CAC(顧客獲得コスト)を下げるための第一歩は、全社平均の数字を眺めることではなく、広告・営業・紹介・展示会・SEOといったチャネルごとに「いくら使って、何社(何人)獲得できたか」を分けて測ることです。平均値は、効率の良いチャネルと悪いチャネルを混ぜてしまうため、どこに手を入れればよいかを教えてくれません。チャネル別に分けたうえで、①効率の悪いチャネルの中身を改善するのか、②予算と人員の配分を変えるのかを分けて考えると、打ち手がはっきりします。
もう一つ大切なのは、CACだけを単独で下げようとしないことです。獲得単価が安くても、すぐに解約する顧客や単価の低い顧客ばかりが集まるなら、事業としてはむしろ悪化します。CACは必ず、獲得した顧客がもたらす粗利や継続期間と並べて評価します。
この記事は、BtoBサービスやSaaS、会員制のWebサービスなどでマーケティングや営業の予算を預かる担当者、事業責任者に向けて書いています。CACの計算で何を費用に含めるか、チャネル別に測る手順、効率が悪いチャネルの改善の仕方、予算配分を見直すときの判断基準、よくある失敗までを順に整理します。
CACとは何か:計算式と「含める費用」の決め方
CACは Customer Acquisition Cost の略で、新しい顧客を1件獲得するためにかかった費用です。基本の計算式は次のとおりです。
CAC = 一定期間の獲得にかかった費用 ÷ 同じ期間に獲得した新規顧客数
式自体は単純ですが、実務で数字がぶれる原因は「分子に何を含めるか」と「分母の顧客をどう数えるか」の定義があいまいなことにあります。また、期間の取り方も数字を左右します。費用を計上した月と顧客を獲得した月がずれる商材では、どちらの月を基準にするかで、同じ施策の評価が変わってしまいます。部署によって含める費用が違えば、同じ会社の中で別々のCACが語られ、議論がかみ合いません。
費用の範囲は、少なくとも次の3段階で定義しておくと使い分けができます。
| 範囲 | 含める費用の例 | 主な使いみち |
|---|---|---|
| 広告費のみ | 検索広告・SNS広告・ディスプレイ広告の出稿費 | 広告運用の日々の調整、媒体比較 |
| マーケティング費用全体 | 広告費に加え、展示会出展費、コンテンツ制作の外注費、ツール利用料 | マーケティング施策の比較、四半期の予算配分 |
| 獲得費用全体(フルCAC) | 上記に加え、マーケティング・営業の人件費、営業ツール、代理店手数料 | 事業計画、LTVとの比較、投資判断 |
広告費のみのCACは計算が楽で日々の調整に使えますが、営業が何度も訪問してようやく受注するBtoB商材では、実態よりかなり安く見えます。投資判断には人件費を含めたフルCACを使い、日々の運用には広告費ベースの数字を使う、というように目的で使い分け、どの範囲の数字かを必ず明記して共有します。
分母の「新規顧客」も定義が必要です。無料登録を顧客と数えるのか、有料契約を顧客とするのか。BtoBなら、契約した会社数で数えるのか、契約ライセンス数で数えるのか。原則として、事業の収益につながる単位(有料契約の社数や件数)で数えるのが判断に使いやすい形です。無料登録あたりの費用は「登録単価」など別の名前で呼び分けると混乱しません。
なぜ平均CACではなく、チャネル別CACを見るのか
全体のCACが前の四半期より上がったとしても、その理由は一つではありません。ある広告媒体のクリック単価が上がったのかもしれないし、展示会の出展が重なって一時的に費用がかさんだのかもしれない。逆に、紹介経由の受注が減ったことで、相対的に広告への依存が高まった可能性もあります。
平均値だけでは、これらを区別できません。チャネル別に分けると、次のことが見えてきます。
- どのチャネルが効率よく顧客を連れてきているか
- どのチャネルで費用が膨らんでいるか
- 獲得数が伸ばせる余地(費用を足せば顧客が増えるか)がどのチャネルにあるか
- 獲得した顧客の質(単価や継続)がチャネルによってどう違うか
特に最後の点は見落とされがちです。たとえば、架空の例として、業務管理SaaSを提供するある会社で、SNS広告経由のCACは検索広告経由の半分だったとします。数字だけ見ればSNS広告に予算を寄せたくなりますが、SNS広告経由の顧客は最小プランの契約が多く、半年以内の解約も目立っていた。この場合、獲得あたりの費用ではなく、獲得した顧客から得られる粗利で比べないと、判断を誤ります。
