ある日突然、上司から「新規事業を考えてほしい」と一人で任される。チームも予算もはっきりせず、何から手をつければよいか分からない。そんな状況に置かれた担当者は少なくありません。焦って企画書を作り始めたり、業界の調査資料を集めたりしたくなりますが、最初の30日でやるべきことはそれではありません。
最初の30日で確認すべきなのは、三つのことです。一つ目は、会社や上司があなたに何を期待しているのかという「期待値」。二つ目は、使える時間、予算、社内の協力者といった「資源」。三つ目は、限られた資源で何をどの順序で確かめるのかという「検証計画」です。この三つが決まっていれば、一人でも迷わずに動けます。決まっていなければ、どれだけ頑張っても、後から「期待していたものと違う」と言われる危険があります。
この記事は、一人で新規事業を任された担当者や、少人数で新規事業を始めることになった方に向けて書いています。最初の30日を週ごとに区切り、何をすべきかを具体的に示すとともに、一人で進めるときの時間の使い方、陥りやすい失敗、助けを借りる方法を整理します。
一人で任されたときに最初に知っておくべきこと
一人で新規事業を任される状況には、いくつかの典型的な背景があります。経営層が新しい収益源の必要性を感じているが、具体的な方向は決まっていない。既存事業で成果を出した人に、新しい挑戦の機会を与えたい。とりあえず誰かに検討させて、可能性があれば体制を整えたい。どの背景かによって、あなたに求められていることは大きく変わります。
また、一人で任されるということは、期待されていると同時に、まだ会社として大きな資源を投じる段階ではないと判断されている、ということでもあります。最初から大きな予算や体制を求めるのではなく、小さな資源で手応えを示し、それをもとに次の資源を得ていく進め方が現実的です。
一人であることの不利は、時間と手が足りないこと、相談相手がいないこと、視点が偏りやすいことです。一方で、意思決定が速い、方向転換がしやすい、社内調整の負担が小さいという有利な点もあります。この有利な点を活かす進め方を選ぶことが大切です。
一人で進めるときの時間の使い方
この有利な点を活かすうえで、最も気をつけたいのが時間の使い方です。一人で新規事業を進めるとき、最も貴重な資源は時間です。時間の使い方を誤ると、忙しく働いているのに何も前に進まないという状態に陥ります。
顧客と話す時間を最優先する。 資料作りや調査は、際限なく時間を吸い込みます。一人で進める場合こそ、顧客と話す時間を先に予定に入れ、残りの時間で資料や調査を進めるようにします。机上の調査で一週間かけて分かることが、顧客との一時間の会話で分かることも珍しくありません。
完璧を目指さない。 企画書や資料を完璧に仕上げようとすると、時間がいくらあっても足りません。検証の段階では、自分と上司が理解できる程度の資料で十分です。見栄えを整えるのは、経営層に正式な判断を求める段階になってからで構いません。
振り返りの時間を確保する。 一人で進めていると、振り返る相手がいないため、同じ失敗を繰り返したり、思い込みに気づかなかったりします。週に一度、自分でやったことと分かったことを書き出す時間を確保し、可能なら上司や社内の誰かに話を聞いてもらいます。スキルを伸ばすための振り返りの方法は新規事業担当者に必要なスキルと、実践を通じた社内での育て方でも解説しています。
最初の30日の全体像
最初の30日を四つの週に分けると、やるべきことの順序が見えてきます。
| 期間 | 目的 | 主にやること | 週の終わりの成果物 |
|---|---|---|---|
| 第1週 | 期待値を確かめる | 上司・経営層への聞き取り、過去の検討の確認 | 期待値の合意メモ |
| 第2週 | 資源を確かめる | 時間・予算・権限・協力者の確認 | 使える資源の一覧 |
| 第3週 | 探索の方向を決める | テーマ候補の洗い出し、顧客との最初の対話 | テーマ候補と検証すべき問いの一覧 |
| 第4週 | 検証計画を立てる | 最初の検証の設計、上司との合意 | 次の60日の検証計画 |
