稟議書の先頭に置くのは「何を、いくらで、いつまで承認してほしいか」
新規事業の稟議書で最初に書くべきことは、事業の背景でも市場の説明でもなく、決裁者に求める判断そのものです。具体的には次の三点を、最初のページの上部にまとめます。
- 承認してほしいこと:今回の稟議で認めてほしい活動の範囲。事業全体ではなく、次の段階の活動に限って書きます。
- 費用と期間:今回の承認で使う費用の上限と、活動が終わる日。人の稼働も費用として併記します。
- 判断基準:活動が終わった時点で、何が確認できていれば次の段階へ進み、何が確認できなければ止めるか。
既存事業の稟議は、実績をもとに投資額と回収見込みを示しやすい形になっています。新規事業は回収見込みの前提がまだ確かめられていないため、同じ書式で書くと「根拠が弱い」と見えてしまいます。そこで、売上の約束ではなく「この費用で、この不確かさを、この日までに減らす」という形で承認を求めます。決裁者が判断するのは事業の成否ではなく、次の確認にその費用を使ってよいかどうかです。
稟議書の構成と、各項目に書くこと
先頭の三点に続けて、判断を支える材料を次の順で並べます。分量は少なくてかまいません。決裁者が質問しそうな順に置くことが大切です。
- 承認事項・費用と期間・判断基準(先頭の要約)
- 対象とする顧客と課題:誰の、どの場面の、どんな困りごとを扱うのか。現時点で確認できている事実と、まだ仮説の部分を分けて書きます。
- 提供しようとしている解決策と、既存の代替手段との違い。
- 自社が取り組む理由:既存の顧客接点、技術、データなど、使える資産。
- 今回の活動内容:何を、誰が、どの順番で行うか。
- 費用の内訳:外部費用、社内の稼働、予備費を分けます。
- 主なリスクと、起きたときの対応。
- 活動後の選択肢:進む、方向を変える、止める、それぞれの条件と、次に必要になりそうな承認の見通し。
事実と仮説を分けて書く点は特に重要です。たとえば、店舗向けの発注支援サービスを検討している場合、「店長への聞き取りで、発注作業を閉店後に手作業で行っていることを確認した」は事実、「この作業を減らせるなら費用を払う」は仮説です。混ぜて書くと、質問を受けたときに全体の信頼が揺らぎます。論点の絞り方は新規事業の稟議を、経営陣が判断できる論点へ絞るでも扱っています。
書式を一から作る必要がない場合は、経営会議・稟議テンプレートを土台にして、自社の決裁書式に合わせて項目を入れ替えると早く進みます。
新規事業の稟議が通らないときに見直す点
稟議が通らないとき、事業案そのものが否定されているとは限りません。差し戻しの言葉を、次のどれに当たるかで整理すると、直す場所が分かります。
- 承認の単位が大きすぎる:事業化までの総額を一度に求めていないか。決裁者は、確かめられていない前提の上に大きな金額を載せる判断はしにくいものです。
- 判断基準がない:「検証します」で終わっていて、結果がどうなら進み、どうなら止めるのかが書かれていない。止める条件がない稟議は、費用が膨らみ続ける不安につながります。
- 既存事業の物差しで書かれている:確度の低い売上計画を前面に出すと、数字の根拠を問う質問に時間が使われます。売上計画は前提と一緒に参考として示し、今回確かめる前提を主役にします。
- 費用に社内の稼働が入っていない:兼務者の時間をどこから出すのかが不明だと、関係部門の合意が得られません。
- 決裁者が気にしている論点に答えていない:既存事業との関係、ブランドや法令上の懸念、撤退時の顧客対応などは、事前に関係者へ聞いておけば稟議書に答えを入れられます。
最後の点は、稟議書の出来よりも事前の確認で決まります。起案の前に、決裁者や関係部門に「この案を判断するなら何が気になるか」を聞き、出た論点を稟議書の項目に反映させます。これは根回しというより、判断に必要な情報を集める作業です。
費用の根拠を問われて答えられない場合は、金額の積み上げ方を見直します。次に得たい証拠から予算を積み上げる考え方が参考になります。
