KPI設定でよくある失敗は、突き詰めると「追えない指標」と「動かせない指標」を選んでしまうことに集約されます。追えない指標とは、定義があいまいだったり、データが取れなかったり、集計に手間がかかりすぎたりして、定期的に数字を確認できない指標です。動かせない指標とは、担当者が自分の行動で影響を与えられない指標や、結果が出るまでに時間がかかりすぎて日々の判断に使えない指標です。どちらを選んでも、KPIは会議の資料に並ぶだけの数字になり、行動を変える道具になりません。
直し方の基本は、指標ごとに「定義とデータの取得元が決まっているか」「誰がどの行動で動かせるか」「どのくらいの頻度で変化が見えるか」の三点を確認することです。加えて、指標の数を絞り、目標値の根拠を持ち、指標同士の衝突に気を配ることで、KPIは実際に使われるものになります。
この記事は、KPIを設定したものの追いきれていない、数字を見ても次の行動が決まらない、と感じている事業責任者やマネージャーの方に向けています。典型的な失敗を八つに整理し、それぞれの見分け方と直し方、設定し直す手順、見直しのチェックリストまでを解説します。
KPIが機能しているかを見分ける
失敗の話に入る前に、今のKPIが機能しているかどうかを確認する方法を紹介します。次の問いに答えてみてください。
- 担当者は、自分の担当のKPIの今週の数字を、資料を見ずに答えられるか
- KPIが計画を下回ったとき、次に何をするかがその場で決まるか
- 最後にKPIの数字をきっかけに施策を変えたのはいつか
- KPIの数字を集めるのに、毎回どのくらいの時間がかかっているか
- 各KPIの定義を、関係者全員が同じように説明できるか
答えに詰まる問いが多いほど、KPIの設定か運用のどこかに問題があります。問題の多くは、以下の八つの失敗のどれかに当てはまります。
KPI設定でよくある八つの失敗
ここからは、KPI設定で起きやすい失敗を八つに分けて、それぞれの症状と直し方を説明します。前半の四つは「追えない・動かせない」という指標そのものの問題、後半の四つは数や目標値、指標同士の関係、見直しといった運用の問題です。
失敗1:定義があいまいで、人によって数字が違う
「アクティブユーザー数」「顧客数」「成約率」といった指標は、一見明確に見えますが、定義を詰めないと人によって数え方が変わります。アクティブユーザーとは、ログインした人か、何か操作をした人か。期間は一日か、一週間か、一か月か。顧客数は契約している会社の数か、利用している個人の数か。成約率の分母は問い合わせ数か、商談数か。
定義があいまいなまま運用すると、部署ごとに数字が合わない、担当者が変わると数字の傾向が変わる、という事態が起きます。会議で数字の正しさの議論に時間を取られ、本来の改善の議論にたどり着きません。
直し方は、指標ごとに定義を文書にすることです。名前、何を数えるか、分母と分子、集計の期間、データの取得元、除外する条件(社内のテスト用アカウントなど)を書き出します。定義書の作り方は指標の定義が部署ごとにそろわない問題:KPI定義書の作り方で詳しく解説しています。
失敗2:データが取れない、または集計に手間がかかりすぎる
理想的な指標を選んでも、データが取れなければ追えません。よくあるのは、KPIを決めた後になって、必要なデータがシステムに記録されていないことに気づくケースです。顧客の利用の状況を見たいのに操作の記録が残っていない、商談の段階を見たいのに営業担当が記録していない、といった状態です。
また、データは取れても、複数のシステムから手作業で集めて表計算ソフトで集計しなければならない場合、担当者の負担が大きく、集計が遅れたり止まったりします。
直し方は二つあります。一つは、KPIを決める段階で、データの取得元と集計の方法を必ず確認することです。取れない指標は、記録を始めるか、取れる指標で代用します。もう一つは、集計の自動化です。手作業での集計が月に何時間もかかるなら、データを自動で集めてダッシュボードに表示する仕組みに投資する価値があります。表計算ソフトでの管理の限界の目安はスプレッドシートでのKPI管理の限界と、ツール移行の目安を参考にしてください。
失敗3:担当者が動かせない指標を担当させる
KPIを担当者に割り当てるとき、その担当者が自分の行動で数字に影響を与えられるかを確認しないと、担当者は責任だけを負い、何をしてよいか分からない状態になります。