この表は目安です。会社の状況によっては、第1週と第2週を同時に進めることもあるでしょう。大切なのは、期待値と資源を確かめる前に、テーマを決めたり企画書を作ったりしないことです。
第1週:期待値を確かめる
最初の週は、あなたに何が期待されているのかを確かめることに集中します。期待値が曖昧なまま進めると、数か月後の報告の場で「そういうことを求めていたのではない」と言われかねません。
上司と経営層に聞くこと
上司、そして可能であれば経営層に、次のような問いを投げかけます。
- なぜ今、新規事業を検討するのか。会社として何に危機感や機会を感じているのか
- どんな領域で考えてほしいのか。逆に、避けてほしい領域はあるか
- どれくらいの時間軸で、どの程度の規模の事業を想定しているのか
- 最初の数か月で、何が分かれば「進んでいる」と言えるのか
- 最終的に、誰がどんな基準で事業化を判断するのか
- 自分に任せる理由は何か。何を期待しているのか
これらの問いに、上司や経営層自身も明確な答えを持っていないことがよくあります。その場合は、答えを一緒に作ることが最初の仕事になります。「では、最初の三か月は、この領域でこういう問いを確かめる、という進め方でよいですか」と、具体的な案を示して合意を取ります。
過去の検討を確認する
社内で過去に似た検討がなかったかを確認します。過去に検討されて止まったテーマがあれば、なぜ止まったのかを知ることで、同じ壁に当たることを避けられます。当時の担当者に話を聞けると、社内の事情も分かります。
期待値の合意メモを作る
第1週の終わりに、聞き取った内容を一枚のメモにまとめ、上司に確認してもらいます。「新規事業を検討する目的」「対象とする領域と避ける領域」「最初の三か月で確かめること」「報告の頻度と相手」「事業化の判断者と判断の基準」を書きます。このメモが、以降の活動の基準になります。
第2週:使える資源を確かめる
二週目は、使える資源を具体的に確かめます。一人で任された場合、資源が明示されていないことが多く、自分から確かめにいかなければ分かりません。
時間
新規事業に使える時間は、勤務時間のどれくらいか。既存業務との兼務なのか、専任なのか。兼務の場合、既存業務が忙しくなったときにどちらを優先するのか。これを上司と合意しておかないと、新規事業は常に後回しになります。
予算
顧客へのヒアリングの謝礼や交通費、簡単な調査、試作のためのツールの利用料など、検証に必要な小さな支出をどこから出せるのか。金額の上限と、使うときの手続きを確認します。最初から大きな予算は不要ですが、小さな支出のたびに稟議が必要だと、検証が止まります。
権限
顧客に直接連絡してよいか、社外の協力者と打ち合わせをしてよいか、小さな発注を自分の判断でできるか。権限の範囲を確認し、必要なら上司に依頼します。
社内の協力者
一人で任されたとしても、社内には力を借りられる人がいます。顧客をよく知る営業担当者、技術に詳しいエンジニア、過去に新規事業を経験した人、事業の数字に強い経理や経営企画の人。誰に何を相談できるかを洗い出し、最初の挨拶と相談の依頼をしておきます。
第2週の終わりには、これらを「使える資源の一覧」としてまとめ、足りないものがあれば上司に相談します。
第3週:探索の方向を決め、顧客と話し始める
期待値と資源が分かったら、探索の方向を決めます。ここで初めて、具体的なテーマを考え始めます。
テーマの候補を洗い出す
期待値の合意メモで決めた領域の中で、テーマの候補を洗い出します。候補の出し方としては、既存顧客からの要望や問い合わせ、営業が断っている依頼、社内で長年解決されていない課題、自社の技術やデータの別の使い道、といった「社内にすでにある種」から探すのが効率的です。
候補が出たら、顧客の課題の強さ、自社が取り組む理由、検証のしやすさといった観点で比較し、三つ程度に絞ります。評価の観点の整理には新規事業アイデアの評価基準が参考になります。
最初の顧客と話す
第3週のうちに、少なくとも数人の想定顧客と話すことを目標にします。完璧な仮説がなくても構いません。むしろ、仮説が固まる前に顧客の話を聞くことで、思い込みを早く修正できます。話を聞く相手は、社内の営業担当者に紹介してもらう、既存の取引先にお願いする、知人をたどるといった方法で集めます。対象者の集め方はインタビュー対象者の集め方で詳しく解説しています。
