この事例の要点
- Toll Brothers, Inc.は、高級戸建て、集合住宅、都市型の高層住宅を設計・建設・販売し、購入者向けの融資の手配も行います。2025年10月期は11,292戸を引き渡し、売上高は109億7,000万ドルでした(Form 10-K、FY2025)。
- 従来は受注後に建てる住宅が中心でしたが、即入居できる「スペック住宅」を増やし、引渡し戸数に占める割合は2024年の約49%から2025年の約54%になりました(Form 10-K、FY2025)。
- 2025年9月に、賃貸住宅(アパートメント・リビング)の開発から撤退する方針を発表し、運営基盤と持分の約半分をKennedy Wilsonに約3億8,000万ドルで売却すると説明しています(Form 10-K、FY2025)。
どんな事業か
Toll Brothers, Inc.は米国の上場企業で、高級な初めての購入層、買い替え層、シニア層(買い替えて小さな住宅へ移る層)、アクティブシニア、別荘購入層向けの住宅を提供します。2025年10月末時点で、計画・開発・運営の各段階にある1,137の区画に、所有またはオプションで管理する約76,100の宅地があり、うち446区画で販売していました(Form 10-K、FY2025)。
主な事業は住宅建設ですが、構造部材の製造も持っています。子会社のToll Integrated Systemsは、壁パネル、屋根・床のトラス、内外装の木製部材などを製造し、北部、中部大西洋岸、南部の一部の建築現場に供給します。また高層住宅は、City Livingのブランドで、合弁パートナーと開発しています(Form 10-K、FY2025)。
収益の仕組み
収益の中心は住宅の販売です。購入者との契約から引渡しまでの流れは、次のとおりです。
- 入り口(予約):購入者が非拘束の予約契約を結び、短期間、区画を確保して価格に上限を設けます。
- 課金(本契約):約3週間以内に、資金力を確認する質問票を経て、拘束力のある売買契約を結びます。本契約では、原則返還されない頭金を受け取り、2025年は平均で購入価格の約7%でした。
- 継続・周辺:引渡し後も、融資を組む購入者には子会社のToll Brothers Mortgage Companyが住宅ローンを提供します。構造部材は、自社工場で製造して現場に供給します。
2025年に引渡した住宅のうち、購入者の約25%が全額を現金で支払い、残りは売価の約69%を借り入れたと説明されています(Form 10-K、FY2025)。
数字で確かめる
- 売上高109億7,000万ドル(住宅販売108億4,000万ドル、土地販売等1億2,450万ドル)、純利益13億5,000万ドル(前期は売上高108億5,000万ドル、純利益15億7,000万ドル)(Form 10-K、FY2025)。売上は前期並みでも、土地販売の一時的な要因が前期の利益を押し上げていたことが読み取れます。
- 受注(純契約)98億5,000万ドル・9,943戸、受注残高54億9,000万ドル・4,647戸(前期は64億7,000万ドル・5,996戸)(Form 10-K、FY2025)。受注残高は減っており、将来の引渡しの見通しは前年より小さくなったことが読み取れます。
- 受注残の約98%を、2026年10月期中に引き渡す見込み(Form 10-K、FY2025)。契約済みの案件がほぼ1年以内に売上へ変わる構造であることが読み取れます。
- 引渡しの約54%がスペック住宅(前期約49%)(Form 10-K、FY2025)。建築前に買い手が決まっていない住宅の比重が上がっていることが読み取れます。
- 賃貸住宅は73区画、約22,300戸を管理(合弁を含む)し、うち44区画・約13,400戸をKennedy Wilsonに売却する計画(Form 10-K、FY2025)。長期で保有する資産を、売却して整理していることが読み取れます。
Otsumuの読み解き:なぜ成り立つのか
ここからはOtsumuの考察です。この事例は、「受注して建てる」と「先に建てて売る」の両方を、市況に応じて混ぜている点が学びになります。受注後の建築は在庫リスクを抑えられますが、買い手が急ぎで入居したい場合に応えられません。同社は、即入居を求める買い手に応えるため、スペック住宅の比率を高めたと説明しています。これは、売上の速度を取りに行く判断だと読めます。一方で、手付金が契約の安全弁になっており、受注残高が先々の売上の目安として機能していると考えられます。
もう一つの注目点は、賃貸事業からの撤退です。賃貸は、住宅建設と同じ土地や開発の知識を使いながら、長期で資金を預ける別の事業です。同社は、これを運営基盤ごと売却する方針を示しました。本業の住宅建設に資本と人材を集中させる判断だと読めます。多角化した事業を、収益だけでなく「資本の重さ」で見直す例として参考になると考えられます。
自社事業に持ち帰る問い
- 自社は、受注後に作る工程と、先に作って待つ工程の割合を、数字で把握していますか。
- 顧客が申し込みから支払いまでの間に離脱しないよう、頭金や予約の仕組みを設けられますか。
- 隣接事業のうち、収益は出ていても資本や人材を重く使っているものはありませんか。
小さく試すなら
- 直近の案件を、「受注後に作った分」と「先に作った分」に分け、納期と在庫日数を一覧にします。
- 先に作った分のうち、顧客から急ぎの要望があったものを数え、先作りが売上に貢献した度合いを確認します。
- 申し込みから本契約までに離脱した案件を10件洗い出し、予約金や期限の設定で防げたかを検討します。
- 2〜4週間で、1つの商品に小額の予約金と期限を試し、成約率の変化を記録します。
関連するビジネスモデル
資料の位置づけ
企業・サービス:Toll Brothers, Inc. / 高級住宅の建設と販売。参照資料:Form 10-K(2025年10月31日終了事業年度)。このページは公開情報にもとづく学習用の分析です。Otsumuの支援実績や当該企業との取引関係を示すものではありません。示唆と検証案はOtsumuの考察であり、企業自身の見解とは区別しています。
参考資料と編集について
上記の公開資料(目論見書・年次報告書・企業の公式発表など)をもとに、Otsumuが執筆しました。数値と企業の説明は資料の記載の範囲にとどめ、Otsumuの考察とは分けています。数値は資料の表記のままで、最新の情報は各社の開示をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.25