← 企業事例

OTSUMU KNOWLEDGE

Wallbox N.V.「EV充電器とソフト・サービス」に学ぶ機器販売に継続収益を重ねる事業設計

スペイン発のEV充電器メーカーが、機器販売に設置工事・ソフトの利用料・保守契約を重ねる構造です。2025年12月期は収益145.1百万ユーロに対し損失103.2百万ユーロで、債務再編の途上にあります。年次報告書(Form 20-F)から確かめます。

この事例の要点

  • Wallbox N.V.は、EV(電気自動車)の充電器を自社工場で作り、設置工事、ソフトウェア、保守契約を組み合わせて提供しています。収益は機器の販売、設置サービス、ソフトの利用料と手数料、保守契約の4つで構成されると説明されています(Form 20-F、2025年12月期)。
  • 2025年12月期の収益は145,120千ユーロ(前期比11%減)で、機器販売は減った一方、サービス収益は31%増の23,258千ユーロでした(Form 20-F、2025年12月期)。
  • 損失は103,195千ユーロ(前期は151,792千ユーロ)に縮小しましたが、監査法人は継続企業の前提に重要な疑義があるとの段落を付しており、銀行団との債務再編が進行中です(Form 20-F、2025年12月期)。

どんな事業か

Wallbox N.V.は、登記上の所在地がオランダ・アムステルダム、主要な事業所がスペイン・バルセロナにあり、ニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場しています。家庭・事業所向けの交流(AC)充電器(Pulsar Plus、Pulsar Maxなど)と、公共向けの直流(DC)急速充電器(Supernova)を展開し、家庭向けの双方向充電器Quasarも提供しています。工場はバルセロナと米国テキサス州アーリントンにあります(Form 20-F、2025年12月期)。

ソフトウェアには、事業所・車両管理向けのWallbox App、公共の充電器を探して支払うサービスElectromaps(2025年末時点で登録ユーザー約140万人、約58万7,000口の充電ポイントに接続)、建物のエネルギー管理ソフトSiriusがあります(Form 20-F、2025年12月期)。

収益の仕組み

機器を売って終わりにせず、設置から運用までの接点を収益化する構造です。

  • 入り口:充電器(ハードウェア)と付属品の販売。販売時点で収益を計上します。
  • 課金:設置工事のサービス料、Wallbox Appの事業者・車両向けの利用料、Electromapsで行われる充電取引ごとの手数料。
  • 継続:2023年に始めたWallbox Careという保守契約で、試運転、予防・事後保守、期間延長型のサービスなどを提供します。ソフトの利用料や保守契約が継続収益の候補です。

ただし同社の開示では、サービス収益は現状では設置サービスが中心と説明されています(Form 20-F、2025年12月期)。

数字で確かめる

  • 収益:145,120千ユーロ(前期は163,943千ユーロ、11%減)。機器販売は主要市場でAC・DC充電器の販売が減り、17%減でした。需要の波が収益に直結していることが読み取れます(Form 20-F、2025年12月期)。
  • サービス収益:23,258千ユーロ(前期は17,721千ユーロ、31%増)。主因は設置サービスの増加で、機器販売の落ち込みを一部補う方向に動いていることが読み取れます(Form 20-F、2025年12月期)。
  • 粗利の目安:収益から原材料・在庫変動費(89,582千ユーロ)を引くと55,538千ユーロで、収益比は約38%(前期は約34%)です(同社の定義によるGross Marginに沿った計算)。製造効率の改善で利益率が上がったことが読み取れます(Form 20-F、2025年12月期)。
  • 損失:営業損失99,294千ユーロ、当期損失103,195千ユーロ。減損26,755千ユーロを含み、人件費は28%減、その他営業費用は21%減でした。費用削減を進めても損失が残ることが読み取れます(Form 20-F、2025年12月期)。
  • 財務:銀行団とのスタンドスティル(元利払いの一時停止)契約を2025年10月に結び、債務の約85%が関わる商業合意に基づく再編計画は、スペインの裁判所の承認と10.6百万ユーロの新規増資を前提としています。事業の継続が資金面の再編に左右される状況であることが読み取れます(Form 20-F、2025年12月期)。

Otsumuの読み解き:なぜ成り立つのか

ここからはOtsumuの考察です。この事例は、「機器を売り、周辺のソフトとサービスで継続収益を重ねる」型の狙いと難しさの両方を示していると読めます。機器は一度売れば終わりですが、設置・保守・利用料なら、同じ顧客から繰り返し収益を得られます。同社のサービス収益が31%伸びたのは、その方向に進んでいることの表れだと考えられます。

ただし数字を見ると、収益の大半は依然として機器販売で、需要が落ちると全体が落ち、固定費や借入が重くのしかかります。継続収益の層が薄いうちは、機器の景気や補助金などの外部要因を吸収しきれないということです。この型で学べるのは、継続収益の「割合」が事業の安定性を決めるという点です。同社が製造効率を高めて粗利を改善しつつ、ソフトと保守を育てている動きは、機器だけの事業から抜け出す取り組みとして読めますが、成果は債務再編の結果にも左右されます。

自社事業に持ち帰る問い

  • 自社の売上のうち、一度きりの販売と、繰り返し入る収益の割合はそれぞれどれくらいですか。
  • 商品を納めた後の設置・運用・保守のうち、顧客が今は他社や自力で済ませている部分はどこですか。
  • 需要が落ちたとき、固定費と借入を何か月まで支えられますか。

小さく試すなら

  1. 過去1年の売上を、一度きりの販売と、保守・利用料などの継続分に分け、割合を計算します。
  2. 納品した顧客のうち10〜20社に、運用や保守で困っていることを聞き、有料にできそうな項目を3つ書き出します。
  3. そのうち1項目を、月額または年額の保守メニューとして、期間限定で数社に案内します。
  4. 2〜4週間後に、申込数と、通常の対応に比べた手間の差を記録し、継続収益として成り立つ水準かを確認します。

関連するビジネスモデル

資料の位置づけ

企業・サービス:Wallbox N.V. / EV充電器とソフト・サービス。参照資料:Form 20-F(2025年12月期)。このページは公開情報にもとづく学習用の分析です。Otsumuの支援実績や当該企業との取引関係を示すものではありません。示唆と検証案はOtsumuの考察であり、企業自身の見解とは区別しています。

参考資料と編集について

上記の公開資料(目論見書・年次報告書・企業の公式発表など)をもとに、Otsumuが執筆しました。数値と企業の説明は資料の記載の範囲にとどめ、Otsumuの考察とは分けています。数値は資料の表記のままで、最新の情報は各社の開示をご確認ください。

執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.25

あわせて読む

次の一手を、一緒に。

事業の検証から開発・運用まで、現在の段階に合わせて支援します。

事業について相談する ↗
FROM KNOWLEDGE TO ACTION

知識を、次の一手へ。

AIツール診断で、次の一手を整理する ↗