この事例の要点
- Sansan株式会社は、クラウドソフトウエアにテクノロジーと人力によってアナログ情報をデジタル化する仕組みを組み合わせた手法を軸に、DXサービスを提供していると説明しています(2025年5月期 決算短信〔日本基準〕(連結))。
- 営業DXサービス「Sansan」の売上高26,766百万円のうち、固定収入である「Sansan」ストックが25,136百万円を占めます。売上の中心が継続的に積み上がる収入です(2025年5月期 決算短信〔日本基準〕(連結))。
- 連結売上高は43,202百万円(前年同期比27.5%増)、調整後営業利益は3,555百万円(前年同期比108.0%増)でした(2025年5月期 決算短信〔日本基準〕(連結))。
どんな事業か
同社は、企業の営業活動や請求書業務、契約書業務等に対してDXを促進するサービスを展開しています(2025年5月期 決算短信〔日本基準〕(連結))。
セグメントは2つです。「Sansan/Bill One事業」には、営業DXサービス「Sansan」、経理DXサービス「Bill One」、AI契約データベース「Contract One」等が属します。「Eight事業」には、名刺アプリ「Eight」やイベント書き起こしサービス「logmi」シリーズが属し、BtoCサービスとBtoBサービスに分けて売上を開示しています(2025年5月期 決算短信〔日本基準〕(連結))。
同社は、「Sansan」が法人向け名刺管理サービス市場においてNo.1の売上高シェア(84.1%)を占め、「Bill One」がクラウド請求書受領サービス市場においてNo.1の売上高シェア(47.0%)を獲得していると、外部調査を引用して説明しています(2025年5月期 決算短信〔日本基準〕(連結))。
収益の仕組み
「Sansan」の売上は、固定収入であるストック売上高と、その他売上高に分かれています。同社は「Sansan」の指標として契約件数、契約当たり月次ストック売上高、直近12か月平均月次解約率を開示しており、契約の数と一契約あたりの単価、解約の少なさが売上を形づくる構造です。「Bill One」についてもMRR(月次固定収入)、有料契約件数、ARR(年間固定収入)を開示しています(2025年5月期 決算短信〔日本基準〕(連結))。
同社は、売上高がストック売上高中心であり、四半期が経過するにつれて徐々に積み上がる性質があると説明しています。また負債の増加要因として、顧客企業から契約期間分の料金を一括で受領すること等による前受金の増加を挙げています(2025年5月期 決算短信〔日本基準〕(連結))。
費用については、売上総利益率が86.6%であること、採用人数の減少による売上高人件費率の低下が調整後営業利益の増加に寄与したことが示されています。次期は人件費が前年同期比約19%前後、広告宣伝費が約28%前後増える見込みとしています。これ以上の費用の内訳は今回参照した資料には示されていません(2025年5月期 決算短信〔日本基準〕(連結))。
数字で確かめる
- 「Sansan」の契約件数は10,701件(前年同期比10.4%増)でした(2025年5月期 決算短信〔日本基準〕(連結))。契約の母数が着実に増えていることが読み取れます。
- 「Sansan」の契約当たり月次ストック売上高は210千円(前年同期比6.6%増)でした(2025年5月期 決算短信〔日本基準〕(連結))。件数だけでなく一契約あたりの単価も伸びていることが読み取れます。
- 「Sansan」の直近12か月平均月次解約率は0.49%(前年同期比0.07ポイント増)でした(2025年5月期 決算短信〔日本基準〕(連結))。やや上昇しつつも、同社のいう1%未満の水準にあることが読み取れます。
- 「Bill One」の売上高は9,790百万円(前年同期比58.7%増)、2025年5月におけるARRは10,962百万円でした(2025年5月期 決算短信〔日本基準〕(連結))。第二の柱が伸びていることが読み取れます。
- Eight事業の調整後営業利益は63百万円(前年同期は462百万円の損失)でした(2025年5月期 決算短信〔日本基準〕(連結))。収益性を重視した運営で通期黒字化したことが読み取れます。
Otsumuの読み解き:なぜ成り立つのか
ここからはOtsumuの考察です。サブスクリプションの観点では、同社の売上は「契約件数×契約当たり月次ストック売上高」を土台に、解約率の低さによって積み上がる構造と読めます。契約件数と単価がともに伸び、解約率が低い水準にとどまっている限り、前期までに獲得した契約が翌期の売上の下支えになります。
席数課金(ユーザー数課金)の観点では、今回の資料には料金体系の詳細は示されていません。そのため、契約当たり月次ストック売上高の上昇が利用人数の増加によるものか、機能追加によるものかは資料からは判断できません。ただ、一契約の中で利用を広げて単価を上げることが、この型の伸び方になると考えられます。
裏側で必要な仕事は、名刺や請求書といったアナログ情報をデジタル化する仕組みの運用と、新規契約を取る営業体制の強化です。トレードオフとして、営業人員の採用と育成には先に費用がかかり、成果が売上として積み上がるまで時間差が生じます。当期に採用人数を抑えて人件費率を下げた一方、次期は人件費と広告宣伝費を増やす見込みとしており、成長投資と利益率の間で配分を調整していると考えられます。
自社事業に持ち帰る問い
- 自社の売上のうち、毎月継続して入る収入と、一度きりの収入はそれぞれどれだけあるか。
- 契約件数・一契約あたり単価・解約率の三つを、毎月同じ定義で追えているか。
- 一つの顧客の中で利用範囲を広げる(部署・人数・機能を増やす)道筋を用意できているか。
- 契約期間分の料金を前払いで受け取る選択肢を、顧客にとっての利点とあわせて提示できるか。
小さく試すなら
- 1週目:既存顧客を一覧にし、契約開始日・月額・解約の有無を整理して、契約件数・平均単価・月次解約率を算出できる状態にします。
- 2週目:解約した顧客と継続している顧客を数件ずつ選び、利用状況の違いを聞き取って、継続につながる使われ方を言語化します。
- 3週目:継続している顧客のうち数社に、利用範囲の拡大(対象部署や機能の追加)を提案し、反応を記録します。
- 4週目:拡大提案の受注や前払い契約への関心が確認できれば、提案資料を標準化して対象を広げます。反応が薄ければ、解約理由の解消を優先します。
関連するビジネスモデル
資料の位置づけ
企業・サービス:Sansan株式会社 / 営業DXサービス「Sansan」。参照資料:2025年5月期 決算短信。このページは公開情報にもとづく学習用の分析です。Otsumuの支援実績や当該企業との取引関係を示すものではありません。示唆と検証案はOtsumuの考察であり、企業自身の見解とは区別しています。
参考資料と編集について
上記の公開資料(企業の決算短信または年次報告書)をもとに、Otsumuが執筆しました。数値と企業の説明は資料の記載の範囲にとどめ、Otsumuの考察とは分けています。数値は資料の表記のままで、最新の情報は各社の開示をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.09.27