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新規事業部の立ち上げ方:最初の1年で整えるべき体制とルール

新規事業部の立ち上げは、人を集める前に「何を任せ、何で評価し、どこまで自分で決められるか」を決めることが先です。最初の1年で整えるべき人選・権限・予算・評価・既存部門との関係を、手順とチェックリストで示します。

新規事業部を立ち上げるとき、最初にやるべきことは人を集めることではありません。先に決めるべきなのは、「この部署に何を任せるのか」「何をもって成果とみなすのか」「どこまで自分たちで決めてよいのか」の三点です。この三点が曖昧なまま優秀な人を集めても、既存事業と同じ物差しで評価され、承認のたびに待たされ、一年後には「結局何も生まれなかった部署」になってしまいます。

最初の一年で整えるべきなのは、大きく分けて人選、権限、予算、評価、既存部門との関係の五つです。どれも一度で完璧に決める必要はありませんが、最初に方針を言葉にし、四半期ごとに見直す前提で運用することが大切です。新規事業部は事業そのものと同じく、試しながら形を整えていく組織だからです。

この記事は、新規事業部の立ち上げを任された部長やマネージャー、新規事業の組織づくりを検討している経営者や経営企画の方に向けて書いています。立ち上げ前に決めること、最初の一年の進め方、五つの要素それぞれの整え方、よくある失敗とその避け方を、手順と表、チェックリストで整理します。

新規事業部を作る前に決めるべき三つのこと

部署を作るという判断の前に、経営層と部署の責任者の間で合意しておくべきことがあります。これが曖昧だと、後のすべての設計がぶれます。

何を任せるのか(ミッション)

新規事業部の役割は会社によって大きく異なります。既存事業の延長線上で新商品を作るのか、まったく新しい市場に出るのか、社内の各部署から上がるアイデアを育てる受け皿なのか、他社との協業や出資を担うのか。範囲が広すぎると焦点が定まらず、狭すぎると良い機会を逃します。「どんな領域の、どんな種類の事業を、どの程度の時間軸で生み出すのか」を、一文で言える程度にまとめます。

何をもって成果とみなすのか(成果の定義)

新規事業部の成果を、最初から売上や利益で測ることはできません。立ち上げ初期に売上目標を課すと、検証の浅い事業に無理に予算を投じたり、既存事業の焼き直しのような安全な案ばかりが出たりします。最初の一年は、検証したテーマの数、顧客との対話から得た学び、次の段階に進んだ事業の数など、プロセスと学びの指標で評価するのが現実的です。

どこまで自分たちで決めてよいのか(権限)

予算の執行、外部への発注、人の採用、顧客への提案などを、どこまで部署の判断で行えるのか。ここが決まっていないと、小さな判断のたびに経営会議の承認を待つことになり、スピードが出ません。

この三点は、文書にして経営層と責任者が合意しておきます。口頭の合意は、経営層の交代や業績の悪化があったときに簡単に覆るためです。

最初の一年の進め方:四半期ごとの重点

一年を四つの期間に分けると、何から手をつけるべきかが見えやすくなります。あくまで目安ですが、多くの会社に当てはまる流れを示します。

期間重点主な成果物注意点
最初の三か月ミッション・権限・評価の合意、初期メンバーの確保部署の方針書、探索するテーマの候補一覧体制づくりに時間をかけすぎず、並行してテーマ探索を始める
四〜六か月目テーマごとの課題検証、顧客との対話検証結果の記録、続けるテーマと止めるテーマの判断検証の前に作り始めない
七〜九か月目有望テーマの解決策検証、試作やMVP試験提供の結果、事業計画の素案外部の開発会社やパートナーの活用を判断する
十〜十二か月目一年目の振り返りと二年目の計画振り返りの記録、二年目の予算と体制案成果の定義を二年目に合わせて更新する

この流れで大切なのは、最初の三か月で体制を「完成」させようとしないことです。体制づくりとテーマの探索を並行して進め、実際に動きながら足りない部分を補っていくほうが、机上の設計よりも現実に合った組織になります。

最初のテーマの選び方

立ち上げ直後の部署にとって、最初に取り組むテーマは部署の信頼を左右します。最初から最も大きな可能性を持つテーマに挑みたくなりますが、一年目は「自社の強みが生き、顧客に早く会え、小さく検証できる」テーマを少なくとも一つ含めることをおすすめします。早い段階で検証の結果を示せると、経営層や既存部門の信頼を得やすく、二年目以降に大きなテーマへ挑む余地が生まれます。