段階承認という考え方
新規事業の稟議は、一度の大きな承認ではなく、段階ごとの小さな承認に分けると通りやすく、運用もしやすくなります。段階承認の基本は次のとおりです。
- 事業化までの道のりを、確かめる前提ごとに段階へ分ける。たとえば「課題があるか」「解決策に払う意思があるか」「提供と運用が成り立つか」のように分けます。
- 各段階に、費用の上限、期限、判断基準を置く。
- 今回の稟議では、直近の段階だけの承認を求める。先の段階は見通しとして示すにとどめます。
- 段階の終わりに結果を報告し、次の段階の承認をあらためて求める。
この形にすると、決裁者は小さな金額で判断でき、起案者は結果が悪かった場合にも「基準に照らして止める」と説明できます。止めることが失敗ではなく、あらかじめ合意した判断として扱われる点が大きな利点です。段階の区切り方と審査の場の設計はステージゲートを次の実験を決める場にする方法にまとめています。
注意点として、段階を細かくしすぎると承認の手続きに時間を取られます。自社の決裁規程で、どの金額から誰の承認が必要になるかを確認し、一つの段階が一つの決裁で収まる大きさに区切ると無理がありません。
提出前の確認項目
- 最初のページだけを読んで、承認事項・費用・期限・判断基準が分かるか。
- 事実と仮説が区別されているか。
- 判断基準は、結果が出たあとに解釈が割れない書き方になっているか。
- 止める場合の対応(顧客への連絡、成果物の扱い)に触れているか。
- 費用に社内の稼働と予備費が入っているか。
- 事前に聞いた関係者の懸念に、答えが入っているか。
添付する事業計画の組み立て方は事業計画書を投資判断に必要な順番で組み立てるを参照してください。
よくある質問
Q. 売上計画に自信がありません。稟議書に載せないほうがよいでしょうか。
載せないよりも、前提と一緒に載せるほうが判断しやすくなります。顧客数、単価、継続の見込みなど、計画を支える前提を並べ、どれが確認済みでどれが未確認かを示します。そのうえで、今回の活動で確かめる前提を明記すれば、計画の不確かさは弱点ではなく、稟議の目的の説明になります。
Q. 稟議書は何ページくらいが適切ですか。
適切な枚数は会社の書式や決裁者の習慣で変わるため、一律には言えません。目安にするなら枚数ではなく、最初のページで判断に必要な要点が読み切れるかどうかです。詳細は別紙や添付に回し、本文は決裁者が質問しそうな順に並べます。
Q. 一度差し戻された案を、再提出してもよいですか。
差し戻しの理由に対応できているなら、再提出は自然なことです。理由を上の見直し点に当てはめ、承認の単位を小さくする、判断基準を加える、懸念への答えを入れるなど、何を変えたかを冒頭に書きます。同じ内容を言い換えただけの再提出は避けます。
Otsumuに相談できること
稟議書の材料が社内でそろっている場合は、この記事の構成とテンプレートで十分に進められます。論点の整理や判断基準の置き方で手が止まっている場合は、Otsumuの新規事業レビュー Sprintが対応します。1〜2週間で、市場・競合の論点整理、顧客と課題の仮説シート、収益モデルの整理、優先する検証項目と判断基準、PoCの計画案、経営会議・社内稟議用の説明資料をまとめます。参考価格は48万円(税別)で、正式な見積もりは相談後にお出しします。大規模な市場調査、顧客インタビューの実施、システム開発は別途見積もりです。
まず状況を整理したい場合は、30分の無料診断でご相談ください。書式だけ必要な場合は経営会議・稟議テンプレートをそのままお使いください。
この記事について
Otsumu株式会社が執筆しました。統計値や他社の事例には依拠せず、進め方と判断の枠組みを中心にまとめています。記載の価格はOtsumuの税別・参考価格で、正式なお見積もりはご相談後にご案内します。法務・税務・会計・補助金などの制度は、専門家や公的窓口で最新の情報をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.09.21