顧客との会話では、自分のアイデアを説明するのではなく、顧客の仕事や生活の中での困りごとと、それにどう対処しているかを聞きます。「こんなサービスがあったら使いますか」という質問は避け、過去の具体的な出来事を聞くことに集中します。
検証すべき問いを書き出す
顧客との会話を踏まえ、テーマごとに「事業が成り立つために、何が本当でなければならないか」を書き出します。顧客は本当にその課題を抱えているか、今の対処法に不満があるか、解決にお金を払うか、自社はそれを届けられるか。これらの問いのうち、最も不確かで重要なものが、最初に検証すべき問いになります。
第4週:最初の検証計画を立てて合意する
最後の週は、次の60日で何を確かめるかの検証計画を立て、上司と合意します。
検証計画の立て方
- 最初に確かめる問いを一つか二つに絞る。 一人で進める場合、同時に多くの問いを確かめることはできません。最も重要な問いに集中します。
- 確かめる方法を決める。 顧客へのインタビュー、提案資料を見せて反応を確かめる、簡単な申込みページで関心を測る、手作業でサービスを試験提供するなど、最も安く速い方法を選びます。
- 判断の基準を先に決める。 「この結果が出たら次に進む、この結果なら方向を変える」を、検証の前に書いておきます。
- 必要な資源と期間を見積もる。 時間、予算、協力者を見積もり、使える資源の範囲に収まるかを確認します。
- 報告のタイミングを決める。 いつ、誰に、何を報告するかを決めます。
- 上司と合意する。 計画を一枚にまとめ、上司の確認を受けます。
検証計画を一枚にまとめると、上司も何を期待すればよいかが分かり、あなたも迷わずに動けます。最初の検証は、結果が二〜三週間で見えるものを選ぶのがおすすめです。結果が早く出れば、次の検証に早く進めるだけでなく、上司や経営層に「進んでいる」ことを具体的に示せます。逆に、結果が出るまでに数か月かかる検証から始めると、その間は報告できる材料が乏しく、周囲の関心を保つのが難しくなります。報告の組み立て方は経営層への新規事業の進捗報告を参考にしてください。
30日の進め方の例:兼務で新規事業を任された担当者
架空の一般例で考えます。ある会社の企画部門の社員が、通常業務と兼務で新規事業の検討を一人で任されました。上司からの指示は「何か新しい事業の種を探してほしい」というものだけでした。
担当者は第1週、上司と経営層の一人に話を聞きました。すると、経営層の関心は「既存顧客との関係を活かした、継続的な収益が得られる事業」にあり、既存顧客と競合する事業は避けたいということが分かりました。また、最初の三か月で求められているのは事業計画ではなく、「有望なテーマを一つに絞り、顧客がお金を払う可能性があるかを確かめること」だと合意できました。
第2週には、新規事業に使える時間を週の半分程度とすることを上司と合意し、ヒアリングの謝礼などに使える小さな予算の枠を確保しました。営業部門の課長に協力を依頼し、既存顧客を紹介してもらえることになりました。
第3週は、営業部門から聞いた顧客の要望をもとにテーマの候補を三つに絞り、紹介してもらった顧客数社と話しました。すると、三つのうち一つのテーマについて、複数の顧客が同じ困りごとを具体的に語り、今は手作業と表計算ソフトで対処していることが分かりました。
第4週には、そのテーマについて「顧客は解決にお金を払うか」を確かめる検証計画を立てました。手作業でサービスを試験提供し、対価を受け取れるかを確かめる計画です。判断の基準と報告の日程を一枚にまとめ、上司の合意を得て、次の60日の活動が始まりました。
この担当者が30日を有効に使えたのは、最初の二週間でテーマを考えなかったからです。期待値と資源が先に固まっていたため、第3週にテーマを絞るときも、経営層の関心に合うか、使える時間と予算で検証できるかという基準で迷わずに選べました。一人で任されたときほど、最初の二週間を「準備」に使うことが、後の速さにつながります。