テーマの候補は、既存顧客からの要望や問い合わせ、営業現場で断っている依頼、社内で長年解決されていない業務の課題、自社の技術やデータの別の使い道などから集めます。候補を並べたら、顧客の課題の強さ、自社が取り組む理由、検証のしやすさ、事業になったときの規模の見込みといった観点で比べ、三〜五つ程度に絞ります。一つだけに絞ると、そのテーマが早々に止まった場合に部署の活動が空白になるためです。

振り返りの場を最初から組み込む

四半期ごとの見直しは、予定に入れておかないと後回しになります。立ち上げの時点で、月次の共有会と四半期の振り返り会の日程を一年分押さえ、経営層の参加者も決めておきます。振り返りでは、テーマの進捗だけでなく、権限が足りているか、評価の物差しが行動をゆがめていないか、既存部門との関係に問題がないかといった、部署の運営そのものも点検します。

人選:最初のメンバーに求める資質

新規事業部の初期メンバーは、部署の文化を決めます。誰を最初に選ぶかは、後から加わる人の行動にも影響します。

社内から選ぶか、外部から採るか

最初のメンバーは、社内の人材と外部からの採用を組み合わせるのが一般的です。社内の人材は自社の顧客や業務、社内の力学を理解しているため、既存部門との調整や社内資源の活用で力を発揮します。外部の人材は、自社にない事業開発の経験や視点を持ち込めます。どちらか一方だけに偏ると、社内事情に縛られすぎるか、社内で浮いてしまうかのどちらかになりがちです。

事業開発の役割の全体像は事業開発(BizDev)の解説ページで、中途採用での見極め方は事業開発人材の中途採用で詳しく扱っています。

求める資質の目安

経歴や肩書きよりも、次のような行動の傾向を重視します。

  • 分からないことを分からないと言い、顧客に直接聞きに行ける
  • 自分の仮説が外れたときに、それを認めて方向を変えられる
  • 少ない情報で判断し、判断の理由を説明できる
  • 既存部門の人と対立せず、協力を引き出せる
  • 数字と顧客の声の両方で事業を語れる

兼務か専任か

立ち上げ初期は、既存業務との兼務でメンバーを集めることが多いでしょう。兼務は人を集めやすい反面、既存業務が忙しくなると新規事業が後回しになります。少なくとも責任者と中心メンバー一人は専任にし、兼務者には新規事業に使う時間を明確に割り当てて、上司とも合意しておきます。

権限と予算:スピードを出すための設計

新規事業部が既存部門と同じ承認ルールで動くと、検証の速度が大きく落ちます。権限と予算の設計は、スピードを出すための最も効果の大きい手段です。

権限の委譲

部署の責任者に委ねる権限の例として、一定額までの予算の執行、外部の調査会社や開発会社への小規模な発注、顧客へのヒアリングや試験提供の実施、検証のための簡単なツールやサービスの契約などがあります。金額や範囲の上限を決めたうえで、その範囲内は部署の判断で進め、結果を定期的に報告する形にします。承認の詰まりを解く具体的な方法は新規事業のスピードが遅い原因で解説しています。

予算の持ち方

予算は、テーマごとに細かく事前に決めるのではなく、部署全体の探索予算として枠で確保し、その中でテーマごとに配分する形が向いています。テーマごとに事前に予算を確定させると、検証の結果に応じて配分を変えることができません。枠の中で配分を動かせるようにし、配分の判断と理由を記録して報告します。

予算の中身として見落とされやすいのが、顧客へのヒアリングの謝礼や交通費、試験提供のためのツールやサービスの利用料、試作のための小さな外部発注といった、検証のための細かな支出です。一つひとつは小さくても、そのたびに稟議が必要だと検証が止まります。こうした支出は探索予算の中で部署の判断で使えるようにしておくと、動きが格段に速くなります。

予算のルールを既存部門と分ける

既存事業の予算管理は、年度の初めに計画を立て、その通りに執行することを求めるのが一般的です。新規事業は計画通りに進まないことが前提なので、年度の途中での配分変更や、使い切らなかった予算の扱いについて、別のルールを設けます。

