結論:同じデジタルでも、業務改善と新規事業では確かめる相手が違う
DX部門に新規事業の役割が加わることがあります。デジタルの知見があり、部門をまたいで動けるからです。ただ、業務改善と新規事業は、同じ技術を使っていても、性質の違う仕事です。
業務改善では、利用者は社内にいて、使うことを業務として決められます。課題は現場に聞けば分かり、成果は作業時間や誤りの減少として測れます。新規事業では、利用者は社外にいて、使うかどうか、対価を払うかどうかを相手が決めます。課題が本当にあるのか、自社の解決策が選ばれるのかは、確かめるまで分かりません。
この違いを踏まえずに、業務改善と同じ進め方、つまり要件を集め、システムを作り、展開するという順序で新規事業を進めると、出来上がったあとで「使う人がいない」と判明するおそれがあります。DX部門が新規事業を担うときの最初の論点は、技術ではなく、顧客検証を計画の中心に置けるかどうかです。
業務改善と新規事業の違いを、部門内でそろえる
部門の中で、次の違いを言葉にして共有しておくと、計画や報告の食い違いが減ります。
- 利用者:業務改善は社内の従業員、新規事業は社外の顧客。社外の顧客には、使うことを指示できません。
- 課題の確からしさ:業務改善は現場で観察できる課題が出発点。新規事業は、課題があるという仮説が出発点で、確認が必要です。
- 成果の測り方:業務改善は費用や時間の削減。新規事業は、初期には売上ではなく、仮説がどこまで確かめられたかで進み具合を測ります。
- 計画の立て方:業務改善は完成形を描いて工程を引きやすい。新規事業は、次に確かめることと、その結果による分岐を計画します。
- 予算の考え方:業務改善は投資対効果を事前に見積もりやすい。新規事業は、段階ごとに次の証拠を得るための費用として積み上げます。
とくに社内への説明で問題になるのが、成果の測り方です。業務改善と同じ物差しで新規事業を評価されると、初期の検証活動は「成果が出ていない」と見なされます。段階に合った指標と見直しの基準を、開始前に経営側と合意しておく必要があります。考え方はKPIと撤退基準を実験の前に置くと、予算を次に得たい証拠から積み上げるで扱っています。
顧客検証を、開発より先に置く
DX部門に作る力がある場合、その強みが、新規事業では「先に作ってしまう」という形で裏目に出ることがあります。進め方の順序は次のように組み立てます。
- 誰の、どんな場面の、どの課題を扱うのかを、一文で書く。顧客の範囲を広く取りすぎないことが大切です。
- その課題が実在するかを、顧客候補への聞き取りで確かめる。聞くのは意見や要望ではなく、直近で実際にどう対処したかという行動です。
- いまの対処方法を調べる。競合するサービスだけでなく、Excelや手作業、何もしないという選択も比較の対象に入れます。
- 解決策の案を、作り込む前に見せる。説明資料、試作画面、申込を受け付けるページなど、軽い手段で反応を確かめます。
- 対価を払う意思を確かめる。関心があることと、費用を負担することは別です。
- ここまでで根拠が得られたら、検証用のシステムを小さく作る。
全体の流れは開発の前に事業の前提を一つずつ検証する、聞き取りの設計は直近の行動を聞くインタビュー設計にまとめています。
DX部門にとって難しいのは、顧客候補への接点です。社内の利用者と違い、社外の顧客候補と話す機会は、営業部門や既存事業の部門が持っています。早い段階で、顧客に会う経路を持つ部門の協力を取りつけることが、検証の速さを左右します。依頼するときは、何のために、誰に、どのくらいの時間をもらいたいのかを具体的に伝え、既存の取引関係に影響しない進め方を一緒に決めます。
既存システムとの関係をどう決めるか
DX部門ならではの論点が、既存の社内システムとの関係です。自社のデータや基盤を新規事業に活かしたいという発想は自然ですが、検証の段階では注意が必要です。
- 検証の段階では、既存システムと切り離して作れないかを先に考える。連携には調整と確認の時間がかかり、検証の速度が落ちます。必要なデータは、手作業で取り出して渡す形でも、検証の目的には足りることがあります。
- 既存システムのデータを使う場合は、そのデータを新しい目的に使ってよいかを確認する。顧客情報を含む場合の扱いは個別の判断になるため、法務部門や専門家に確認してください。
- 社内のセキュリティ基準をどこまで適用するかを、情報システム部門と早めに話す。本番の基幹システムと同じ基準を検証用の小さな仕組みに求めると、着手できなくなることがあります。扱うデータの種類と公開範囲に応じて、必要な水準を合意します。
- 検証がうまくいった場合の移行も考えておく。検証用に作ったものを本番でどこまで使い、どこを作り直すのか、誰が運用するのかという見通しです。
体制と社内の合意
DX部門が新規事業を兼務で担う場合、既存の業務改善の案件が優先され、検証活動が後回しになりがちです。担当者が顧客検証に使える時間を明示的に確保すること、判断する人を決めておくことが必要です。
また、新規事業の進め方に関する社内の合意として、次の内容を開始前に文書にしておきます。
- この期間に確かめることと、期間の終わりに判断すること
- 続ける、方向を変える、止めるのそれぞれの基準
- 使える予算と、その範囲で担当者が決めてよいこと
- 既存事業の顧客や取引先に接触するときの手続き
外部のDXコンサルや新規事業の支援会社を使う場合も、この文書があると、依頼の範囲を決めやすくなります。
よくある質問
Q. 社内向けに作った仕組みを、外販する形の新規事業は進めやすいですか。
自社で使って効果があったことは、出発点として有用です。ただし、他社が同じ課題を持っているか、自社と同じ業務の流れなのか、費用を払って導入するかは、別に確かめる必要があります。自社の業務に合わせて作り込んだ部分が、他社には合わないこともあります。顧客候補への聞き取りから始める順序は変わりません。
Q. 経営層から「早く形にして見せてほしい」と言われています。
形を見せること自体は、検証の手段として有効です。試作画面や説明資料など、軽い手段で早く見せ、同時に「これで何を確かめるのか」を添えて報告します。作り込んだシステムを見せることと、検証が進んでいることは別だと、早い段階で共有しておくことが大切です。
Q. DX部門に事業開発の経験者がいません。
顧客への聞き取り、収益モデルの整理、検証の設計は、経験がないと時間がかかる部分です。社内の事業部門から兼務で参加してもらう、外部の支援を期間を区切って使う、といった補い方があります。どちらの場合も、判断と学びが社内に残る進め方にしてください。
Otsumuに相談できること
Otsumuは、新規事業開発コンサルティング、AIを活用したMVPシステム開発、自社サービス運用の自動化コンサルティングを行っており、戦略と開発を分断せず、構想から運用までひとつのチームで支援します。構想を整理して社内の合意を取りたい段階では、新規事業レビュー Sprintが対応します。成果物は、市場・競合の論点整理、顧客と課題の仮説シート、収益モデルの整理、優先する検証項目と判断基準、PoCの計画案、経営会議・社内稟議用の説明資料です。参考価格は48万円(税別)、期間は1〜2週間で、大規模な市場調査、顧客インタビューの実施、システム開発は別途見積もりとなります。正式な見積もりは相談後です。
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この記事について
Otsumu株式会社が執筆しました。統計値や他社の事例には依拠せず、進め方と判断の枠組みを中心にまとめています。記載の価格はOtsumuの税別・参考価格で、正式なお見積もりはご相談後にご案内します。法務・税務・会計・補助金などの制度は、専門家や公的窓口で最新の情報をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.09.21