この型の要点
- 専門家が実際に働いた時間に、あらかじめ決めた単価を掛けて請求する型です。成果物の完成ではなく、稼働そのものが請求の根拠になります。
- 収益は「単価」と「請求できる時間の割合(稼働率)」の掛け算で決まります。どちらか一方だけを上げても、もう一方が下がれば売上は伸びません。
- 顧客にとっては、要件が固まっていない仕事でも始めやすい代わりに、総額が読みにくい型です。時間の使い方を見せる透明さが、継続の条件になります。
収益が生まれる仕組み
お金を払うのは依頼者で、支払いの対象は「合意した単価×実際に使った時間」です。一括請負では成果物に金額がつきますが、時間・工数課金では金額が事後に決まります。したがって、作業が予定より長引いてもその分を請求できる一方、早く終われば売上も小さくなります。見積もり外れのリスクを主に依頼者が持つ構造であり、その代わり自社は工数を超えて儲かることもありません。
請求は、月ごとや一定の期間ごとに、時間の記録を添えて行う形が考えられます。成果物の検収を待たない分、一括請負より入金の見通しは立てやすくなります。
費用の中心は専門家の人件費です。ここで重要なのは、給与は「雇っている全時間」に対して発生し、売上は「顧客に請求できた時間」に対してしか発生しないことです。両者の差、つまり請求できなかった時間が、そのまま利益を削ります。営業活動、社内会議、提案書の作成、学習、案件の合間の待機は、すべて請求できない時間です。たとえば、中小企業の業務改善を支援する専門家を抱える場合、その人が一か月のうちどれだけを顧客の仕事に使えたかが、そのまま採算になります。
単価の設定は、人件費を請求可能な時間で割り戻し、そこに利益と間接費を乗せて決めます。稼働率を高く見込みすぎて単価を低く設定すると、実際の稼働率がそれに届かなかった月に赤字になります。
成り立つ条件と、裏側の仕事
この型が機能する前提は、まず顧客が「時間に対して払う」ことに納得していることです。そのためには、依頼者が成果物を事前に定義できない事情を持っているか、あるいは専門家の判断そのものに価値を感じている必要があります。何ができるかが明確な仕事であれば、依頼者は総額が確定する一括請負を望むことが考えられます。
次に、時間の使い方を依頼者に説明できることです。何に何時間使ったかを、依頼者が見て納得できる粒度で記録し、報告する運用が必要になります。記録が粗いと「本当にその時間がかかったのか」という疑いが生まれ、単価の引き下げや契約の打ち切りにつながります。
裏側で必ず必要になる仕事は、まず稼働の管理です。専門家ごとに、今月どれだけの時間が請求可能な案件で埋まっているかを常に把握し、空きが見えたら次の案件の営業を前倒しします。案件が終わってから次を探し始めると、その間の人件費は丸ごと請求できません。
もう一つは、時間記録の規律です。日々の作業を、どの案件のどの作業に使ったかを当日中に記録する習慣を全員が持つ必要があります。後からまとめて思い出して書く記録は精度が落ち、依頼者への説明でも弱くなります。記録の手間を減らす仕組みづくりは、この型を運営する上での地味ですが重要な投資です。
そして、単価の見直しです。専門家の価値が上がっているのに単価が据え置きなら利益は増えません。契約更新のたびに見直す交渉が必要です。
向く事業・向かない事業
向くのは、要件が動きやすく、依頼者と一緒に考えながら進める種類の仕事です。新しい取り組みの初期段階、組織の中に入って進める改善、専門的な助言を継続的に求められる関係などは、成果物を先に固定しにくく、時間課金のほうが双方にとって公平になりやすいです。また、専門性が高く、代わりの人を見つけにくい仕事ほど単価を維持しやすくなります。
向きにくいのは、成果物の形が明確で、依頼者が総額の確定を強く望む仕事です。この場合、時間課金を提案すると「いくらかかるか分からない」という不安から選ばれにくくなります。また、作業の多くが定型化・自動化できる仕事も向きません。効率化して時間を減らすと自社の売上が減るという矛盾が生じ、改善の動機が働かなくなります。定型化できる部分は別の型に切り出すほうが、自社と依頼者の利益が揃います。
