この事例の要点
- Tuya Inc.は、ブランドやメーカーが接続機器(スマートデバイス)を開発・運用するための基盤をPaaSとして提供し、SaaSと完成品のSmart Solutionを組み合わせています。2025年の売上は321.8百万米ドル(前年比7.8%増)でした(Form 20-F、2025年12月期)。
- 売上の内訳は、PaaSが231.2百万米ドル、Smart Solutionが45.7百万米ドル、SaaSなどが44.9百万米ドルで、粗利率はそれぞれ48.3%、23.7%、72.5%と大きく異なります(Form 20-F、2025年12月期)。
- PaaSの既存顧客の売上拡大率(ドルベース)は2024年12月の122%から2025年12月の102%へ下がり、同社は需要が落ち着いた局面と説明しています(Form 20-F、2025年12月期)。
どんな事業か
Tuya Inc.は中国・杭州に本社を置くケイマン諸島法人で、ニューヨーク証券取引所に上場し、香港取引所にも上場しています。同社は自らを、IoTとAIをつなぐ「AIクラウドプラットフォーム」の提供者と位置づけ、ブランドやOEM(受託製造メーカー)、開発者が、スマートデバイスを作り、運用し、収益化するための共通の基盤を提供しています。2025年末時点の登録開発者は約1.8百万人、基盤上で開発された機器のSKUは1.2百万を超え、3,200を超える製品カテゴリーに及ぶと説明されています(Form 20-F、2025年12月期)。
提供する中身は3つに分かれます。1つ目のPaaSは、クラウド接続、機器側(エッジ)の機能、アプリ開発のツールなどをまとめたものです。AWS、Azure、Alibaba Cloud、Tencent Cloudなど複数のクラウドを選べる設計で、特定のクラウドに縛られません。2つ目のSaaSは、ホテルなどの現場で多数の機器を管理する業種別ソフトや、クラウド録画のようなエンドユーザー向けの付加価値サービスです。3つ目のSmart Solutionは、AIやソフトウェアの機能を組み込んだ完成品を、一部の顧客に直接提供するものです(Form 20-F、2025年12月期)。
収益の仕組み
- 入り口:ブランドやOEMが、自社製品を接続機器にするため、Tuyaの基盤上で機器を開発します。モジュールの形で機器側の機能が組み込まれます。
- 課金(PaaS):同社の説明では、展開したPaaS製品の数にもとづく料金が中心です。
- 課金(SaaS・その他):業種別ソフトやクラウドの付加価値サービスの定額利用料、アプリのカスタマイズなどの付加サービス、プロジェクトの対価です。
- 課金(Smart Solution):AI・組み込みOS・クラウドソフトの機能を載せた完成品の販売です。完成品は外部の製造委託先が生産します。
- 継続・拡張:同社は、共通基盤に機器とアプリが集まるほど、エンドユーザーは1つの画面で多くのブランドの機器を操作できるため、ネットワーク効果が働くと説明しています。
数字で確かめる
- 売上は298.6百万米ドル(2024年)から321.8百万米ドル(2025年)へ7.8%増えました。PaaSが6.5%増、Smart Solutionが8.9%増、SaaSなどが13.4%増で、売上に占める割合はPaaSが約71.8%(231.2÷321.8)です。収益の中心が基盤の利用料にあることが読み取れます(Form 20-F、2025年12月期)。
- 粗利率は全体で47.4%から48.2%へ上がりました。PaaSは48.3%、SaaSなどは72.5%、Smart Solutionは23.7%です。同じ会社の中でも、ソフトウェアの比率が高いほど利益率が高く、完成品は低いことが読み取れます(Form 20-F、2025年12月期)。
- PaaSの既存顧客のドルベース売上拡大率は、2024年12月に122%、2025年12月に102%でした。同社は、2024年に急拡大した一部の大口顧客の伸びが落ち着いたことと、立ち上げ段階にある新規顧客の獲得を優先する方針への転換を理由に挙げており、顧客の需要の波が収益の伸びに表れることが読み取れます(Form 20-F、2025年12月期)。
