分類:企業事例 › 機械・素材・航空宇宙
この事例の要点
- Kornit Digital Ltd.は、衣類・布地向けのデジタル印刷システムとインク等の消耗品、サービスを提供するイスラエルの企業です。インク・消耗品とサービスが売上の約8割(計算値)を占め、設置台数に紐づく継続販売が中心です(Form 20-F、2025年12月期)。
- 2024年に開始したAIC(All-Inclusive Click)モデルでは、同社が装置の所有を続け、顧客は装置を運用して印刷1回(impression)ごとの固定料金を支払います(Form 20-F、2025年12月期)。
- AIC関連の売上は2024年の3,285千ドルから2025年の15,223千ドルへ増えました。一方で、装置販売の売上計上のタイミングが後ろにずれる影響も同社は説明しています(Form 20-F、2025年12月期)。
どんな事業か
Kornit Digital Ltd.は、イスラエルのRosh-Ha'Ayinに本社を置き、Nasdaqに上場している企業です(Form 20-F)。衣類や布地にデジタルで直接印刷するシステムを提供し、顧客は注文に応じて少量から印刷できます。同社は、設置台数が増えるとインクなどの消耗品の継続販売につながる事業モデルだと説明しています(Form 20-F、2025年12月期)。
あわせて、クラウド型のソフトウェアKornit Xを、オンデマンド生産を管理する月額制のサービスとして提供しています。同社は「Kornit X global fulfillment network(GFN)」というオンデマンド生産の提供形態にも触れており、Kornit Xについて当面の業績への影響は大きくないと見込んでいます(Form 20-F、2025年12月期)。
収益の仕組み
同社の収益は、装置の販売・AICによる印刷量課金・インクなどの消耗品・サービスの四つに整理できます。
- 入り口:印刷システムの販売、またはAICによる提供。AICでは装置の所有を同社が続ける。
- 課金:従来は装置の販売代金。AICでは印刷1回あたりの固定料金で、顧客の初期投資が小さくなる。
- 継続:インクなどの消耗品、保守契約、スペアパーツ、アップグレード、ソフトウェアの月額課金。
- 制約:顧客が他社のインクや部品を使うと、粗利率が下がると同社自身がリスクに挙げている。
数字で確かめる
- 2025年12月期の売上高は208,200千ドル(前期203,825千ドル、2023年219,786千ドル)でした。内訳は、装置とAICが42,508千ドル、インクと消耗品が113,578千ドル、サービスが52,114千ドルです(Form 20-F、2025年12月期)。インク・消耗品が売上の約55%を占めることが読み取れます。
- AICモデルによる売上は2025年に15,223千ドル、2024年に3,285千ドルでした(Form 20-F、2025年12月期)。開始から1年で規模が大きくなったことが読み取れます。
- 同社は、装置売上がAICへの移行により「システム関連の経済価値の一部が引き渡し時ではなく時間をかけて計上される」影響を受けたと説明しています(Form 20-F、2025年12月期)。売上計上のタイミングが後ろにずれる性質があることが読み取れます。
- 売上総利益は92,266千ドル(売上高に対する比率は約44.3%)、営業損失は34,572千ドルでした(Form 20-F、2025年12月期)。売上の規模に対して費用が重く、AICへの移行投資の最中にあることが読み取れます。
- 上位10顧客が売上の約60%を占め、そのうちAmazon関連の会社が約31%でした(Form 20-F、2025年12月期)。売上が少数の大口顧客に寄っていることが読み取れます。
Otsumuの読み解き:なぜ成り立つのか
ここからはOtsumuの考察です。AICは、装置を売る形から、印刷量に応じて支払う形へ、価格の払い方を変える設計だと読めます。顧客にとっては、装置の購入費を一度に払わず、印刷した分だけ払えばよくなります。需要の変動が大きい業界では、このほうが導入しやすいと考えられます。
一方、同社にとっては、装置の所有と稼働のリスクを自社が持つ構造に変わります。印刷量が少なければ、装置のコストを回収できません。顧客が装置を使い続けるほど同社の収入が増える、という利害の一致が生まれる反面、稼働率を上げるための営業や支援が必要になります。20-Fで「固有のリスクを伴う」と明記している点は、この負担を認識していることを示すと読めます。
数字で見ると、移行期には売上の計上が後ろにずれ、営業損失も続いています。払い方の変更は、顧客の導入のハードルを下げる代わりに、自社の資金繰りと採算の見え方を大きく変えます。この点が、料金モデルの変更を考えるときの要点だとOtsumuは見ます。
自社事業に持ち帰る問い
- 自社の製品やサービスの価格を、「購入」から「利用量に応じた支払い」に変えたら、顧客の導入のハードルはどう変わるでしょうか。
- 利用量課金に変えた場合、初期の投資や稼働のリスクを自社が持つことになりますが、それを回収できる条件は何でしょうか。
- 継続収入の源である消耗品や部品を、他社品に置き換えられないための工夫は何でしょうか。
小さく試すなら
- 既存顧客のうち、購入をためらった理由が「初期費用」だった例を3〜5件、営業記録や問い合わせから探します。
- その顧客に対し、利用量に応じた支払いの料金案を一枚にまとめます。1回あたりの料金、最低利用量、期間を書き出します。
- 自社が持つ初期の投資額と、料金案で回収できるまでの利用量を、簡単な表で試算します。試算は仮のものと明記します。
- 2〜4週間のあいだに、2〜3社へ料金案を見せ、購入より選びたいか、条件のどこが障害になるかを聞き取ります。
関連するビジネスモデル
資料の位置づけ
企業・サービス:Kornit Digital Ltd./デジタル印刷システム、All-Inclusive Click(AIC)、Kornit X。参照資料:Form 20-F(2025年12月期)。このページは公開情報にもとづく学習用の分析です。Otsumuの支援実績や当該企業との取引関係を示すものではありません。示唆と検証案はOtsumuの考察であり、企業自身の見解とは区別しています。
参考資料と編集について
上記の公開資料(目論見書・年次報告書・企業の公式発表など)をもとに、Otsumuが執筆しました。数値と企業の説明は資料の記載の範囲にとどめ、Otsumuの考察とは分けています。数値は資料の表記のままで、最新の情報は各社の開示をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.25