この型の要点
- 法人顧客が利用する人数(席、アカウント)に応じて料金が決まる型です。一人あたりの単価と人数の掛け算が月々の売上になります。
- 売上の伸びは、新しい顧客企業を増やすことに加えて、既存顧客の社内で利用者が増えること(社内展開)から生まれます。導入後の広がりが収益の中心です。
- 一人ひとりが使う価値が明確で、使う人が増えても価値が薄まらないサービスで機能します。人数を数える単位と、数えるタイミングの定義がこの型の基盤です。
収益が生まれる仕組み
お金を払うのは顧客企業で、支払う対象は「自社の従業員がそのサービスを使う権利」を人数分です。入金は通常、月額または年額の定期課金で、契約時点の席数に応じた金額から始まります。段階制プランのように上限つきの枠を売るのではなく、一人単位で積み上げる点に違いがあります。
収益の変化は大きく三つの動きで説明できます。一つめは新規顧客の獲得で、初回契約の席数が起点になります。二つめは既存顧客の席数の増加です。最初は一部門で始まったものが、隣の部門や全社へ広がると、同じ顧客からの売上が大きく増えます。三つめは席数の減少や解約で、部門の縮小、担当者の異動、利用されていない席の整理などで起きます。
費用は、一人あたりの提供コスト(サーバー、ストレージ、サポート対応)と、顧客企業単位でかかるコスト(導入支援、契約管理、営業)に分かれます。席数が増えるほど前者は比例して増えますが、後者は顧客数に依存するため、一顧客あたりの席数が多いほど効率がよくなります。つまり、この型では「少ない顧客企業で多くの席」のほうが「多くの顧客企業で少ない席」よりも利益構造が有利になりやすい、という性質があります。
成り立つ条件と、裏側の仕事
顧客側の条件は、サービスの価値が「使う人一人ひとり」に紐づいていることです。たとえば、社内の文書作成やタスク管理のように、各人が自分のアカウントで作業するサービスなら、人数と価値が対応します。一方、一人が代表して使えば全員が恩恵を受けるサービス(データの集計結果を全社で見る、など)では、席を増やす理由が顧客にありません。
供給側の条件は、席数を正確に把握し、契約に反映できることです。誰が使っているのかを数える機能、席の追加・削除の手続き、請求への反映という一連の流れが、表には見えませんが必ず必要になります。特に「アカウントはあるが使っていない人」を席として数えるのか、実際に利用した人だけを数えるのかは、契約前に決めておく必要があります。
自社側の裏側の仕事として重要なのは、社内展開を後押しする活動です。この型は導入したあとに席が増えなければ伸びません。初期の利用部門で成果が出ているか、隣の部門に紹介してもらえる関係があるか、管理者が全社に広げたいと思う材料があるかを、顧客ごとに追う仕事が発生します。営業とサポートの中間にあたる「顧客の成功を支援する役割」が、この型では収益に直結します。
向く事業・向かない事業
向くのは、従業員が日常的に個別に操作し、その人の業務効率や成果に直接つながるサービスです。たとえば、営業担当者ごとの案件管理、現場スタッフごとの作業報告のように、一人が一つの作業単位を持つ場面です。また、顧客企業の中に「まだ使っていない部門」が広く残っている状態から始められると、社内展開の余地が大きくなります。
向きにくいのは、利用者を増やしても顧客側の価値が増えない、あるいは利用者を絞るほうが顧客にとって合理的なサービスです。この場合、顧客は最小の席数で運用しようとし、社内展開が起きません。また、席の共有(一つのアカウントを複数人で使う)が容易で、それを防ぐ手段がないサービスでは、人数と収益が結びつかなくなります。
もう一つ注意したいのは、利用者数と顧客企業の予算が結びついていない場合です。導入を決める人と使う人が異なる法人取引では、席を増やす判断が現場ではなく管理部門にあることがあり、現場の要望がそのまま席数の増加につながらない場面があります。この構造を理解したうえで、管理部門に向けた価値の説明を準備しておく必要があります。
追いかける指標
- 顧客企業あたりの席数:全席数を顧客企業数で割った値。月次で追い、増えていれば社内展開が進んでいると判断できます。
- 既存顧客からの席数純増:一定期間に既存顧客で増えた席数から減った席数を引いたもの。期初の席数を分母に割合で見ることもできます。
