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新規事業担当者に必要なスキルと、実践を通じた社内での育て方

新規事業担当者に必要なのは、顧客理解・仮説検証・巻き込み力・数字で語る力といった実践のスキルです。研修だけでは身につかないため、小さな実務を任せて振り返る仕組みで育てるのが近道です。スキルの中身と育成の手順を示します。

新規事業の担当者に必要なスキルは、特別な才能やひらめきではありません。顧客の課題を深く理解する力、仮説を立てて小さく検証する力、社内外の人を巻き込む力、事業を数字で語る力。どれも実践の中で身につく技能であり、正しい環境と振り返りの仕組みがあれば、多くの社員が伸ばすことができます。

そして、これらのスキルは研修や座学だけでは身につきません。フレームワークを学んでも、実際に顧客に会いに行き、仮説が外れ、方向を変えるという経験を経なければ、使える技能にはならないからです。育成の近道は、小さな実務を本人に任せ、その経験を短い間隔で振り返る仕組みを作ることです。研修は、その実務を支える道具として位置づけます。

この記事は、新規事業の人材育成を担う人事・経営企画の方、新規事業部の責任者、そして自身のスキルを伸ばしたい新規事業の担当者に向けて書いています。必要なスキルの中身、スキルを見える化する方法、実践を通じて育てる手順、育成の場面の例、よくある失敗を整理します。

新規事業の担当者に必要なスキルの全体像

新規事業の仕事は、既存事業の仕事と求められる力が大きく異なります。既存事業では、決まった目標に向かって決まった方法を正確に実行する力が重視されます。新規事業では、何が正解か分からない状況で、自ら問いを立て、確かめ、判断する力が求められます。事業開発という役割の全体像は事業開発(BizDev)の解説ページでも整理していますが、担当者に必要なスキルは次の五つに分けて考えると整理しやすくなります。

スキル具体的な行動不足しているときに起きること
顧客理解顧客に会い、行動や困りごとの事実を聞き出す思い込みで作った商品が誰にも使われない
仮説検証確かめるべき前提を特定し、安く速く検証する検証せずに作り込み、大きな投資が無駄になる
巻き込み社内外の協力者を得て、資源を動かす一人で抱え込み、社内資源が使えない
数字で語る力事業の構造を数字で表し、判断の根拠を示す経営層を説得できず、承認が得られない
判断と実行不完全な情報で決め、決めたことを素早く実行する調査ばかりで前に進まない

この五つは独立したものではなく、互いにつながっています。顧客理解がなければ良い仮説は立たず、仮説検証の結果がなければ数字で語れず、巻き込みがなければ検証のための資源も得られません。育成では、一つのスキルだけを伸ばすのではなく、実務の中で五つを循環させることが大切です。

五つのスキルを分解して理解する

顧客理解

顧客理解とは、顧客の言葉をそのまま受け取ることではなく、顧客の実際の行動や状況の事実を集め、その背後にある課題を見抜くことです。「こんな商品があったら使いますか」と聞けば、多くの人は「使うかもしれない」と答えます。しかしその答えは、実際に使うかどうかとはほとんど関係がありません。優れた担当者は、「最後にその問題で困ったのはいつですか」「そのとき、どう対処しましたか」「その対処にどれくらいの時間やお金を使いましたか」と、過去の事実を聞きます。

このスキルを伸ばすには、とにかく顧客に会う回数を重ねることと、会話の記録を他者と一緒に振り返ることが欠かせません。インタビューの対象者をどう集めるかについてはインタビュー対象者の集め方を参考にしてください。

仮説検証

仮説検証のスキルとは、事業が成り立つために必要な前提を洗い出し、そのうち最も不確かで重要なものを特定し、最小限のコストで確かめる力です。新規事業で失敗する典型的なパターンは、確かめるべき前提を確かめないまま、作ることに時間とお金を使ってしまうことです。

このスキルの中核にあるのは、「何が分かれば次に進めるのか」を言葉にする力です。検証の前に「この結果が出たら続ける、この結果なら止める」と決めておくことで、検証の結果を都合よく解釈することを防げます。

巻き込み

新規事業は一人では進みません。社内の既存部門、経営層、外部のパートナー、そして顧客自身の協力が必要です。巻き込みのスキルとは、相手の関心と懸念を理解し、相手にとっても意味のある形で協力を依頼する力です。肩書きや権限で人を動かすのではなく、相手が「協力したい」と思える状況を作る力と言い換えられます。