たとえば、サポート担当に「解約率」を担当させても、解約の原因が価格や機能の不足にある場合、サポート担当の行動だけでは動かせません。営業担当に「売上」だけを担当させると、市場の状況や製品の競争力など、本人が動かせない要因に数字が左右されます。
直し方は、担当者に割り当てる指標を、本人の行動で直接動かせるところまで分解することです。サポート担当なら「利用が止まった顧客への連絡の件数」や「問い合わせへの初回回答までの時間」、営業担当なら「提案書の提出数」や「決裁者との面談数」です。結果の指標(解約率や売上)は、チームや部門で共有する指標として位置づけます。
割り当てる前に、担当者本人に「この数字を上げるために、来週何をしますか」と尋ねてみるのも有効です。具体的な行動がすぐに返ってくれば、その指標は担当者が動かせるものです。答えに詰まるようなら、指標が大きすぎるか、担当者の権限の外にある可能性があります。その場合は、担当者と一緒に、行動とのつながりが見える指標を探し直します。分解の手順はKPIツリーの作り方:KGIから日々の行動指標へ分解する手順で解説しています。
失敗4:結果が出るのが遅すぎる指標だけを追う
売上、利益、年間の解約率といった指標は、事業の成果を示す大切な数字ですが、結果が出るまでに時間がかかります。これらの指標だけを追っていると、問題に気づいたときには手遅れ、ということになりがちです。
結果を示す遅行指標と、結果を予測する先行指標を組み合わせて追うことが大切です。たとえば、解約率という遅行指標に対して、利用頻度の低下や、主要な機能を使っていない顧客の割合を先行指標として追います。先行指標が悪化した時点で手を打てば、解約を防げる可能性があります。考え方は先行指標・遅行指標で解説しています。
失敗5:指標の数が多すぎる
KPIを設定するとき、大切そうな指標を全部入れたくなるものです。その結果、一つの部署で十個以上の指標を追うことになり、どれも中途半端にしか見られなくなります。会議ではすべての指標を確認するだけで時間が終わり、改善の議論に入れません。
直し方は、重点の指標を絞ることです。一つのチームが日々意識して追う指標は、二〜四個程度が目安です。それ以外の指標は、毎週ではなく月に一度確認する、異常があったときだけ確認する、という扱いに分けます。
絞り込むときは、「今の事業の課題に最も効く指標はどれか」を基準にします。新規獲得が課題なら獲得の段階の指標を、解約が課題なら継続の段階の指標を重点にします。課題が変われば、重点の指標も入れ替えます。
失敗6:目標値に根拠がない
指標は適切でも、目標値の決め方に根拠がないと、達成しても未達でも、そこから学ぶことができません。「前年の一・五倍」「きりのよい数字」といった決め方では、目標が高すぎて最初から諦めムードになる、低すぎて努力しなくても達成できる、といったことが起きます。
目標値は、過去の実績の推移、KGIからの逆算、施策の効果の見込み、の三つを組み合わせて決めます。過去の実績から自然に伸びる値を出し、KGIを達成するために必要な値を逆算し、その差を埋める施策とその効果の見込みを並べます。差が大きすぎる場合は、施策を追加するか、KGIを見直すかを判断します。目標値の決め方の詳細はKPIの目標値の決め方:過去実績・逆算・外部基準の使い分けで扱っています。
失敗7:指標同士が衝突している
一つの指標だけを追うと、別の大切な数字が悪化することがあります。問い合わせへの対応時間を短くする目標だけを追うと、回答の質が下がり、再問い合わせが増える。新規獲得の件数だけを追うと、条件の合わない顧客まで獲得して、すぐに解約される。広告からの訪問者数だけを追うと、購入につながらない訪問が増え、広告費がかさむ。
直し方は、重点の指標ごとに、悪化してはいけない指標を一つ組み合わせて見ることです。対応時間には再問い合わせ率を、新規獲得件数には初期の解約率を、訪問者数には購入率や獲得単価を組み合わせます。このように対になる指標を決めておくと、数字だけを追った結果、事業全体が悪くなる事態を防げます。
失敗8:設定したまま見直さない
KPIは、事業の段階や課題に合わせて見直すべきものです。立ち上げ期に設定した指標を、成長期になっても同じように追い続けていると、今の課題に合わない数字を見ていることになります。また、施策の効果が一巡して数字が頭打ちになっているのに、同じ指標を同じ目標で追い続けると、担当者の意欲も下がります。