チャネル別CACを正しく出すには、流入元の計測が整っている必要があります。広告やメールのリンクにUTMパラメータを付けるルールがそろっていないと、どこから来た顧客なのかが分からなくなります。付け方のルールはUTMパラメータの付け方ルールで詳しく扱っています。
チャネル別CACを測る手順
チャネル別のCACは、次の手順で作ると、後から説明できる数字になります。
- チャネルの分類を決める:検索広告、SNS広告、SEO(自然検索)、紹介、展示会・イベント、アウトバウンド営業、パートナー経由など、自社の獲得経路を10個前後に分類します。細かすぎると1チャネルあたりの件数が少なくなり、数字がぶれます。
- 顧客ごとに獲得チャネルを記録する:問い合わせや申し込みの時点で、流入元を顧客データに残します。フォームの隠し項目でUTMの値を受け取る、営業が商談登録時に選択肢から選ぶ、などの方法があります。
- どの接点を「獲得チャネル」とみなすかを決める:最初の接点、最後の接点、商談化の直前の接点など、どれを基準にするかを決めて固定します。複数の接点をどう評価するかはアトリビューション分析の基本と限界を参考にしてください。
- チャネルごとに費用を割り振る:広告費は媒体ごとに明確ですが、人件費や共通のツール費は割り振りが必要です。たとえば、インサイドセールスの人件費は、各チャネルから来たリードの対応件数の比率で按分する、といったルールを決めます。
- 期間を決めて集計する:BtoBのように検討期間が長い商材では、費用を使った月と受注した月がずれます。月次では揺れが大きいため、四半期単位で見る、あるいは費用発生から一定期間内の受注で数える、といった工夫をします。
- 獲得した顧客の質と並べる:チャネル別に、平均契約単価、一定期間後の継続率、粗利を並べます。これでCACとLTVを同じ表で比較できるようになります。
最初からすべてを精密にそろえる必要はありません。まずは広告費と件数だけで四半期のチャネル別CACを出し、次の四半期に人件費の按分を加える、というように段階的に精度を上げていけば十分です。
CACの良し悪しを判断する基準
CACは単独では高いか安いかを判断できません。判断の基準として使いやすいのは、次の3つです。
LTVとの比率
獲得した顧客が契約期間を通じてもたらす粗利(LTV)と比べ、CACを十分に上回る粗利が見込めるかを確認します。LTVの考え方と伸ばし方はLTVを伸ばす施策で整理しています。比率の目安は事業モデルや資金の状況によって変わるため、外部で語られる数字をそのまま当てはめず、自社の資金繰りと成長計画から許容できる水準を決めてください。
回収期間
CACを、顧客1件あたりの月次粗利で割ると、獲得費用を何か月で回収できるかが分かります。LTVが大きくても回収までが長いと、その間の資金が必要になります。成長のために獲得を増やすほど手元資金が減る構造になっていないかを、回収期間で確認します。
追加投資したときの限界効率
あるチャネルの平均CACが良くても、予算を2倍にしたときに同じ効率で獲得できるとは限りません。検索広告なら、需要のあるキーワードを出し尽くすと、効率の悪いキーワードにまで出稿することになります。チャネルごとに「あと少し費用を足したときに、何件増えそうか」を過去の推移から見ておくと、配分の判断が現実的になります。SaaSの営業・マーケティング投資の効率を見る指標としてマジックナンバーという考え方もあります。
効率の悪いチャネルを改善する方法
チャネル別CACで効率の悪いチャネルが見つかったら、すぐに予算を削る前に、どの段階で効率が落ちているかを分解します。CACは、次のように分解できます。
CAC = リード1件あたりの費用 ÷ リードから受注までの転換率
つまり、CACが高い原因は「リードを集める費用が高い」か「リードが受注につながっていない」かのどちらか、または両方です。さらに後者は、リードから商談、商談から受注のどこで落ちているかに分けられます。
| 落ちている段階 | よくある原因 | 打ち手の例 |
|---|---|---|
| リード獲得単価が高い | 狙う顧客層と広告の配信先がずれている、訴求が弱い | 配信対象の絞り込み、広告文とランディングページの訴求の一致、除外キーワードの整理 |
| リードから商談への転換が低い | 対象外の問い合わせが多い、初回対応が遅い | フォーム項目の見直し、初回連絡の迅速化、リードの選別基準の明文化 |
| 商談から受注への転換が低い | 提案内容と課題が合っていない、比較検討で負けている | 失注理由の記録と分析、事例資料や比較資料の整備、提案の型の見直し |
