この事例の要点
- Hello Groupは、MomoやTantanなどのアプリを無料で使えるようにし、仮想ギフトの購入と有料会員で収益を得ています。付加価値サービスは2025年の純収入の98.5%を占めています(Form 20-F、2025年12月期)。
- 収益の大半は配信者・事務所への収益分配に回ります。2025年の売上原価に占める収益分配の割合は84.7%でした(Form 20-F、2025年12月期)。
- 国内の売上が減るなか、海外の比率が2023年の6.7%から2025年には19.3%へ上がり、複数のブランドを並べる構成が事業の軸になっています(Form 20-F、2025年12月期)。
どんな事業か
Hello Group Inc.は中国・北京に本社を置くケイマン諸島法人で、米国ナスダックにADS(米国預託株式)を上場しています。同社は、MomoやTantanなどを通じて、ユーザーが新しい関係を見つけ、つながりを広げ、意味のある交流を築けるようにするオンラインのソーシャル分野の企業だと説明しています。Momoは位置情報や興味にもとづいて人をつなぐアプリで、Tantanは2018年5月に買収で加わった出会い・交流アプリです(Form 20-F、2025年12月期)。
2019年以降は、社内で立ち上げたSoulchillなどのアプリや、買収による欧州のHappnなどを加え、ニッチな層や海外市場に向けた複数のアプリを並べています。アプリはいずれも無料でダウンロードして使え、各プラットフォームで提供するサービスから収益を得る設計です(Form 20-F、2025年12月期)。
収益の仕組み
同社の収益の中心は付加価値サービス(VAS)です。2025年から、ライブ動画サービスと従来の付加価値サービスを一つにまとめて報告するようになりました。構造は次のとおりです。
- 入り口:アプリは無料で使え、マッチングやメッセージなどの中核機能も無料で使えます。ライブ配信は無料で視聴でき、配信中のバーチャルアイテムの購入は任意です。
- 課金:ユーザーが仮想ギフトを購入して配信者や相手に贈る方式と、MomoやTantan、Happnなどのプレミアム会員の月額課金・都度課金があります。
- 分配:仮想ギフトの売上の一部を、配信者、事務所、ギフトの受け手と分け合います。同社は自らを本人(プリンシパル)と評価し、収益分配を売上原価に計上しています。
- 継続:複数のアプリを並行して運営し、国内の既存アプリが落ち込む分を、中東・北アフリカ(MENA)の音声チャット系アプリや欧州の出会い系アプリの伸びで補う構図です。
数字で確かめる
- 純収入は2023年が12,002.3百万人民元、2024年が10,563.0百万人民元、2025年が10,367.1百万人民元(1,482.5百万米ドル)で、国内のMomoとTantanの減少を海外アプリの伸びが一部補っていることが読み取れます(Form 20-F、2025年12月期)。
- 付加価値サービスの収益は10,213.7百万人民元(前年比1.9%減)で、純収入の98.5%を占めており、収益の柱がほぼ仮想ギフトと会員課金に集中していることが読み取れます(Form 20-F、2025年12月期)。
- 収益分配は2025年に5,459.1百万人民元で売上原価の84.7%を占め、純収入に対する割合は約52.7%(5,459.1÷10,367.1)にあたり、売上原価の大半を配信者側への分配が占める構造であることが読み取れます(Form 20-F、2025年12月期)。
- Momoの有料ユーザー数は2023年第4四半期の7.4百万人から、2024年第4四半期は5.7百万人、2025年第4四半期は3.9百万人へ減りました。同社は、投資対効果の低い有料ユーザーの獲得を抑える方針の結果だと説明しており、人数より収益性を優先していることが読み取れます(Form 20-F、2025年12月期)。
- 営業利益は2023年の2,305.0百万人民元(純収入比19.2%)から2025年の1,354.6百万人民元(同13.1%)まで下がり、海外の比率は6.7%、11.1%、19.3%と上がっていることから、事業の重心が国内から海外へ移る途上にあることが読み取れます(Form 20-F、2025年12月期)。
Otsumuの読み解き:なぜ成り立つのか
ここからはOtsumuの考察です。この事業は、無料の入り口で人を集め、一部のユーザーが少額を何度も払う「基本無料+アイテム課金」と、配信者の側に収益を分ける「クリエイター収益分配」を組み合わせた型として読めます。アプリ自体は無料ですが、ギフトを贈る行為が相手との関係づくりそのものになっているため、課金が機能の購入ではなく交流の一部として起きる構造だと考えられます。
この型の弱点も数字に出ています。収益分配が売上原価の8割台を占めるため、人気の配信者や事務所が他のプラットフォームへ移ると、売上と同時に集客力が失われます。Momoの有料ユーザー数が減る一方で、営業利益の落ち込みが純収入の落ち込みより大きいことは、課金額を維持しながら採算を保つことの難しさを示していると読めます。そこで同社は、1つのアプリの盛衰に左右されないよう、複数のブランドを並べ、国や市場ごとに分けて立ち上げる構成を選んでいると考えられます。
もう一つの視点は、課金の仕組みと市場を切り離している点です。仮想ギフトというメカニズムを共通の部品として、中東では音声チャット、先進国ではマッチングと、市場に合わせた入り口に付け替えています。仕組みは同じでも入り口を変えられるため、規制や消費の落ち込みが一つの国に起きても、全体への打撃を分散できる設計だと考えられます。
自社事業に持ち帰る問い
- 自社のサービスで、無料で使える入り口と、お金を払う行為が「交流や関係づくりの一部」になる瞬間はどこにありますか。
- 売上のうち、外部の担い手(配信者・パートナー・事務所など)に分けている割合はどの程度で、その担い手が離れたときの影響をどう見積もっていますか。
- 一つの商品や市場が落ち込んだときに、共通の仕組みを別の市場や別の入り口へ付け替える選択肢は用意できますか。
小さく試すなら
- 過去12か月の売上を、顧客別・担い手別に並べ、上位の少数への依存度を計算します。
- 無料の入り口から有料へ進んだ顧客の行動を10件程度たどり、お金を払う直前に起きたことを書き出します。
- 共通の仕組みを使える別の顧客層や市場を2つ選び、2〜4週間で入り口の説明文だけを変えた簡単なページを作って反応を比べます。
- 担い手への分配率を変えた場合の粗利を試算し、離脱時の影響と並べて、続けられる範囲を判断します。
関連するビジネスモデル
資料の位置づけ
企業・サービス:Hello Group Inc. / Momo・Tantan・海外ソーシャルアプリ。参照資料:Form 20-F(2025年12月期)。このページは公開情報にもとづく学習用の分析です。Otsumuの支援実績や当該企業との取引関係を示すものではありません。示唆と検証案はOtsumuの考察であり、企業自身の見解とは区別しています。
参考資料と編集について
上記の公開資料(目論見書・年次報告書・企業の公式発表など)をもとに、Otsumuが執筆しました。数値と企業の説明は資料の記載の範囲にとどめ、Otsumuの考察とは分けています。数値は資料の表記のままで、最新の情報は各社の開示をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.25