この事例の要点
- 株式会社JMDCは、健康保険組合等から寄せられたレセプト、健診データ及び加入者台帳を匿名加工し、民間利用可能なヘルスビッグデータとして学術・産業利用を進めていると説明しています(2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結))。
- 2026年3月期の売上収益は50,462百万円(前期比20.9%増)、営業利益は10,521百万円(同20.7%増)でした(2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結))。
- 匿名加工情報は、保険者向けの分析サービスやPHRサービスなどの業務の付帯として受領したものだと同社は説明しており、サービス提供とデータ蓄積が同じ事業の中に置かれています(2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結))。
どんな事業か
同社は「データとICTの力で、持続可能なヘルスケアシステムを実現する」ことを目指し、日本のヘルスケア業界の多様なデータを結集して社会に還元することで、生活者の健康増進や医療プロバイダーの価値向上・業務最適化を支援していると説明しています(2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結))。報告セグメントはヘルスビッグデータと遠隔医療の二つです。
ヘルスビッグデータセグメントでは、健康保険組合を中心とした保険者に対し、保険者が保有するデータの分析サービスと同社開発のPHRサービスを提供しています。医療機関に対しては医療データ分析サービス、診療報酬ファクタリングサービス、薬剤DBの提供等を行っています。さらに、こうした業務の付帯として受領した匿名加工情報をデータベース化し、学術・産業利用を進めています。
遠隔医療セグメントは、放射線診断専門医が不足している医療機関と契約読影医を遠隔読影システムでつなぐマッチングサービスと、医療機関と放射線診断専門医をクラウドでつなぎ遠隔での画像診断を可能にしたASPサービスを提供しています。
収益の仕組み
ヘルスビッグデータについて、同社は当期も取引先健康保険組合等の数が前年同期比で増加し、利活用先である製薬企業及び保険会社等の年間取引額も堅調に推移したと説明しています。データを提供してくれる側(保険者)と、データを利用する側(製薬企業・保険会社等)の両方に取引関係がある構造です(2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結))。遠隔医療では、遠隔読影サービスを利用する医療機関数が引き続き拡大した結果、増収になったとしています(2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結))。
費用については、EBITDAから営業利益への調整表で減価償却費及び償却費が△3,200百万円と示されていますが、今回参照した公開資料には費用の内訳は示されていません。同社は次期について、日本のヘルスケアの主要な領域でデータ環境の構築を進めるため、将来の成長に向けて必要な先行投資は継続すると述べています(2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結))。
数字で確かめる
- ヘルスビッグデータのセグメント売上収益は44,070百万円(前期比+23.6%)、セグメント利益(セグメントEBITDA)は11,722百万円でした(2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結))。全社の売上収益50,462百万円の大部分をこのセグメントが占めていることが読み取れます。
- 遠隔医療のセグメント売上収益は6,392百万円(+4.5%)、セグメント利益は2,407百万円(利益率37.7%)でした(2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結))。規模は小さいものの、利益率の高い事業であることが読み取れます。
- 全社のEBITDAは13,178百万円、EBITDAマージンは26.1%でした(前期は26.2%)(2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結))。成長しながら利益率を保っていることが読み取れます。
- 投資活動によるキャッシュ・フローは△10,556百万円で、主に連結の範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出8,883百万円によるものです(2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結))。買収も成長手段にしていることが読み取れます。
- 2027年3月期の予想は売上収益60,500百万円、EBITDA15,000百万円です(2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結))。増収増益を見込んでいることが読み取れます。
Otsumuの読み解き:なぜ成り立つのか
ここからはOtsumuの考察です。データ事業の型で最も難しいのは、価値のあるデータをどう継続的に手に入れるかです。同社の説明では、匿名加工情報は保険者向けの分析サービスやPHRサービスなどの「業務の付帯」として受領したものです。つまり、データ提供者に役立つサービスを先に届け、その結果としてデータが集まる順番になっていると読めます。データ取得のためだけに対価を払うのではなく、提供者にとっての便益と引き換えにデータが集まるため、取引先健康保険組合等の数が増えるほどデータベースも厚くなる構造だと考えられます。
一方で、この構造が成り立つには裏側で多くの仕事が必要だと考えられます。レセプトや健診データを匿名加工し、利活用先が使える形でデータベース化する作業、保険者との信頼関係の維持、そして「データ種類の拡充」や「高付加価値化」への投資です。同社が次期も先行投資を継続すると述べている点は、データ事業では蓄積と整備に先に費用がかかることを示していると読めます。
トレードオフとしては、利活用先への販売を強めるほど、データ提供者である保険者や加入者の信頼を損なわない運営が一層重要になる点が挙げられます。
自社事業に持ち帰る問い
- 自社が扱っているデータは、顧客へのサービス提供の「付帯」として自然に集まる設計になっているでしょうか。
- データの提供者と利用者が別である場合、提供者にとっての便益は何で、それは継続的に感じてもらえているでしょうか。
- 集めたデータを他者が使える形に整えるまでに、どんな加工・整備の仕事が必要で、誰が担っているでしょうか。
小さく試すなら
- 自社の既存サービスで日々生まれているデータを一覧にし、顧客の同意や契約の範囲で再利用できるものとできないものを2週間で仕分けます。
- 再利用できるデータのうち一つを選び、個人や取引先が特定されない集計レポートの試作品を作ります。
- データの提供元になっている顧客3社程度に試作レポートを見せ、自分たちにとっても役立つか、提供を続けたいと思えるかを聞きます。
- 同時に、そのレポートにお金を払いそうな利用側の候補にも見せ、提供元・利用側の双方から前向きな反応が得られれば、定期提供の設計に進みます。
関連するビジネスモデル
資料の位置づけ
企業・サービス:株式会社JMDC / 医療ビッグデータ(ヘルスビッグデータ・遠隔医療)。参照資料:2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)。このページは公開情報にもとづく学習用の分析です。Otsumuの支援実績や当該企業との取引関係を示すものではありません。示唆と検証案はOtsumuの考察であり、企業自身の見解とは区別しています。
参考資料と編集について
上記の公開資料(企業の決算短信または年次報告書)をもとに、Otsumuが執筆しました。数値と企業の説明は資料の記載の範囲にとどめ、Otsumuの考察とは分けています。数値は資料の表記のままで、最新の情報は各社の開示をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.09.27