この事例の要点
- Fastlyは、CDN(配信網)にセキュリティや開発者向けの実行環境を重ねた「エッジクラウド」を提供し、収益の約96%はプラットフォームの利用量に連動しています(Form 10-K、FY2025)。
- 契約は通常12か月で、毎月の最低請求額を約束したうえで、多くの顧客がそれを超えて利用しています(Form 10-K、FY2025)。
- 上位10顧客が売上の32%を占めるなど、利用量に連動する収益と顧客集中の両面を同時に抱えていることが読み取れます(Form 10-K、FY2025)。
どんな事業か
Fastly, Inc.は米国の企業で、ニューヨーク証券取引所に上場しています(Form 10-K、FY2025〔2025年12月31日終了年度〕)。同社は自らを「エッジクラウド」のプラットフォームと説明しています。エッジクラウドは、インフラ提供型サービスの一分野で、開発者がデジタル体験を利用者の近くで構築・保護・配信できるものとされています。CDNに、従来は専用機器が担っていた機能(WAF、API管理、ボット検知、DDoS対策など)を組み合わせています(Form 10-K、FY2025)。
製品は、ネットワークサービス(CDN、動画配信、ロードバランサなど)、セキュリティ(Next-Gen WAF、ボット管理など)、コンピュート(WASMによるサーバーレス実行)、オブザーバビリティで構成されます。販売は、チャネルパートナー、クラウドのマーケットプレイス、直販を組み合わせています(Form 10-K、FY2025)。
収益の仕組み
Form 10-K(FY2025)が示す収益の構造は、次のとおりです。
- 入り口:オープンソースのプロジェクトや非営利団体に無償で製品を提供する「Fast Forward」プログラムがあります。一般向けの無料プランの記載は、確認した範囲にはありません。
- 課金:ネットワークサービスの料金は、ギガバイトやリクエスト数で測る、約束した利用量または実際の利用量にもとづきます。通常は12か月契約で、毎月の最低請求額があります。
- 請求:利用料は一般に後払い(利用後の請求)で、セキュリティ製品は主に年額の前払いです。
数字で確かめる
- 2025年の売上高は624.0百万ドルで、2024年の543.7百万ドルから約15%増えました。製品別では、ネットワークサービスが477.8百万ドル(77%)、セキュリティが125.1百万ドル(20%)、その他(コンピュートとオブザーバビリティ)が21.2百万ドル(3%)です(Form 10-K、FY2025)。中核のネットワークサービスの上に、セキュリティが20%まで積み上がっていることが読み取れます。
- 収益の約96%(前年は95%)がプラットフォームの利用量に連動しています(Form 10-K、FY2025)。顧客の利用が増えると売上が増え、減ると売上も減る構造であることが読み取れます。
- 顧客数は3,092社(前年は3,061社)で、年間換算の当期売上が10万ドルを超える顧客は628社(前年は596社)、その売上比率は94%(前年は93%)です(Form 10-K、FY2025)。顧客数はほぼ横ばいで、大口顧客に収益が集まっていることが読み取れます。
- 12か月の純維持率は110.1%(前年は102.3%)、年間の収益維持率は98.7%(前年は99.0%)です。上位10顧客の売上比率は32%(前年は33%)で、単一顧客が10%を超えた年はありません(Form 10-K、FY2025)。既存顧客の利用が拡大している一方で、顧客の集中度は高いことが読み取れます。
- 残存履行義務(RPO)は353.8百万ドルで、前年の244.4百万ドルから増えました。純損失は121.7百万ドル(前年は158.1百万ドル)です(Form 10-K、FY2025)。契約済みの残高が積み上がる一方で、損失が続いていることが読み取れます。
Otsumuの読み解き:なぜ成り立つのか
ここからはOtsumuの考察です。この事業は、従量課金に最低利用額を組み合わせた設計と読めます。最低額が同社の収益の下限を支え、顧客は実際の利用に応じて払う納得感を得る。利用が増えるほど売上が伸びるため、顧客の事業の成長と同社の成長が連動します。さらに、配信網を土台にセキュリティなど別の製品を重ねることで、同じ顧客から取れる範囲を広げていると考えられます。
一方で、利用量に連動する収益は、顧客の事業の波をそのまま受けます。同社は、限られた数の業種の限られた数の顧客から収益の大部分を得ていることをリスク要因に挙げています(Form 10-K、FY2025)。収益維持率が100%を下回ることも、利用の増減が収益に直結することを示していると読めます。
トレードオフは、従量課金の伸びやすさと、予測のしにくさです。最低額を高く置くと予測しやすくなりますが、契約の入り口は重くなります。どこに最低額を置くかは、顧客の利用の波の大きさと、導入のしやすさの間で決まると考えられます。
自社事業に持ち帰る問い
- 自社の料金は、顧客の利用の増減と連動して伸びる部分と、固定で支える部分を持てているでしょうか。
- 最低利用額を設けるとしたら、顧客が納得できる水準と、自社の収益を支える水準の間はどこでしょうか。
- 主力の提供物に重ねられる、別の課題を解決する提供物は何でしょうか。
小さく試すなら
- 直近1年の請求データから、顧客ごとの月ごとの利用の増減を整理し、波の大きい顧客と小さい顧客に分けます。
- 波の小さい顧客向けに最低額つきの案、波の大きい顧客向けに利用実績にもとづく案を、それぞれ一枚の料金表にまとめます。
- 顧客3〜5社に両方の案を見せ、予算の立てやすさと納得感について、どちらを選ぶか理由とともに聞きます。
- 2〜4週間で、最低額の水準と超過分の単価の候補を絞り、一部の新規契約で試す計画を作ります。
関連するビジネスモデル
資料の位置づけ
企業・サービス:Fastly, Inc. / エッジクラウドプラットフォーム。参照資料:Form 10-K(FY2025、2025年12月31日終了年度)。このページは公開情報にもとづく学習用の分析です。Otsumuの支援実績や当該企業との取引関係を示すものではありません。示唆と検証案はOtsumuの考察であり、企業自身の見解とは区別しています。
参考資料と編集について
上記の公開資料(企業の決算短信または年次報告書)をもとに、Otsumuが執筆しました。数値と企業の説明は資料の記載の範囲にとどめ、Otsumuの考察とは分けています。数値は資料の表記のままで、最新の情報は各社の開示をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.25