評価:既存事業と同じ物差しで測らない

評価の設計は、新規事業部の立ち上げで最も見落とされやすく、最も影響の大きい要素です。

部署の評価

前述のとおり、最初の一年はプロセスと学びの指標で評価します。たとえば、顧客との対話の回数と質、検証したテーマの数と判断の記録、次の段階に進んだテーマの数、止めたテーマについての学びの記録などです。二年目以降、事業化の段階に進んだテーマが出てきたら、テーマごとに段階に応じた指標を加えていきます。複数のテーマを並行して管理する方法は新規事業のポートフォリオ管理を参考にしてください。

個人の評価

個人の評価で最も避けたいのは、「担当した事業が失敗したこと」で低く評価される仕組みです。新規事業の多くは途中で止まります。止めること自体を失敗とみなすと、誰も撤退の判断をしなくなり、見込みの薄い事業が延命されます。個人は、仮説の立て方、検証の進め方、判断の速さと根拠、学びの共有といった行動で評価します。

評価の観点を比較する

観点既存事業の評価でよく使う物差し新規事業部で使いたい物差し
成果売上・利益の目標達成検証の進捗、段階の通過、学びの質
失敗の扱い目標未達はマイナス早く止めた判断も成果として評価
時間軸年度単位段階単位(数か月ごとの判断)
計画との関係計画通りに進めることが重要学びに応じて計画を変えることが重要
個人の評価担当数字の達成仮説検証の行動と判断の質

人事制度そのものを変えるのは時間がかかるため、最初の一年は、部署の責任者と人事部門が合意したうえで、既存の評価制度の中で新規事業部向けの評価項目を補足する形から始めるのが現実的です。

既存部門との関係をどう作るか

新規事業部は、社内の資源(顧客基盤、販売網、技術、ブランド、人)を使えることが最大の強みです。一方で、既存部門から見ると、人や予算を取られ、自分たちの顧客に手を出されるかもしれない存在でもあります。

関係づくりの基本

  • 既存部門の責任者を早い段階で巻き込む。 テーマの探索段階から意見を聞き、顧客の紹介や現場の知見の提供を依頼します。
  • 協力の見返りを用意する。 既存部門の協力が、その部門の評価にも反映されるよう、経営層と調整します。
  • 情報を開く。 何を検証していて、何が分かったのかを定期的に共有します。見えないものは警戒されます。
  • 既存顧客への接触ルールを決める。 既存部門の顧客にヒアリングや提案をする際の手順を、事前に合意しておきます。

既存部門の懸念の種類と対処の方法は新規事業への社内の反対・抵抗をどう乗り越えるかで詳しく解説しています。

立ち上げの手順と、よくある失敗

ここまでの内容を、立ち上げの手順としてまとめます。

  1. 経営層と責任者でミッション・成果の定義・権限を合意し、文書にする。
  2. 責任者と中心メンバーを専任で確保する。 兼務者には時間の割り当てを明確にする。
  3. 探索予算を枠で確保し、配分のルールを決める。
  4. 人事部門と、新規事業部向けの評価項目を合意する。
  5. 既存部門の責任者に方針を説明し、協力の依頼と見返りを調整する。
  6. 探索するテーマの候補を出し、課題検証から始める。
  7. 月次で進捗を共有し、四半期ごとに方針・権限・評価を見直す。
  8. 一年目の終わりに振り返り、二年目の計画と体制を決める。

具体的な場面の例:製造業の新規事業部

架空の一般例で考えます。ある製造業の会社が、既存の製品に頼らない収益源を作るため、新規事業部を立ち上げました。経営層からの指示は「三年以内に新しい事業の柱を作る」というものでした。

責任者は最初に、経営層と三つの点を話し合いました。対象とする領域は「既存顧客の業務に関わるデジタルサービス」に絞ること、一年目の評価は売上ではなく検証したテーマの数と次の段階に進んだテーマの有無で行うこと、一定額までの外部発注と試験提供は部署の判断で行えること。これらを方針書にまとめ、経営会議で承認を得ました。

メンバーは、営業部門から既存顧客をよく知る社員を一人、情報システム部門から技術に明るい社員を一人、外部から事業開発の経験者を一人、それぞれ専任で集めました。営業部門には、既存顧客へのヒアリングに同行してもらう代わりに、そこで得た顧客の声を営業部門にも共有する約束をしました。

半年が経つ頃には、五つのテーマのうち三つを課題検証の段階で止め、二つを解決策の検証に進めていました。止めた三つの学びも記録として残し、経営層への報告では「止めた理由」を丁寧に説明しました。その結果、経営層は部署の判断の質を評価し、二年目の予算と権限の拡大を認めています。