- 席の稼働率:契約されている席のうち、直近の一定期間に実際に利用された席の割合。低い場合、次の更新で席が削減される予兆になりえます。
- 顧客企業単位の維持率:一定期間の期初に契約していた企業のうち、期末も契約している企業の割合。席数の変動とは分けて見ます。
- 初回契約席数と一年後の席数の比:新規顧客が導入後にどれだけ広がったか。顧客の契約開始月を起点に揃えて比較します。
新規事業として小さく試すなら
- 想定する顧客企業で、誰が日常的に使う人なのかを具体的に挙げてもらいます。「一人が使えば十分」という答えが多ければ、人数と価値が結びついておらず、この型は合いにくいと判断できます。
- 一社または二社に、一部門の少人数だけで試験導入してもらいます。この段階で確認したいのは、個々の利用者が継続して自分のアカウントで使い続けるかどうかです。使う人が特定の一人に偏るなら、席数の増加は見込みにくくなります。
- 試験導入の途中で、隣の部門や別の担当者に広がる動きが自然に起きるかを観察します。起きなければ、広げるために何が必要か(管理者の説明資料、権限の分離、部門ごとの設定など)を担当者に聞き、それを次に実装する対象にします。
- 席の追加と削除を実際に行ってもらい、その手続きと請求の変化が顧客側の手間として許容されるかを確認します。ここまで確認できれば、席数を軸にした料金表を正式に作る段階に進めます。
設計時の注意点
価格の面では、席数が増えたときの単価の扱いを決めておく必要があります。全席同一単価にするか、席数が増えるほど単価を下げる段階的な割引を入れるかで、大口顧客の交渉のしかたが変わります。割引を入れる場合は、割引の境目をどこに置くか、既存顧客が境目を越えたときにどう反映するかを設計します。
契約の面では、席の定義を明文化することが最重要です。登録されたアカウント数なのか、一定期間に利用があった人数なのか、同時に接続できる人数なのか。それぞれ顧客の数え方と自社の請求が一致しないとトラブルになります。また、期の途中で席を増減させたときの精算方法、最低契約席数の有無も事前に決めておきます。契約書への落とし込みは、個別に専門家へ確認してください。
運用の面では、席の共有や使い回しへの対応を考えておく必要があります。技術的に防ぐのか、規約で禁止するだけなのか、あえて許容して別の課金軸を加えるのかは、サービスの性質によって選択が異なります。また、担当者の退職や異動で使われなくなった席が残り続けると、更新時に一括で削減されることがあるため、稼働状況を顧客に定期的に共有する運用が有効です。
法規制の面では、利用者個人の情報を席の管理のために扱うことになるため、個人情報の取り扱いや、顧客企業との間での責任分担に関して確認が必要です。個別に専門家へ確認してください。
この型が見られる企業事例
- ADP「給与計算・人事アウトソーシング」に学ぶ業務受託の事業設計
- Box「法人向けコンテンツクラウド」に学ぶ席数課金の事業設計
- Salesforce, Inc.のサブスクリプション型CRMに学ぶ事業設計
- サイボウズ株式会社「kintone」に学ぶ事業設計:クラウド契約の積み上げ
- GitLabのDevSecOpsプラットフォームに学ぶオープンコアと席数課金の事業設計
- HENNGE「HENNGE One」に学ぶサブスクリプションと低解約率の事業設計
- ServiceNow, Inc.の業務ワークフロー・クラウドに学ぶ事業設計
- Okta, Inc.のID管理プラットフォームに学ぶ事業設計
- Paycom Software, Inc.の人事給与SaaSに学ぶ事業設計
- Sansan株式会社の営業DXサービス「Sansan」に学ぶ事業設計
- Atlassianのチーム向けツール(Jira、Confluence)に学ぶ事業設計
- Zoom Communications, Inc.のビデオ会議に学ぶ事業設計
この記事について
Otsumu株式会社が執筆しました。統計値や他社の事例には依拠せず、収益の構造、成り立つ条件、検証の進め方を中心にまとめています。法務・税務・会計の制度は、専門家や公的窓口で最新の情報をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.09.27