- 2025年の顧客数は約5,900社、PaaSを使ったブランドは3,800超でした。同社は、どの顧客も売上に対して重要な比率を占めないと説明しており、収益が多数の顧客に分散していることが読み取れます(Form 20-F、2025年12月期)。
- 運営費用は前年比で約24.1%減り、2025年の非GAAPの営業利益は33.7百万米ドル(非GAAP営業利益率10.5%)、GAAPの純利益は57.9百万米ドルでした。研究開発費は89.7百万米ドルで5.6%減っており、費用を抑えて採算を整えたことが読み取れます(Form 20-F、2025年12月期)。
Otsumuの読み解き:なぜ成り立つのか
ここからはOtsumuの考察です。この事業は、メーカーが自前で作ると高くつく共通部分(クラウド接続、アプリ、AI機能)を、基盤として束ねて提供する「APIプラットフォーム」の型に、機器そのものを組み込む「ハードウェア+ソフトウェア」の要素を足した設計と読めます。顧客のブランドは製品の企画と販売に集中でき、同社は多数の製品から共通の基盤収益を得ます。収益が顧客の製品の出荷台数に連動する以上、売上は家電・機器の需要の波を受けますが、顧客数が多いことで、1社の落ち込みの影響は薄まる構造だと考えられます。
数字から見える課題は、利益率の差の扱いです。SaaSなどは粗利率が72.5%と高い一方、売上に占める割合は約14.0%(44.9÷321.8)にとどまります。完成品のSmart Solutionは利益率が23.7%で低いものの、顧客に完成品を求める層がいるため、基盤の利用を広げる入り口として使えると考えられます。同社が、付加価値の高いソフトウェア製品に注力しつつコスト効率を保つと述べていることは、売上の質をソフトへ寄せたい意図と読めます。
もう一つの特徴は、クラウドやチップ、AIモデルを選ばない中立性です。顧客から見ると、特定の事業者に縛られずに済むため、複数のブランドや地域で同じ基盤を使いやすくなります。この中立性が、機器とアプリを共通の画面に集めるネットワーク効果の前提になっていると考えられます。
自社事業に持ち帰る問い
- 自社が顧客のために毎回作っている共通部分は何か。それを基盤として束ねて、複数の顧客に提供できませんか。
- 自社の売上を、利益率の高い部分と低い部分に分けたとき、低い部分は高い部分への入り口として働いていますか。
- 顧客の需要の波を受ける収益に対し、顧客数の分散や別の用途で、どう安定させる設計を持っていますか。
小さく試すなら
- 直近の受託・個別対応の案件を10件ほど並べ、どの作業が毎回ほぼ同じかを洗い出します。
- 共通になりそうな作業を1つ選び、ひな形(テンプレートや手順書)にして、次の2〜3案件で使ってみます。
- 売上と粗利を、商品別に表にして、利益率の高い商品と低い商品の関係(低い商品から高い商品へ移った顧客の数)を確認します。
- 共通部分を別料金のメニューとして書き出し、2〜4週間で既存顧客3社に価格と範囲を打診します。
関連するビジネスモデル
資料の位置づけ
企業・サービス:Tuya Inc. / AIクラウド開発プラットフォーム(PaaS・SaaS・Smart Solution)。参照資料:Form 20-F(2025年12月期)。このページは公開情報にもとづく学習用の分析です。Otsumuの支援実績や当該企業との取引関係を示すものではありません。示唆と検証案はOtsumuの考察であり、企業自身の見解とは区別しています。
参考資料と編集について
上記の公開資料(目論見書・年次報告書・企業の公式発表など)をもとに、Otsumuが執筆しました。数値と企業の説明は資料の記載の範囲にとどめ、Otsumuの考察とは分けています。数値は資料の表記のままで、最新の情報は各社の開示をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.25