四半期に一度程度、重点の指標が今の課題に合っているか、目標値が適切か、追い続ける意味があるかを確認する場を設けます。
見直しの場では、次の三つの問いを順に確認すると議論がまとまりやすくなります。一つ目は「この指標は、今の事業の一番の課題につながっているか」。二つ目は「この四半期に、この指標の数字をきっかけに施策を変えたことがあったか」。三つ目は「この指標を外したら、何か困ることがあるか」。三つ目の問いに答えられない指標は、重点から外す候補です。指標を外すことに抵抗がある場合は、重点から外して月に一度の確認に回すだけでも、チームの注意を今の課題に集中させる効果があります。
事業の段階の変化も、見直しのきっかけになります。立ち上げ期には利用の定着や顧客の反応を示す指標が重要ですが、成長期には獲得の効率や継続率、成熟期には利益率や既存顧客からの収益の伸びが重要になります。段階が変わったと感じたら、四半期を待たずに重点の指標を見直します。
八つの失敗の見分け方と直し方の一覧
| 失敗 | 見分けるサイン | 直し方 |
|---|---|---|
| 定義があいまい | 部署ごとに数字が合わない、会議で数字の正しさを議論している | 定義書を作り、分母・分子・期間・取得元を明記する |
| データが取れない | 集計が遅れる、手作業の集計に時間がかかる | 決める段階で取得元を確認し、集計を自動化する |
| 担当者が動かせない | 担当者が数字を見ても行動が決まらない | 行動で動かせる指標まで分解して割り当てる |
| 結果が遅すぎる | 問題に気づいたときには手遅れになっている | 先行指標を組み合わせて追う |
| 数が多すぎる | 会議が数字の確認だけで終わる | 重点の指標を二〜四個に絞る |
| 目標値に根拠がない | 達成しても未達でも学びがない | 実績・逆算・施策の効果から決める |
| 指標同士が衝突 | ある数字の改善と同時に別の数字が悪化する | 悪化してはいけない指標を対で見る |
| 見直さない | 数字が頭打ちで、施策が変わらない | 四半期ごとに重点と目標を見直す |
なお、八つの失敗は単独で起きるより、いくつかが重なって起きることが多いものです。たとえば、指標の数が多すぎるために一つひとつの定義を詰める時間がなく、定義があいまいなまま集計の手間だけが増えている、という具合です。直すときは、まず数を絞り、残った指標の定義とデータの取得元を固め、そのうえで担当と目標値を決める、という順に進めると効率的です。
KPIを設定し直す手順
今のKPIに問題があると分かったら、次の手順で設定し直します。
- 現在追っているKPIを一覧にし、それぞれの定義、データの取得元、担当者、目標値を書き出す。
- 一覧の各指標について、八つの失敗のどれに当てはまるかを確認する。
- KGIと今の事業の課題を確認し、課題に最も効く指標を重点の候補として選ぶ。
- 重点の候補を、担当者が行動で動かせる指標まで分解する。
- 重点の指標ごとに、定義とデータの取得元を確定させ、取れないものは代用の指標を決める。
- 重点の指標ごとに、悪化してはいけない対の指標を決める。
- 過去の実績と逆算から目標値を決め、根拠を記録する。
- 一〜二か月運用し、担当者が数字を見て行動を決められているかを確認して調整する。
手順8の確認が大切です。設定し直した直後は、うまく機能するかどうかは分かりません。運用してみて、数字が更新されているか、会議で次の行動が決まっているかを見て、必要なら指標や定義を調整します。
架空の例:法人向けクラウドサービスのKPIの見直し
法人向けのクラウドサービスを提供する会社を例に考えます。営業部門は「月間の新規契約数」、カスタマーサクセス部門は「解約率」、マーケティング部門は「資料請求数」をKPIとしていました。
運用してみると、いくつかの問題が見えてきました。マーケティング部門は資料請求数を伸ばしましたが、営業部門からは「商談につながらない請求が増えた」という声が上がりました。カスタマーサクセス部門は解約率を担当していましたが、解約の連絡を受けた時点ではすでに決定済みで、打てる手がほとんどありませんでした。