数字で語る力

新規事業の担当者は、経営層や関係部門に対して、事業の見込みと判断の根拠を示さなければなりません。そのためには、売上を顧客数・単価・継続期間に分解し、どの前提が事業の成否を左右するかを説明できる必要があります。高度な財務の知識は必須ではありませんが、事業の構造を数字で表す基本的な力は欠かせません。

判断と実行

新規事業では、情報が完全にそろうことはありません。不完全な情報で判断し、判断が間違っていたと分かったら素早く修正する。この繰り返しが求められます。判断の速さと、判断を変える柔軟さの両方が必要です。状況を観察し、判断し、行動するという考え方はOODAループとして整理されており、新規事業の進め方とも相性がよい枠組みです。

スキルを見える化する:現在地の把握

育成を始める前に、担当者の現在地を把握します。スキルを抽象的な言葉で評価するのではなく、具体的な行動ができるかどうかで段階を分けると、本人も育成者も共通の理解を持てます。

段階顧客理解の例仮説検証の例数字で語る力の例
入門用意された質問で顧客に話を聞ける与えられた仮説の検証に参加できる事業の売上を構成する要素を説明できる
実践自分で質問を設計し、事実を引き出せる自分で仮説を立て、検証の方法を選べる前提を変えたときの影響を試算できる
自立顧客の発言から本質的な課題を見抜ける最も重要な前提を見極め、検証の順序を組める数字で経営層の判断を引き出せる
指導他者の顧客理解を指導できる他者の検証計画をレビューできる他者の事業計画の弱点を指摘できる

この表は一例です。自社の新規事業で求められる行動に合わせて、段階の内容を調整してください。大切なのは、評価が「できる・できない」の二択ではなく、次に何ができるようになればよいのかが分かる形になっていることです。

実践を通じて育てる手順

スキルを実践の中で育てるための手順を示します。

  1. 現在地を把握する。 前述の段階表を使い、担当者本人と育成者が一緒に現在地を確認します。自己評価と他者評価がずれている部分は、育成の重点になります。
  2. 育てたいスキルを一つか二つに絞る。 すべてを同時に伸ばそうとすると焦点がぼやけます。次の数か月で最も伸ばしたいスキルを選びます。
  3. そのスキルを使う小さな実務を任せる。 顧客理解を伸ばしたいなら、顧客インタビューを自分で設計し実施する仕事を任せます。失敗しても事業への影響が小さい範囲で任せることが大切です。
  4. 事前に「何を確かめるか」を言葉にさせる。 実務に取りかかる前に、目的と期待する結果を書かせます。これが振り返りの基準になります。
  5. 短い間隔で振り返る。 一週間から二週間ごとに、やったこと、分かったこと、うまくいかなかったこと、次にやることを振り返ります。振り返りの型としてはKPTのような簡単な枠組みが使いやすいでしょう。
  6. 育成者が具体的に助言する。 「もっと深く聞いて」ではなく、「この発言の後に、そのとき実際にどうしたかを聞くとよかった」のように、具体的な行動で助言します。
  7. 段階を上げて、任せる範囲を広げる。 一つの段階の行動ができるようになったら、より難しい実務を任せます。
  8. 学びを組織で共有する。 個人の学びを、チームや部署で共有する場を設けます。他者の経験からの学びは、自分の経験を何倍にも広げます。

この手順の中心にあるのは、「任せる」「振り返る」「助言する」の三つの循環です。研修は、この循環を支えるための知識の補給として、必要なときに必要な分だけ取り入れます。

スキルごとに任せやすい実務の例

「小さな実務」と言われても、具体的に何を任せればよいか迷うことがあります。スキルごとの例を挙げます。

  • 顧客理解を伸ばす実務。 特定の顧客層への課題インタビューを設計して実施する、既存の問い合わせや商談記録を読み込んで顧客の困りごとを分類する、顧客の業務の現場を見学して気づいたことをまとめる。
  • 仮説検証を伸ばす実務。 事業案の前提を書き出して重要度と不確かさで並べる、提案資料だけを作って顧客の反応を確かめる、簡単な申込みページを作って関心の度合いを測る。
  • 巻き込みを伸ばす実務。 既存部門の担当者に協力を依頼し、ヒアリングに同行してもらう、社外のパートナー候補と打ち合わせを設定し、協業の可能性を探る。
  • 数字で語る力を伸ばす実務。 事業案の売上を要素に分解した試算表を作る、検証の結果を踏まえて前提を更新し、経営層向けの一枚資料にまとめる。
  • 判断と実行を伸ばす実務。 検証の前に続ける条件と止める条件を決め、結果が出たら自分で判断案を出す。