よくある失敗とその避け方

  • 人だけ集めて方針がない。 方針書なしに始めると、メンバーがそれぞれの関心で動き、成果がばらけます。ミッションを一文で言える状態にしてから集めます。
  • 初年度から売上目標を課す。 検証の浅い事業への過大な投資や、安全な案への偏りを招きます。段階に応じた指標で評価します。
  • 兼務者ばかりで専任がいない。 既存業務が忙しくなった途端に止まります。中心の役割は専任にします。
  • 承認ルールが既存部門と同じ。 検証のたびに待たされます。金額の上限を決めて権限を委ねます。
  • 既存部門を巻き込まない。 社内資源が使えなくなり、新規事業部の強みが失われます。早い段階から協力を依頼します。
  • 止める判断が評価されない。 撤退の判断が先送りされます。止めた判断と学びを成果として扱います。

立ち上げ時のチェックリスト

  • ミッションが一文で言え、経営層と文書で合意している
  • 一年目の成果の定義が売上以外の指標で決まっている
  • 責任者に委ねる権限の範囲と上限が決まっている
  • 責任者と中心メンバーが専任で確保されている
  • 兼務者の時間の割り当てが上司と合意されている
  • 探索予算が枠で確保され、配分のルールがある
  • 新規事業部向けの評価項目を人事部門と合意している
  • 既存部門の責任者に方針を説明し、協力の見返りを調整した
  • 既存顧客への接触ルールが決まっている
  • 月次の共有と四半期の見直しの場が設定されている

よくある質問

Q. 新規事業部は何人くらいで始めるのがよいですか?

決まった人数はありませんが、最初は少人数で始め、検証の進み具合に応じて増やすほうがうまくいきやすいでしょう。人数が多いと、まだ検証の段階なのに管理や調整の負担が増えます。責任者と、顧客理解・技術・事業開発の役割を担う中心メンバーがそろえば、探索は始められます。

Q. 社長直轄にすべきですか?

既存部門の下に置くと、その部門の利害や評価の物差しに縛られやすくなります。経営トップや担当役員の直轄にすると、権限と予算の独立性を保ちやすく、既存部門との調整でも後ろ盾になります。ただし、直轄にしても経営層が関心を持ち続けなければ意味がないため、定期的な報告の場を設けることが前提です。

Q. 一年で成果が出なかったら解散すべきですか?

一年目に売上が立たないのは、多くの場合は自然なことです。判断すべきは売上の有無ではなく、検証が適切に進み、学びが蓄積されているか、次の段階に進めそうなテーマがあるかです。それも見られない場合は、ミッションや人選、権限の設計を見直します。

Q. 外部の支援はどの段階で使うのがよいですか?

立ち上げ初期の方針づくりや検証計画の設計、社内に経験者がいない領域の検証、開発が必要になった段階での試作やMVPの開発など、社内の経験や手が足りない部分に絞って使うのが効率的です。

Otsumuに相談できること

新規事業部の立ち上げは、経営層の強い意志と、社内の事情に通じた責任者がいれば、自社だけで進められることも多い取り組みです。方針・権限・評価の合意が取れ、検証の進め方を知るメンバーがいるなら、外部に頼る必要はありません。

ただ、立ち上げの初期には、検証の進め方を知る人が社内にいない、最初のテーマをどう選びどう検証すればよいか分からない、開発が必要になったときに頼れる相手がいない、といった壁に当たることがよくあります。部署の体制が整うまでの間、実践の経験を持つ外部の力を借りることで、一年目の空回りを防げます。

Otsumuは、自らも事業を手がける実践者として、新規事業開発コンサルティングで、テーマの選定、検証計画の設計、経営層への報告の組み立てを、新規事業部のメンバーと一緒に進めています。検証のための開発が必要な段階では、新規事業の爆速MVPシステム開発で、AIを活用した少人数・短期間の開発を担うことができます。最初のテーマを短期間で点検したい場合は新規事業レビュー Sprint(48万円・税別、1〜2週間)、顧客の反応を確かめたい場合は顧客検証 Sprint(98万円〜・税別、4週間)から始める方法もあります。

部署の方針づくりの段階でも構いません。30分の無料相談で、現在の状況と最初の一歩を一緒に整理します。

この記事について

Otsumu株式会社が執筆しました。統計値や他社の事例には依拠せず、進め方と判断の枠組みを中心にまとめています。法務・税務・会計などの制度は、専門家や公的窓口で最新の情報をご確認ください。

執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.01

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