| 受注後すぐに解約される | 期待と実際のずれ、初期定着の失敗 | 訴求内容の見直し、オンボーディングの強化 |
リードから商談への段階で効率が落ちている場合、広告を止めるよりも、問い合わせへの対応を見直したほうが早く効果が出ることがあります。この段階の改善は問い合わせからの商談化率を上げるで詳しく扱っています。
費用を下げる打ち手と、転換率を上げる打ち手の使い分け
リード獲得単価を下げる打ち手は、広告の配信設定や入札の調整など、比較的短い期間で結果が出るものが多い反面、下げられる幅には限りがあります。配信を絞りすぎると、リードの件数そのものが減ってしまうからです。一方、転換率を上げる打ち手は、営業プロセスや資料、製品の見せ方の見直しを伴うため時間はかかりますが、一度改善すればすべてのチャネルに効きます。
そのため、効率の悪いチャネルが一つだけなら、そのチャネルの配信や訴求を調整します。複数のチャネルで同じように商談化率や受注率が低いなら、チャネルの問題ではなく、受け皿である営業・提案の側に原因があると考え、共通の改善を優先します。どちらの問題かを見分けずに広告の調整だけを繰り返すと、手間をかけても全体のCACは下がりません。
架空の例:展示会のCACが高いと言われたケース
ある架空の製造業向けSaaSの会社で、展示会経由のCACが他チャネルの数倍と算出され、出展をやめるべきかが議論になったとします。分解してみると、名刺交換の件数は多いものの、展示会後のフォローが営業任せで、連絡が出展から2週間後になっていた。しかも名刺の大半は情報収集目的の来場者で、検討度の高い来場者とそうでない来場者が区別されていなかった。
この場合の打ち手は出展の中止ではなく、ブースでの会話内容をもとに検討度を3段階で記録すること、検討度の高い来場者には出展の翌営業日に連絡すること、それ以外には資料送付と事例紹介のメールを段階的に送ることでした。費用は変えずに転換率を上げられれば、CACは下がります。あわせて、展示会で接点を持った企業がその後に別のチャネルから問い合わせてきた件数も追うようにすると、展示会の間接的な貢献も見えるようになり、出展を続けるかどうかを根拠を持って判断できるようになります。
予算配分を見直すときの進め方
チャネルの改善と並行して、予算と人員の配分も定期的に見直します。配分を変えるときは、次の点に注意します。
- 一度に大きく動かさない:効率の良いチャネルに予算を一気に寄せると、前述の限界効率の低下で、思ったほど獲得が増えないことがあります。四半期ごとに一定の幅で動かし、結果を見て次の配分を決めます。
- 時間差のあるチャネルを不利に扱わない:SEOやコンテンツ、紹介制度は、費用を使ってから成果が出るまでに時間がかかります。直近の四半期だけで評価すると、常に不利な判定になります。評価期間を長めに取るか、先行指標(検索流入数や紹介依頼の件数)で途中経過を見ます。
- チャネル間の相互作用を考える:展示会で社名を知った人が、後日検索して問い合わせてくることがあります。この場合、受注は検索経由に計上されますが、展示会がなければ発生しなかった可能性があります。一つのチャネルを止めたら他のチャネルの獲得も減った、という事態を避けるため、止める前に小さく減らして様子を見る方法が安全です。
- 実験の枠を残す:既存チャネルの最適化だけでは、いずれ効率の改善が頭打ちになります。全体予算の一部を新しいチャネルの試行に充て、小さく試して効果を確かめる枠を残しておきます。
CAC削減でよくある失敗と避け方
- 費用の範囲を途中で変える:前の四半期は広告費のみ、今の四半期は人件費込み、と範囲が変わると比較できません。定義を文書にし、変える場合は過去分も同じ定義で計算し直します。
- 広告費を削ってCACを下げたつもりになる:広告費を削れば一時的に費用は下がりますが、獲得数も減り、売上の伸びが止まることがあります。CACと同時に獲得数の推移を必ず見ます。
- 獲得数を増やすために対象外の顧客まで取る:申し込みのハードルを下げると件数は増えますが、継続しない顧客が増えて、LTVが下がります。チャネル別に継続率を並べて確認します。
- 成果の出ない月にすぐ判断する:月次の数字は揺れが大きく、1か月の悪化で施策を止めると、効果を見誤ります。判断は四半期単位で、事前に決めた基準で行います。
- 営業の手間をコストとして数えない:問い合わせ件数の多いチャネルでも、営業が対応に追われて受注につながっていなければ、見えないコストが膨らんでいます。人件費を按分したフルCACで定期的に見直します。
