使った時間と費用が回収できません。システムは最小限にとどめ、開発と並行して、あるいは開発より先に参加者集めを始めます。
範囲を広く取りすぎる
市場の大きさを示すために、最初から全国・全業種を対象にすると、どこでも相手が見つからない状態になります。最初の範囲は、自分たちが直接声をかけられる程度まで絞ります。
両方の側に同時に広告を出す
提供者向けと利用者向けの広告に予算を分けると、どちらも中途半端になりがちです。先に集める側を決め、その側に集中します。もう片側には、先に集めた側の充実ぶりを見せて呼び込みます。
掲載数だけを追いかける
掲載数や登録者数は分かりやすい指標ですが、取引が成立していなければ意味がありません。登録したものの一度も取引のない提供者が増えると、利用者から見て反応のない掲載ばかりになり、かえって信頼を損ないます。成立件数や、提供者が実際に仕事を得られているかを重視します。
手作業の運営を早く手放しすぎる
手作業での紹介や代理の掲載は手間がかかるため、早くシステム化したくなります。しかし手作業の段階は、利用者と提供者が何を求めているかを直接知る貴重な機会です。何が価値を生んでいるかが分かるまでは、手作業を続ける価値があります。
具体的な場面で考える:地域の家事代行マッチング
架空の一般例として、家事代行の担い手と、依頼したい家庭を結びつけるサービスを立ち上げる場面を考えます。
最初の範囲を、運営者が住んでいる市の一部の地域に絞りました。家事代行は対面のサービスなので、地域を絞ると移動の負担が減り、少ない担い手でも依頼に応えられるからです。先に集める側は担い手としました。担い手の候補は、地域の子育て支援の集まりや知人の紹介で一人ずつ声をかけ、運営が面談して経験や対応できる家事の種類を聞き取り、代わりに掲載しました。
利用者側は、地域の子育て世帯が集まる場で案内し、事前登録を募りました。最初のシステムは、担い手の一覧と詳細ページ、依頼フォーム、運営への通知、管理画面だけです。依頼が届くと、運営が担い手と日程を調整して連絡し、作業後の支払いは請求書で行いました。
数か月運営すると、依頼の多くが平日の夕方に集中し、その時間帯の担い手が足りないことが分かってきました。そこで、その時間帯に対応できる担い手を重点的に集め、依頼フォームに希望時間帯の項目を加えました。依頼が継続的に入り、担い手が安定して仕事を得られるようになった段階で、日程調整とオンラインでの支払いをシステム化し、隣の地域への展開を検討し始めます。
よくある質問
Q. 無料で始めて利用者を集め、後から有料にしても大丈夫ですか?
立ち上げ期に手数料を無料や割引にするのは、参加を促す有効な方法です。ただし、後から有料にすると離れる参加者もいるため、無料期間の終わりや手数料の水準は最初から明示しておくことをおすすめします。お金の流れの方針も、早い段階で決めておく方が手戻りが少なくなります。
Q. 提供者にサービス外で直接取引されてしまうことが心配です。
マッチングサービスでは、成立後に利用者と提供者がサービスを通さずに取引するようになることがあります。これを完全に防ぐのは難しいため、サービスを通す方が便利で安心な理由(決済の安全性、トラブル時の対応、予約や記録の管理)を提供することが基本の対策になります。連絡先の交換の制限も、利用規約の内容とあわせて検討します。
Q. 範囲をどれくらい絞ればよいか分かりません。
自分たちで参加者一人ひとりに直接声をかけられ、利用者が探したときに複数の選択肢が見つかる程度が目安です。絞りすぎて需要が足りない場合は、範囲を少し広げればよいので、最初は狭すぎるくらいから始める方が失敗は少なくなります。
Q. 立ち上げ期にシステムを外注する必要はありますか?
手作業で取引を回す段階では、既製のフォームやノーコードツールで十分なことも多くあります。取引の流れが確かめられ、手作業では回らなくなってきた段階で、本格的なシステムの開発を検討するのが効率的です。
Otsumuに相談できること
対象の範囲が明確で、最初の提供者や利用者に直接声をかけられる関係があり、フォームやノーコードツールで手作業の取引を回せる段階であれば、この記事の手順で社内だけで立ち上げを進めることは十分可能です。まずは狭い範囲で取引を成立させ、価値があることを確かめるところから始めてみてください。
一方で、どちらの側から集めるか、どこまで範囲を絞るかといった事業の設計で迷っている場合や、手作業で回してきた取引をシステム化して範囲を広げたい段階では、外部の視点や開発の力を借りた方が早く進むことがあります。事前登録の仕組みや管理画面を短期間で用意したい場合も同様です。
Otsumuでは、立ち上げの戦略の整理から、立ち上げ期に必要な最小限のシステムの開発、取引が回り始めた後の本格的なシステム化までを一貫して支援しています。自らも事業を手がける立場から、目的から逆算して作る範囲を絞り、AIを活用した少人数の開発で短期間に形にします。詳しくはマッチングサービス開発のページをご覧ください。事業の仮説や進め方から整理したい場合は、新規事業開発コンサルティングもあわせてご覧ください。
自社のサービスでどちらの側から、どの範囲で始めるのがよいか、まずは状況を伺いながら一緒に整理することもできます。30分の無料相談からお気軽にご連絡ください。
この記事について
Otsumu株式会社が執筆しました。統計値や他社の事例には依拠せず、進め方と判断の枠組みを中心にまとめています。法務・税務・会計などの制度は、専門家や公的窓口で最新の情報をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.01