一人が一案件に専属で入る形は稼働が安定する一方、終了時に一気に空きが出ます。複数案件の並行は空きを埋めやすい反面、切り替えの時間が請求できない時間として増えます。
追いかける指標
- 稼働率:専門家の総労働時間のうち、顧客に請求できた時間の割合です。人ごと・月ごとに集計し、営業や社内業務に使った時間を分けて記録します。
- 実現単価:請求した金額を請求した時間で割った値です。値引きや無償対応があると、名目の単価より下がります。月ごと、案件ごとに見ます。
- 請求できなかった時間の内訳:営業、提案、学習、待機、無償の手戻りなど、分類ごとの時間です。どこを減らせるか、どこは必要な投資かを分けて考える材料になります。
- 契約の継続期間:依頼者ごとに、最初の契約から終了までの期間です。継続の長さが顧客の納得度を映します。
- 案件の切れ目の空白日数:一つの案件が終わってから次の請求可能な作業が始まるまでの日数を、人ごとに記録します。営業の前倒しがうまくいっているかの目安です。
新規事業として小さく試すなら
- 提供する専門性を一つに絞り、単価の根拠を作ります。人件費と間接費を、現実的と思う稼働率で割り戻し、利益を乗せた単価を出します。同時に、稼働率がその想定より下がった場合に月の採算がどうなるかも計算しておきます。
- 依頼者を一社決め、期間と上限時間を定めた小さな契約を結びます。着手前に、時間記録の様式と報告の頻度を相手に見せ、その粒度で納得してもらえるかを確認します。
- 契約期間中は毎日時間を記録し、週ごとに依頼者へ報告します。依頼者からの質問や違和感が出た箇所を記録し、報告の粒度や説明の仕方を修正します。
- 契約終了時に、実現単価・稼働率・請求できなかった時間を集計します。想定した単価で依頼者が納得して継続を望み、稼働率が採算の下限を上回っていれば、専門家の人数か依頼者の数を増やす段階に進みます。
設計時の注意点
価格の面では、単価を一本にするか、経験や役割で段階を分けるかを決めます。段階を分けると依頼者が納得しやすくなる反面、誰をどの段階にするかの説明が必要になります。また、値引きの要請があったときに単価を下げるのではなく、時間の上限や作業範囲の調整で応じるほうが、実現単価を守れます。
契約の面では、月ごとの上限時間、上限を超えそうなときの事前連絡、最低の契約期間、解約の予告期間を決めておきます。上限が無いと依頼者は総額を読めず不安になり、解約の予告が無いと自社は突然の空きに備えられません。契約形態によっては、指揮命令の関係や労務に関する法的な整理が必要になる場合があるため、個別に専門家へ確認してください。
運用の面では、時間記録を「依頼者に見せるもの」として設計します。社内の管理用の記録と、依頼者への報告を別々に作ると手間が二重になります。最初から依頼者が読める形で記録すれば、報告の手間が減り、透明さも保てます。
最後に、時間課金の構造的な弱点として、専門家の人数以上に売上が伸びないことがあります。人を増やせば売上は増えますが、稼働率の維持と品質の管理が難しくなります。ある段階からは、定型化できる部分を別の型に移す、あるいは成果物単位の請負と組み合わせるといった移行を視野に入れておくと、成長の壁に早く気づけます。
この型が見られる企業事例
- Booz Allen Hamiltonの政府向けコンサルティングに学ぶ事業設計
- 株式会社ベイカレントのコンサルティング事業に学ぶ事業設計
- EPAM Systemsのソフトウェア開発受託に学ぶ事業設計:人件費が原価の中心となる事業
この記事について
Otsumu株式会社が執筆しました。統計値や他社の事例には依拠せず、収益の構造、成り立つ条件、検証の進め方を中心にまとめています。法務・税務・会計の制度は、専門家や公的窓口で最新の情報をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.09.27