チャネル別CAC管理のチェックリスト
- CACの計算に含める費用の範囲が、目的別に文書で定義されている
- 「新規顧客」の数え方(有料契約、社数など)が決まっている
- 顧客ごとに獲得チャネルが記録され、分類が統一されている
- 広告・メール・SNSのリンクにUTMパラメータが規則どおり付いている
- 人件費や共通費用の按分ルールが決まっている
- チャネル別に、CACと並べて契約単価・継続率・粗利が見られる
- 回収期間を確認し、資金計画と照らし合わせている
- 予算配分の見直しの頻度と、動かす幅のルールがある
- 新しいチャネルを試すための予算枠がある
よくある質問
Q. CACはどのくらいの頻度で見直すべきですか?
日々の広告運用では広告費ベースの数字を週次で確認し、人件費を含めたフルCACは四半期ごとに算出するのが扱いやすい形です。BtoBのように検討期間が長い商材では、月次の変動に一喜一憂せず、四半期単位で傾向を見ることをおすすめします。
Q. 紹介経由の顧客はCACがゼロになってしまいます。どう扱えばよいですか?
紹介制度の謝礼や、紹介を生むための顧客対応の工数を費用として計上すると、実態に近づきます。費用がほとんどかからない場合でも、紹介件数を増やす施策(紹介依頼のタイミングや仕組み)を検討する価値があります。ゼロに近いことを理由に評価から外さず、件数の推移を追いましょう。
Q. 複数のチャネルに接触してから問い合わせた顧客は、どのチャネルに計上すればよいですか?
まずは基準を一つ決めて固定することが重要です。最初の接点か最後の接点のどちらかに統一し、必要に応じて別の基準でも集計して比べます。基準を頻繁に変えると、過去との比較ができなくなります。
Q. 立ち上げ直後で顧客数が少なく、チャネル別に分けると件数が足りません。
件数が少ない段階では、CACよりも、チャネルごとのリードの質や商談化率を定性的に記録しておくほうが役に立ちます。分類を大まかにする(有料広告、自然流入、紹介、営業の4区分など)ことで、ある程度の件数を確保する方法もあります。
Otsumuに相談できること
獲得チャネルが数個に限られていて、流入元の記録と費用の集計が社内でできている場合は、この記事の手順に沿って自社でチャネル別CACを出し、改善を進められます。最初は広告費と件数だけの簡単な表から始め、四半期ごとに精度を上げていけば十分です。
一方で、流入元が記録されておらず顧客ごとの獲得経路が分からない、マーケティングと営業でリードや顧客の定義がそろっていない、CACとLTVを並べたいが必要なデータが複数のツールに散らばっている、といった状況では、指標の定義と計測の仕組みを同時に整える必要があります。こうした整備は片手間では進みにくく、外部の手を借りたほうが早いことがあります。
Otsumuは自らも事業を手がける立場から、目的から逆算して必要な指標に絞り、計測の設計、データの集計、改善の運用までを一気通貫で支援しています。KPI改善コンサルティングでは、チャネル別CACの定義づくりから、効率の悪い段階の特定、予算配分を見直す会議の運用までをお手伝いします。集計の仕組みづくりが必要な場合はダッシュボード開発もあわせてご相談いただけます。
いまの数字で何が言えるかを一緒に確認したい、という段階からでも構いません。まずは30分の無料相談で状況をお聞かせください。
この記事のテーマに最も近い支援は、継続率・CVR改善の実行支援です。
- 離脱箇所と解約の理由を、データで特定
- 施策をICEなどで優先順位づけして実行
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まずは30分の無料相談で、状況をお聞かせください。
この記事について
Otsumu株式会社が執筆しました。統計値や他社の事例には依拠せず、進め方と判断の枠組みを中心にまとめています。法務・税務・会計などの制度は、専門家や公的窓口で最新の情報をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.01