この事例の要点
- Mobileye Global Inc.は、運転支援(ADAS)用のシステム・オン・チップ「EyeQ」と、その上で動くソフトウェアを自動車メーカーに供給しています。売上のほぼすべてが、すでに搭載されているADAS製品から生まれています(Form 10-K、FY2025)。
- 販売の多くは、自動車メーカー(OEM)に直接ではなく、部品を組み上げて納める一次サプライヤー(Tier 1)を通じて行われます。顧客が少数に集中していることを、同社自身がリスク要因として挙げています(Form 10-K、FY2025)。
- 車載チップの出荷で台数を積み上げながら、上位の製品(SuperVision、Chauffeur、Drive)へ段階的に広げる設計です。台数の裏づけと、将来の売上の計画が分けて開示されています(Form 10-K、FY2025)。
どんな事業か
Mobileye Global Inc.は、イスラエルのエルサレムに主たる事務所を置き、Nasdaq Global Select Marketに上場している企業です(Form 10-K、FY2025〔2025年12月27日終了年度〕)。ADASと自動運転の技術を開発し、カメラ映像を処理するEyeQチップと、運転支援のソフトウェアを自動車メーカーに提供しています。2025年12月27日時点で、同社の製品は約1,400の車種(国・年式などの違いを含む)に搭載され、チップは2億3,000万台を超える車両に使われてきたと記載されています(Form 10-K、FY2025)。
製品は段階に分かれています。基本的な運転支援(Base ADAS)に加え、クラウドの地図情報を使う運転支援、ハンズオフ(手放し)運転を支えるSuperVisionが商用化されています。さらに、目を離せる運転を目指すChauffeur、運転手のいない車両向けのDriveは、今後の商用化を見込む製品として整理されています(Form 10-K、FY2025)。なお、同社の発行済株式の約79.5%はIntelが保有していると記載されています(Form 10-K、FY2025)。
収益の仕組み
同社の収益は、車載チップと、それを組み込んだシステムの販売が中心です。ここでは10-Kの記載を、入り口・課金・継続の三つの段階に分けて読みます。
- 入り口:自動車メーカーが車種ごとに採用を決める「デザインウィン」を獲得します。採用から量産までの統合には、およそ1〜3年かかると記載されています。
- 課金:Tier 1が標準の発注書(購入注文)に基づいてEyeQなどを購入します。同社は、これらTier 1と書面の契約を結んでおらず、顧客は一定の数量や価格で購入する義務を負わないと説明しています。
- 継続:採用された車種が生産されるたびに出荷が積み上がります。価格は含まれる機能の組み合わせで大きく異なり、製品構成(ミックス)が売上と粗利率を左右するとされています。
また、走行中の量産車から集めた道路情報を地図(Roadbook)に反映する仕組みを持ち、その情報を提供するOEMとの取り決めが、地図づくりに不可欠だと記載しています(Form 10-K、FY2025)。
数字で確かめる
- 2025年の売上高は1,894百万ドルで、前年から240百万ドル(15%)増えました。EyeQ売上は308百万ドル(22%)増で、主因は出荷数量の23%増と説明されています(Form 10-K、FY2025)。チップの数量が売上を動かす構造であることが読み取れます。
- 2025年に出荷したEyeQとSuperVisionのシステムは約3,570万台で、2024年の約2,900万台から増えました(Form 10-K、FY2025)。累計の搭載実績の上に、毎年の出荷が積み上がる事業であることが読み取れます。
- 2025年の売上のうち、上位3社のTier 1(ZF、Valeo、Aptiv)が30%、17%、15%を占めました。また、8社のOEMの車種に搭載された分が売上の82%でした(Form 10-K、FY2025)。販売先が少数に集中していることが読み取れます。
- 粗利率は2024年の45%から2025年の48%に上がりました。無形資産の償却の影響が小さくなったことと、EyeQの売上比率が上がったことが理由と説明されています(Form 10-K、FY2025)。製品構成が利益率に直結することが読み取れます。
- 2025年の純損失は392百万ドル、2024年は3,090百万ドルで、2024年は2,695百万ドルののれん減損が主因とされています(Form 10-K、FY2025)。売上が伸びても、会計上の損益は買収由来の費用に左右されることが読み取れます。
Otsumuの読み解き:なぜ成り立つのか
ここからはOtsumuの考察です。この事業は、ハードウェア+サービスと、データ事業の型が重なっていると読めます。チップは一度車種に採用されると、その車種が生産される間は継続して出荷されます。採用までの時間は長い一方で、採用後は自社で販売活動を広げなくても、顧客の生産計画に合わせて売上が積み上がる設計だと考えられます。
もう一つの特徴は、量産車が地図の元データを集める点です。搭載台数が増えるほど道路情報が増え、それが運転支援の機能を高めるという循環を、同社はネットワーク効果として説明しています。台数が機能を、機能が採用を呼ぶという好循環を狙っていると読めます。ただし、情報を提供するOEMとの取り決めが続くことが前提で、同社自身もリスク要因に挙げています。
トレードオフは、顧客の少なさです。Tier 1が自社で競合する製品を開発する可能性や、特定のOEMの車種の販売不振が、そのまま売上に響きます。採用の獲得に大きな費用がかかるうえ、購入数量の約束もないため、台数の見通しは顧客の計画に依存します。上位製品への拡大は、この依存を分散する方向にも見えますが、現時点で商用化済みの範囲は限られます。
自社事業に持ち帰る問い
- 自社の製品が、顧客の製品の「標準部品」として採用される場合、採用後の売上を左右するのは何でしょうか。
- 販売先が少数に集中しているとき、どの顧客が離れると影響が最も大きく、その備えは何でしょうか。
- 使われるほど価値が増すデータや知見を、自社の製品の中に蓄える仕組みはあるでしょうか。
小さく試すなら
- 自社の売上を顧客別・製品別に並べ、上位3社への集中度を計算します。10-Kと同じ形式で、上位が何割を占めるかを一枚にまとめます。
- 上位の顧客数社に、自社の製品が顧客のどの工程や製品に組み込まれているかを聞き、「採用」から「売上」までの期間と条件を書き出します。
- 採用後に継続して使われる要因(切り替えの手間、蓄積された設定やデータなど)を、聞き取りから三つ以内に絞ります。
- 2〜4週間で、集中の度合いと継続要因を並べた表を作り、新規顧客の開拓と既存顧客への追加提案のどちらに先に時間を使うかを決めます。
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資料の位置づけ
企業・サービス:Mobileye Global Inc. / EyeQ・SuperVision。参照資料:Form 10-K(2025年12月27日終了年度)。このページは公開情報にもとづく学習用の分析です。Otsumuの支援実績や当該企業との取引関係を示すものではありません。示唆と検証案はOtsumuの考察であり、企業自身の見解とは区別しています。
参考資料と編集について
上記の公開資料(目論見書・年次報告書・企業の公式発表など)をもとに、Otsumuが執筆しました。数値と企業の説明は資料の記載の範囲にとどめ、Otsumuの考察とは分けています。数値は資料の表記のままで、最新の情報は各社の開示をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.25