分類:企業事例 › 医療・医薬・ヘルスケア
この事例の要点
- Recursion Pharmaceuticalsは、AIと自動化した実験で創薬を進める臨床段階のバイオテクノロジー企業で、承認済みの製品はまだなく、製品売上もありません(Form 10-K、FY2025)。
- 2025年12月期の売上高は74.7百万ドルで、すべて提携先との研究開発契約と助成金によるものです。同社はSanofiやRoche/Genentechなどとの提携で、データ生成の対価やマイルストンを受け取る設計を説明しています(Form 10-K、FY2025)。
- 研究開発費は475.3百万ドルで、売上の約6.4倍でした。純損失は644.8百万ドルです(Form 10-K、FY2025)。提携収益だけで自社開発を賄う段階ではないことが読み取れます。
どんな事業か
Recursion Pharmaceuticals, Inc.は米国ユタ州ソルトレイクシティに本社を置き、Nasdaq Global Select Marketに上場している企業です。同社は、生物学的なデータの生成、AIによる分子設計、臨床開発を一体で進める「AIネイティブ」な創薬基盤を持つと説明しています。ソルトレイクシティと英国ミルトンパークの施設で実験を行い、結果を基盤に戻してモデルを更新する循環を作っています(Form 10-K、FY2025)。
2024年11月20日には、Exscientiaとの統合が完了し、Sanofiとの提携契約が同社の決算に含まれるようになりました。同社は、これまでに新規のデータ生成(Roche/Genentechが選択したマップなど)と、AI設計の低分子の進行(Sanofiなど)に関連して、提携先から500百万ドルを超える支払いを受け取ったと記載しています(Form 10-K、FY2025)。
収益の仕組み
売上は製品の販売ではなく、提携先との研究開発契約から生じます。同社は、提携契約で変動対価を受け取る権利があり、その認識は現金の受取時期とは一致しないと説明しています。
- 入り口:製薬企業との戦略的提携を結び、細胞画像などのデータからなる「Phenomap」の作成や、創薬プログラムの共同研究を行います。
- 課金:契約金、データ生成の対価、研究・開発・規制上のマイルストン、製品化後のロイヤルティです。同社は、Roche/Genentechからは1桁台後半までの段階的ロイヤルティ、Sanofiからは2桁台までのロイヤルティを受け取る権利があると記載しています。
- 継続:自社のパイプラインの進行と提携プログラムの進行により、追加のマイルストンを期待しています(Form 10-K、FY2025)。
数字で確かめる
- 2025年の売上高は74.7百万ドルで、前年の58.8百万ドルから26.9%増えました。うち営業収益が74.3百万ドル、助成金収益が0.4百万ドルです(Form 10-K、FY2025)。収益のほぼすべてが提携契約から生じていることが読み取れます。
- 増収の理由について、同社はSanofiとの提携による収益の認識を挙げています。2024年はExscientiaとの統合日(11月20日)以降の分のみで、2025年は通年分が含まれるためです。一方、Rocheからの収益は作業の構成のタイミングにより減っています(Form 10-K、FY2025)。収益の増減が、契約の進行や統合のタイミングによって動くことが読み取れます。
- 研究開発費は475.3百万ドルで、前年の314.4百万ドルから51.2%増えました。売上原価は71.0百万ドル、一般管理費は176.6百万ドルです(Form 10-K、FY2025)。費用の拡大が売上の伸びを大きく上回っていることが読み取れます。
- 営業損失は648.1百万ドル、純損失は644.8百万ドルで、2025年末の累積赤字は21億ドルです。現金等(制限付き現金を含む)は753.9百万ドルで、2024年末の603.0百万ドルから増えています(Form 10-K、FY2025)。資金は主に普通株式の発行で賄われていることが読み取れます。
- 同社は2023年以降、Class A普通株式の発行で純額957.1百万ドルを調達したと記載しています。また、今後も追加の資金調達が必要になる見込みだとしています(Form 10-K、FY2025)。研究の継続に、外部からの資金が必要な段階であることが読み取れます。
Otsumuの読み解き:なぜ成り立つのか
ここからはOtsumuの考察です。この事業は、AIによる創薬基盤を持つ企業が、提携先から「データ生成の対価」と「成功時の分配」を受け取る二段構えだと読めます。前者は開発の途中でも発生する収益で、後者は薬が成功したときの上振れです。ただし、2025年の売上は研究開発費の約16%にとどまり、現時点では提携収益が事業全体を支える段階には達していません。
この設計が成り立つ前提は、データとモデルが「使うほど改善する」ことだと考えられます。同社は、設計・製造・試験・学習の循環で予測モデルの精度が約50%改善した例を図で示しています。ただし、これは同社の説明であり、事業としての成否は、臨床での成果や提携先の判断に依存します。
この型の学びは、前払いの対価を受け取りながら自社の資産(データ・モデル)を育てる点にあります。同時に、巨額の研究開発費を外部資金で賄う構造は、事業の継続に資金調達の環境が影響することも意味します。収益の仕組みと、資金の仕組みを分けて見ることが大切だとOtsumuは考えます。
自社事業に持ち帰る問い
- 自社が取引先と共同で進めている取り組みのうち、途中段階で対価を受け取れる部分と、成功時にだけ受け取れる部分は、それぞれどこでしょうか。
- 自社が案件を通じて蓄積しているデータやノウハウは、使うほど改善する資産になっているでしょうか。
- 収益と費用の規模に差がある期間を、どの資金で、どれだけの期間乗り切る計画でしょうか。
小さく試すなら
- 共同で進めている案件や提案中の案件を3〜5件選び、報酬を「途中で受け取るもの」と「成果が出た場合に受け取るもの」に分けた一覧を作ります。
- 案件で得られたデータや知見のうち、次の案件で再利用できたものを書き出し、再利用でどれだけ作業が減ったかを概算します。
- 途中の対価と成果分配を組み合わせた報酬案を1つ書き、取引先候補の1〜2社に見せて、受け入れられるか、どの条件が難しいかを聞き取ります。
- 2〜4週間のうちに、再利用できる資産の効果を簡単な数字にまとめ、次の提案書に添えて反応を確かめます。
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資料の位置づけ
企業・サービス:Recursion Pharmaceuticals, Inc.(AI創薬プラットフォームと提携事業)。参照資料:Form 10-K(2025年12月31日終了年度)。このページは公開情報にもとづく学習用の分析です。Otsumuの支援実績や当該企業との取引関係を示すものではありません。示唆と検証案はOtsumuの考察であり、企業自身の見解とは区別しています。
参考資料と編集について
上記の公開資料(目論見書・年次報告書・企業の公式発表など)をもとに、Otsumuが執筆しました。数値と企業の説明は資料の記載の範囲にとどめ、Otsumuの考察とは分けています。数値は資料の表記のままで、最新の情報は各社の開示をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.25