この事例の要点
- Nano Dimension Ltd.は、2025年にMarkforged Holding Corporationを買収し、Desktop Metal, Inc.を一時期連結したのち、Desktop Metalが米国連邦破産法第11章を申請して連結から外れました(Form 10-K、2025年12月期)。
- 2025年12月期の売上高は102,437千ドルで、前期の57,775千ドルから77%増えました。増加額44.7百万ドルのうち、Markforged分が54.3百万ドルと記載されています(Form 10-K、2025年12月期)。
- 売上は買収で増えた一方、純損失は293,618千ドルで、うち193,263千ドルはDesktop Metalの処分に関連する非継続事業の損失です(Form 10-K、2025年12月期)。
どんな事業か
Nano Dimension Ltd.はイスラエル法人で、米国マサチューセッツ州Walthamに主要な事務所を置き、Nasdaqに米国預託株式(ADS)を上場しています(Form 10-K、2025年12月期)。同社は2025年に、積層造形(3Dプリント)分野で二つの企業の買収を進めました。
2025年4月に買収したMarkforgedは、クラウド型ソフトウェア基盤「The Digital Forge」と、金属・複合材向けの3Dプリンター、専用素材を提供する企業です。一方、Desktop Metalは金属・高分子・セラミックなど多様な材料の積層造形装置を手がけていましたが、2025年7月28日にChapter 11を申請し、第3四半期に連結から外れたと記載されています(Form 10-K、2025年12月期)。同社は、2025年1月から複数の製品ラインの終了も進めたと述べています。
収益の仕組み
Nano Dimensionの収益は、ハードウェアの製品売上とサービス売上で構成されます。同社は、ハードウェアの販売を現在の事業成績の主な指標とし、将来の消耗品・ソフトウェア・サブスクリプションの継続収入の先行指標とも位置づけています(Form 10-K)。
- 入り口:3Dプリンターなどのハードウェア販売。
- 課金:本体の販売代金に加え、サービス売上、専用素材、ソフトウェア。
- 拡大:自社開発に加えて、他社の買収で製品群と顧客層を広げる。
- 整理:成果の出ない製品ラインの終了、買収先の処分。
数字で確かめる
- 2025年12月期の売上高は102,437千ドル(製品80,385千ドル、サービス22,052千ドル)で、前期の57,775千ドルから77%増えました(Form 10-K、2025年12月期)。売上規模が約1.8倍(計算値)になったことが読み取れます。
- 増加額44.7百万ドルに対し、Markforged分は54.3百万ドルです。同社は、既存の事業は関税の増加などもあって売上が下がったと説明しています(Form 10-K、2025年12月期)。買収分を除くと、既存事業は減収だったことが読み取れます。
- 売上総利益は34,345千ドルで、売上高に対する比率は約33.5%でした。前期は24,889千ドルです(Form 10-K、2025年12月期)。売上が増えたぶん粗利の額は増えた一方、費用も大きく増えたことが読み取れます。
- 買収の準備価格は、Desktop Metalが180.3百万ドル、Markforgedが116.2百万ドルで、いずれも手元資金で賄ったと記載されています。Desktop Metalは資産の減損139.4百万ドルを計上しました(Form 10-K、2025年12月期)。買収の成果が、案件によって大きく分かれたことが読み取れます。
- 2025年末の現金・預金・有価証券の合計は457.8百万ドルで、累積赤字は971.0百万ドルでした(Form 10-K、2025年12月期)。資金は残る一方、損失が積み上がっていることが読み取れます。
Otsumuの読み解き:なぜ成り立つのか
ここからはOtsumuの考察です。この事例は、買収によって製品群と売上規模を一気に広げる設計の、成果と難しさを両方示していると読めます。Markforgedの買収は、同社の連結売上に大きく寄与しました。ひとつの買収が、既存事業の減収を補って全体の売上を押し上げた形です。
一方、買収は、相手の財務の状態や、契約をめぐる争いのリスクを引き受けることでもあります。同社は10-Kで、Desktop Metalとの合併契約をめぐって訴訟があったこと、Desktop Metalが多額の負債と資金の必要性を抱えていたことを記載しています。買収の価格は売上の規模だけでなく、相手が抱える負債や、統合にかかる時間とも合わせて評価する必要があるとOtsumuは見ます。
また、同社は戦略的選択肢を検討する独立したプロセスを進めていると記載しています。買収で広げたあとに、どれを残し、どれを整理するかを決める局面に入っていると読めます。拡大の設計には、整理の設計も含めて考えることが重要だと考えられます。なお、この記事は同社の将来を評価するものではありません。
自社事業に持ち帰る問い
- 他社の買収や提携で事業を広げる場合、相手の負債や契約上のリスクを、価格にどう反映できるでしょうか。
- 広げた事業のうち、残すものと整理するものを、どの基準で決めるでしょうか。
- 既存事業が減収のとき、新しい売上を足す以外に、自社の収益を守る手段は何でしょうか。
小さく試すなら
- 自社の事業・製品ラインを一覧にし、直近3年の売上、粗利、投下した人員を並べます。
- 各ラインについて、「残す・見直す・整理する」の判断基準を三つほど文章で決めます。
- 提携や買収を検討している相手がいる場合は、負債、契約上の義務、主要顧客への依存を確認する質問リストを作ります。
- 2〜4週間のうちに、一覧と基準で一回見直しの会議を行い、判断が分かれたラインについて追加で確認する項目を書き出します。
関連するビジネスモデル
資料の位置づけ
企業・サービス:Nano Dimension Ltd./積層造形(3Dプリンター)、Markforged、Desktop Metal。参照資料:Form 10-K(2025年12月期)。このページは公開情報にもとづく学習用の分析です。Otsumuの支援実績や当該企業との取引関係を示すものではありません。示唆と検証案はOtsumuの考察であり、企業自身の見解とは区別しています。
参考資料と編集について
上記の公開資料(目論見書・年次報告書・企業の公式発表など)をもとに、Otsumuが執筆しました。数値と企業の説明は資料の記載の範囲にとどめ、Otsumuの考察とは分けています。数値は資料の表記のままで、最新の情報は各社の開示をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.25