この事例の要点
- 10x Genomicsは、シングルセルや空間解析のための装置・消耗品・ソフトウェアを研究者向けに提供し、2025年12月期の売上高は642.8百万ドルでした(Form 10-K、FY2025)。
- 売上のうち消耗品は507.2百万ドルで、装置の56.8百万ドルを大きく上回ります(Form 10-K、FY2025)。装置を設置したあとの継続的な使用が、売上の中心になっています。
- 2025年は装置の売上が39%減る一方、消耗品は3%増えました(Form 10-K、FY2025)。装置の販売が落ちても、設置済みの装置の使用が収益を支える構造が確認できます。
どんな事業か
10x Genomics, Inc.は米国カリフォルニア州プレザントンに本社を置き、Nasdaqに上場しているライフサイエンス技術企業です。同社は自社を、生物学を高い解像度と規模で調べるための装置・消耗品・ソフトウェアを統合して提供する企業と説明しています。製品は、がん、免疫、神経科学などの研究に使われています(Form 10-K、FY2025)。
同社は2015年半ばの最初の製品の発売から2025年12月31日までに、8,046台の装置を販売したと記載しています。2025年には1,007台の装置と、424,000の消耗品の反応数(consumable reactions)を販売しました。顧客は大学などの研究機関やバイオ医薬品企業で、同社は自社製品で得たデータにもとづく査読付き論文が10,000本を超えると推計しています(Form 10-K、FY2025)。
収益の仕組み
収益は、装置の販売、装置を使うたびに必要になる消耗品、そして保守などのサービスという層で構成されています。装置を設置した顧客が実験を重ねるほど、消耗品の購入が積み上がる設計です。
- 入り口:シングルセル向けと空間解析向けの装置(Instruments)を販売します。2025年の装置売上は56.8百万ドルでした。
- 課金:実験ごとに必要な試薬・チップなどの消耗品(Consumables)です。2025年は507.2百万ドルで、売上高に占める割合は約79%になります(507,183÷642,823。数値は同10-Kの表より算出)。
- 継続:同社は消耗品を「継続的な消耗品収益(Recurring consumable revenue)」と呼び、価格調整や新しい消耗品の投入、顧客の利用の促進を通じて消耗品の使用を増やす方針を記載しています。サービスは2025年に32.7百万ドルでした(Form 10-K、FY2025)。
- そのほか:2025年はライセンス・ロイヤルティ収益が46.1百万ドル計上されました(前年は0.3百万ドル)。同期の営業費用には、和解益49.9百万ドルも含まれています(Form 10-K、FY2025)。
数字で確かめる
- 2025年の売上高は642.8百万ドルで、前年の610.8百万ドルから5%増えました。純損失は43.5百万ドルで、前年の182.6百万ドルから縮小しています(Form 10-K、FY2025)。売上が小幅に伸びるなかで、損失が大きく縮んだことが読み取れます。
- 装置売上は56.8百万ドルで前年比39%減、うちシングルセルが22.7百万ドル(36%減)、空間解析が34.1百万ドル(41%減)でした。同社は価格の引き下げと空間解析装置の販売台数の減少を理由に挙げています(Form 10-K、FY2025)。装置の販売が減る局面があることが読み取れます。
- 消耗品売上は507.2百万ドルで3%増でした。空間解析の消耗品は144.0百万ドルで19%増、シングルセルの消耗品は363.2百万ドルで2%減でした(Form 10-K、FY2025)。成長する領域と、横ばいから微減の領域が併存していることが読み取れます。
- 売上総利益は443.9百万ドル、売上原価は198.9百万ドルです。売上総利益率は約69%になります(443,881÷642,823。数値は同10-Kの表より算出)。研究機器と消耗品の組み合わせで、一定の粗利を確保していることが読み取れます。
- 2025年の装置の販売台数は1,007台で、前年の1,073台から減りました。一方、消耗品の反応数は357,100から424,000へ増えています(Form 10-K、FY2025)。装置の追加販売が鈍っても、設置済みの装置から消耗品の使用が増えていることが読み取れます。
Otsumuの読み解き:なぜ成り立つのか
ここからはOtsumuの考察です。この事業は、装置を入口に消耗品で稼ぐ「レイザー&ブレード」型に、研究という使い方の特性が重なっていると読めます。研究者は一度、装置と手順に習熟し、論文や過去のデータもその形式で積み上がります。そのため、他の方式へ移るには、手順の学び直しと過去データとの比較可能性という、見えにくい切り替えコストがかかります。消耗品の使用が続く理由の一つは、この点にあると考えられます。
一方で、この型は装置の販売が止まると将来の消耗品の使用量も先細りになります。2025年に装置売上が大きく減ったことは、その表れとして読めます。同社が装置の価格を下げたと述べている点は、装置の利益よりも、設置台数と消耗品の使用量を優先する判断と解釈できます。ただし、これは企業の説明ではなく、Otsumuの解釈です。
また、消耗品の売上は、顧客の研究予算に左右されます。シングルセルの消耗品が微減だったことは、成熟した領域では新しい用途や製品を足し続けないと伸びにくいことを示唆しているように見えます。空間解析のように、新しい領域で消耗品の使用が立ち上がる局面と、既存領域の維持という局面を分けて見ることが重要だとOtsumuは考えます。
自社事業に持ち帰る問い
- 自社の製品やサービスのうち、導入のハードルを下げてでも、使用が積み上がるように設計し直せる部分はどこでしょうか。
- 顧客が他社へ乗り換えにくい理由は、機能なのか、習熟なのか、蓄積したデータなのか、それぞれを区別できているでしょうか。
- 導入数が伸び悩んだ場合でも、既存顧客の利用量が増える余地はどこにあるでしょうか。
小さく試すなら
- 自社の既存顧客のうち、直近3か月に継続して使っている数社を選び、使い方の頻度と購入物(消耗品・追加オプションなど)の推移を並べます。
- その数社に、使い続けている理由と、他の方法に移るなら何が面倒かを聞き取り、「習熟」「データ」「周辺機器・連携」などに分類します。
- 入口の価格や条件を一部だけ下げた案と、使用量に応じた課金を足した案を紙に書き、同じ数社に見せて反応を比べます。
- 2〜4週間の聞き取りで、乗り換えにくさの理由が確認できた部分に絞り、小さな利用促進策を1つだけ試して、利用量が増えるかを記録します。
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資料の位置づけ
企業・サービス:10x Genomics, Inc.(Chromium/Xenium などのシングルセル・空間解析製品)。参照資料:Form 10-K(2025年12月31日終了年度)。このページは公開情報にもとづく学習用の分析です。Otsumuの支援実績や当該企業との取引関係を示すものではありません。示唆と検証案はOtsumuの考察であり、企業自身の見解とは区別しています。
参考資料と編集について
上記の公開資料(目論見書・年次報告書・企業の公式発表など)をもとに、Otsumuが執筆しました。数値と企業の説明は資料の記載の範囲にとどめ、Otsumuの考察とは分けています。数値は資料の表記のままで、最新の情報は各社の開示をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.25