この型の要点
- 販売を他社に委ねず、自社の営業担当が見込み客を見つけ、提案し、契約を結ぶまでを担う型です。売れる仕組みを社内に持つことそのものが資産になります。
- 中間に渡すマージンがないため一件あたりの粗利は厚くなりますが、営業担当の人件費は売れても売れなくても発生する固定費として重くのしかかります。
- 表からは見えない仕事は、見込み客の獲得、提案内容の標準化、営業担当の採用と育成であり、これらが整うまでは粗利の厚さを実感しにくい型です。
収益が生まれる仕組み
お金を払うのは顧客で、支払いの対象は自社の製品やサービスです。仲介者がいないため、顧客が支払った金額はそのまま自社の売上になり、そこから製品の原価を引いた粗利をすべて自社で使えます。代理店に販路を委ねる型と比べたとき、この粗利の厚さが大きな違いです。
一方で、売るための費用はすべて自社が負担します。営業担当の給与と交通費、見込み客を集めるための展示会や広告や紹介の仕組み、提案資料や見積の作成、契約後の引き継ぎまで、販売にかかる活動の費用は自社が負い、営業担当の人件費は毎月の固定費になります。したがって、この型が成り立つかどうかは、一件の粗利に受注件数を掛けた額が、営業組織の固定費を上回るかどうかで決まります。単価が低い商品を直販営業で売ると、一件の粗利では営業担当の時間を賄えません。
もう一つの利点は情報です。顧客と直接向き合うことで、何が決め手になり、何が断られる理由になり、どんな要望が繰り返し出るかが、加工されずに自社へ届きます。この情報が製品改善と価格の見直しに使われることで、次の受注率が上がるという循環が生まれます。
成り立つ条件と、裏側の仕事
顧客側の条件は、購入を決めるまでに説明や相談を必要とし、その手間に見合う金額を払う意思があることです。カタログを見て自分で選べる商品は、営業担当の訪問や商談を必要としません。逆に、導入によって業務が変わる、比較が難しい、社内の複数の人が関わって決める、といった買い方をする顧客に対しては、直接の提案が価値を持ちます。
供給側の条件は、営業担当が説明できる範囲に製品の複雑さが収まっていること、そして受注してから納品までの体制が営業の速度に追いつくことです。営業だけが先に走ると、受注はあるのに納品が遅れ、信用を失います。
自社の能力として必要なのは、まず見込み客を継続的に生み出す仕組みです。営業担当が自力で見込み客を探すところから始めると、提案に使える時間が減ります。次に、提案の型を作る力です。誰が説明しても一定の水準になる資料、質問への答え、価格の提示方法を用意しないと、成果が担当者個人の腕に依存します。さらに、採用と育成です。営業担当が一人前になるまでには時間がかかり、その間の人件費は投資です。辞めたときに顧客との関係が失われないよう、商談の記録を組織として残す仕組みも、表に出ないが欠かせない仕事です。
向く事業・向かない事業
向くのは、一件の単価または顧客一社からの累計取引額が大きく、購入判断に説明が要り、顧客の要望を製品に反映することが競争力になる事業です。特に、事業を始めたばかりで製品の何が評価されるかを見極めたい段階では、売上以上に情報の価値が大きく、直販は学習の手段として機能します。顧客数が限られており、自社の営業担当で回れる範囲に収まる場合も向いています。
向きにくいのは、単価が低く数を売る必要がある商品や、全国や広い地域に顧客が散らばり、自社の営業担当だけでは物理的に回りきれない事業です。既存の販路に顧客が集まっていて、そこを通さないと接点が持てない業界も、直販だけでは届きにくくなります。また、営業組織の固定費を数か月にわたって賄える資金がない段階で、営業担当を先に増やすことは危険です。
追いかける指標
- 商談化率:接触した見込み客のうち、具体的な提案に進んだ割合。分母は一定期間に初回接触した件数とします。
- 受注率:提案した件数のうち受注に至った割合。提案日を基準にした月ごとの集計で見ます。
- 商談期間:初回接触から受注までの日数の中央値。長くなる傾向は提案の型や対象顧客の見直しの合図です。
- 営業担当一人あたりの粗利:一定期間の受注粗利を、その期間に稼働した営業担当の人数で割った値。人件費と比べて採算を見ます。
- 顧客獲得にかかった費用:見込み客の獲得費と営業人件費の合計を、同じ期間の新規受注数で割った値。
- 失注理由の分布:断られた商談の理由を分類し、期間ごとの構成の変化を見ます。製品と価格への改善の材料です。
新規事業として小さく試すなら
- 創業者や事業責任者が自ら営業担当となり、想定顧客に該当する相手を一定数選んで、直接の商談を申し込みます。営業担当の採用はまだ行いません。
- 商談ごとに、相手の反応、質問、断られた理由、決め手になった点を同じ形式で記録します。提案資料は商談のたびに直します。
- 数週間で、初回接触から提案、受注または失注までの流れを一通り経験し、どの段階で何割が落ちるかを把握します。
- 自分が売れることが確認でき、提案の型が文書にできたら、営業担当を一人採用し、同じ型で同じ成果が出るかを確かめます。再現できれば増員の判断に進みます。
設計時の注意点
価格の面では、直販は値引きの権限が自社にあるため、受注を急ぐと値引きが常態化しやすくなります。誰がどこまで値引きを決められるか、値引きの条件をあらかじめ決め、粗利の厚さという直販の利点を守る必要があります。
契約の面では、営業担当の報酬設計が行動を決めます。成果報酬の比率を高くすると短期の受注に偏り、顧客の長期的な満足が置き去りにされることがあります。固定と成果の組み合わせ、成果の測り方、契約後の継続や解約を報酬に反映するかを、事業の性質に合わせて設計します。
運用の面では、営業担当個人に顧客情報が閉じることは大きなリスクです。商談の記録、見積の履歴、顧客の担当者と要望を組織で共有する仕組みを、人数が少ないうちから習慣にしておきます。また、営業が集めた顧客の声を製品側へ届ける定例の場を設けないと、直販の情報面の利点は活かされません。
法規制の面では、営業の方法によって訪問や電話での勧誘、契約の書面や解約に関する規律が関わる場合があります。個人向けに販売する場合は特に注意が必要で、対象顧客と販売方法が決まった段階で個別に専門家へ確認してください。
この型が見られる企業事例
この記事について
Otsumu株式会社が執筆しました。統計値や他社の事例には依拠せず、収益の構造、成り立つ条件、検証の進め方を中心にまとめています。法務・税務・会計の制度は、専門家や公的窓口で最新の情報をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.09.27