いずれも、失敗しても事業全体への影響が小さく、結果が数週間で見えるものです。結果が早く見える実務ほど、振り返りの回数が増え、学びの速度が上がります。

育成者に求められること

育成の成否は、担当者本人だけでなく育成者の関わり方にも左右されます。育成者に求められるのは、答えを教えることではなく、担当者が自分で考えて動ける範囲を少しずつ広げることです。最初は同席して手本を見せ、次は担当者が主導して育成者は見守り、最後は事後の振り返りだけに関わる、というように関与を段階的に減らしていきます。

また、育成者自身が新規事業の進め方を体系立てて説明できるとは限りません。経験はあっても言葉にできていない場合は、自分の過去の判断を振り返り、「なぜそうしたのか」を書き出してみると、助言の質が上がります。

研修・座学の位置づけと使い方

研修が無意味というわけではありません。顧客インタビューの進め方、事業の数字の組み立て方、検証の設計の基本など、知識として知っておくと実務が速く進む内容は多くあります。問題は、研修を受けたことで「育成した」と見なしてしまうことです。

研修を効果的にするには、研修と実務を必ずセットにします。たとえば、顧客インタビューの研修を受けたら、その翌週には実際に顧客に会い、研修で学んだ方法を試し、その結果を振り返る。この流れを組み込むことで、研修の知識が技能に変わります。

ワークショップ形式の研修も、アイデアを出して終わりにせず、出たアイデアの検証まで進める設計にすると、実践の場として機能します。その進め方は新規事業ワークショップの設計で解説しています。

社外の場を使う

社内に新規事業の経験者が少ない場合、社外の勉強会やコミュニティ、他社の新規事業担当者との交流も、学びの場になります。ただし、他社の成功談をそのまま自社に当てはめようとすると、前提の違いを見落とします。社外で得た知識も、自社の実務で試して振り返る循環に乗せることが大切です。

育成の場面の例:営業出身の担当者が新規事業を担う

架空の一般例で考えます。ある会社で、営業部門で成果を上げてきた社員が、新規事業の担当者に任命されました。営業としての顧客との関係づくりや社内の調整は得意ですが、新規事業の経験はありません。

育成を担当した上司は、まず本人と一緒に現在地を確認しました。巻き込みの力は自立の段階にある一方、顧客理解は「用意された質問で話を聞ける」入門の段階、仮説検証はほぼ未経験という結果でした。営業の経験から、顧客と話すことには慣れていても、自社の商品を売るための会話と、顧客の課題を探る会話は性質が違ったのです。

上司は、最初の三か月の重点を顧客理解に絞りました。本人に、ある顧客層の課題を探るインタビューを自分で設計し、十人程度に話を聞く仕事を任せます。最初の数回のインタビューには上司も同席し、終わった後に会話の記録を一緒に振り返りました。本人は当初、つい自社の商品の説明をしてしまう癖がありましたが、振り返りで「ここで商品の話をせずに、そのとき何をしたかを聞けば、もっと事実が分かった」と具体的な指摘を受けるうちに、聞き方が変わっていきました。

三か月後、本人は自分で質問を設計し、顧客の過去の行動から課題を引き出せるようになっていました。次の三か月は、インタビューで見えた課題をもとに仮説を立て、簡単な検証を設計する仕事に重点を移しています。

この例で効いたのは、本人の得意な巻き込みの力を出発点にしたことです。インタビューの対象者は、営業時代の人脈と既存部門の紹介で集めることができ、育成者は顧客理解の指導だけに集中できました。新しいスキルを育てるときも、本人がすでに持っている強みを足場にすると、立ち上がりが速くなります。