見直しでは、マーケティング部門の指標を「資料請求数」から「商談化した資料請求の数」に変え、資料請求数は参考の指標に下げました。カスタマーサクセス部門には、解約率をチームの共有の指標として残しつつ、担当の指標として「導入後一か月以内に主要な機能を使い始めた顧客の割合」を設定しました。これは導入支援の行動で動かせる先行指標です。営業部門の新規契約数には、対の指標として「契約後三か月以内の解約の件数」を組み合わせました。
この見直しによって、各部署が自分の行動で動かせる数字を持ち、部署同士の指標の衝突も見えるようになりました。
KPI見直しのチェックリスト
- 各KPIの定義(分母・分子・期間・除外条件)が文書になっているか
- 各KPIのデータの取得元と集計の方法が決まっているか
- 集計にかかる手間が、運用を続けられる範囲に収まっているか
- 担当者に割り当てた指標は、本人の行動で動かせるものか
- 遅行指標だけでなく、先行指標も追っているか
- 一つのチームの重点の指標は二〜四個に絞られているか
- 目標値の根拠が記録されているか
- 重点の指標ごとに、悪化してはいけない対の指標を決めているか
- KPIの数字をきっかけに、施策を変えた実績があるか
- 重点の指標と目標値を見直す時期が決まっているか
よくある質問
Q. KPIとOKRはどちらを使うべきですか?
目的が違うため、どちらか一方を選ぶというより、組み合わせて使うことが多くなります。KPIは事業の健全さを継続的に測る指標、OKRは一定期間で挑戦的な目標に向かうための枠組みです。両者の違いと組み合わせ方はOKRとKPIの違いと使い分け:組み合わせて運用する方法で解説しています。
Q. 定性的な目標はKPIにできませんか?
顧客の満足度やブランドの印象といった定性的な目標も、アンケートの回答や推奨の意向など、測れる形に置き換えればKPIとして扱えます。ただし、測定の頻度が低く、行動との関係が見えにくいため、重点の指標にする場合は、より頻繁に測れる先行指標を組み合わせるのがおすすめです。
Q. KPIが未達のとき、担当者を評価で責めるべきですか?
KPIを人事評価に直結させすぎると、担当者は達成しやすい目標を設定したり、数字の見せ方を工夫したりするようになり、KPIが本来の役割を果たさなくなります。未達のときは、原因を一緒に分析し、次の行動を決める材料として使うのが基本です。評価に使う場合も、数字だけでなく、行動や学びを合わせて見る形が望ましいでしょう。
Q. 小さなチームでも、ここまで厳密にKPIを設計する必要がありますか?
指標の数は少なくて構いませんが、定義をそろえること、担当者が動かせる指標にすることの二点は、規模に関係なく重要です。小さなチームほど、追う指標を一〜二個に絞り、毎週の短い確認で行動を変えていく方が効果を実感しやすくなります。
Otsumuに相談できること
KPIの数がそれほど多くなく、データが一つか二つのシステムから取れ、各部署の担当者と話し合える関係がある場合は、この記事の手順に沿って自社でKPIを設定し直すことは十分可能です。まずは今のKPIの一覧を作り、八つの失敗に当てはまるかを確認するところから始めてみてください。
一方で、部署ごとにKPIの定義がばらばらで、どこから整えればよいか分からない、必要なデータが取れておらず計測の仕組みから作る必要がある、指標同士の衝突が部署間の対立になっている、といった場合は、外部の中立的な視点を入れた方が進めやすいことがあります。
Otsumuでは、現在のKPIの診断から、KGIからの分解と重点の指標の選定、定義書の作成、データの集計の自動化とダッシュボードの整備、定例会議での運用の定着までを一貫して支援しています。数字を眺めるためではなく、行動を変えるためのKPIにすることを重視しています。詳しくはKPI改善コンサルティングのページをご覧ください。
今のKPIのどこに問題がありそうか、まず一緒に整理するところからでも歓迎しています。30分の無料相談からお気軽にご連絡ください。
この記事について
Otsumu株式会社が執筆しました。統計値や他社の事例には依拠せず、進め方と判断の枠組みを中心にまとめています。法務・税務・会計などの制度は、専門家や公的窓口で最新の情報をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.01