分類:企業事例 › メディア・広告・ゲーム
この事例の要点
- Criteoは、商取引に関するデータとAIを使い、ブランドや小売事業者の広告を出す「Performance Media」と、小売事業者の広告枠を広告主に売れるようにする「Retail Media」の二つを柱にしています(Form 10-K、2025年12月期)。
- Retail Mediaでは、小売事業者に自社の客層と在庫を収益化する手段を渡し、同社はプラットフォーム利用の対価を媒体費に連動する割合で受け取ります(Form 10-K)。
- 同社は、主要な評価指標として、トラフィック獲得コスト(TAC)を引いた「Contribution ex-TAC」を使っています。売上の大きさではなく、媒体への支払い後の取り分で事業を見る設計です(Form 10-K)。
どんな事業か
Criteo S.A.は、フランスのパリに主たる事務所を置き、米国預託株式(ADS)をNasdaq Global Select Marketに上場しています(Form 10-K、2025年12月期)。同社は2025年に、390億ドル超の商取引の成果を生み出し、43億ドル超の媒体費を動かし、2兆回の広告を配信したと記載しています。クライアントは約17,000社で、ブランド、小売事業者、媒体事業者が含まれます。
同社は自社の強みを、50億件を超える商品(SKU)をブランド・販売者・取引に結び付けた購買データ、広いネットワーク、AIによる最適化に置いています。同社は、直近3年にわたって平均的なクライアント継続率が約90%だったとも述べています(Form 10-K)。
収益の仕組み
Form 10-Kの会計監査の記載などによれば、二つの事業で課金の考え方が異なります。
- 入り口:ブランドや小売事業者のサイトやアプリでの行動を取り込み、購買意図のデータとして活用します。
- 課金(Performance Media):パーソナライズしたディスプレイ広告を、クリックまたは表示(インプレッション)に基づく価格で販売し、広告がクリックまたは表示された時点で収益を計上します。
- 課金(Retail Media):ブランド、代理店、小売事業者に、広告枠を売買するためのプラットフォームを提供し、収益は一般に媒体費(working media spend)の一定割合です。
- 継続:クライアントの継続率約90%という開示が、関係の継続性を測る手がかりになります。
数字で確かめる
- 2025年の売上高は1,944.9百万ドルで、2024年の1,933.3百万ドル、2023年の1,949.4百万ドルとほぼ横ばいでした(Form 10-K)。売上の大きさは、この3年で大きくは変わっていないことが読み取れます。
- Contribution ex-TACは、2025年が1,174.6百万ドル、2024年が1,121.5百万ドル、2023年が1,022.6百万ドルで、2025年は前年比5%増でした(Form 10-K)。売上が横ばいでも、媒体への支払い後の取り分は増えていることが読み取れます。
- Retail Mediaの売上は、2025年が263.9百万ドル、2024年が258.3百万ドル、2023年が209.0百万ドルでした。同事業のContribution ex-TACは259.7百万ドルです(Form 10-K)。Retail Mediaでは売上の大半が取り分になっていることが読み取れます。
- Performance MediaのContribution ex-TACは914.9百万ドルで、前年の867.6百万ドルから増えました(Form 10-K)。主力事業でも取り分が伸びていることが読み取れます。同社は、増加の背景に、購入する広告枠の平均CPMの低下による媒体費の減少を挙げています。
- 2025年の純利益は149.4百万ドル(前年比30%増)、調整後EBITDAは406.7百万ドル、営業活動によるキャッシュフローは311.2百万ドルでした(Form 10-K)。利益とキャッシュを生む段階にあることが読み取れます。
Otsumuの読み解き:なぜ成り立つのか
ここからはOtsumuの考察です。この事例は、同じ購買データを、二つの売り方に使い分けていると読めます。Performance Mediaは、広告主が成果を求めて出稿する、クリックや表示に基づく取引です。Retail Mediaは、小売事業者が自社の客と在庫を広告枠として売るための基盤を、同社が提供する取引です。前者は媒体の仕入れが大きくなり、後者は基盤の利用料に近い形で、取り分の構造がまったく違います。
開示された数字にもその違いが出ています。Retail Mediaは売上263.9百万ドルに対しContribution ex-TACが259.7百万ドルと、ほぼ同じ水準です。一方、Performance Mediaは売上1,681.0百万ドルに対し914.9百万ドルです(Form 10-K)。売上の規模が同じでも、残る取り分が異なるため、どちらを伸ばすかで事業の質が変わると考えられます。
トレードオフは、データが事業の核である以上、プライバシーに関する規制や、他社のプラットフォームの方針変更の影響を受けることです。同社はリスク要因として、不正なトラフィックによる広告配信の阻害なども挙げています。
自社事業に持ち帰る問い
- 自社が持つ顧客や取引のデータを、自社の販売以外に使う道はないでしょうか。
- 仕入れを伴う売り方と、基盤の利用料に近い売り方では、取り分の割合はどれだけ違うでしょうか。
- 取引先に「自社の資産を収益化する手段」を渡すとしたら、どんな形なら使ってもらえるでしょうか。
小さく試すなら
- 自社の売上を、仕入れや外部支払いを伴うものと、自社の仕組みの利用に対する料金に近いものに分けて表にします。
- それぞれの取り分(売上から外部支払いを引いたもの)の割合を出し、差を確認します。
- 取り分の高い売り方を、既存の取引先2〜3社に提案できないか、必要な準備を書き出します。
- 2〜4週間で、1社に小さな形で提案し、関心の有無と、使ってもらうために足りないものを記録します。
関連するビジネスモデル
資料の位置づけ
企業・サービス:Criteo S.A. / Performance Media・Retail Media。参照資料:Form 10-K(2025年12月期)。このページは公開情報にもとづく学習用の分析です。Otsumuの支援実績や当該企業との取引関係を示すものではありません。示唆と検証案はOtsumuの考察であり、企業自身の見解とは区別しています。
参考資料と編集について
上記の公開資料(目論見書・年次報告書・企業の公式発表など)をもとに、Otsumuが執筆しました。数値と企業の説明は資料の記載の範囲にとどめ、Otsumuの考察とは分けています。数値は資料の表記のままで、最新の情報は各社の開示をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.25