よくある失敗とその避け方
- 期待値を確かめずに企画書を作り始める。 数か月後に「求めていたものと違う」と言われます。最初の週に期待値を確かめ、メモで合意します。
- 調査ばかりで顧客に会わない。 机上の調査では顧客の本当の課題は分かりません。顧客と話す時間を最優先で予定に入れます。
- すべてを一人で抱え込む。 社内には力を借りられる人がいます。協力者を洗い出し、小さな依頼から始めます。
- 兼務の時間配分を決めない。 既存業務に押され、新規事業が止まります。使える時間を上司と合意します。
- 最初から大きな予算や体制を求める。 まだ根拠がない段階での大きな要求は通りにくく、通っても重圧になります。小さな資源で手応えを示してから求めます。
- 報告を後回しにする。 報告が途切れると、上司や経営層の関心が薄れます。決めたタイミングで、小さな進捗でも報告します。
最初の30日のチェックリスト
- 新規事業を検討する目的を上司・経営層から聞いた
- 対象とする領域と避ける領域が分かっている
- 最初の三か月で確かめることを上司と合意した
- 事業化の判断者と判断の基準が分かっている
- 新規事業に使える時間を上司と合意した
- 検証のための小さな予算と使い方が決まっている
- 力を借りられる社内の協力者を洗い出し、挨拶した
- テーマの候補を三つ程度に絞った
- 想定顧客の数人と話した
- 次の60日の検証計画を一枚にまとめ、上司と合意した
よくある質問
Q. 上司が具体的な期待を示してくれない場合はどうすればよいですか?
上司自身も方向を決めかねていることが多いため、あなたから具体的な案を出して合意を取るのが現実的です。「この領域で、最初の三か月はこれを確かめる進め方でよいですか」と、選択肢を示して判断してもらいます。案を出すことで、上司の本当の関心が見えてくることもあります。
Q. アイデアがまったく浮かびません。どうすればよいですか?
アイデアをゼロから考えようとする必要はありません。既存顧客の要望、営業が断っている依頼、社内の未解決の課題など、社内にすでにある種から探すのが効率的です。そして、アイデアを考えるより先に、顧客と話して困りごとを聞くことで、アイデアの種が見えてきます。
Q. 一人で進めるのが限界だと感じたらどうすればよいですか?
まず、何が足りないのかを具体的にします。時間なのか、特定の専門性なのか、相談相手なのか。時間が足りないなら兼務の配分を見直す、専門性が足りないなら社内の協力者や外部の力を借りる、相談相手がいないなら定期的な振り返りの場を設ける、と足りないものに合わせて手を打ちます。外部の人材に推進を手伝ってもらう方法は新規事業のPMを外部から入れるときで解説しています。
Q. 30日で目に見える成果が出なくても大丈夫ですか?
最初の30日の成果は、事業の売上や完成した企画書ではなく、期待値の合意、使える資源の把握、そして検証計画です。これらがそろっていれば、次の60日で確かな前進が期待できます。上司にも、最初の30日の目的をあらかじめ伝えておくと安心です。
Otsumuに相談できること
一人で新規事業を任されたときの最初の30日は、この記事の手順に沿えば、外部の支援がなくても十分に進められます。上司と期待値を合意でき、社内に協力者がいて、顧客と話す時間を確保できるなら、まずは自分の手で進めてみてください。自ら顧客と話し、検証を回した経験は、その後のあなたにとって最大の財産になります。
一方で、相談できる相手が社内にいない、検証の設計や顧客インタビューの進め方に自信がない、検証のために試作が必要だが頼れる開発の相手がいない、といった状況では、外部の伴走者がいると進め方が安定します。一人の担当者にとって、利害関係のない壁打ちの相手がいるだけで、判断の速さと質は大きく変わります。
Otsumuは、自らも事業を手がける実践者として、新規事業開発コンサルティングで、テーマの整理、顧客インタビューの設計、検証計画づくりを担当者と一緒に進めています。検証のための試作が必要になれば、新規事業の爆速MVPシステム開発で、目的に必要な機能に絞って少人数・短期間で形にできます。今考えているテーマや計画を短期間で点検したい場合は、新規事業レビュー Sprint(48万円・税別、1〜2週間)のような進め方もあります。
何から始めればよいか分からない段階でも構いません。30分の無料相談で、あなたの状況を伺い、最初の一歩を一緒に整理します。
この記事について
Otsumu株式会社が執筆しました。統計値や他社の事例には依拠せず、進め方と判断の枠組みを中心にまとめています。法務・税務・会計などの制度は、専門家や公的窓口で最新の情報をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.01