よくある失敗とその避け方

  • 研修だけで育成を終える。 知識は実務で使わなければ技能になりません。研修の直後に実務で試す機会を必ず用意します。
  • いきなり大きな事業を任せる。 経験のない担当者に大きな事業を丸ごと任せると、失敗の影響が大きく、本人も萎縮します。小さな実務から段階的に任せます。
  • 振り返りの間隔が長すぎる。 半年に一度の評価面談だけでは、学びの循環が回りません。一〜二週間ごとの短い振り返りを習慣にします。
  • 抽象的な助言しかしない。 「もっと主体的に」「顧客の気持ちを考えて」では、何を変えればよいか分かりません。具体的な行動で助言します。
  • 失敗を責める。 新規事業では、仮説が外れることは当然です。外れたことではなく、外れたと分かった後の行動を評価します。
  • 個人の学びが組織に残らない。 担当者が異動すると学びが失われます。振り返りの記録を共有し、組織の知識として蓄積します。

育成を始めるときのチェックリスト

  • 新規事業で求められるスキルの段階表を作った
  • 担当者本人と育成者で現在地を確認した
  • 次の数か月で伸ばすスキルを一つか二つに絞った
  • そのスキルを使う小さな実務を任せた
  • 実務の前に、目的と期待する結果を書かせている
  • 一〜二週間ごとの振り返りの場がある
  • 育成者が具体的な行動で助言している
  • 研修を実務とセットにしている
  • 振り返りの記録を組織で共有している

よくある質問

Q. 新規事業に向いている人と向いていない人はいますか?

性格による向き不向きは多少ありますが、スキルの多くは実践で伸ばせます。むしろ重要なのは、分からないことを認め、仮説が外れたときに方向を変えられる姿勢です。この姿勢は、失敗を責めない環境と、短い振り返りの習慣があれば育ちやすくなります。人選の段階で、こうした姿勢があるかを見ておくと育成がしやすくなります。

Q. 育成にはどれくらいの期間がかかりますか?

本人の経験や任せる実務によって大きく変わります。一つのスキルを一段階上げるのに数か月かかることもあります。大切なのは期間よりも、実務と振り返りの循環を途切れさせないことです。異動や繁忙期で循環が止まると、身につきかけた技能が定着しないまま元に戻ってしまうことがあります。育成の期間中は、担当者の時間の一定部分を新規事業の実務に確保することを、上司と人事部門で合意しておくと安心です。

Q. 社内に指導できる人がいない場合はどうすればよいですか?

社外の経験者に振り返りの相手を依頼する、外部の支援者と一緒に実務を進める、といった方法があります。外部の力を借りる場合も、最終的には社内に指導できる人が育つよう、育成者の役割を社内の誰かが引き継ぐ計画を立てておきます。

Q. 一人で新規事業を任された場合、どうやってスキルを伸ばせばよいですか?

振り返りの相手がいないことが最大の課題です。上司や社外の知人に定期的な振り返りの時間をもらう、記録を自分で振り返る習慣をつける、といった工夫が必要です。一人で任された場合の進め方は一人で新規事業を任されたらで詳しく解説しています。

Otsumuに相談できること

新規事業の人材育成は、社内に経験者がいて、実務を任せて振り返る時間を確保できるなら、自社だけで十分に進められます。この記事で紹介した段階表と手順は、そのまま社内で使えるように書いています。外部の研修や支援に頼る前に、まずは小さな実務と短い振り返りの循環を始めてみてください。

一方で、社内に新規事業の経験者がおらず振り返りの相手がいない、育成のための実務としてどんなテーマを選べばよいか分からない、育成と事業の成果の両方を同時に求められている、といった状況では、外部の力を借りるのも一つの方法です。特に、実際の事業を一緒に進めながら担当者が学べる形の支援は、研修よりも技能の定着につながりやすくなります。

Otsumuは、自らも事業を手がける実践者として、新規事業開発コンサルティングで、担当者と一緒に顧客インタビューの設計や検証計画づくりを進め、その過程で考え方や進め方を社内に残すことを重視しています。検証のための試作が必要になった場合は、新規事業の爆速MVPシステム開発で、担当者が検証の当事者であり続けられる形で短期間の開発を支援します。実際のテーマで顧客の反応を確かめる経験を積みたい場合は、顧客検証 Sprint(98万円〜・税別、4週間)のように、期間を区切った実践の場を設ける方法もあります。

育成の方針に迷っている段階でも構いません。30分の無料相談で、担当者の状況と進め方を一緒に整理します。

この記事のテーマに最も近い支援は、新規事業の体制づくり・人材・社内推進支援です。

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この記事について

Otsumu株式会社が執筆しました。統計値や他社の事例には依拠せず、進め方と判断の枠組みを中心にまとめています。法務・税務・会計などの制度は、専門家や公的窓口で最新の情報をご確認ください。

執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.01

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