この型の要点
- 作品やキャラクターという「核」を一度作り、それを別の形(映像・出版・商品・ゲーム・イベント・許諾)に展開して、収益の入口を増やす型です。核の制作費を複数の展開で分け合えます。
- 一つの展開がファンを増やし、増えたファンが次の展開の売上を支えるという循環が、この型の推進力です。
- 展開ごとに必要な能力と相手先が異なり、権利の管理と作品の一貫性を保つ仕事が、表に見えない中核になります。
収益が生まれる仕組み
お金を払うのは、展開ごとに異なります。映像や出版ではファンが作品そのものに払い、商品では関連グッズに払い、ゲームでは遊ぶ権利や追加要素に払い、イベントでは入場や体験に払います。さらに、他社が作品を使って商品やサービスを作る際の許諾料(ロイヤルティ)が、自社で作らない展開からの収入になります。
この型の特徴は、核となる作品の制作費が、展開のたびに新たに発生するわけではないことです。世界観や登場人物は一度作れば複数の展開で使え、各展開は「その形にする費用」だけを負担します。展開の数が増えるほど、核の制作費を分担する先が増え、作品全体の採算が改善します。既存のライセンスの型が「他者に使わせる」一点に注目するのに対し、この型は自社主導で複数の形を同時に組み立てる点に重心があります。
費用は、核となる作品の制作、各展開の制作や製造、展開先との交渉と契約、権利の管理、作品の一貫性を保つ監修、そしてファンとの接点の維持です。作品が受け入れられなければ核の制作費は回収できず、展開も始まりません。反対に、核が受け入れられると、展開の費用は個別に回収しやすくなります。
- 収入:作品そのものの販売や配信、関連商品、ゲームや体験、イベント、他社への許諾料
- 費用:核の制作、各展開の制作と製造、権利管理と監修、ファンとの接点の維持、展開先との交渉
成り立つ条件と、裏側の仕事
顧客(ファン)側の条件は、作品への愛着が、その作品に触れる別の形にも及ぶことです。物語を楽しんだ人が登場人物のグッズを欲しがり、キャラクターを好きになった人がイベントに足を運ぶ、という広がりが起きるには、作品の世界観と登場人物が独立した魅力を持っている必要があります。
供給側の条件は、権利を自社が持っているか、展開に必要な範囲で許諾を受けていることです。共同で作った作品では、誰がどの展開を決められるかが曖昧になることがあり、後の展開の妨げになります。自社の能力として、自社で担う展開と他社に委ねる展開を見極め、それぞれに合った相手先を見つけて交渉する力が求められます。
裏側の仕事には、権利の帰属と契約の管理、展開ごとの監修(作品の設定や表現から外れていないかの確認)、展開先の選定と交渉、展開のタイミングの調整(同時期に集めて話題を作るか、間隔を置いて長く保つか)、ファンの反応の観察と次の展開への反映、そして作品を傷める展開を断る判断があります。
向く事業・向かない事業
向くのは、作品の世界観や登場人物に、物語を離れても成り立つ魅力がある場合です。また、ファンが作品について語り合い、集まる動きが自然に生まれている場合は、展開を受け入れる土壌があります。自社で全部を作らず、許諾で他社の力を借りられる分野が多いほど、資金の負担を抑えながら展開を広げられます。
向かないのは、作品の魅力が一度きりの体験(結末の驚きなど)に集中していて、繰り返し触れる動機が生まれにくい場合です。また、権利の帰属が整理されていない作品や、作り手の個人的な判断に強く依存していて監修の基準が言葉にできない作品は、展開の途中で止まりやすくなります。核となる作品がまだ受け入れられていない段階で展開を先に走らせると、費用だけが積み上がります。
追いかける指標
- 核への接触人数:作品そのものに触れた人の数。媒体別に分け、一定期間ごとに増減を見ます。
- 展開ごとの転換率:核に触れた人のうち、各展開(商品・イベントなど)にお金を使った人の割合。展開の受け入れられ方を比べます。
- ファン一人あたりの累計支出:一定期間に一人のファンが複数の展開に使った合計額。展開の広がりが実際に重なっているかを示します。
- 許諾収入の比率:全収入のうち、他社への許諾料が占める割合。自社で担う展開との配分を見ます。
- 展開の回収期間:各展開の制作費を、その展開の粗利で回収するまでの期間。展開ごとに比べます。
- 作品への評価の変化:新しい展開の前後で、ファンの評価や反応がどう動いたか。作品を傷めていないかの確認になります。
新規事業として小さく試すなら
- すでに核となる作品や人気のある要素(キャラクター、世界観、象徴的な表現)を持っているなら、ファンが自発的に何を求めているか(グッズ、集まる場、続き)を観察し、要望の多い一つの形を選びます。
- その一つの展開を、少量・短期間で試します。たとえば限定の商品や小規模な催しを、既存のファンに向けて直接届け、購入や参加の反応を記録します。
- 購入や参加した人が、核となる作品のファンなのか、展開単体で興味を持った人なのかを聞き取ります。両方が混ざっていれば、展開が新しいファンを呼ぶ循環が始まっている兆しです。
- 一つの展開の回収の見通しが立ったら、自社で担う展開と他社に許諾する展開を分け、権利と監修の基準を文章にしてから次に進みます。
設計時の注意点
価格の面では、展開ごとに顧客の性質が異なるため、一つの価格感覚で決めると外します。作品そのものは広く触れてもらう価格、熱心なファン向けの商品や体験はその価値に見合う価格というように、展開の役割(入口か、深い関わりか)に応じて決めます。
契約の面では、権利の帰属、展開ごとの許諾範囲、期間、地域、収益の分配、作品の表現に対する監修権を明確にすることが最も重要です。共同制作の場合は、後から展開を始めるときに全員の同意が必要になる構造を避ける工夫が必要です。著作権や商標、契約の細部は個別に専門家へ確認してください。
運用の面では、展開の数が増えるほど、作品の設定や表現の一貫性を保つ監修の負担が増えます。監修の基準を文書にし、判断を一人に集中させない体制にしておくと、展開の速さを落とさずに品質を保てます。
また、短期の収益を求めて作品に合わない展開を許すと、ファンの信頼を損ない、他の展開の売上にも響くおそれがあります。断る基準を先に決めておくことが、長く続けるための守りになります。
この型が見られる企業事例
- バンダイナムコホールディングスのIP軸戦略に学ぶ事業設計
- The Walt Disney Companyの映像IP多面展開に学ぶ事業設計
- スクウェア・エニックス・ホールディングスのゲームとIP多面展開に学ぶ事業設計
- 東宝株式会社の映画製作・配給・興行とIP展開に学ぶ事業設計
- Take-Two Interactiveのゲーム「GTA・NBA 2K」に学ぶ事業設計
この記事について
Otsumu株式会社が執筆しました。統計値や他社の事例には依拠せず、収益の構造、成り立つ条件、検証の進め方を中心にまとめています。法務・税務・会計の制度は、専門家や公的窓口で最新の情報をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.09.27