分類:企業事例 › ソフトウェア・SaaS
この事例の要点
- JFrogは、ソフトウェアの成果物(ビルドの結果物やパッケージ)を管理する基盤を、クラウド専用・自社運用専用などの形で、複数の段階のサブスクリプションとして販売しています(Form 10-K、FY2025)。
- 課金は「サーバー数または利用量」にもとづくと記載され、収益に占めるクラウドの比率は2024年の39%から2025年の46%へ上がっています(Form 10-K、FY2025)。
- 年間契約額10万ドル以上の顧客がARR(年間経常収益)の77%を占めており、広い顧客層の中で大口顧客の比重が高いことが読み取れます(Form 10-K、FY2025)。
どんな事業か
JFrog Ltd.はイスラエルで設立され、米国サニーベールに主たる事務所を置く企業で、Nasdaqに上場しています(Form 10-K、FY2025〔2025年12月31日終了年度〕)。同社は、AI時代のソフトウェア・サプライチェーン(ソフトウェアの開発から配布までの流れ)の「システム・オブ・レコード」を提供することを目標に掲げています。中核製品はJFrog Artifactoryで、JFrog Platformとして、DevOps、DevSecOps、MLOps、AI開発などを一つにまとめています(Form 10-K、FY2025)。
提供形態は、パブリッククラウド、オンプレミス、プライベートクラウド、マルチクラウド、ハイブリッドと幅広く記載されています。顧客は約6,600組織で、フォーチュン100の約83%を含むとされています。売上高の約40%は米国外の顧客からです(Form 10-K、FY2025)。
収益の仕組み
同社は、有償のサブスクリプションを段階(ティア)に分けて販売しています。Form 10-K(FY2025)に記載された構造は次のとおりです。
- 入り口:限定的な無料トライアルと、AGPLで公開しているオープンソース版のJFrog Artifactoryを用意しています。
- 課金:JFrog Pro(クラウド専用)、JFrog Pro X(自社運用専用)、Enterprise X、Enterprise Plusの段階があり、価格は「サーバー数または利用量」にもとづくと記載されています。追加機能(Advanced Security、Runtime Security、Curation、Connect)も用意されています。
- 継続:自社運用のサブスクリプションは契約期間にわたり定額で収益に計上され、SaaSは各コミットメント期間にわたり、最低利用量の約束と超過利用分にもとづいて計上されます。
同社は、収益の構成は自社運用とSaaSの比率で変わり得ること、SaaSは自社運用より粗利率が低いことも記載しています(Form 10-K、FY2025)。
数字で確かめる
- 2025年の売上高は531.8百万ドルで、2024年の428.5百万ドル、2023年の349.9百万ドルから増えています。成長率は2025年が24%、2024年が22%です(Form 10-K、FY2025)。規模が大きくなっても成長が続いていることが読み取れます。
- クラウド(SaaS)の売上比率は2025年が46%、2024年が39%でした(Form 10-K、FY2025)。顧客の運用を同社が担う形態への移行が進んでいることが読み取れます。
- 年間契約額10万ドル以上の顧客は1,168社(前年は1,018社)で、ARRの77%(前年は72%)を占めます。100万ドル以上の顧客は74社(前年は52社)です(Form 10-K、FY2025)。大口顧客の層が厚くなっていることが読み取れます。
- 純ドル維持率(net dollar retention rate)は2025年12月31日時点で119%です(Form 10-K、FY2025)。既存顧客の支払いが契約後に広がっていることが読み取れます。
- Enterprise Plusのサブスクリプションは2025年の売上高の約56%で、2024年の約51%から上がっています。上位プランへ移る顧客が増えていることが読み取れます(Form 10-K、FY2025)。
Otsumuの読み解き:なぜ成り立つのか
ここからはOtsumuの考察です。この事業は、オープンソース、フリーミアム、ティア課金、従量課金の型が重なっていると読めます。開発者はオープンソース版や無料トライアルで試し、組織で使う段階になると、安全性の管理や大規模運用のための上位プランが必要になる。成果物の保管場所は、一度置くと開発の流れの多くの工程が依存しやすい性質があり、利用が広がるほど契約額も広がる構造だと考えられます。
もう一つの論点は、提供形態を顧客に選ばせていることです。クラウドの比率は上がっていますが、自社運用も残しています。顧客の事情(社内規定やデータの置き場所)に合わせることで、導入の壁を下げていると読めます。一方で、同社自身が記すとおり、クラウドは粗利率が低く、形態の比率は収益性にも影響します。
トレードオフは、公開部分と有償部分の線引きと、課金単位の分かりやすさです。サーバー数と利用量のどちらで課金するかは、顧客の予算の立てやすさと、同社の収益の伸びやすさの両方に影響します。なお、数字は同社の開示にもとづくもので、因果関係はOtsumuの推測を含みます。
自社事業に持ち帰る問い
- 自社のサービスで、一度使い始めると他の工程が依存しやすい「置き場所」や「基盤」にあたる部分はどこでしょうか。
- 顧客に提供形態(自社運用かクラウドか)を選ばせることで、導入の壁を下げられる場面はないでしょうか。
- 課金の単位を、顧客が予算を立てやすいものと、自社が伸びやすいものの両面から見直すと、どうなるでしょうか。
小さく試すなら
- 自社の既存顧客3〜5社に、サービスを使う中で「これがないと困る」と感じる工程を挙げてもらいます。
- 挙がった工程のうち、他の作業が依存しているものに印を付け、現在の価格や課金単位との対応を表にします。
- 無料で試せる範囲と、組織で使うときに必要になる範囲(管理、安全性、サポート)を分けた段階案を作ります。
- 段階案を同じ顧客に見せ、どの段階なら払う理由が語られるかを確認します。2〜4週間で、課金単位の候補を一つに絞ります。
関連するビジネスモデル
資料の位置づけ
企業・サービス:JFrog Ltd. / JFrog Platform。参照資料:Form 10-K(FY2025、2025年12月31日終了年度)。このページは公開情報にもとづく学習用の分析です。Otsumuの支援実績や当該企業との取引関係を示すものではありません。示唆と検証案はOtsumuの考察であり、企業自身の見解とは区別しています。
参考資料と編集について
上記の公開資料(企業の決算短信または年次報告書)をもとに、Otsumuが執筆しました。数値と企業の説明は資料の記載の範囲にとどめ、Otsumuの考察とは分けています。数値は資料の表記のままで、最新の情報は各社の開示をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.25